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ブランドステートメントの目的と開発事例自動車会社

[ ブランディングデザイン ]

自動車会社に学ぶブランドステートメント開発のコツと成功事例

自動車会社のブランドステートメントは、技術革新、安全性、環境への配慮が強調されます。例えば「革新的な技術で未来のモビリティを創造する」という場合は、環境に優しい技術開発と高い安全基準を示すものです。これにより、自動車会社は次世代の移動手段を提供するリーダーとしての姿勢を打ち出し、消費者に信頼感と期待感を与え、ブランド価値を高めることができます。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、自動車会社のブランドステートメントについて詳しく解説します。


■ ブランドステートメントとは?

自動車会社のブランドステートメントの目的と効果

ブランドステートメントの定義

ブランドステートメントとは、企業やブランドが社会や顧客に対して何を約束し、どのような価値を提供するかを端的に表現した言葉です。単なるキャッチコピーやスローガンではなく、ブランドの中心にある価値観や思想を示すものとして位置づけられます。自動車業界においては、「車のスペック」や「価格」だけでは差別化が難しい時代。ブランドの世界観や価値観が選ばれる理由の1つになっており、その核を明文化したものがブランドステートメントです。

▶︎ 詳細記事:ブランドステートメント開発のメリットとは

■ ブランドステートメントがもたらす3つの効果

ブランドステートメントがもたらす効果

1. 消費者との関係構築

自動車は高額商品であり、購入頻度が低く、購入検討期間が長い業種です。そのため、「どのブランドを信頼するか」「どんな世界観に共感するか」が購買意思決定に大きく影響します。ブランドステートメントは、顧客との情緒的なつながりを築くための核になる言葉です。たとえばマツダの「走る歓び」は、走行性能を超えて「運転そのものの楽しさ」を重視するブランド思想を伝えており、ファン層の形成に寄与しています。こうした言葉がブランドの差別化と長期的なブランド価値向上につながります。

2. 社内エンゲージメント

自動車メーカーは巨大な組織であり、開発・製造・営業・アフターサービスなど多岐にわたる部門が存在します。ブランドステートメントは、全社員が共有する価値観の旗印として機能します。たとえばホンダの「The Power of Dreams」は、夢を追い続ける企業文化を示し、社員一人ひとりの意識を統一する役割を果たしています。これは商品開発から社内教育にまで浸透しています。

▶︎ 詳細記事:インナーブランディングとは?その目的と効果

3. 一貫したブランド体験の提供

自動車ブランドは、実店舗/Web/SNS/コールセンター/アフターサービスなど、多チャネルで顧客との接点があります。ブランドステートメントが明確であれば、これらすべてのタッチポイントで一貫したブランド体験を提供でき、ブランドの信頼を高められます。たとえばスバルの「安心と愉しさ」というステートメントは、安全性訴求の広告表現だけでなく、販売店での接客方針やドライビング体験イベント、さらにはアフターサービスの姿勢にまで影響しています。

▶︎ 詳細記事:ブランドエクスペリエンスの重要性とは?

■ ブランドステートメント開発のポイント

ブランドステートメント開発のポイント

自動車業界は技術的優位性だけではブランドが差別化しづらい成熟市場です。顧客は共感できる価値観や世界観に惹かれてブランドを選びます。その中核となるのがブランドステートメントです。ここでは、開発時に押さえておくべきポイントご紹介します。

1. ブランドパーソナリティの明確化

最初に必要なのは、自社ブランドの「人格」を定義することです。自動車は単なる移動手段ではなく、多くの場合「持つ喜び・乗る体験・共感する価値観」が購入動機につながります。そのため、ブランドパーソナリティを意識しないと、表層的で没個性的なブランドステートメントになってしまうリスクがあります。

● トヨタ → 親しみやすさ、技術革新、信頼感
● マツダ → 走る歓び、デザインへの美学、職人気質
● ボルボ → 安全性、北欧的なシンプルさ、人を中心に据えた思想

ブランドパーソナリティを明文化することで、言葉選びやトーンにも一貫性が生まれるのです。

▶︎ 詳細記事:顧客を虜にするブランドパーソナリティの極意

2. 顧客に伝えたい価値/情緒的価値の整理

ブランドステートメントでは、機能的価値よりも情緒的価値を伝えることが重要です。自動車は単なる性能比較で選ばれるものではなく、ブランドが描く世界観や共感できる価値観といった心理的側面が購買行動に大きく影響します。そのため、ブランドの独自性や感性に訴えるメッセージが求められます。

