
[ ブランド戦略 ]
リブランディングのタイミングはいつ?判断基準や進め方と成功事例
リブランディングは、「ブランドが古くなったから」「売上が落ちてきたから」
と始めるものではありません。
リブランディングを検討すべきなのは、事業や組織、市場、目指す未来が変化し、現在のブランドとの間にズレが生まれたときです。事業拡大、新市場への進出、経営者の交代、社員の認識のばらつきなどは、その代表例です。業績が悪化してからでは、時間や予算に余裕がなくなります。むしろ企業が成長しているときや、次の方向性が見えてきたときこそ、ブランドを見直す適切なタイミングです。
本記事では、ブランド戦略からCI・VI、WEBサイトまで一貫してブランド開発を支援してきたCHIBICOのブランディングディレクターである筆者が、実務経験をもとに、リブランディングを検討すべきタイミング、判断方法、具体的な進め方、国内外の事例について解説します。
CONTENTS | 目次
■ リブランディングのタイミングとは?

ブランドが古くなった時ではなく、「企業が変わる時」
リブランディングに「創業から10年経ったら行う」「ロゴを20年使ったら変更する」
といった決まった年数はありません。
重要なのは時間ではなく、企業そのものがどれだけ変化しているかです。企業は成長する中で、事業内容、顧客、市場、競合、組織、経営方針などが少しずつ変化していきます。しかし、企業理念、ブランドメッセージ、社名、ロゴ、WEBサイトなどのブランドは、必ずしも同じ速度で変化するわけではありません。
● 現在の事業 → 現在のブランド → これから目指す企業像
その結果、この3つの間にズレが生まれていきます。このズレが、事業の成長や採用、営業活動、社内コミュニケーションなどへ影響し始めたときが、リブランディングを考えるタイミングです。
問題が起きてからではなく、変化が起きる前に考える
リブランディングというと、「売上が落ちた」「認知度が下がった」「ブランドが古くなった」
といった問題が発生してから行うものと思われがちです。
● しかし、理想的なのは問題が深刻になる前です。
新規事業、事業承継、経営者交代、M&A、周年、IPO、海外進出など、これから会社が大きく変わることが分かっているのであれば、その変化に合わせてブランドも先回りして考えることができます。ブランドは現在の企業を説明するだけのものではありません。「自分たちはこれから、どのような企業になるのか」その未来を社内外へ示す役割も持っています。だからこそリブランディングは、問題を修復するためだけではなく、次の成長をつくるために行うことが重要です。
➤ 詳細記事:リブランディングを成功させる6つのポイント|失敗を防ぐ進め方と実例
■ リブランディングを検討すべき6つのタイミング

