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ブランドビジョン(企業理念)の開発と展開事例

[ ブランド戦略 ]

ブランドビジョン(企業理念)の開発と展開事例

ブランドビジョン(企業理念)は、企業が目指す未来の姿や価値観を明確に表現し、社内外に共有するための重要な指針です。強いブランドビジョンは、企業の方向性を定めるだけでなく、顧客や従業員に対して企業の使命や存在意義を伝える役割を果たします。ブランドビジョンがしっかりと浸透している企業は、社内外で一貫性のある行動が促進され、ブランド価値が向上します。ビジョン開発では、企業の核となる価値や顧客ニーズ、社会的な役割を深く理解し、それに基づいて企業の将来像を描くことが求められます。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ブランドビジョンの効果的な開発方法と、展開に成功した企業事例を通じて、その重要性と実践のポイントについて詳しく解説します。


■ ブランドビジョン(企業理念)開発の目的とは

ブランドビジョン(企業理念)と聞くと、
抽象的で漠然としたものだと思う人も多いのではないでしょうか?

しかし、優れたブランドビジョン(企業理念)は、企業にとって大きな効果をもたらすのです。社内に対しては、ブランドビジョン(企業理念)を通じて企業の意志や意義を示し、社員のモチベーションの向上や、ベクトル合わせをすることで成長に繋がります。また、社外に対しても、実現したい社会や新しい価値、顧客への貢献のあり方などを示すことで、企業や事業、商品やサービスに対する期待と支持を獲得できるのです。大きな成長を遂げた企業の中には、明快で強いブランドビジョンを掲げた企業が多い。例えば、スターバックスの「サードプレイス」などはよく知られたブランドビジョン(企業理念)です。

■ ブランドビジョン(企業理念)の展開について

ブランドビジョン(企業理念)を開発する際に参考にしたいブランドビジョン(企業理念)の展開事例を紹介させていただきます。企業名は知っていても、その企業がどんなブランドビジョン(企業理念)を掲げ、どこを目指しているのかまでは知らない人も多いのではないでしょうか?

■ ブランドビジョン(企業理念)展開事例

【 GOOGLE|グーグル 】

Never settle for the best

● 現在においてもナンバーワンに甘んじない企業姿勢を貫いている

言わずと知れた検索エンジンサービスを提供するグーグル社ですが、Our Philosophyとして掲げられているのは、『Never settle for the best』という一節です。日本語で意訳するならば、「ベストに甘んじない」、「最善に終着点はない」といったことになるでしょうか。企業としてのグールは1998年に設立されていますが、現在に至るまでその検索結果を導き出すプロセスは改良され、利用者の使い勝手に沿ったサービスを展開しています。グーグルの検索結果に不足を感じることが少ないのは、世界屈指の検索エンジンサービス提供企業となってもなお、その精度に磨きをかけているからであることがわかります。また、グーグル社のフィロソフィーは、従業員の視点で読んでみても意気に感じるものになっています。社内において、プロジェクトの発案や進行、品質などについても、このフィロソフィーに照らし合わせ、よりよいものへと向かっていけることでしょう。ちなみにこのフィロソフィーはあまり表に出てくることはなく(日本語での利用はない)、利用者とのコミュニケーションには、『Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。』とした宣言や、「グーグルが真実と認めた10のこと」などを併用しています。

[ 出典 ] Google Corporate Informationより

【 AMAZON|アマゾン 】

Who we are

● 米国アマゾン社では4つの原則を文章で表明。
アマゾンジャパンでは「地球上で最もお客様を大切にする企業を目指しています」とされている。

世界的なオンラインショッピングサイトの雄と言えば、まずアマゾン社の名前があがります。アマゾン社もまたビジョンという語句は使用していませんが、米国アマゾンのサイト内において「Who we are」とする見出しに続き、その活動が4つの原則に基づいていることを伝えています。それらは「競合他社よりも、顧客への対峙」「革新・発明への情熱」「卓越した運用への取り組み」「長期的な思考」です。書籍の通信販売から始まったアマゾン社もいまや生活のあらゆる分野の商品を取り扱うようになり、その到着までの速度も従来では考えられないものとなっています。また最近では、音楽や映像、アプリケーションのプラッフォーム提供など、無形商材への展開や、社会問題への解決などにも積極的に行っています。しかし、こうした多岐にわたるサービスは単に事業内容からイメージされるような、需要と供給という市場原理に従うだけで無いことは一目瞭然です。その殆どの企業活動が、掲げる4つの原則で説明できるアマゾン社の成長は、これからも続いていくと考えられます。

