[ ブランディングデザイン ]
クレドの必要性や効果と制作手順
クレドとは、企業や組織が大切にする価値観や行動指針を明文化したもので、社員一人ひとりが日々の業務や意思決定において何を基準にすべきかを示すガイドブックのことです。クレドの必要性は、全社員が共通の価値観に基づいて行動することで、企業文化を強化し、組織全体の一体感や信頼感を高めることにあります。クレドが効果的に機能すると、社員のモチベーションや責任感が向上し、顧客に対しても一貫したサービスやブランドイメージを提供することが可能になります。また、クレドは企業が直面する課題に対する指針となり、意思決定を迅速に行うための道標にもなります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、クレドの必要性とその効果について詳しく解説し、企業成長にどのように貢献するのかについて詳しく解説します。
■ クレドとは何か?
【 クレドとはラテン語で志・信条・約束を意味する言葉 】
クレドとは、企業や組織の価値観や行動指針を簡潔にまとめた「信条」「信念」を表すもので、ラテン語で「信じる」を意味する言葉から派生しています。クレドには、企業が大切にする理念やミッション、ビジョンが盛り込まれ、社員が日常業務や意思決定の場で参考にできるよう設計されています。これにより、社員一人ひとりが組織の方向性を意識し、価値観に基づいた行動を取ることが期待されます。クレドは単なるスローガンではなく、行動指針として具体的な姿勢や振る舞いが記されることが多く、組織の一体感や目標意識の統一に寄与します。掲示や携帯しやすいカードとして配布することで、社員が常にその理念を意識できるようにし、組織のブランディングや顧客との信頼関係構築にも貢献するのが、クレドの役割です。
■ クレドの4つの必要性
図:企業・社員・顧客の関係性
1. 企業文化と価値観の共有
クレドは、企業の理念や価値観を全社員に共有する役割を持ち、社員が同じ目標に向かって協力し合うための基盤を築きます。これにより、社員一人ひとりが企業の方針やビジョンを理解し、統一感のある行動が可能になります。企業文化を浸透させることで、会社としての一体感が高まり、社員間の連帯意識が向上し、より強固な組織基盤が形成されます。
2. 顧客に対する信頼性と一貫性の提供
クレドは、全社員が顧客に対して一貫した対応やサービスを提供するための行動指針です。例えば、サービスのクオリティや対応がばらつかないよう、企業全体の基準を示す役割を果たします。これにより、顧客がどの部署や担当者と接触しても同じ価値観に基づくサービスを受けられるため、ブランドに対する信頼が高まり、顧客満足度が向上します。
3. 意思決定の基準を明確にする
クレドがあれば、社員は日々の業務において自分の判断や行動が企業理念に沿っているかを確認しやすくなります。困難な局面であっても、クレドを参照することで、何が優先されるべきか、どのような行動が最適かを判断しやすくなります。このようにして、クレドは企業全体の意思決定を一貫したものとし、組織としての信頼性を強化します。
4. 社員のモチベーション向上
クレドが明示されることで、社員が自分の業務に対する意義や企業の一員であることへの誇りを感じやすくなります。社員一人ひとりがクレドに共感し、自分の行動が企業の成長や社会貢献につながっていると実感することで、モチベーションが向上し、生産性も高まります。また、個々の業務が企業全体の目標に貢献していることを理解するため、責任感も強化されます。
■ クレドの4つの効果
1. 企業理念の浸透
クレドは企業の価値観や理念を明文化し、社員全体に共有するため、企業文化の浸透に大きく貢献します。全員が同じ価値観を理解し、それに基づいた行動をとることで、一体感のある組織を築くことができます。また、社員同士のコミュニケーションが円滑になり、協力しやすい環境が生まれます。
2. 顧客満足度の向上
クレドに基づいた行動指針があることで、社員が顧客対応やサービス提供において一貫した対応を心掛けることができ、顧客に対する信頼が深まります。同じ基準での対応が維持されることで、顧客の期待を超えるサービスが提供でき、ブランドイメージの向上につながります。
3. 一貫した意思決定の基準提供
クレドにより、企業全体での行動や意思決定の基準が統一され、社員がそれに従って業務を進められるため、迷いなく決断がしやすくなります。組織の方向性が明確であるため、判断基準のぶれが減り、結果的に効率的な業務遂行が可能となります。
4. 組織としての信頼性向上
クレドがある企業は、顧客や取引先に対しても一貫した行動や価値観を示すことができるため、企業としての信頼性が高まります。社会的な信用を築き、持続的な成長を促進する基盤となります。
■ クレドの制作手順
