[ ブランディングデザイン ]
コーポレートカラーの決め方と成功事例
コーポレートカラーは、企業のアイデンティティを象徴する重要な要素であり、消費者に対して企業のイメージやメッセージを視覚的に伝えます。適切なコーポレートカラーを選ぶことは、ブランドの認知度を高め、信頼感を高めます。色は感情や印象に大きな影響を与えるため、企業の価値観やターゲット市場を深く理解した上での選定が求められます。例えば、青は信頼と冷静さ、緑は自然や健康を象徴するなど、色の心理的効果を最大限に活用することが重要です。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、コーポレートカラーの決め方における具体的なポイントと、成功した企業の事例を通じて、その重要性と実践的なアプローチについて詳しく解説します。
■ コーポレートカラーが重要な理由
【 企業イメージとブランディングにおけるカラーの関係 】
企業のブランドイメージを形成するうえで、色彩は非常に重要です。コーポレートカラーは、企業のブランドイメージを視覚的に表現し、一貫した印象を顧客に伝えることができます。たとえば、青は信頼性や安定感を、赤は情熱や活力を示します。こうした色の選択がブランドメッセージと一致している場合、企業の個性や価値観がより明確に伝わり、顧客とのエンゲージメントが強化されます。企業が持つ理念やビジョンに合ったカラーを選ぶことが、ブランディングの基盤となります。また、色は記憶に残りやすいため、企業の認知度を高める要因にもなります。
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【 コーポレートカラー選定の基本的な考え方 】
コーポレートカラーを選ぶ際には、いくつかの基本があります。まず、自社の理念やビジョンに合った色を選ぶことが重要です。企業が何を目指しているか、どのような価値を提供しているかを視覚的に表現する色が適切です。次に、色彩心理学を考慮し、ターゲット層が感じるであろうイメージを考えます。さらに、競合他社との違いを明確にするため、差別化を図る色選びも重要です。一度決定したコーポレートカラーは、ロゴ、ウェブサイト、広告など、すべてのブランドの接点で一貫して使用することで、強力なブランドアイデンティティを構築できます。
【 人に与える色の心理的影響 】
人は、色によってさまざまなものを連想したり、感情を抱いたりします。それは、時代や地域性に左右される場合もありますが、一定の規則性をもっています。色には感性に直接的働きかける特質があります。たとえば、赤は炎、緑は自然のような現実のものにつながる連想があると同時に、赤はエネルギッシュ、緑は豊かさのような抽象的なイメージもあります。抽象的イメージの中には、感情的概念と感覚的概念があります。感情的概念は喜怒哀楽、感覚的概念は、寒暖感や軽重感などがあげられます。色の持つイメージを知って上手く使いこなせるようになれば、伝えたいメッセージを誤解なく伝えることができます。
色彩心理学の観点から、企業のターゲット層がどのような感情を抱くかを考慮し、適切な色を選ぶことが重要です。色の選択によって顧客にポジティブな印象を与えることができれば、ブランドへの信頼が強まり、長期的な関係が築かれます。
■ 上場企業のコーポレートカラーの割合
東証一部上場企業のコーポレートカラーの割合です。圧倒的に赤と青の割合が多いです。「躍動感」や「信頼感」を想起させるカラーが定番と言えます。また、日本企業はコーポレート・アイデンティティー(CI)を変更することに消極的ですが、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾンなど、適宜変えている企業は少なくありません。
[ 参考 ] 色彩検定協会サイトより
[ 参考 ] 色彩検定協会「色彩検定公式テキスト」
■ コーポレートカラーの決定プロセス
1. 市場調査と競合分析
コーポレートカラーを決定する前に、まず市場調査と競合分析を行うことが欠かせません。市場のトレンドを把握し、競合他社がどのような色を使用しているのかを分析することで、どの色が市場で過剰に使われているか、逆にどの色がチャンスを秘めているかを理解できます。競合と似た色を選ぶと埋没するリスクがあるため、差別化を図ることが重要です。市場調査は、ターゲットとなる消費者の色彩に対する反応を見極めるための有効な手段でもあり、色選定の基盤となります。
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2. ターゲットを考慮したカラー選定
コーポレートカラーを選定する際、最も重要なことがターゲットオーディエンスです。顧客層の年齢、性別、趣味嗜好などを考慮し、最も響く色を選ぶ必要があります。例えば、若年層向けのブランドでは明るくポップな色が好まれる一方、シニア層には落ち着いたトーンが安心感を与えます。また、国や地域によって色の象徴する意味が異なるため、グローバルに展開する企業はその文化的背景も考慮する必要があります。ターゲットに適した色を選ぶことで、より深いエンゲージメントを生むことが可能です。