● 安心感 → スバル:安心と愉しさ
● 夢・希望 → ホンダ:The Power of Dreams
● 自由なライフスタイル → ジープなどSUVブランド

ステートメント開発時には、「このブランドは顧客にどんな感情を抱かせたいのか」を明確に整理してから言葉に落とし込むことが不可欠です。

3. 社会的メッセージとの整合性確認

近年の自動車業界では、環境問題やカーボンニュートラル、多様性の尊重など社会課題との関わりが不可避です。ブランドステートメントに時代性をどう反映し、どの程度打ち出すかは、ブランドの方向性や市場との共感に直結する極めて重要な判断となります。そのため慎重かつ戦略的な判断が求められます。

● BMW → 持続可能なプレミアムモビリティをブランドメッセージに据える
● メルセデス→ カーボンニュートラルの明確な約束を織り込んでいる

社会的メッセージと整合性が取れていないブランドステートメントは、今の消費者にはすぐ見抜かれてしまうため、企業姿勢との整合性確認は欠かせません。

■ ブランドステートメントの開発プロセス

ブランドステートメントの開発プロセス

ブランドステートメントは「思いつきの言葉」ではなく、戦略的かつ体系的に開発すべきものです。特に自動車業界のようにブランド資産が膨大かつ複雑な領域では、感覚に頼らず開発プロセスを丁寧に踏むことが不可欠です。以下に、実務において活用しやすい一般的かつ実践的なプロセスをご紹介します。

1. ブランドのコアバリュー洗い出し

まず着手すべきは、ブランドの核となる価値観=コアバリューの明確化です。長年の歴史、経営哲学、プロダクト哲学、社会に対するスタンスなどを洗い出します。さらに、競合との差別化要素や未来に向けたブランドの志向性も併せて整理することで、より深みのあるブランド像が形成されます。

● トヨタ → 改善(カイゼン)・安全性・信頼性・未来志向
● ホンダ → 夢・技術革新・自由な発想
● スバル → 安心・愉しさ・人中心の思想

この段階で大切なのは、単なる言葉の羅列で終わらせず、「なぜこの価値観がブランドの核心なのか」を深堀りすることです。

2. 社内外ステークホルダーへのヒアリング

次に、社内外の声を徹底的に収集します。ブランドは「企業が言いたいこと」だけでなく、「市場からどう見えているか」「社員が何を誇りに感じているか」といった視点も重要です。これによりブランドステートメントに一貫性とリアリティが生まれ、内外の共感を得られるメッセージとなります。

● 社内ヒアリング(経営層/現場社員/販売店)
→ ブランドの原点や文化、顧客にどう価値を届けているかを把握。
● 外部ヒアリング(顧客/ファン層/パートナー)
→ ブランドに対する期待・好感・共感ポイントを把握。

自動車メーカーの場合は、「どんなライフスタイルや価値観の象徴として自社ブランドが受け止められているか」を特に意識してヒアリングすることが重要です。

3. 言語化/簡潔な表現に落とし込む

集めたインサイトをもとに、ブランドのエッセンスを言語化します。この段階では「理念や哲学」と「市場性・事業性」「理想と現実」「情緒的価値と機能的価値」などのバランス感覚が求められます。どちらか一方に偏らず、多様な視点を統合した言葉にすることが、強いブランドステートメントにつながります。

● 短く、記憶に残る表現
● ブランドの独自性を反映
● 感情的な響きがある
● 社内外に違和感なく受け入れられる

■ ブランドステートメントの成功事例

トヨタ自動車株式会社 : 笑顔のために。期待を超えて。

トヨタ自動車株式会社 : 笑顔のために。期待を超えて。

「笑顔のために。期待を超えて。」というトヨタのブランドステートメントは、単なる車両提供を超え、人々の暮らしや社会に喜びと安心をもたらす姿勢を示しています。技術革新や品質への飽くなき追求だけでなく、顧客の心を動かす体験価値の創出を重視。さらに「期待を超えて」という言葉には、現状に満足せず未来志向の挑戦を続ける企業文化が色濃く反映されています。

