[ ブランディングデザイン ]
【改名】ネーミングを変更する5つの理由と成功事例
企業や商品が成長する過程で、ネーミング変更(改名)はブランドの再構築やイメージ刷新のために重要な戦略となります。特に市場環境の変化や、ブランドの方向性の見直し、新規ターゲット層へのアプローチが必要な場合、ネーミングを変更することで、ブランド価値を高め、消費者に新たな印象を与えることができます。しかし、改名は慎重に行わなければ、従来の顧客に混乱を招くリスクもあります。本日は、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ネーミング変更が成功した具体的な事例を紹介し、改名における戦略的なポイントや成功の秘訣について詳しく解説します。
■ 良いネーミングとは?
ネーミングの優劣については、名称をつける対象物や期待する効果などによって多少の幅が出てきます。しかし本質的な意味においてネーミングの役割りを考えてみると、やはり“ブランドの理解を深めるキッカケ”であるというところに行き着きます。それを踏まえ、ブランディングの見地から「優れたネーミング」について考えてみると、「独創的であること」「覚えやすいこと」「心を動かすこと」などの一般的なことに加えて、いくつかの無くてはならないポイントが見えてきます。
その一つは、ブランドの核となっているビジョン(理念)やミッション(使命)、ステートメントやストーリーなどを感じさせることです。ネーミングがブランドの理解度に大きく関与するものであることが分かります。もう一つは、ブランドが果たす社会に対しての貢献について知らしめるているということです。現在の顧客に対する直接的なベネフィットを訴求することもネーミングの大切な役割りですが、潜在的な顧客の集まりでもある社会全体へのコントリビューションを織り込むことの方が、優れたネーミングとしての価値は高いものになると言えるでしょう。
【 良いネーミングの条件 】
⚫︎インパクトがあり記憶に残る
優れたネーミングは消費者に強く印象を残し、覚えやすいものであるべきです。インパクトのある名前は、短くキャッチーであり、視覚的なイメージや感情と結びつきやすいため、反復して認知される可能性が高まります。また、シンプルさが重要で、複雑な言葉よりも短く簡潔なものが記憶に残りやすいです。
⚫︎会社や商品・サービスが分かりやすい
その名前から会社や商品が何を提供しているかがわかると、顧客に安心感と信頼感を与えます。たとえば、「Dropbox」や「YouTube」のように、単語そのものがサービスの内容や機能を示していると、消費者が初めて見聞きした際にも理解が得やすく、ユーザーにとっての利便性も向上します。
⚫︎親近感がわき愛着が感じられる
ブランド名には、親しみやすさや温かみがあると、顧客にとって「身近な存在」として感じられ、リピート利用や長期的な関係性を築きやすくなります。さらに、温かみやユーモアのある名前は、消費者がブランドに感情移入しやすく、結果として愛着を生むのに寄与します。
⚫︎買いたい使いたいと思わせる
魅力的なネーミングは消費者に購買意欲を湧かせ、積極的に使いたいと感じさせます。ポジティブでライフスタイルや価値観に響くネーミングは、単なる商品名以上にブランド体験としての価値を提供し、消費者がブランドと深くつながりたいと思わせる効果を持っています。
■ ネーミングを変更する5つの理由
1. ブランドのリブランディング
ネーミングの変更は、企業やブランドのイメージを一新し、新たな価値やコンセプトを顧客に伝えるための効果的な方法です。既存のブランドが時代遅れに感じられる場合や、戦略的な方向転換が必要な場合、リブランディングを通じて、ブランドの名前を変更することで新しいイメージや価値観を反映させ、顧客との再接続を図ることができます。
2. 法的問題
ネーミング変更の理由として「法的問題」は重要です。企業や製品の名前が他社の商標や知的財産権と重複する場合、訴訟リスクが生じ、損害賠償や販売停止といった制裁を受ける可能性があります。また、知名度のある商標と重複すると、ブランドイメージの混乱を避けるために名称変更が必要になることもあります。
3. 顧客の混乱を避けるため
ネーミングが複雑すぎる場合、顧客の認識に混乱を招くことがあります。特に、企業やブランドが複数の事業を展開している場合、名前が混乱の原因となる可能性があります。シンプルで明確な名前に変更することで、顧客がブランドを理解しやすくなり、認知度と記憶度の向上が期待されます。
