
[ ブランド戦略 ]
「強いブランド」と「弱いブランド」の違いとは何か?
「強いブランド」と「弱いブランド」の違いは、消費者に与える印象や信頼感、そして市場での競争力に大きく関わります。強いブランドは、明確なメッセージや一貫したビジュアル、丁寧に設計された顧客体験によって記憶に残り、長く選ばれ続けます。信頼や共感が生まれることで価格に左右されにくく、ファンとして支えてくれる顧客が育つ点も特徴です。一方で弱いブランドは、メッセージが曖昧だったり、競合と差が見えにくいことで印象に残りにくく、選ばれやすい状況とは言えません。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、強いブランドと弱いブランドの違いを具体例を交えながら紹介し、強いブランドをつくるためのポイントを詳しく解説します。
CONTENTS | 目次
■ 強いブランドと弱いブランドの具体的な違い

強いブランドと弱いブランドの違いは、「なぜ選ばれるのか」という根本にあります。強いブランドは、顧客の心の中に明確なイメージがあり、その価値や世界観に共感して選ばれます。価格や機能だけでなく、「そのブランドらしさ」に惹かれて支持される点が特徴です。一方で弱いブランドは、差別化の軸があいまいで、価格や便利さといった表面的な基準で比較されやすく、印象にも残りにくい傾向があります。強いブランドは社内でも理念や想いが浸透しており、発信や行動に一貫性があります。反対に弱いブランドは、言葉と実態のズレが生まれやすく、発信内容が散らかりがちです。その結果、強いブランドは信頼され、安定した支持を得やすいのに対し、弱いブランドは短期的なキャンペーンや価格に頼りやすくなります。
■ 強いブランドの特徴

1. 目的と価値観が明確で、一貫して体現されている
強いブランドは、「なぜ存在するのか」「どんな価値を届けたいのか」がはっきりしています。その目的や価値観が日々の活動に息づき、ブランディングの軸として機能しています。単なるスローガンではなく、意思決定や行動の基準として定着しているため、顧客から自然と信頼や共感を得られます。一方で、目的があいまいなブランドは流行や競合の動きに左右されやすく、芯を見失いやすくなります。
[ ポイント ]
● ミッション・ビジョン・バリューが明確に定義されている
● 意思決定や行動が常にブランド目的に沿っている
● 顧客が「このブランドは何を信じているか」を理解できる
2. ビジュアルとメッセージが統一されている
強いブランドは、ロゴ・カラー・フォントなどのビジュアルと、メッセージの表現やトーンが一貫しています。どの接点でも同じ世界観を感じられるため、顧客はすぐに「このブランドらしい」と気づけます。この統一感は単なるデザインの話ではなく、ブランドの意思を揺らぎなく伝えるための大切な基準です。ガイドラインが整備され、社内で共有されていることが前提になります。
[ ポイント ]
● ロゴ・カラー・フォントが一貫したルールで運用されている
● メッセージのトーンがブランドの個性を表している
● どんな媒体でも「そのブランドらしさ」が伝わる
➤ 詳細記事:VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは何か?効果と成功事例
3. 顧客との信頼関係が長期的に築かれている
強いブランドは、短期的な売上よりも顧客との信頼関係を重視しています。誠実な体験を積み重ねることで、「ここなら安心できる」と感じてもらえる関係が育ちます。信頼は広告ではつくれず、日々のサービスやコミュニケーションの積み重ねで形づくられるものです。期待に応え続ける姿勢が顧客の信頼を深め、選ばれ続ける理由につながります。そしてその積み重ねがブランドの強さを確かなものにします。
[ ポイント ]
● 顧客体験の一貫性を保ち、約束を守る姿勢がある
● 短期的な利益よりも長期的な関係を重視している
● 顧客の声を受け止め、改善を重ねている
4. 内部浸透が進み、社員がブランドの体現者となっている
ブランドは外向けだけでは成り立ちません。強いブランドは、まず社内で価値観が共有され、社員の行動に自然と表れています。理念やブランドストーリーが共有され、日々の業務に反映されている企業では、一人ひとりがブランドの想いを自分の言葉で語れるようになります。これが、組織全体の一貫したブランドらしさにつながります。そしてその積み重ねが企業文化として根づいていきます。
[ ポイント ]
● 社員教育や社内コミュニケーションでブランド理念を共有
● 行動指針やサービス姿勢にブランド価値が反映されている
● 社員が誇りを持ってブランドを語れる環境がある
➤ 詳細記事:インナーブランディングとは?その目的と進め方と成功事例
5. 価格競争に巻き込まれにくい
強いブランドは「安いから」ではなく、「このブランドだから」という理由で選ばれます。顧客はそのブランドに特別な信頼や共感を持っているため、価格が多少高くても価値を感じて選びます。この状態は経営面でも大きな強みとなり、価格競争に振り回されず、安定した支持を得やすくなります。結果として、中長期的な収益基盤がより盤石になっていき、企業の持続的な成長にもつながります。
[ ポイント ]
● 顧客が価格よりもブランド体験を重視している
● 独自の魅力で代替できない存在になっている
● 価格を下げずに選ばれる理由が明確にある
6. 市場で独自のポジションを確立している
強いブランドは、競合と似た立場にとどまらず、自分たちなりの独自ポジションを築いています。機能や価格ではなく、価値観や世界観、感性で差別化されているため、比較されにくく、独自の存在感を放ちます。「〇〇といえばこのブランド」という印象が顧客の中に根づき、模倣されても揺らぎません。こうした独自性が積み重なることで、市場で長く支持される強固なブランドとして確立されていきます。
[ ポイント ]
● ブランドの核となる独自価値が明確に定義されている
● 競合とは異なる感性・体験・物語で差別化されている
● 顧客の記憶に「唯一無二のブランド」として残る
➤ 詳細記事:ブランドポジショニングから始めるブランディング
■ 弱いブランドの特徴