1. 企業理念とビジョンの明確化
クレド作成の前に、企業の基本理念やビジョン、価値観を明確にし、それに基づく基本方針を整理します。これにより、企業の方向性が明確になり、全社員が理解しやすくなります。企業の本質を捉えた理念は、クレド全体の基盤となり、一貫したメッセージを示す土台が作られます。
2. 社員の意見を取り入れる
クレドは社員の日々の行動の指針となるため、現場の声を取り入れることが重要です。多くの意見を集めることで、実際の業務に即した現実的な内容が反映され、クレドが実行可能な指針となります。アンケートやワークショップなどを通じ、意見を収集し、社員との共創によって共感を得やすい内容に仕上げます。
3. クレドの内容を精査する
収集した意見や企業理念に基づいて、クレドの内容を具体化していきます。企業理念やビジョンと整合性が取れているかを確認し、簡潔でわかりやすい言葉で表現することで、誰もが理解できるクレドを作成します。内容が多すぎず、覚えやすく、社員が常に意識できるレベルのボリュームであることがポイントです。
4. デザインと伝達方法の工夫
クレドを効果的に浸透させるために、見た目やデザインにもこだわります。カードやデジタル形式など、社員が日々目にする形で作成し、認識しやすくする工夫を凝らします。また、社内のデジタルツールやイントラネットを活用して全社員に共有することで、より身近な存在として認識されるようになります。
5. クレドの定期的な見直し
社会情勢や企業の成長に伴い、クレドも柔軟に見直しを行うことが必要です。定期的に見直しの機会を設け、現状に合わなくなった部分をアップデートします。変化する環境に適応しながらも、根幹にある企業理念を反映させ続けることで、クレドの価値と実効性が保たれ、長期的な企業成長に寄与します。
■ クレドの配布方法
1. 新入社員研修で配布
新入社員研修でクレドを配布することで、入社当初から企業理念や行動指針を意識させることができます。配布時には、クレドが持つ背景や意義、企業がどのような価値観を大切にしているのかを説明し、理解を深めてもらいます。また、具体的なエピソードや成功事例を共有することで、クレドの実践が企業でどのように役立っているかを伝えると効果的です。新入社員が理念を自分事として捉えるようになると、仕事への取り組み方や行動に対する意識が高まり、早期のうちに組織の一員としての自覚を持ちやすくなります。
2. 日常業務での携帯
社員がクレドを日常的に意識できるよう、名刺サイズやカード型で印刷し、常に携帯できる形式で配布する方法があります。社員がカバンや名刺入れに入れて携帯できるサイズにすると、必要な場面で取り出しやすく、業務の節目でクレドを見返す機会が増えます。デスクに置けるスタンド型のカードや、壁掛けできるミニポスターとしても利用可能です。こうした日常的なツールとして携帯させることで、社員が自らの行動をクレドに照らして考える習慣が付き、企業理念を実践しやすくなります。
3. 社内掲示板やデジタル掲示
社内掲示板やデジタルサイネージにクレドを掲示することで、社員が常に目にするような環境を作ることができます。出入り口や休憩室、デスク周りに掲示することで、日常的にクレドを視覚的に意識することができます。デジタル掲示ならば、クレドを定期的に更新し、社員の関心を引き続ける工夫も可能です。また、社内イントラネットやクラウド上にも掲載しておけば、リモートワークでも確認でき、場所を問わずクレドに触れる機会を増やせます。こうした社内掲示は、理念浸透に効果的です。
4. 定期的な朝礼や会議で共有
クレドの内容や理念を定期的に社員間で共有することも有効です。朝礼や定例会議でクレドを唱和したり、実際に業務でクレドを活かした事例を共有することで、社員はクレドを現実的なものとして捉えやすくなります。また、月次ミーティングなどでクレドの具体的な実践例や、業務における役割を確認し、理念を具体化する取り組みも効果的です。こうした共有の場を設けることで、社員はクレドを意識した行動を取りやすくなり、社内の一体感も生まれます。
5. 社員向けマニュアルやハンドブックに掲載
クレドを社員向けのマニュアルやハンドブックに掲載することで、業務と企業理念を統一的に理解できるようになります。マニュアル内にクレドが記載されていることで、社員は日常業務の中でクレドに立ち戻り、自身の行動を見直すきっかけが得られます。また、具体的な業務手順や行動指針とともにクレドが掲載されることで、社員は企業理念と日々の行動がどのように繋がるかを実感しやすくなります。こうした一貫したガイドラインの提示は、理念の実践を促す重要な手段です。
6. クレドカードのリマインダー配布