1. 事業内容や事業領域が大きく変わったとき
最も分かりやすいタイミングが、
企業の事業そのものが変化したときです。
創業当初は一つの商品を扱っていた企業でも、成長するにつれて複数の事業やサービスを展開することがあります。また、製造業からサービス事業へ、商品販売からサブスクリプション型ビジネスへなど、企業の提供価値自体が変化する場合もあります。しかし、社名や企業メッセージ、ロゴ、WEBサイトが以前の事業を前提につくられたままでは、現在の企業像を正しく伝えることができません。
● 新規事業が主力事業へ成長した
● 商品中心からサービス中心へ変化した
● 従来とは異なる業界へ参入した
● 技術会社からソリューション企業へ進化した
例えば、こういった変化です。企業そのものが進化しているのに、ブランドだけが過去の会社を説明している。この状態になったら、リブランディングを検討するタイミングです。
2. 顧客や市場が変化したとき
企業が提供している商品やサービスが変わらなくても、
顧客や市場が変化することがあります。
● 法人中心から個人へ顧客を広げる
● 国内中心から海外市場へ進出する
● 新しい業界へ事業を展開する
● 高価格帯・プレミアム市場へ進出する
例えば、このようなケースです。これまでの顧客に伝わっていたブランドが、新しい顧客にも同じように伝わるとは限りません。ただし、ターゲットが変わるたびにブランドの根幹まで変えるべきではありません。大切なのは、「何を変えるのか」「何を変えないのか」を分けることです。
企業として守るべき理念や価値は残しながら、メッセージ、デザイン、商品体験、コミュニケーションなど、新しい顧客へ届く部分を更新していく必要があります。リブランディングとは、市場へ迎合することではありません。ブランドの本質を保ちながら、時代や顧客との接点を更新することです。
3. 競合との差が伝わらなくなったとき
市場が成熟すると、
商品やサービスの機能だけでは差別化することが難しくなります。
「高品質」「技術力が高い」「丁寧な対応」「顧客第一」「豊富な実績」こうした特徴はもちろん重要です。しかし、多くの競合企業も同じようなことを発信しています。特にBtoB企業では、実際には独自の技術、企業文化、ノウハウ、サービスモデルを持っているにもかかわらず、それがブランドとして整理されていないケースが少なくありません。
● WEBサイトを見ても競合との違いが分からない
● 営業担当者によって会社の説明が違う
● 最終的に価格だけで比較される
● 「なぜこの会社を選ぶのか」が説明できない
その結果、こういう状態になります。こうした場合には、表面的なコピーやデザインを変えるだけでは十分ではありません。自社は何のために存在しているのか。顧客にどのような価値を提供しているのか。競合にはない自社固有の考え方や強みは何なのか。ブランドの存在意義やポジショニングまで掘り下げる必要があります。
4. 組織が拡大し、社員の認識が揃わなくなったとき
企業が小さいうちは、
経営者の考えが社員へ直接伝わりやすいものです。
しかし、社員数が増え、部署や拠点、グループ会社が増えてくると、会社に対する理解は少しずつ分かれていきます。
● 経営者と社員で会社の強みに対する認識が違う
● 営業と採用で企業の説明が違う
● 部署ごとに異なるメッセージを発信している
● グループ会社ごとにブランド表現がバラバラになっている
例えば、こういった状態です。ブランドは顧客へ企業を伝えるためだけのものではありません。社員が「自分たちは何のために仕事をしているのか」「どのような価値を提供する会社なのか」を共有するための共通言語でもあります。企業規模の拡大によって組織の共通認識が弱くなってきた場合も、リブランディングを考える一つのタイミングです。
5. 経営者交代・事業承継・M&Aが行われるとき
経営体制が大きく変わるタイミングは、
ブランドを見直す重要な機会です。
● 新しい社長が就任する
● 第二創業を行う
● M&Aによって企業を統合する
● グループ企業を再編する
こうした変化では、組織だけではなく企業としての意志も変わります。そのため、事業承継の場合であれば、創業者が築いてきた価値の中から、次世代へ残すものと、新しく変えるものを明確にする必要があります。一方で、M&Aの場合には、単に会社名やロゴを統一するだけではなく、異なる企業文化や価値観をどのようにつなげるのかという課題も生まれます。企業の歴史を否定して新しい会社をつくるのではありません。これまで培ってきたブランド資産を整理し、それを次の経営へつなぎ直すことが重要です。
6. 周年・IPO・海外進出など大きな節目を迎えるとき
企業には、社会へ大きくメッセージを発信できる節目があります。
● 創業10周年・50周年・100周年
● IPO・株式上場
● 海外市場への進出
● 大規模な新規事業の開始
こうしたタイミングは、単なる記念行事として終わらせるのではなく、「これまで何をしてきた会社なのか」「これから何を目指す会社なのか」を整理する良い機会です。特に周年は、過去を振り返るだけではなく、次の10年、20年へ向けた企業の未来を発信できるタイミングです。ただし、周年当日にロゴを発表することを目的にしてはいけません。重要なのは、周年という期限から逆算して、経営戦略、ブランド戦略、言葉、デザイン、社内浸透まで十分な時間を確保することです。
■ 「今やるべきか」を判断する4つの基準