1. 目的や価値観が曖昧で、発信内容がバラバラ
弱いブランドは、自社の存在意義や提供価値が整理されないまま発信してしまうことがあります。その結果、顧客に「どんなブランドなのか」が伝わりにくくなります。目的や価値観が共有されていないと、部署や媒体ごとにメッセージがばらつき、一貫性のない印象になりがちです。信頼を積み上げられず、印象にも残りにくいため、成長のきっかけを逃してしまうこともあります。
[ ポイント ]
● ミッション・価値観が定義されず、行動基準が曖昧
● 担当者や部署ごとに発信内容が異なる
● 顧客がブランドの方向性を理解できない
2. 見た目重視で、内面の戦略が欠如している
弱いブランドは、デザインやトレンドに偏り、戦略的な裏付けが不足するケースが多く見られます。見た目が整っていても、ブランドの本質が伝わらなければ印象は弱く、他社に模倣されやすい状況になります。本来、デザインは戦略の延長線上にある表現であり、背景となる思想があってこそ説得力が生まれます。表面的な取り組みだけでは、長く支持されるブランドには育ちにくいのが現実です。
[ ポイント ]
● 流行に流され、デザインが頻繁に変わる
● ブランドの思想や目的がビジュアルに反映されていない
● 「なぜこのデザインなのか」を説明できない
3. 顧客がブランドに感情的なつながりを感じていない
弱いブランドは、機能や価格といった表面的な価値に依存しがちで、顧客との感情的な関係が築けていません。「安いから」「便利だから」では、顧客は簡単に他ブランドへ移ってしまいます。世界観や物語、哲学のような“心に残る要素”がないと、ファンが育ちにくく、長期的な支持も得にくいものです。感情に響く瞬間や体験が存在しなければ、ブランドは単なる商品として扱われやすくなります。
[ ポイント ]
● 顧客が「そのブランドである理由」を感じていない
● 感情を動かす体験やストーリーが不足している
● リピートや口コミが育たず、ファン化しない
➤ 詳細記事:エモーショナルブランディングとは?[ 感情に訴えかける手法 ]
4. 社内でブランドが共有・浸透していない
弱いブランドでは、ブランドの方向性や理念が社内で共有されていません。社員がブランドの考え方を理解していないと、部署ごとに発信や対応が異なり、顧客体験に一貫性が生まれません。内部で共通の認識がなければ、外向けのブランドも不安定になります。ブランドは社員全員で育てるものだという意識が欠けていると、信頼を積み上げる基盤が弱くなります。こうした状況では継続的な成長も望みにくくなります。
[ ポイント ]
● ブランドの理念や価値が社員に浸透していない
● 社員ごとにブランド理解が異なり、発信がバラバラ
● ブランドを育てる文化や教育の仕組みがない
5. 価格競争や模倣に弱く、差別化ができていない
弱いブランドは、機能や価格面での優位性に頼りすぎるため、他社に模倣されやすくなります。独自の価値や体験がなければ、価格を下げないと選ばれない状況が続き、利益が圧迫されます。差別化とは派手さではなく、「そのブランドでしか得られない体験」を届けることです。内面的な価値づくりが不足していると、ブランドの持続性も低くなり、顧客との関係も浅くなってしまいます。
[ ポイント ]
● 価格を下げないと選ばれない構造になっている
● 他社が真似しやすい商品・表現で差別化できない
● 独自の体験価値やストーリーが欠けている
6. 短期的な売上に偏り、ブランド資産が育たない
弱いブランドは、目先の売上やキャンペーンに依存しがちです。その結果、長期的な信頼や好感度が積み上がらず、常に新しい施策に追われてしまいます。短期的な成果に偏ると、顧客との関係がリセットされ続け、ブランドとしての厚みが育ちません。ブランディングは短期間で完結するものではなく、継続的に育てていく投資だという視点が欠かせません。腰を据えて向き合う姿勢が求められます。
[ ポイント ]
● 売上重視でブランドの一貫性が損なわれている
● 短期施策の繰り返しで顧客が疲弊している
● 中長期のブランド戦略や資産形成の意識がない
■ 強いブランドが築く信頼関係