[ 出典 ] Amazon About Amazonより

【 NIKE |ナイキ 】

BRING INSPIRATION AND INNOVATION
TO EVERY ATHLETE* IN THE WORLD

● 言い回しと表現もスマートにまとめた企業理念の例

スポーツ用品の製造販売を行うナイキ社では、OUR MISSIONとして『BRING INSPIRATION AND INNOVATION TO EVERY ATHLETE* IN THE WORLD *IF YOU HAVE A BODY,YOU ARE AN ATHLETE.』と記しています。補完する文章などは使用していないようですが、この短い文章の中で、ナイキらしさというようなものを強く感じるものとなっています。ナイキ社の商品の先進性やデザイン性、機能性が何故高められているのか。そして、広告や企業PR,社会への貢献活動といったことのすべての企業活動の理由が、この短文で理由付けられているように感じられます。また、あえて「*印」を用いた表現をさりげなく行うことで、一部の人のための企業ではなく、世界中のすべての人を対象とした企業であることが伝わります。読む人すべての胸を鼓舞するブランドビジョンの開発は、営業的な面でも大きなアドバンテージになるという例ではないでしょうか。

[ 出典 ] NIKE Webサイト Topより

【 KIRIN |キリンホールディングス 】

「食と健康」の新たなよろこびを広げ、
こころ豊かな社会の実現に貢献します

● アルコールから健康分野までをを傘下にもつグループならではの表現

キリンビールやキリンビバレッジ、メルシャンなどを事業会社にもつキリンホールディングス株式会社は、グループ全体に通づるような企業ブランド体系を掲げています。キリンホールディングス社は、そのwebサイトの企業方針で、グループ経営理念として『キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します』としながら、それを補完する数行の文章を掲げています。キリンホールディングス社ではグループ経営理念を“ミッション”とし、『社会における永続的長期的な、キリンの存在意義』と定義づけています。キリンホールディングスの企業ブランディングはとても体系的につくられていいます。コーポレートスローガンからミッション、ビジョン、バリューを定義とともに明示するほか、今後の成長に向けた事業展開の計画についても分かりやすく説明されています。企業ブランディングが、事業展開と市場開拓にも密接に関係するもということを確認できる格好のベンチマークであると言えます。

[ 出典 ] キリンホールディングス 企業方針より

【 SHISEIDO |資生堂 】

BEUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD

● 資生堂では、全体のブランド体系についても図解されている

化粧品の製造と販売を主な事業とし、国内シェア1位・世界シェア5位を誇る資生堂社もまた、体系的な企業ブランディング「THE SHISEIDO PHILOSOPHY」を掲げています。その中のOUR MISSIONが、いわゆるブランドビジョンにあたるものと考えられます。そこには「BEUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」のフレーズとともに、補完する文章が添えられています。資生堂社のブランドビジョンにおいて特筆すべきは、さらに動画のコンテンツを一緒に公開していることです。この3分間あまりの映像は、フレーズについての説明プレゼンテーションではなく、彼らが考える未来や社会と調和・人々の暮らしと“美”についてを描いたものとなっています。映像で描かれたこの3分間は、文章で書かれた言葉よりも直感的に伝わる可能性があります。ブランドビジョンをはじめとする企業ブランディング活動は、一般的に言語とデザインによって行われてきましたが、今後はこうした新しい動きや媒体を模索する企業も多くなってくるかも知れません。