リブランディングの必要性を感じても、「本当に今取り組むべきなのか」を判断することは簡単ではありません。ブランドを変えること自体が目的になってしまうと、経営や事業とのつながりが弱くなり、十分な成果につながらない可能性があります。
CHIBICOでは、少なくとも次の4つの視点を整理した上で、リブランディングを始めるべきか判断することが重要だと考えています。
1. 「なぜ変えるのか」を経営課題として説明できるか
「ロゴが古くなった」「WEBサイトのデザインが時代に合っていない」といった理由だけでは、リブランディングを行う根拠として十分とはいえません。重要なのは、ブランドを見直す必要性が、企業経営や事業成長の課題と結びついていることです。
● 事業領域が広がり、現在のブランドでは企業全体を表現できなくなった
● 新しい顧客層へ進出したいが、自社の価値や魅力が十分に伝わっていない
● 競合との違いが曖昧になり、自社ならではの強みが認識されにくくなった
● 事業承継や組織拡大を機に、企業理念や価値観を改めて共有する必要が生まれた
具体的には、こうした状況です。「なぜ今、ブランドを変える必要があるのか」を経営課題として明確に説明できることが、最初の判断基準になります。
2. これから目指す企業像がある程度決まっているか
リブランディングは、現在の見え方を整えるだけではなく、未来へ向けてブランドを設計することです。そのため、5年後、10年後にどのような企業になりたいのかという方向性がなければ、ブランドとして何を変えるべきかも決めることができません。完璧な経営計画が必要なわけではありませんが、少なくとも、
● これからどの事業を伸ばしていくのか
● 誰に、どのような価値を届けていくのか
● どのような企業として社会から認識されたいのか
という大きな方向性は必要です。未来の企業像が見えているからこそ、現在のブランドとのギャップを把握し、何を変えるべきかを判断できるようになります。
3. 「残すもの」と「変えるもの」を考えられるか
長く続いてきた企業には、すでに多くのブランド資産が蓄積されています。企業理念、社名、ロゴ、商品、技術、歴史、企業文化、そして顧客から積み重ねてきた信頼も、重要なブランド資産です。そのため、リブランディングだからといって、それらをすべて新しくする必要はありません。むしろ一度棚卸しを行い、次の3つに整理することが重要です。
● 未来にも残す価値:企業らしさの核として、今後も継承していくもの
● 現在に合わせて更新する価値:本質を残しながら、時代や事業に合わせて進化させるもの
● 今後は役割を終える価値:現在や未来の企業像とは合わなくなった表現や考え方
過去を否定してすべて新しくするのではなく、これまで築いてきた資産の中から、未来へ残すべき企業らしさを見極めることが大切です。
4. 社内で実行できる体制があるか
リブランディングは、ブランド戦略やロゴをつくった時点で完成するものではありません。新しいブランドは、企業と社会が接するさまざまな場面へ展開され、継続的に運用されて初めて機能します。代表的な接点としては、
● WEBサイト・会社案内:企業の思想や価値、強みを一貫して伝える
● 採用ツール・社内ツール:理念や文化を社員や採用候補者へ共有する
● 商品・パッケージ:ブランドの思想や価値を具体的な体験へ変える
● SNS・広告・サイン:社会との継続的な接点をつくり、ブランドの認知を高める
などがあります。そのため、経営者や広報担当者だけで進めることには限界があります。経営、広報、営業、人事、商品開発など、ブランドに関わる部門が目的を共有し、公開後も継続して運用できる体制を整えることが重要です。リブランディングを「ブランドをつくるプロジェクト」ではなく、「企業全体でブランドを実行し、育てていくプロジェクト」として考えられるかどうか。それも、今取り組むべきかを判断する大切な基準です。
■ リブランディングは好調な時に始める方がよい
リブランディングは、業績が悪化した企業を立て直すためだけの施策ではありません。
むしろ企業が成長している時期の方が、取り組みやすい場合があります。業績や事業が安定していれば、短期的な売上回復だけを求めず、「これからどの市場へ進むのか」「どのような企業になりたいのか」「10年後にどのようなブランドでありたいのか」という長期的な議論ができます。
例えば、新規事業が成長している。海外進出が決まった。次世代経営者への承継が進んでいる。社員数が増えている。上場を検討している。こうした前向きな変化が起きている時こそ、ブランドを現在の会社から未来の会社へ進化させる良いタイミングです。問題が起きてからブランドを修復するのではなく、次の成長を見据えて先にブランドを整える。この考え方が重要です。
■ リブランディングを急がない方がよいタイミング
反対に、すぐにリブランディングを行わない方がよいケースもあります。
1. 商品やサービスそのものに大きな問題がある
ブランドは、実際の商品やサービスの上に成り立っています。品質、顧客対応、価格、サービス内容などに大きな問題がある状態で、ロゴやWEBサイトだけを新しくしても根本的な解決にはなりません。そのため、まず事業そのものを改善し、その変化をブランドとして伝える順番が必要です。
2. 経営や事業の方向性が決まっていない
どの市場へ進むのか。今後、どの事業を伸ばすのか。主な顧客は誰なのか。そして、どのような企業を目指すのか。これらが決まっていない状態では、ブランドコンセプトもデザインも決める基準がありません。リブランディングは経営戦略の代わりになるものではありません。
3. 「何となく古い」ことだけが理由になっている
長く使われてきたロゴやブランドカラーには、認知や信頼という資産が蓄積されています。見た目が古いという理由だけで変更すると、その資産まで失ってしまう可能性があります。古いか新しいかではなく、現在と未来の企業を正しく表現できているかで判断することが重要です。
■ リブランディングの進め方