3. ブランドイメージに基づいたカラーパレット作成
コーポレートカラーを決定する際、ブランドのイメージに基づいたカラーパレットを作成することが効果的です。単一の色にこだわる必要はなく、メインカラーに加えてサブカラーやアクセントカラーを組み合わせることで、企業の多様な側面を視覚的に表現できます。このカラーパレットは、ロゴやウェブデザイン、広告、パッケージなど、すべてのブランド接点で統一的に使用することで、強固なブランドイメージを形成します。パレット全体で調和が取れた配色は、視覚的に記憶に残りやすく、ブランドのアイデンティティを強化する要素となります。
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■ コーポレートカラーの成功事例
【 Coca-Cola 】
Coca-Colaのコーポレートカラーである赤は、ブランドの象徴として長い歴史を持ち、消費者に強く認識されています。この赤色は、情熱、エネルギー、活気を象徴し、Coca-Colaが持つポジティブで元気なイメージと結びついています。赤は視覚的に目立ち、興奮や行動を促す効果があるため、広告やパッケージに使用されることで消費者の注意を引きつけ、購入意欲を高める役割も果たしています。
Coca-Colaの赤色は19世紀末、商標が誕生した当初から使用され、サンタクロースのイメージを定着させる広告キャンペーンなどでも広く利用されました。結果として、Coca-Colaの赤は世界中で認知され、同社のグローバルな成功の一因となっています。
【 Starbucks 】
Starbucksのコーポレートカラーである緑は、同社のブランドアイデンティティにおいて重要な役割を果たしています。緑は、環境への配慮や自然との調和を象徴し、スターバックスが持つサステナビリティ(持続可能性)への強い取り組みを反映しています。また、緑はリラックス感や安心感を与える色であり、店舗の落ち着いた雰囲気や、顧客がくつろげる空間づくりに反映されています。
スターバックスのロゴや店内デザインに多く使われるこの緑は、ブランドの一貫性を保ちながら、自然やコミュニティとの結びつきを強調します。これにより、スターバックスは単なるコーヒーショップではなく、環境を意識したライフスタイルブランドとしても認識されるようになっています。
【 McDonald’s 】
McDonald’sのコーポレートカラーである赤と黄色は、ブランドのエネルギー、楽しさ、親しみやすさを象徴しています。赤は、食欲を刺激し、活気や情熱を感じさせる色です。特に、赤は視覚的に目立つため、McDonald’sの店舗や看板が遠くからでもすぐに認識されやすくなっています。また、赤は顧客にポジティブな感情を喚起し、速いサービスや楽しい食事体験をイメージさせます。
黄色は、喜びや幸福感を象徴し、明るく親しみやすいイメージを提供します。McDonald’sのゴールデンアーチ(Golden Arches)は、世界中で認識されるシンボルであり、ブランドのアイデンティティを強固にしています。黄色はまた、子供や家族向けのフレンドリーな雰囲気を強調し、楽しさやリラックス感を提供する場所としてのMcDonald’sの魅力を高めます。この赤と黄色の組み合わせは、ブランドの認知度を高め、世界中の消費者に愛される要因となっています。
【 HONDA 】
Hondaのコーポレートカラーである赤は、情熱、エネルギー、革新を象徴しています。赤は、Hondaの製品や企業文化におけるチャレンジ精神や活力を反映しており、創業以来続く「The Power of Dreams(夢を追い求める力)」という理念を体現しています。この色は、特にモータースポーツにおいてHondaの象徴として広く認知されており、パフォーマンスや先進技術へのこだわりを表現しています。
また、Hondaのロゴや広告などで使用される赤は、消費者に力強い印象を与え、ブランドの存在感を際立たせています。赤は感情に訴えかける色であり、Hondaの製品が持つ躍動感や信頼感、そして情熱的なブランドイメージを消費者に伝える重要な要素です。このコーポレートカラーにより、Hondaはグローバル市場で強いブランド認知を確立しています。
【 Mercedes-Benz 】
Mercedes-Benzのコーポレートカラーであるシルバーは、ブランドの高級感、洗練さ、先進技術を象徴しています。シルバーは、金属的な輝きや未来的なイメージを与える色であり、Mercedes-Benzが追求する精密なエンジニアリングや革新性を強調します。この色は、ブランドが提供する車の上質さや耐久性、卓越したパフォーマンスを視覚的に表現しています。