【 約束を守り続けることで「予測可能な安心感」を与える 】
強いブランドは、顧客との約束を丁寧に守り続けることで信頼をつくります。「いつ買っても同じ品質」「どんなときも誠実に対応してくれる」という安心感が、ブランドへの心理的な安全につながります。小さな約束の積み重ねこそが、長く続く信頼の土台になります。反対に、一度のブレや不誠実な対応は大きな不安を生むため、日々“期待を裏切らない姿勢”を保つことが欠かせません。
【 誠実な姿勢と透明性をもって顧客に向き合う】
信頼は「完璧さ」ではなく「誠実さ」から生まれます。強いブランドは、失敗や課題を隠さず、正面から向き合います。商品の背景や価格設定、製造工程などを丁寧に伝えることで、「このブランドは信じられる」と思ってもらえます。都合の悪い情報も誠意を持って共有する姿勢は、短期的には不利に見えても、長期的には大きな信頼を育てます。誠実さと透明性は、ブランドの人格そのものです。
【 ブランドの価値観が行動や発信に一貫して表れている 】
ブランドの価値観は、言葉以上に行動で示されます。強いブランドは、理念や価値観を掲げるだけでなく、日々の判断や取り組みにしっかり反映しています。広告や商品づくり、接客、社内文化まで、一貫した思想が流れているため、顧客は“そのブランドらしさ”を自然に感じ取ります。行動と発信が一致していることで、ブランドへの信頼が深まり、長期的な関係が築かれていきます。
【 顧客を“売上の対象”ではなく“共創する仲間”として扱う 】
強いブランドは、顧客をただの「買い手」とは考えていません。顧客の声を真摯に受け取って改善し、共につくる姿勢を大切にします。こうした関係性が、顧客に「このブランドに参加している」という感覚を生みます。販売行為だけで終わらせず、対話と共感を重ねることで、ブランドとのつながりが強くなり、長く選ばれる理由が育ちます。結果として、顧客自身がブランドの成長を支える存在になっていきます。
【 言葉と行動が一致している 】
ブランドが発信する言葉と、実際の行動にズレが生じると、信頼はすぐに揺らぎます。強いブランドは「言ったことを実行する」を徹底しています。広告、接客、サービス、社内の動きまで、あらゆる接点で言動を一致させることで、顧客に誠実さが伝わります。この積み重ねが、ブランドの本質的な強さとなり、長く信頼される理由になります。小さな行動の一つひとつが、大きな信用につながっていきます。
【 期待を超える細やかな気配りがある 】
強いブランドは、顧客の期待を少しだけ超える体験を届けています。派手な演出ではなく、相手の気持ちを先回りした丁寧な配慮や温かい対応が、思った以上の満足や感動を生みます。こうした小さな心配りが、「またこのブランドを選びたい」という気持ちにつながります。日々の誠実さと気遣いが、ブランドの魅力を支え続ける大切な要素です。こうした積み重ねが信頼や愛着を自然と育てていきます。
【 時間をかけて“信用”から“信頼”へと関係を深化させる 】
ブランドと顧客の関係は、一朝一夕では築けません。最初は「信用」、つまり約束を守ることで得られる安心から始まり、そこに誠実さや共感が積み重なって「信頼」へと深まります。強いブランドは、このプロセスを理解し、焦らずに誠実な姿勢を続けています。短期的な成果よりも、長期的な関係づくりを大切にすることで、揺るぎない信頼が育ちます。日々の小さな積み重ねが、その土台を支えています。
■ ブランド強化のための具体的なアクション