1. 目的とゴールを設定する
最初に、「なぜ今リブランディングを行うのか」を明確にします。事業転換、事業承継、競争力強化、海外進出、採用力向上など、ブランドを見直す背景には必ず経営や事業上の課題があります。まずは、その課題とリブランディングの目的を結びつけ、「何を実現するためのプロジェクトなのか」を整理します。周年、社名変更、IPO、新事業の開始など、明確な公開時期がある場合は、その日から逆算し、調査、戦略、開発、社内浸透、公開までのプロジェクト全体を設計することも重要です。
2. 現在の事業とブランドを調査する
次に、企業とブランドの現在地を把握します。経営者へのインタビューでは、経営の思想や将来の事業構想、企業として目指す姿を確認します。一方、社員へのヒアリングでは、現場が感じている企業の強みや課題、組織文化、共有されている価値観などを把握します。さらに、外部環境についても調査します。
● 市場・競合:市場環境や顧客ニーズ、競合の特徴から自社の成長機会や独自性を確認する
● ブランド認知:社名やブランドがどのように認識・評価されているかを把握する
● WEB・検索データ:流入経路や検索行動から、顧客の関心やニーズを読み取る
こうした調査を通じて、「企業が考えているブランド」と「顧客や社会から認識されているブランド」の違いを明らかにします。このギャップを把握することが、リブランディングの重要な出発点になります。
3. 未来の企業像とブランド戦略を定義する
現状を分析するだけでは、新しいブランドはつくれません。次に必要なのは、「これからどのような企業になるのか」という企業自身の意思です。まず、Purpose、Mission、Vision、Valuesなどを整理し、企業の存在意義、果たすべき使命、目指す未来、社員が共有すべき価値観を明確にします。その上で、顧客や市場との関係をブランド戦略として設計します。
● Brand Promise:顧客や社会に対して約束する価値を明確にする
● Positioning:市場や競合との関係から、自社が選ばれる独自の立ち位置を定める
● Brand Concept:ブランド全体を貫く中心的な考え方や世界観を言語化する
ここで重要なのは、「自社は何をしている会社なのか」だけではなく、「これから何者として選ばれる企業になるのか」まで定義することです。データによって現在地を知り、ビジョンによって未来を決める。その両方が揃って、初めてブランド戦略が成立します。
4. ブランドの言葉を設計する
ブランド戦略が決まったら、その考え方を社会へ伝わる言葉へ変換します。社名やブランド名は、企業や事業の存在意義、価値、将来の広がりを象徴する重要な要素です。また、ブランドプロミスやブランドコンセプトによって約束する価値や世界観を整理し、スローガンやブランドステートメントとして、より伝わりやすい言葉へ展開していきます。主な言語要素は、次のように整理できます。
● ネーミング:社名やブランド名として、企業・事業の価値や独自性を象徴する
● ブランドコンセプト・プロミス:ブランドの中心思想と顧客への約束を明確にする
● スローガン・ステートメント:ブランドの意志や背景、目指す未来を印象的に伝える
ここで重要なのは、企業側が言いたいことを並べることではありません。ブランド戦略を、顧客、社員、取引先など、ブランドに触れる人が理解できる言葉へ翻訳していくことが重要です。
5. VI・デザインシステムを開発する
次に、ブランドの考え方を視覚的な表現へ変換します。ブランドシンボルやロゴタイプによって企業の思想や個性を象徴化し、ブランドカラーやフォントによってブランドらしさと一貫性をつくります。さらに、写真、イラスト、グラフィックなどの表現方法を体系化し、さまざまな媒体で同じブランドとして認識されるデザインシステムへ発展させます。大きく整理すると、VIは次の3つの領域で構成されます。
● 基本要素:ブランドシンボル、ロゴタイプ、ブランドカラー、フォント
● 表現要素:写真、イラストレーション、グラフィックなどの視覚表現
● 運用体系:デザインシステム、ブランドガイドラインによる統一と管理
ここで重要なのは、単に「新しいデザイン」をつくることではありません。戦略によって定義したブランドを、顧客や社員が視覚的にも同じように理解し、感じ取れる状態へ変換することがVI開発の役割です。
➤ 詳細記事:VI(ビジュアル・アイデンティティ)の作り方|開発手順・構成要素・成功のポイント
6. 社内浸透・外部発信・運用へ展開する
ブランドが完成したら、実際の企業活動へ展開します。WEBサイト、会社案内、営業資料、採用ツール、SNS、広告、商品、パッケージ、店舗、オフィス、サインなど、顧客や社員がブランドに触れるさまざまな接点で、言葉とデザインを一貫させていきます。同時に重要なのが、社内への浸透です。社内説明会やブランドブック、ガイドラインなどを活用し、
● なぜブランドを変えたのか
● これから何を目指していくのか
● 日常の仕事でどのように行動すればよいのか
まで共有します。さらに、ブランド公開後も、ブランド認知、指名検索数、問い合わせ内容、顧客評価、採用応募、社員理解度など、プロジェクトの目的に応じた指標を継続的に確認していく必要があります。リブランディングは、公開日がゴールではありません。新しいブランドを企業活動の中で実践し、顧客や社員との接点を通じて育て続けていく。そのスタート地点が、ブランドの公開です。
■ CHIBICOが考えるリブランディングのタイミング