3. 時代の変化に対応するため
時代やトレンドが変化する中で、従来のブランド名が時代遅れと感じられることがあります。企業は、名前の変更を通じて時代に合ったイメージや現代的な価値観を反映させることができます。これにより、ブランドの鮮度を保ち、消費者に新しい印象を与え、より多くの人々にブランドの価値を伝えることができます。
4. 海外展開のため
グローバル展開を見据えて名前を変更することも多くあります。異なる言語や文化においても発音しやすく、理解しやすい名前にすることで、現地市場でのブランド認知度を高め、親しみを感じさせる効果が期待できます。
■ ネーミング変更の成功事例
[ お〜いお茶のネーミング変更成功事例 ]
「お〜いお茶」のネーミングは、日本茶の新しいスタイルを提案するために生まれたもので、気軽さと親しみやすさを重視しています。伝統的に日本茶は格式高いものとされていましたが、「お〜いお茶」はそれを日常の中で親しまれる存在として捉え、自然体で親しみのある言葉を用いることで、幅広い層に受け入れられやすい商品イメージを確立しました。名前には「お〜い」と呼びかけることで飲み手との対話を意識させ、感覚的に親しみを持たせる工夫がされています。また、「お茶」という単語をストレートに使用することで、商品内容が一目で分かりやすく、日本人に馴染み深い印象を与えています。このように「お〜いお茶」は、伝統的な日本茶文化と現代のライフスタイルに寄り添ったブランディングに成功し、幅広い年齢層に愛され続ける商品名として確立されました。
[ ネーミング変更の成功ポイント ]
⚫︎親しみやすさを高めるシンプルさ
「お〜いお茶」という名前は、日常のやり取りで使われる自然な呼びかけに由来し、親しみやすさを増すシンプルなネーミングが大衆の心に響きました。これにより、多くの消費者が商品に対して親近感を持ち、ブランドとの距離感が縮まったと感じます。
⚫︎一目で分かるストレートな表現
「お〜いお茶」というネーミングは、製品内容が直感的に伝わるため、消費者が商品に対しての理解を深めやすくなりました。お茶を欲しいと感じたときに自然に選ばれる名前であるため、ブランドと消費者のニーズが一致する形となり、選ばれやすい製品に。
⚫︎日常のシーンに馴染むネーミング
「お〜いお茶」という呼びかけのような名前は、日常の中で何気なく使用される親しい表現であり、消費者が生活の中でリラックスしてお茶を楽しむシーンに自然にマッチしています。
[ 出典 ] 伊藤園・商品情報より
[ BOSSのネーミング変更成功事例 ]
サントリー「BOSS」コーヒーのネーミングは、製品がターゲットとする忙しいビジネスパーソンを意識し、「上司」「ボス」の意味を込めて名付けられました。このブランド名は、仕事に取り組むビジネスマンに親しみやすく、社会における彼らの立場や役割を称える意図も含まれています。また「BOSS」という言葉には力強さや信頼性のイメージがあり、仕事の合間に「しっかりと休息できる一杯」として、コーヒーが消費者の活力をサポートするイメージにマッチしています。さらに、シンプルでインパクトのあるブランド名が消費者に覚えやすく、長年にわたって幅広い層に親しまれる要因ともなっています。
[ ネーミング変更の成功ポイント ]
⚫︎ターゲット層との共感を高めた名称
「BOSS」は、働く人々に向けてエネルギーと活力を与える存在として、親しみと共感を得やすいネーミングです。忙しいビジネスマンが日常で目にする「ボス」という言葉を用いることで、ターゲット層に対する訴求力を高めています。
⚫︎ブランドイメージの明確化
シンプルで力強い「BOSS」という名前は、消費者に「頼れる存在」というイメージを伝えやすくしています。これにより、商品自体の信頼性と品質が強く感じられるため、競合商品との差別化が図れています。
⚫︎マーケティングとの相乗効果
テレビCMやパッケージデザインなどで「BOSS」という名称が一貫して活用されており、ブランドロイヤルティを育む要因となっています。ネーミングと広告戦略が連携し、長期的なブランディング
[ 出典 ] サントリー・商品情報より
[ 鼻セレブのネーミング変更成功事例 ]