【 ブランド戦略面のアクション 】
1. ブランドの目的・価値・約束(MVV)を再定義する
ブランド力を高めるための最初の一歩は、「なぜ存在するのか(Mission)」「どんな未来を目指すのか(Vision)」「どんな価値を提供するのか(Value)」を改めて整理することです。企業の成長や社会の変化によって、当初のMVVが現在の状況と合わなくなることも珍しくありません。ここを丁寧に見直すことで、ブランドの方向性がより明確になり、意思決定や表現にも一貫性が生まれます。MVVの再定義は、経営とブランドを結びつける重要なプロセスです。
2. ターゲットの再設定とブランドポジションの明確化
ブランドの価値は「誰に、何を届けるのか」で決まります。市場や顧客の価値観が変化する中で、ターゲットを再設定し、自社の立ち位置を改めて明確にすることが欠かせません。年齢や属性だけで区切るのではなく、どんな考え方や世界観に共感する人なのかを見極めることが大切です。競合との比較に終始するのではなく、ブランド独自の“意味”を示すことで、「〇〇といえばこのブランド」と想起されるポジションが築かれていきます。こうした再定義の積み重ねが、企業の方向性をより強固にしていきます。
3. ブランドストーリーを策定し、社内外に浸透させる
強いブランドには、必ず“物語”があります。ブランドストーリーとは、創業の想い、社会への姿勢、未来への約束などを軸にまとめたものです。社員が自然と語りたくなるストーリーがあると、社内では誇りや文化が育ち、社外では共感や信頼が広がっていきます。ストーリーは紹介文ではなく、感情を動かし、ブランドを長く記憶に残す役割を持ちます。その物語こそが、ブランドの魂を形づくる大切な源になります。そして、その物語が実際の行動と結びつくことで、より深い説得力と一体感が生まれていきます。
➤ 詳細記事:ブランドストーリーとは?重要性や作成方法と成功事例
4. ブランド診断を定期的に実施する
ブランドは一度つくれば終わりではなく、社会との関わりの中で常に変化していくものです。そのため、定期的にブランド診断を行い、現状を客観的に把握することが大切です。認知度や好感度、一貫性などを数値化することで、強みや課題が明確になります。社員だけでなく、顧客の声やSNSでの反応も取り入れると、リアルなブランド評価につながります。こうした診断を続けることで、ブランドの成長を支える土台が整っていきます。さらに、変化を前向きに捉えて柔軟に改善を重ねる姿勢が、長期的な信頼にもつながります。

【 ビジュアル・コミュニケーション面のアクション 】
1. VI(ビジュアルアイデンティティ)を統一・更新する
ビジュアルアイデンティティ(VI)は、ブランドの「個性」を視覚的に伝える要素です。強いブランドほど、ロゴやカラー、書体、写真などの表現に一貫した世界観が感じられます。VIの統一や更新は、単なるデザイン変更ではなく、「今のブランドをどのように見せたいか」を整理する取り組みでもあります。これまで育ててきた印象を尊重しつつ、新しい価値観につながるデザインへ進化させることが重要です。
➤ 詳細記事:VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは何か?効果と成功事例
2. ブランドのトーン&マナーを明確化する
トーン&マナーは、ブランドが「どんな声で語り」「どんな姿勢で関わるか」を示す指標です。広告コピーやSNSの文章だけでなく、写真の雰囲気や接客での言葉づかいなど、あらゆる表現に関わります。これを明確にすることで、どの場面でも統一感のあるコミュニケーションが可能になり、「このブランドらしい」という安心感が生まれます。発信のブレがなくなることで、顧客からの信頼も自然と高まっていきます。
3. ブランドガイドラインを整備し運用体制を構築する
ブランドガイドラインは、ブランドの一貫性を保つものです。ロゴの使い方やカラー、フォント、コピーなどを整理し、誰が発信しても同じ基準でブランドを表現できるようにします。ガイドラインは単なるルール集ではなく、「ブランドの姿勢を正しく伝えるための指針」として機能させることが大切です。また、定期的な更新と、社内外への共有・教育を続けることで、長く安定したブランド運用が可能になります。
➤ 詳細記事:ブランドガイドラインの作り方 | 構成内容と成功事例
4. デジタル接点での体験統一を図る
現在のブランド体験の多くはデジタル上で形成されます。Webサイト、SNS、広告など、どの接点でも一貫した印象を届けることで、顧客に安心と信頼を感じてもらえます。見た目だけでなく、UIの使いやすさやコンテンツのテンポ、言葉のトーンなどにもブランドらしさを反映させることが重要です。すべてのデジタル接点で心地よい体験がつながることで、顧客はブランドに親近感と愛着を持つようになります。