「現在の事業」「現在のブランド」「未来のビジョン」の3つを見る。
私たちがリブランディングの相談を受けたとき、最初に「ロゴを変えるべきか」を考えることはありません。まず確認するのは、次の3つです。
1. CURRENT BUSINESS|現在の事業
| 現在、企業は何をしているのか。
事業内容、顧客、市場、競合、組織、商品・サービス、事業モデルなど、企業の現在地を整理します。創業当時から何が変わったのか。これからどの事業が成長していくのか。まず企業そのものを理解します。
2. CURRENT BRAND|現在のブランド
| 次に「現在、周囲からどのような企業だと思われているのか」を確認します。
顧客、社員、取引先、採用候補者から、自社とは何の会社で、何を強みとし、どのような印象を持たれているのかを把握します。企業が考える自社像と、社会から見える企業像は、必ずしも一致しません。
3. FUTURE VISION|未来のビジョン
| 最後に「これからどのような企業になりたいのか」を整理します。
5年後、10年後にどの市場で成長し、誰に選ばれ、どのような価値を提供するのか。さらに、社会の中でどのような存在を目指すのかまで明確にし、企業とブランドが進む方向性も具体的に定めます。
【 3つがつながらなくなったときが、リブランディングのタイミング 】
● CURRENT BUSINESS → CURRENT BRAND → FUTURE VISION
この3つが自然につながっているのであれば、大規模なリブランディングは必要ないかもしれません。一方で、「事業は変わったのにブランドは昔のまま」あるいは、「未来の事業構想は決まっているのに、現在のブランドではそこへ進めない」という状態であれば、ブランドを見直す意味があります。
そして最もリブランディングに取り組みやすいのは、「企業の未来が見え始め、現在のブランドとのズレも明確になったとき」です。未来が決まっていなければ、ブランドの方向も決まりません。反対に、未来が決まってから何年も放置すると、事業とブランドのズレはさらに大きくなります。この間にある適切なタイミングを見極めることが重要です。
■ CHIBICOが手掛けたリブランディング事例
CHIBICOでは、単にロゴやWEBサイトを新しくするのではなく、
企業が変化する背景からブランドを再構築しています。