クレドカードを定期的に再配布し、社員が企業理念を改めて意識する機会を提供する方法です。クレドカードが定期的に手元に届くことで、理念や行動指針を忘れることなく、常に振り返る習慣が身に付きます。また、新しいデザインやメッセージを追加するなど、季節や状況に応じた変化を加えると、関心が維持されます。リマインダー配布は、社内全体で一貫した行動指針を持ち続けるために有効であり、社員が日常業務においてクレドを意識しやすくなります。
7. 企業行事やイベントで再確認
社内イベントや記念日に合わせてクレドを再確認することで、社員一人ひとりが理念への理解を深め、意識を新たにすることができます。表彰式や周年行事の際に、クレドを象徴するエピソードや実践事例を共有し、社員が企業理念に対する理解を再確認する場を設けると効果的です。イベントごとに、クレドに関連したワークショップやディスカッションを通じて具体的な行動への意識付けを行い、理念の定着を図ります。こうした機会を利用して社員が自らの役割を再認識できる環境を作り出します。
■ ザ・リッツ・カールトンのクレドを活用した成功事例
【 ザ・リッツ・カールトン | ゴールド スタンダード 】
⚫︎企業理念・ゴールドスタンダード
ザ・リッツ・カールトンの企業理念とゴールドスタンダードは、卓越したサービスの提供を通じて、顧客に最高の体験を提供することを目的としています。ゴールドスタンダードには、リッツ・カールトンのクレド、従業員の行動指針、基本的なサービスバリュー、使命などが含まれており、すべての従業員がこの価値観を共有し実践することで、ブランドの一貫した高品質のサービスが保たれています。また、企業文化においては、顧客一人ひとりのニーズに応えるだけでなく、顧客期待を超えるサービス提供が重視され、従業員が自主的に課題に取り組み、より高い満足度を実現する姿勢が奨励されています。
⚫︎クレド
ザ・リッツ・カールトンのクレドは、顧客体験とホスピタリティを核に、ブランドの価値と使命を全社員に浸透させるための指針です。クレドには、顧客の期待を超えるサービス提供や、信頼と尊敬を基盤とした関係構築が謳われており、全従業員が日々の業務で一貫して実践しています。顧客中心のサービス哲学とクレドに沿った行動を徹底することで、リッツ・カールトンは世界中で高い顧客満足度とブランドロイヤルティを維持し続けています。
⚫︎サービスの姿勢
「We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen(私たちは紳士淑女として、紳士淑女にサービスを提供します)」は、ホスピタリティ業界での高いサービス基準を象徴しています。このモットーは、スタッフが顧客に対して尊厳と礼儀をもって接するだけでなく、自分たちの職業と自分自身に誇りを持つよう促すものです。リッツ・カールトンでは、全従業員がこのモットーに従い、顧客の期待を超えるサービスの提供を目指します。また、これにより働く人々の自己価値とエンゲージメントが高まり、顧客との信頼関係を築き、ブランドの独自性を高めています。このモットーはサービス文化の基盤として従業員にも深く浸透しており、顧客満足を超える特別な体験の提供につながっています。
【 サービスの3ステップ 】
⚫︎あたたかい挨拶
リッツ・カールトンでは、到着時に心からの挨拶をすることで、お客様に歓迎の気持ちを伝えています。
⚫︎お名前でお呼びしニーズに応える
名前で呼びかけることで一人ひとりに丁寧な接客を行い、個別のニーズを先読みして対応しています。
⚫︎心を込めたお見送り
最後にお見送りする際も、お名前を添えた挨拶で、お客様に感謝と温かさを感じていただきます。
【 従業員への約束 】
ザ・リッツ・カールトンではお客様へお約束したサービスを提供する上で、紳士・淑女こそがもっとも大切な資源です。 信頼、誠実、尊敬、高潔、決意を原則とし、私たちは、個人と会社のためになるよう持てる才能を育成し、最大限に伸ばします。 多様性を尊重し、充実した生活を深め、個人のこころざしを実現し、ザ・リッツ・カールトン・ミスティークを高める…ザ・リッツ・カールトンは、このような職場環境をはぐくみます。
■ まとめ
クレドは、作っただけで満足してはダメなのです。しっかりと社員全員に理解、浸透させないといけないなと何の意味もありません。その取り組みの1つとして、社員全員でクレドの項目で実行できた事、実行できなかった事を共有することも重要です。そのためには、クレドの読み合わせなども効果があります。こうした取り組みをすることで社員1人1人が楽しく前向きに仕事が出来るればインナーブランドは成功なのです。
株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。
【 ご質問、お打合せ希望など、お気軽にお問合わせください。】
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