[ 出典 ]トヨタ・企業情報より

本田技研工業株式会社 : The Power of Dreams

本田技研工業株式会社 : The Power of Dreams

「The Power of Dreams」は、ホンダの挑戦心と創造力を象徴するブランドステートメントです。創業以来、夢を原動力に不可能を可能にしてきた企業姿勢を一言に凝縮。製品開発だけでなく、人や社会の未来に貢献する意志が込められています。社員一人ひとりが夢を追い、その力で新たな価値を生み出す文化がホンダの競争力の源泉。単なる機能ではなく、夢を形にするブランドとしての存在感を世界に発信しています。

[ 出典 ]本田技研・企業情報より

日産自動車株式会社 : 人々の生活を豊かに

日産自動車株式会社 : 人々の生活を豊かに

「人々の生活を豊かに」という日産のブランドステートメントは、単なる移動手段の提供を超え、クルマを通じて社会全体の質的向上に貢献する意志を示しています。先進技術や電動化、安全性能の革新を通じ、より便利で快適なライフスタイルを支える姿勢が根底にあります。また、多様な価値観や地域社会との共生を意識し、持続可能な未来づくりにも積極的に取り組むブランド姿勢がこの言葉に集約されています。

[ 出典 ]日産自動車・会社情報より

株式会社SUBARU : Confidence in Motion

株式会社SUBARU : Confidence in Motion

「Confidence in Motion」は、スバルが提供する製品と体験すべてに「信頼」を組み込む姿勢を表現しています。走る歓びと安心感を両立させる独自の価値観が、この言葉に凝縮。全車種に貫かれる高い安全性能、卓越した走行性能、そして長く愛される耐久性が「Confidence」を支えています。また「in Motion」は、時代の変化や技術革新の中でも挑戦し続ける動的な姿勢を象徴。スバルブランドの独自性と未来志向が巧みに表現されたステートメントです。

[ 出典 ]スバル・企業情報より

マツダ株式会社 : 走る歓び

マツダ株式会社 : 走る歓び

「走る歓び」は、マツダが長年にわたり追求してきた「人とクルマの一体感」を象徴するブランドステートメントです。単なる移動手段ではなく、運転そのものが感性を満たす体験であるべきという哲学を端的に表現。エンジニアリング、デザイン、サウンド、操作性まで細部にこだわり、ドライバーの心を動かすクルマ作りを徹底しています。また、この歓びは持続可能性や環境性能とも両立を目指しており、未来のモビリティにも貫かれるマツダの核となる価値観です。

[ 出典 ]マツダ・コーポレートビジョンより

スズキ株式会社 : 小さなクルマ、大きな未来。

スズキ株式会社 : 小さなクルマ、大きな未来。

「小さなクルマ、大きな未来。」は、スズキの企業姿勢と製品哲学を端的に表現したブランドステートメントです。軽自動車やコンパクトカーといった“小さなクルマ”で、誰もが手軽に移動の自由と楽しさを享受できる社会を目指す姿勢が込められています。また、環境負荷の低減や先進技術の導入を通じて、限られた資源の中でも持続可能な「大きな未来」を実現する意志も明確。経済性・利便性・環境配慮という現代のニーズに応えるスズキの独自価値が、この一文に凝縮されています。

[ 出典 ]スズキ・新スローガンについてより

ダイハツ工業株式会社 : Light you up

ダイハツ工業株式会社 : Light you up

「Light you up」は、ダイハツが掲げる「人の心と生活を明るく照らす」ブランドの想いを表現しています。軽自動車を中心としたものづくりを通じて、日常に寄り添い、使いやすさ・安心・楽しさを提供する姿勢が込められています。また「Light」は“軽やかさ”や“優しさ”も意味し、ダイハツならではの親しみやすいブランドイメージを形成。移動の自由を支えつつ、暮らし全体を前向きに彩る存在でありたいという意志が、この言葉に凝縮されています。

[ 出典 ]ダイハツ・会社案内より

■ まとめ

自動車会社のブランドステートメントは、単なる企業スローガンではなく、存在意義や未来への意志を社会に示す重要なメッセージです。各社とも技術革新や安全性、環境配慮といった共通テーマを持ちつつ、自社らしい価値観や世界観を言葉に凝縮しています。こうしたブランドの「言葉」は、社員の意識統一から顧客との関係構築まで幅広く活用され、ブランド価値を高める基盤となります。

株式会社チビコ今田佳司ブランディングディレクター

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

株式会社チビコ

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