[ NIHON MOBILITY SERVICE ]
JAPAN OIL SERVICEからNIHON MOBILITY SERVICEへの
社名変更に伴い、コーポレートアイデンティティを開発しました。
従来の「OIL」という特定の商品カテゴリーを中心とした社名から「MOBILITY」というより広い事業領域を表す名称へ変更し、新しい企業像を構築しています。ブランドコンセプトは、「新しい移動と技術の進化。モノを超えたサービスとしてのあり方。」これまでの事業を否定するのではなく、その先に広がるモビリティの可能性をブランドとして可視化した事例です。
[ 詳細 ] chibico WORKS | NIHON MOBILITY SERVICEより

[ RENEWABLE JAPAN ]
再生可能エネルギー事業の成長と事業領域の拡大に伴い、
企業の存在意義を明確にするコーポレートアイデンティティを開発しました。
従来の再生可能エネルギーを「提供する企業」という枠を超え、生活者や地域、投資家など、すべての人がエネルギーの未来に参加する企業像を構築しています。ブランドコンセプトは、「すべての人を、エネルギーの主人公に。」事業の社会的意義と企業の成長意志をひとつにつなぎ、持続可能な未来を社会と共につくる企業姿勢をブランドとして可視化した事例です。
※リニューアブル・ジャパン株式会社は、2026年4月1日付で「株式会社リエネ・エナジー」へ社名変更しています。
[ 詳細 ] chibico WORKS | RENEWABLE JAPANより

[ I’ROM GROUP ]
グループの事業拡大と複数事業の成長に伴い、
グループ全体を統合するコーポレートアイデンティティを開発しました。
CI開発当時、アイロムグループは先端医療、SMO、CRO、メディカルサポートなど複数の事業領域を展開していました。そこで、それぞれの事業を個別に見せるのではなく、共通する企業の思想によって束ねるブランド体系を構築しました。ブランドプロミスは、「憂いなき未来のために。」事業の根底にある、人々の健やかな未来への想いをひとつにし、グループとして目指す企業像をブランドとして可視化した事例です。
[ 詳細 ] chibico WORKS | I’ROM GROUPより
■ リブランディングの成功事例[ 国内編 ]

【 富士フイルム|市場そのものが変化したタイミング 】
写真フィルム需要の縮小を前に、企業そのものを再定義
[ タイミング ]市場の構造変化・事業転換
[ ポイント ] 既存事業ではなく、自社固有の技術資産から未来を再定義
富士フイルムの事例から学べるのは、従来市場の衰退が明確になった段階で、自社の技術資産を起点に企業の未来を再構築したことです。デジタル化によって写真フィルム需要が急減する中、同社はフィルム会社としての延命ではなく、写真分野で培った技術をヘルスケア、高機能材料などへ展開し、事業構造そのものを大きく転換しました。
富士フイルム自身も、2000年代にカラーフィルム需要の急減へ対応するため事業構造を大きく変革したと説明しています。つまり、重要なのは、「フィルムをどう売り続けるか」ではなく、「自分たちはどのような技術を持つ企業なのか」まで遡って考えたことです。これは、市場環境の構造的変化が起きたときに、ブランドを事業とともに再定義した代表例といえます。
[ 出典 ] 富士フイルムホールディングス「統合報告書2025|FOCUS:2000〜2020年代の事業変革」より