[ 出典 ] 資生堂 THE SHISEIDO PHILOSOPHYより

【 OLC|オリエンタルランド 】

自由でみずみずしい発想を原動力に
すばらしい夢と感動ひととしての喜び
そしてやすらぎを提供します

● 従業員のエンゲージメントは企業使命から通じていると推察できる

東京ディズニーリゾートを運営する基幹企業であるオリエンタルランドは、企業理念を体系的に構成しています。その構成要素の一つである企業使命では、「自由でみずみずしい発想を原動力にすばらしい夢と感動 ひととしての喜び そしてやすらぎを提供します。」としています。次いで経営姿勢、行動指針と、その詳細が続いていきます。東京ディズニーリゾートで働く方々の突出して高い職域へのロイヤルティの理由と、つながるところがあるように考えられます。東京ディズニーランドなどのパーク運営企業として読んでみると、少々堅く壮大なイメージを受けますが、オリエンタルランド社はパーク運営の他に不動産業やホテル経営なども展開しており、企業全体で捉えてみると納得できる着地点であることがわかります。

[ 出典 ] オリエンタルランド 企業理念より

【 TIGER |タイガー魔法瓶 】

世界中に幸せな団らんを広める

● 企業の存在意義や技術の革新理由が「団らん」という語句で語られている

真空断熱技術を応用したステンレスボトルやポットの製造販売を行うタイガー魔法瓶社は、企業理念の中のVisionで「世界中に幸せな団らんを広める。」の一文と10行程度の補足文を掲げています。タイガー魔法瓶社におけるVisionは“目指す未来”と定義されており、企業として志向する方向性を明示したものとなっています。表現に目を向けると、熱コントロール技術を軸とした事業展開ならではの、温かみを感じることのできるブランドビジョンになっています。タイガー魔法瓶社の企業理念の紹介方法は少し変わっています。一般的には、ブランドビジョン(企業理念)→ブランドミッション(企業使命)→ブランドバリュー(企業価値)のように、概念的なところから具象的なものへと開示されることが多いのですが、タイガー魔法瓶社では真逆の方向性をもってで掲載されています。ところが、違和感はありません。このように、ブランドビジョンと他の要素とは、一方通行の関係ではなく、双方向の関係が成り立つべきものです。タイガー魔法瓶社のブランドビジョンは、その高齢好例といえるでしょう。

[ 出典 ] タイガー魔法瓶 企業理念より

【 TSUMURA|ツムラグループ 】

自然と健康を科学する

● 経営理念をブランドビジョン、企業使命をブランドミッションと読み解くこともできる

漢方薬品メーカーであるツムラグループでは、『基本的な理念』として「経営理念」と「企業使命」をおいています。ブランドビジョンは、この内「経営理念」に相当します。ツムラグループの経営理念は「自然と健康を科学する」です。テレビCMや新聞紙面での広告などでの企業ロゴマーク上にロックアップされており、ご存じの方も多いのではないでしょうか。医薬・市販薬を主な商品としているツムラグループであればこその、「経営理念」であるとも言えるのではないでしょうか。また、ツムラグループでは、経営理念のフレーズの他には文章を付加していません。目指す方向性への力強さと潔さ、迷いのない意志を感じることができます。文章を付加しないことの効果は他にも挙げることができます。それは、読後感を読者に委ねることによって、読者の立場ごとに解釈の幅を広げておけるということです。生活者として、利用者として、従業員として、それぞれの立場により少しずつ意味が変わります。企業ブランドイメージの向上や、さらなる職域での活躍が期待できます。

[ 出典 ] ツムラ 経営理念・企業使命・ビジョンより

■ まとめ

ブランドビジョン(企業理念)の開発を成功させるためには、押さえておくべき幾つかの重要なポイントについてお分かりいただけたでしょうか。企業の代表が、あるいは経営の主要メンバーが時間をかけて現状を正しく認識し、可能性について整理をし、来たる社会を見据え、理想の未来について語り合うことがなければ、機能するブランドビジョン(企業理念)をつくるこはできないでしょう。ブランドビジョン(企業理念)は、企業と生活者や顧客、従業員といったすべてのステークホルダーとの架け橋となる、企業として最も大切なコミュニケーションツールの1つです。主観的に、そして客観的に。その最適なバランスが、ブランドミッション開発を成功へと導くものとなっていきます。

株式会社チビコ今田佳司ブランディングディレクター

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

株式会社チビコ

【 株式会社チビコ 】
ブランド戦略とデザインの力でブランド価値を最大化し
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