【 組織・文化面のアクション 】
1. 社員へのブランド教育とインナーブランディングを強化する
ブランド力は、社員一人ひとりが「何を大切にし、どんな価値を届けたいのか」を理解しているかどうかになります。インナーブランディングは、社内広報ではなく“文化を育てる取り組み”です。理念やストーリーに触れる機会を増やし、継続的にワークショップを行うことで、社員が自分の仕事とブランドの価値を結びつけて考えられるようになります。こうした積み重ねが、ブランドを育てる力につながっていきます。
➤ 詳細記事:インナーブランディングとは?その目的と進め方と成功事例
2. 経営層がブランドの体現者として行動する
ブランドは、トップの言葉や行動によって方向性が示されます。経営層がブランドの価値観を理解し、自らその姿勢を示すことで、社員も自然とブランドを大切にするようになります。どれだけ理念を掲げても、リーダーの行動に一貫性がなければブランドは形だけの存在になりかねません。日常の意思決定や発信の中でブランドのビジョンを語り続けることで、文化として根づいていきます。
3. ブランドに基づいた行動指針・評価制度を導入する
ブランドを組織に浸透させるには、日々の行動や評価制度の中にブランドの価値観を反映させることが必要です。理念を理解していても、評価が数字だけに偏ると行動に落とし込みにくくなります。行動指針に“ブランドらしさ”を明確に示し、人事評価の基準に取り入れることで、社員が自然とブランド価値に沿った判断や行動を取れるようになります。これは理念を実践へとつなげる重要な仕組みになります。
4. ブランド体験を社内でシミュレーション・共有する
ブランドを深く理解するには、自分自身が“顧客として体験してみる”ことが最も効果的です。社内でブランド体験を再現し、感じたことや改善点を共有することで、よりリアルな視点が育ちます。定期的な体験共有会やカスタマージャーニー分析を実施し、全員が顧客の立場で考える習慣を持つことが理想です。自分たちが届けている体験を俯瞰し続けることで、ブランドの品質と信頼を磨き続ける文化が育まれていきます。
■ 国内の強いブランド成功事例

【 UNIQLO | ブランド成功事例 】
ユニクロは、ファッションを「普遍的な生活必需品(LifeWear)」として捉え直した、日本発のグローバルブランドです。流行ではなく“日常に最適な服”という考え方を貫き、シンプルで高品質・適正価格の商品を通じて、世界中の人々の暮らしに寄り添うポジションを築いてきました。また、テクノロジーとデザインを掛け合わせた機能性ウェア(ヒートテック、エアリズムなど)を生み出すことで、単なるアパレル企業ではなく「生活のインフラ」としての価値も確立しています。派手な広告に頼らず、店舗体験や商品力、理念の一貫した発信で信頼を積み重ねている点が印象的です。
[ 成功ポイント ]
● Life Wearというコンセプトで“服の意味”を再定義した
● 機能性とデザイン性を両立し、日常の快適さを高めた
● グローバル展開でも理念と品質を揺らさず一貫性を保っている