【 中川政七商店|事業承継と成長に合わせて企業の存在意義を再定義 】
老舗問屋から「日本の工芸を元気にする」企業へ
[ タイミング ]事業承継・事業拡大
[ ポイント ] 企業の歴史を残しながら、存在意義と事業領域を拡張
1716年創業の中川政七商店は、長い歴史を持つ企業でありながら、時代に合わせて事業のあり方を変化させてきました。2003年以降に直営店展開を加速させ、2007年には「日本の工芸を元気にする!」というビジョンが生まれ、工芸メーカーへの経営支援など新たな事業へ展開しています。2008年には13代中川淳氏が社長に就任しました。
ここで注目したいのは、単なる店舗や商品のデザイン刷新ではなく、「自社の商品を売る会社」から「日本の工芸産業そのものを元気にする会社」へ企業の存在意義を広げたことです。事業承継や企業成長は、過去のブランドを捨てるタイミングではありません。企業が積み重ねてきた価値を、次の経営へ再編集するタイミングと考えることができます。
■ リブランディングの成功事例[ 海外編 ]

【 Starbucks|ブランドの認知が十分に高まったタイミング 】
40周年を機に、ロゴから「STARBUCKS COFFEE」を外す
[ タイミング ]40周年・グローバル展開・事業領域拡張
[ ポイント ] 高いブランド認知を活かし、象徴性をさらに高めた
Starbucksは2011年、創業40周年のタイミングで現在のロゴへ変更しました。大きな特徴は、それまでロゴを囲んでいた「STARBUCKS COFFEE」という文字をなくし、象徴であるサイレンだけを残したことです。Starbucks自身も、ブランドが世界へ広がり、コーヒーという領域を越えて展開する中で、サイレンだけでブランドを認識できる状態になったことを説明しています。
ブランド認知が十分に蓄積したことで、説明的なロゴから象徴的なロゴへ進化することが可能になりました。これは、「ブランド資産を捨てる」のではなく、「より強くなった資産を残す」リブランディングです。世界的な認知と事業の成長を、ブランド進化へつなげた好例といえます。
[ 出典 ] Starbucks公式「The Evolution of Our Logo」より

【 Mastercard|デジタル化にブランドを適応させた事例 】
ブランド資産を継承しながら、デジタル時代に適応する
[ タイミング ]デジタル化・顧客接点の変化
[ ポイント ] 認知資産を残し、使用環境だけを未来へ適応
Mastercardは2016年、長く使用してきた赤と黄色の円というブランド資産を残しながら、ブランドアイデンティティをよりシンプルでデジタル環境に適したものへ刷新しました。Pentagramによれば、新しいアイデンティティでは既存のブランドエクイティを維持しながら、デジタルをはじめとする多様な接点で機能することが重視されています。
さらに、グローバル調査では81%の消費者がブランド名なしでも新しいシンボルを認識しました。こうした高い認知を背景に、2019年には多くの用途で「Mastercard」の文字を外し、赤と黄色のシンボルだけでブランドを表現する段階へ進んでいます。

■ リブランディングのタイミングに関するよくある質問
Q1. リブランディングは何年ごとに行うべきですか?
● 決まった周期はありません。
5年、10年といった年数ではなく、事業、顧客、市場、組織、経営方針がどれだけ変化したかで判断します。ブランドをつくってから長い時間が経っていても、現在の企業と未来の方向性を正しく表現できていれば、大きく変える必要はありません。
Q2. 業績が悪くなってから行うものですか?
● 必ずしもそうではありません。
むしろ事業が安定し、次の成長戦略を考えられる時期の方が、長期的な視点でブランドを設計しやすくなります。業績悪化はリブランディングを考える一つのきっかけですが、原因がブランド以外にある場合もあるため、慎重な分析が必要です。
Q3. 周年はリブランディングに適していますか?
● 適したタイミングの一つです。
周年は企業の歴史を振り返るだけでなく、次の10年、20年へ向けて企業の未来を示す機会になります。ただし、「周年だからロゴを変える」のではなく、「周年を機に企業の未来を考え、その結果としてブランドを変える」という順序が重要です。
Q4. ロゴが古くなったらリブランディングすべきですか?
● 古く見えるだけでは判断できません。
重要なのは、そのロゴが現在の企業や未来の事業を正しく表現できているかどうかです。ブランド資産として高い認知を持っているロゴであれば、残す方がよい場合もあります。
Q5. リブランディングにはどのくらい期間が必要ですか?
● 対象範囲によって大きく異なります。
ブランド戦略とVIだけを見直す場合と、社名変更、商標、WEBサイト、会社案内、営業資料、採用、社内浸透まで含める場合では、必要な期間がまったく違います。重要なのは公開日だけを先に決めて制作期間を圧縮することではなく、必要な検討時間から逆算してスケジュールを組むことです。
Q6. 会社全体ではなく、ロゴやWEBサイトだけ変えることもできますか?
● はい、できます。
リブランディングでは、すべての要素を変える必要はありません。企業理念やブランド戦略が現在も有効であれば残し、VIやWEBサイトだけを更新することもあります。反対に、事業そのものが大きく変化している場合には、社名やブランド戦略から見直す必要があります。何をつくるかではなく、何を解決する必要があるのかから対象範囲を決めます。