また、シルバーはMercedes-Benzの歴史的なモータースポーツの背景とも結びついています。特に1930年代の「シルバーアロー(Silver Arrows)」というレーシングカーの成功が、ブランドとシルバーの強い関連性を生み出しました。この伝統は現在も続いており、シルバーはMercedes-Benzのアイデンティティの中核を成しています。洗練されたデザインと技術の象徴として、シルバーは世界中でブランドの認知度を高めています。
【 Caterpillar 】
Caterpillar(キャタピラー)のコーポレートカラーである黄色と黒は、ブランドの力強さ、信頼性、安全性を象徴しています。黄色は特に、建設現場や重機の視認性を高めるために選ばれた色であり、工業分野での安全性と警告の意味を持っています。Caterpillarの重機が使われる環境では、黄色が遠くからでも目立ちやすく、安全対策としても機能しています。
一方、黒は力強さ、頑丈さ、プロフェッショナリズムを表現しています。Caterpillarの製品が持つ耐久性や、どんな厳しい環境にも耐える堅牢さを視覚的に伝えるため、黄色と黒のコントラストが用いられています。この組み合わせにより、Caterpillarは世界中で信頼される建設機械メーカーとしての認知を確立し、製品の堅牢さと安全性を強く印象づけています。
【 Apple 】
Appleのコーポレートカラーであるシルバーは、ブランドの洗練されたデザイン、革新性、高級感を象徴しています。シルバーは、Appleが提供する製品のミニマリズムとシンプルな美しさを反映し、特にMacBookやiPhoneなどの主要なハードウェアで広く使われています。このカラーは、未来的でクリーンなイメージを与え、Appleの製品が持つ先進技術と直感的な操作性を強調しています。
Appleは、1990年代後半からこのシルバーをブランドアイデンティティの中心に据え、製品の統一感と視覚的な印象を高めました。シルバーは、Appleの理念である「Think Different」を体現し、洗練されたデザインと機能美を追求する姿勢を表現しています。また、シルバーにより、Apple製品はシンプルでありながら高品質というブランドイメージを消費者に強く印象づけています。
【 IKEA 】
IKEAのコーポレートカラーである青と黄色は、スウェーデンの国旗の色に由来しており、ブランドのスカンジナビアのルーツと価値観を強調しています。青は、信頼性や誠実さ、安定感を象徴し、IKEAが提供する製品やサービスの信頼性を強く印象づけています。特に、シンプルで機能的なデザインや手頃な価格帯で高品質な家具を提供するというブランドメッセージと一致しています。
黄色は、明るさ、活気、喜びを表し、IKEAが提供するカジュアルで親しみやすいショッピング体験を象徴しています。青と黄色の組み合わせは、IKEAの店舗やロゴに強い視覚的インパクトを与え、顧客にスカンジナビアデザインの魅力や、心地よい家庭空間を手に入れるというポジティブなイメージを提供しています。このカラーパレットは、世界中でIKEAを象徴する重要な要素となっています。
【 Amazon 】
Amazonのコーポレートカラーであるオレンジと黒は、ブランドのエネルギーと信頼性を象徴しています。オレンジは、活気、楽しさ、親しみやすさを表現し、Amazonが提供する顧客中心のサービスやショッピング体験を反映しています。特に、ロゴのスマイルの矢印は、AからZまでの全てを提供するというAmazonの幅広い商品ラインナップを示し、オレンジがその柔軟性と利便性を強調しています。
一方、黒はプロフェッショナルさと信頼性を表し、Amazonの効率的で信頼できる配送サービスや、革新的なテクノロジー企業としての側面を強調しています。このカラーの組み合わせは、Amazonが単なるオンラインショッピングプラットフォームではなく、革新と信頼を提供するグローバル企業としてのブランドイメージを確立する上で重要な役割を果たしています。
[ 出典 ] Amazon公式サイトより
[ 出典 ] Sustainable Japansサイトより
■ まとめ
コーポレートカラーの選定は、単なるデザインの問題ではなく、企業のブランディング戦略全体に深く関わる重要なプロセスです。適切な色を選ぶことで、企業の価値観やメッセージが明確に伝わり、顧客との関係性を強化することが可能です。市場調査、ターゲット層の分析、そしてブランドの核心価値を反映したカラーパレットの作成を通じて、効果的なコーポレートカラー戦略を実現しましょう。成功事例から学び、自社に最適な色を見つけることで、ブランド力を最大化することができます。
株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。
【 株式会社チビコ 】
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