【 MUJI | ブランド成功事例 】
無印良品は、「これでいい」ではなく「これがいい」と感じられる“シンプルの美学”を世界に広めたブランドです。1980年の誕生以来、過剰な装飾や広告に頼らず、「本質的な価値」に正面から向き合う姿勢を続けてきました。ブランド名の“無印”は、商品そのものの誠実さを示す考え方を象徴しており、素材選びや機能、価格、デザインのすべてに合理性と倫理観が息づいています。さらに、店舗デザインやサステナブルな活動を通して、暮らし全体をより良くする“思想を持つブランド”としての存在感を確立しています。
[ 成功ポイント ]
● 「足し算」ではなく「引き算」の発想で独自の美しさを表現
● 商品・空間・コミュニケーションまで世界観を一貫
● 環境配慮と誠実なものづくりで世界的な共感を獲得

【 ハローキティ | ブランド成功事例 】
ハローキティは、1974年にサンリオから生まれた日本を代表するキャラクターブランドです。単なる“可愛いキャラクター”という枠を超え、「誰にでも寄り添う存在」として受け止められ、世代や国を越えて愛され続けています。特徴的なのは、ストーリーを盛り込みすぎない“余白”のあるデザインです。口のない表情は、見る人の気持ちや状況を自然に重ねられるため、文化の違いを超えて共感を呼びます。さらに、ファッション、アート、食品など幅広いジャンルとのコラボ展開によって、時代に合わせた新鮮さと広がりを保ち続けている点も大きな特徴です。そうした柔軟で開かれた姿勢が、長く愛される理由になっています。
[ 成功ポイント ]
● 感情を投影できる“口のないデザイン”で普遍的な共感を創出
● コラボレーション戦略により多業種・多世代に浸透
● 「Kawaii文化」を世界に広めた象徴的な存在

【 キユーピー | ブランド成功事例 】
キユーピーは、1925年に日本初のマヨネーズを発売して以来、100年近くにわたり家庭の食卓に寄り添ってきた食品ブランドです。その強さを支えているのは、「おいしさの先に、健康と幸せを届ける」という変わらない理念です。単なる調味料メーカーではなく、“食文化を育てる存在”として、品質へのこだわりと誠実な姿勢を積み重ねてきました。また、親しみのあるキユーピー人形のロゴは、安心感の象徴として世代を超えて浸透しています。企業姿勢・デザイン・コミュニケーションが自然に調和した、安定感のあるブランドの好例であり、時代が変わっても支持され続ける理由がよく分かります。
[ 成功ポイント ]
● 「食で人を幸せにする」という理念を一貫して体現
● 品質への徹底したこだわりと誠実な企業姿勢が信頼を創出
● キユーピー人形のロゴが“安心と親しみ”の象徴として定着
■ 海外の強いブランド成功事例

【 Tesla | ブランド成功事例 】
テスラは、電気自動車を「環境のための選択」から「憧れのライフスタイル」へ押し上げた、非常に象徴的なブランドです。イーロン・マスク氏が掲げる「地球の持続可能なエネルギーへの移行を加速する」という明確なビジョンがブランドの中心にあり、商品・デザイン・ユーザー体験のすべてがその理念としっかり結びついています。高性能や革新的な技術に加え、ミニマルで洗練されたデザインを融合させたことで、EVを“機能商品”ではなく“ aspirational(憧れ)”として定着させた点が印象的です。また、広告に依存せず、実際の体験やSNS、コミュニティの熱量でブランドを広げているところも特徴的です。
[ 成功ポイント ]
● 「持続可能な未来」という理念をわかりやすく打ち出し、強い共感を集めた
● 技術革新とデザイン性を両立し、EVを“憧れの対象”として位置づけた
● 体験・発信・ファンコミュニティを軸に、自然な広がりでブランドを成長させた

【 Starbucks | ブランド成功事例 】
スターバックスは、単にコーヒーを提供するのではなく、「人と人、人と場所をつなぐ体験」を軸に成長してきたブランドです。“Third Place(家庭でも職場でもない第3の居場所)”という独自のコンセプトを中心に据え、温かみのある空間づくりや丁寧なホスピタリティ、一人ひとりに寄り添ったパーソナルな接客を実現しています。ブランドの根底に「人とのつながり」という価値を置くことで、機能的な満足以上の情緒的な信頼を育ててきました。また、地域ごとに異なる文化を取り入れたメニュー展開など、グローバルな視点とローカルへの配慮を両立している点も、大きな強みになっています。
[ 成功ポイント ]
● 「第3の居場所」という独自のブランド体験をつくり出した
● 顧客との情緒的なつながりを重視し、共感されるブランドを育てた
● グローバル基準と地域性のバランスで、世界中で支持を集めた