「鼻セレブ」というネーミングは、ユニークで記憶に残る表現が特徴です。一般的なティッシュに対して、プレミアムな要素を強調するため「セレブ(Celebrity)」という言葉を用い、鼻への特別なケアができる製品であると暗示しています。また、「鼻」に特化した名称が、消費者のニーズに応えることに焦点を当てており、他のティッシュ製品と差別化を図る工夫が見られます。このネーミングにより、肌の敏感な人や高品質を求める消費者に強く訴求し、ブランドとしての個性を際立たせています。
[ ネーミング変更の成功ポイント ]
⚫︎共感を呼ぶユニークさ
「鼻セレブ」という名前は、消費者が「鼻をいたわる」という意識を持ちやすく、感覚的に共感しやすい要素があります。特に「セレブ」の響きが高級感を演出し、使うことで贅沢な気分を味わえる印象を消費者に与えます。
⚫︎わかりやすいメッセージ性
商品名だけで、ティッシュの「柔らかさ」や「高品質」を連想させ、鼻に優しい商品であることを伝えています。わかりやすいメッセージにより、店頭での即時の認知や購買動機を生むことに貢献しています。
⚫︎高級感と親しみのバランス
「セレブ」という言葉で高級な印象を持ちながらも、消費者の日常生活にすっと入り込むユーモアや親しみを兼ね備えています。この絶妙なバランスが、幅広い層の消費者に響き、商品に対する愛着を深めました。
[ 出典 ] 鼻セレブ・ブランドサイトより
■ ネーミング開発における商標確認について
ネーミングを開発する場合、商標の調査や登録が必要であることを意識しておかなくてはなりません。特許庁によれば、「商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)です。」とされています。特許庁への登録には印紙代などの費用がかかります。また、商標の登録は義務ではないため、特許庁に登録の出願をすることなく名称を使用すること自体には問題はありません。しかし、その名称が既に商標として登録を認められたものであった場合は、登録を済ませている企業や人に独占的な使用の権利が認められます。
訴訟となれば、勝てる可能性は小さいでしょう。つまり、自らが創出した名称については登録の意志がなくても、その使用は“他社(人)の権利”を侵害している場合が考えられるのです。そのため、登録する意志はなくても、顧問弁護士など専門家に調査を依頼することが必須となってきます。また、商標の確認によって使用できなくなるケースを考慮し、ネーミングは本命候補の2〜3案を調査することが望ましいと言えるでしょう。
■ ネーミングとブランディングの関係
ネーミングとは文字通り「名前を付けること」であり、特定の物を、それ以外のものと区別するために行う行為です。また、ブランディングは、自分の牛に「焼印」を押して他人の牛と間違えないようにしたという由来からも分かるように差別化を図るための行為です。このように、ネーミングとブランディングの機能は非常に近いものがあり、本質的な部分では重なる部分が大きいと言えます。
ビジョン(理念)やミッション(使命)などのブランディング活動が「身体」だとすれば、ネーミングは「顔」のようなものだと言えるでしょう。ネーミングとブランディングは互いに作用するものですから、当然のことながら、「身体」と「顔」は密接な関係をもっていることになります。ネーミングを見れば、ブランドが目指す方向性や顧客層などについて、うかがい知ることができるのはこのためです。ネーミングはブランドを背負う顔として、コミュニケーションを取りながらブランド理解への最初のタッチポイントになっているのです。
■ まとめ
ネーミングは“名前”としての単純な機能だけではなく、その商品や企業のコンセプトやビジョンなどを感じさせるという大切な機能も持っています。このことを踏まえた上で、インパクトやリズム、親しみやすさ、覚えやすさなどのテクニックが必要となってくるのです。「i」をつけるネーミングで独自のブランドを確立したApple社や、ネーミングでも徹底した機能訴求することを続ける小林製薬社など、企業の特色・社風のようなものが現れやすいのがネーミングです。もしも、特に意味はなく語感を重視した、時間がなく急ごしらえした、従業員アンケートで選んだ、というようなネーミングを施している場合は、今一度ネーミングについて再度検討してみてはいかがでしょうか。
株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。
【 ご質問、お打合せ希望など、お気軽にお問合わせください。】
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