■ リブランディングを検討するためのチェックリスト
□ 現在の事業内容と企業イメージは一致しているか
□ 5年前と比べて事業領域や顧客層が大きく変化していないか
□ 「何をしている会社なのか」を短く説明できるか
□ 競合との違いを価格や機能以外で説明できるか
□ 経営者と社員で企業の強みに対する認識は一致しているか
□ 営業・採用・広報で同じ企業像を伝えられているか
□ 現在の社名やロゴは、これから目指す事業を表現できているか
□ 事業承継、M&A、周年、IPO、海外進出など大きな変化を予定しているか
□ 5年後、10年後の企業像をある程度描けているか
□ 現在のブランドの延長線上で、その未来へ進めるか
重要なのは、当てはまった項目の数ではありません。
一つしか当てはまらなくても、「事業そのものが大きく変わる」「現在の社名では未来の事業を表現できない」といった重要度の高い問題であれば、リブランディングを検討する意味があります。反対に複数当てはまっていても、WEBやメッセージなど一部を改善することで解決できる場合もあります。チェックリストは答えではなく、ズレを発見するためのきっかけとして活用してください。

■ まとめ
リブランディングに、すべての企業へ共通する「正しい年数」はありません。
重要なのは、企業の変化とブランドの変化が一致しているかどうかです。
事業が変わった。顧客が変わった。市場が変わった。経営者が変わった。これから目指す未来が変わった。それにもかかわらず、ブランドだけが過去の企業を表現し続けているのであれば、見直しを検討するタイミングです。一方で、リブランディングを単なるデザイン刷新として考えるべきではありません。
大切なのは、「現在の事業」「社会から認識されているブランド」「これから目指す企業像」の3つを整理することです。さらに、その間にあるズレを明らかにし、「何を残し、何を変えるのか」を決めていきます。リブランディングは、過去のブランドを否定して新しくするためのものではありません。
企業がこれまで積み重ねてきた価値を整理し、次の時代へつなぎ直すためのプロジェクトです。だからこそ、ブランドが完全に時代遅れになってからではなく、企業が次のステージへ進もうとしているときに考える。それが、リブランディングにとって最も重要な「タイミング」だとCHIBICOは考えています。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

【 リブランディングについてご相談ください 】
リブランディングは「実施する」と決まってから相談する必要はありません。
CHIBICOでは、経営や事業の背景を伺いながら、何を残し、何を変えるべきかを整理し、
ブランド戦略、ブランドコンセプトなど、必要な領域をご提案しています。
■ おすすめ関連記事
リブランディングが必要か判断したい方

[ おすすめ記事 ] リブランディングはなぜ必要?必要になる5つのサインと判断方法
リブランディングを成功させるポイントを知りたい方

[ おすすめ記事 ] リブランディングを成功させる6つのポイント|失敗を防ぐ進め方と実例
企業のCI(コーポレート・アイデンティティ)まで見直したい方

[ おすすめ記事 ] CI(コーポレート・アイデンティティ)を変更する5つの理由|見直すタイミングと注意点
VI(ビジュアル・アイデンティティ)の見直しを検討している方