【 Louis Vuitton | ブランド成功事例 】
ルイ・ヴィトンは、創業から160年以上にわたり“ラグジュアリーの象徴”として世界的な存在感を保ち続けているブランドです。その強さを支えているのは、「伝統と革新を丁寧に両立させてきた姿勢」です。職人による確かなクラフツマンシップを守りながら、現代的なファッション性やアートとの協働を積極的に取り入れ、常に新しい価値を生み出しています。ブランドを象徴するモノグラムは、ロゴ以上の意味を持ち、“長い歴史に裏づけられた信頼の証”として世界に浸透しています。また、広告表現よりもリアルな体験を重視し、店舗や展示、コラボレーションを通じて文化的な世界観を発信し続けている点も大きな特徴です。
[ 成功ポイント ]
● 伝統技術と革新性を無理なく両立させるブランド戦略を継続
● モノグラムを「信頼と格式の象徴」としてグローバルに確立
● ファッションを超えて、アートや文化領域へ存在感を広げた

【 Samsung | ブランド成功事例 】
サムスンは、韓国を代表するグローバルブランドとして、テクノロジーとデザインの両面で信頼を築いてきた企業です。その強みは、「革新をユーザーの生活価値につなげる力」にあります。最先端技術をスペックの羅列ではなく、使いやすさや心地よさとして実感できる形に落とし込み、“暮らしを豊かにするテクノロジー”としてブランドの軸に据えている点が特徴です。また、製品デザイン・UX・広告・店舗体験を一体で考える姿勢により、Appleとは異なる独自の世界観を築いています。地域ごとのニーズに柔軟に対応しながら、グローバルで統一されたイメージを保てていることも、長く支持される理由のひとつです。
[ 成功ポイント ]
● 技術革新を「生活に役立つ価値」としてわかりやすく提示
● デザイン・UX・広告を統合した一貫性あるブランド戦略を実施
● グローバル基準とローカル対応を両立し、市場ごとの最適化を実現
■ 弊社のブランディング開発実績
株式会社チビコは、企業の想いや強みを丁寧に掘り下げ、それを“選ばれる理由”として形にするブランディング開発を手がけています。ブランド戦略の設計から、ビジュアル開発、ストーリー構築、社内浸透まで一貫して支援し、多様な業界で成果につながるブランドづくりを実現してきました。
[ R.T.HEMMA ]
「 毎日を自分らしく、心地よく 〜 Your room, Your Life 〜 」をブランドビジョンに掲げ、インテリアデザインを通して、毎日をより自分らしく、楽しく、心地よいものにしていく企業ブランド。機能、デザイン、低価格、サステナビリティを兼ね備えたサービスをBtoB、BtoCに向けて幅広く展開。
[ 詳細 ] chobico WORKS | R.T.HEMMAより
[ INSIGHT FACTORY ]
「いかにして本音を集めるか」「集めた本音に何を見るか」を独自の知見によって提案し、クライアントと共に、来たる未来を推し量り、切り拓くこと掲げるリサーチ会社のリブランディング。ブランドシンボルは、社名の頭文字である「I」と「F」をモチーフに「どう見るか。なにを見るか。」をデザインで表現。
[ 詳細 ] chobico WORKS | INSIGHT FACTORYより
[ LANDPIA ]
LANDPIAは、不動産の有効利用を通じて活力ある経済社会の実現に貢献するブランドです。日本には、まだまだ未開拓の土地や、価値を見出されていない土地が多く残されています。それらを発見、有効活用することで、社会全体が潤う仕組みを作ることを掲げています。
[ 詳細 ] chobico WORKS | LANDPIAより
[ NIHONN MOBILITY SERVICE ]
NIHONN OIL SERVICEからNIHONN MOBILITY SERVICEへの社名変更に伴うコーポレートアイディンティティ開発。新ブランドのコンセプトは、「新しい移動と技術の進化。モノを超えたサービスとしてのあり方。」モビリティには無限の可能性があることを表現しています。
[ 詳細 ] chobico WORKS | NIHONN MOBILITY SERVICEより
[ RENEWABLE JAPAN ]
すべての人を、エネルギーの主人公に。「主人公」という言葉には、同じ時代を生きる一人ひとりにエネルギーづくりの主体となって活躍していただける社会を実現したいというブランドの想いを込めています。そして、共にエネルギーについて考え行動し社会の創生に寄与していく企業の姿勢を表しています。
[ 詳細 ] chobico | RENEWABLE JAPANより

■ 強いブランドと弱いブランドについての質問
ブランディングの現場では、「強いブランド」と「弱いブランドの違いは何か」という質問をいただくことがよくあります。ここでは、実際の支援経験を踏まえ、その差と改善のポイントをわかりやすく整理しました。
【 よくある質問① 】
Q :強いブランドと弱いブランドの最大の違いは何ですか?
A :強いブランドは「一貫性」と「信頼」を基盤に、顧客に明確な価値を提供します。弱いブランドはメッセージや体験が統一されず、顧客との関係が薄く、選ばれにくい傾向があります。
【 よくある質問② 】
Q :強いブランドを作るために最も重要な要素は何ですか?
A :明確なブランドアイデンティティと、それを支える一貫したメッセージです。理念・価値・デザイン・顧客体験を統合することで、強いブランドが形成されます。
【 よくある質問③ 】
Q :弱いブランドから強いブランドに変えるにはどうすればいいですか?
A : まず現状のブランド価値や顧客体験を客観的に分析し、ターゲットに最適化されたブランド戦略を再構築します。その上で、デザイン・コミュニケーション・サービスのすべてを一貫させることが重要です。
【 よくある質問④ 】
Q :強いブランドは価格競争に巻き込まれにくいと聞きますが本当ですか?
A :はい。強いブランドは独自の価値を確立しているため、単純な価格比較ではなく「そのブランドだから選ぶ」という指名買いにつながりやすく、価格競争の影響を受けにくいです。
【 よくある質問⑤ 】
Q :強いブランドを維持するために必要なことは何ですか?
A :顧客との関係性を深め続けることです。市場の変化に応じてブランド戦略を定期的に見直し、顧客体験や価値提供をアップデートし続けることが欠かせません。

■ ブランドの強さのチェックリスト
ブランドの強さを測るには、価値の明確さや体験の一貫性、社内浸透度などを多角的に見直すことが欠かせません。ここでは、強いブランドに共通するポイントを確認できるチェックリストをまとめました。
【 ブランド価値の明確性のチェック 】
⬜︎ 自社の提供価値が顧客に明確に伝わっているか?
⬜︎ ブランドが市場で他社と差別化されているか?
⬜︎ 顧客にとって「選ばれる理由」が具体的に説明できるか?
【 ブランド理念・戦略の浸透度チェック 】
⬜︎ 企業理念やブランドビジョンが全社員に共有され、理解されているか?
⬜︎ 現在の事業戦略とブランドビジョンの方向性が一致しているか?
⬜︎ 社員一人ひとりの行動がブランド価値や理念と整合しているか?
【 ブランド体験と一貫性のチェック 】
⬜︎ ブランドメッセージやデザインがすべての顧客接点で統一されているか?
⬜︎ ロゴ・カラー・コピーなどのビジュアル要素が古くならず、ブランド価値を正しく表現しているか?
⬜︎ 顧客がブランドを体験するすべての場面で一貫性が保たれているか?
【 継続的改善と体制整備のチェック 】
⬜︎ ブランドガイドラインやCIガイドラインが整備されているか?
⬜︎ ガイドラインが社内外に適切に共有され、活用されているか?
⬜︎ 市場や顧客の変化に合わせて、ブランド戦略やデザインを定期的に見直しているか?

■ まとめ
強いブランドと弱いブランドの違いは、メッセージの一貫性や顧客との関係性、市場での立ち位置に表れます。強いブランドは信頼を丁寧に積み重ねることで長く選ばれ続けますが、弱いブランドは競争の中で存在感を保つことが難しくなります。ブランドを育てていくためには、継続した改善と顧客との対話が欠かせません。さらに、日々の体験や発信を見直し、小さな工夫を積み重ねることでブランドの魅力は着実に育っていきます。こうした取り組みを続けることで、ブランドはより強く、しなやかに成長していきます。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

【 ご質問、お打合せ希望など、お気軽にお問合わせください。】
– ブランド戦略からデザイン開発まで –
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