[ ブランド戦略 ]
100年企業に学ぶブランディングとは?
100年企業は、長年にわたり社会から支持され続ける独自のブランディングを築いてきました。その成功の秘訣は、変わらぬ品質や価値を提供しつつも、時代の変化に柔軟に対応してきた点にあります。これらの企業は、強固なブランドアイデンティティを維持しながらも、新たなトレンドや技術革新に対応し、消費者との信頼関係を深めています。また、企業の理念やビジョンを一貫して伝え続けることで、次世代にも支持されるブランドロイヤルティを確立しています。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、100年企業が行ってきたブランディングの手法や成功事例を通して、長期的なブランド戦略の重要性とその実践方法について解説します。
■ 100年企業の生存率
【 世界の長寿企業ランキング。創業100年企業、日本企業が50%を占める 】
日経BPコンサルティング・周年事業ラボが世界の企業の創業年数が100年以上、200年以上の企業数を国別に調査。2020年に発表した調査結果に続き、今回が2回目となる。日本は共に企業数で世界1位。世界の創業100年以上企業のうち日本の企業は50%、創業200年以上の企業では65%という結果となった。
■ 長寿企業大国ニッポン
業歴別企業数
【 100年経営企業数は3万7,550件 】
日本は「長寿企業大国」と呼ばれ、100年以上続く企業が世界で最も多い国の一つです。帝国データバンクのデータによると、100年以上続いている日本の企業は約3万7,550社あり、全体の約2.6%を占めています。また、世界の100年以上の企業の約4割が日本に存在しているとのことです。創業年が正確に分からない企業や、経営が引き継がれながらも事業が続いている会社を含めると、さらに多くの企業が長い歴史を持っています。こうして、日本は本当に「長寿企業が多い国」と言えるのです。
■ 100年経営企業が多い業種
100年経営企業数、率上位の業種(細分類)
100年経営企業数、率上位の業種(細分類)
【 衣食住関連企業が中心 】
100年経営企業はどのような業種に多いのか。企業数と、その業種内における100年経営企業の比率(以下、100年経営企業比率)を業種別に見いくと目に付くのは、「衣・食・住」に関連する企業です。①生活に密着しており需要が安定している、②技術革新のスピードが緩やか、といった点が、業歴の長さにつながっていると考えられます。
【 100年経営企業の数、比率ともに上位の飲食料品製造 】
100年続く企業が多い業種の中で、最も多いのは「飲食料品・飼料製造業」(3,616社、16.6%)です。特に食べ物は生活に欠かせないため、早くから事業として根付いており、長く続くことで「伝統の味」がブランド価値として高まってきたことが理由です。特に「清酒製造」(816社、78.3%)は100年企業の割合が高く、昔から各地で発展してきたことが影響しています。同様に、「しょうゆ製造」(256社、59.7%)や「味噌製造」(146社、51.0%)も、日本の食文化を支える大切な業種で、100年企業の割合が高いです。焼酎や泡盛などを作る「蒸留酒製造」(144社、47.5%)も高い割合を誇ります。
[ 出典 ] 帝国データバンク・100年経営企業~勝ち残る企業の条件?
[ 出典 ] 日経BPコンサルティングより
■ 日本の代表的な100年企業
【 ホンダ(1948年創業) 自動車 】
ホンダは、1948年に本田宗一郎によって設立された日本のグローバル企業です。主にオートバイや自動車、動力系プロダクツの製造で知られ、世界有数のモビリティ企業に成長しました。ホンダの初期製品は自転車用補助エンジンでしたが、1958年に発売された「スーパーカブ」が大ヒットし、世界中で愛用されています。また、F1などのモータースポーツでも成功を収め、自動車の分野では技術革新に力を入れ、エコカーや電動車にも積極的に取り組んでいます。現在も革新を続け、グローバルな影響力を持つ企業です。
[ 出典 ] Global Honda公式サイトより
[ 引用 ] Web Sportivaサイトより
【 資生堂(1872年創業) 化粧品 】
資生堂は、1872年に福原有信が創業した日本の化粧品メーカーで、アジア最古の化粧品ブランドの一つです。もともとは薬局として始まりましたが、後に化粧品分野に進出し、革新的な商品を展開しました。特に「エリクシール」や「マキアージュ」など、高品質なスキンケアやメイクアップ製品で世界中に広く知られています。資生堂は日本の伝統的な美意識と最新の科学技術を融合し、エレガントで効果的な製品を提供。現在は世界的なブランドとして、70か国以上で事業を展開しています。
[ 出典 ] 資生堂公式サイト会社案内より
[ 引用 ] メイジノオトより
【 三井物産(1876年創業) 商社 】
三井物産は、1876年に益田孝によって創業された日本の大手総合商社です。三井グループの一員であり、エネルギー、金属、機械、化学品、食料、物流、金融など多岐にわたる分野でグローバルに事業を展開しています。日本国内外の企業や政府と連携し、資源開発、インフラ整備、貿易、投資事業を行い、世界的な経済活動に貢献しています。特に資源やエネルギー分野で強みを持ち、長年にわたり国際貿易や投資において重要な役割を果たしています。現在も多様なビジネスモデルを展開し、世界中で影響力を持つ企業です。
[ 出典 ] 三井物産公式サイトあゆみより
[ 引用 ] 三井広報委員会より
【 野村證券(1925年創業) 金融 】
野村證券は、1925年に野村徳七によって創業された日本を代表する証券会社で、金融グループ「野村ホールディングス」の中核を担います。主に株式や債券の取引、投資信託の販売、資産運用、企業の資金調達支援など幅広い金融サービスを提供しています。国内外で強力なネットワークを持ち、個人投資家から大企業まで、幅広い顧客層に対応。戦後の日本経済の復興期から現代に至るまで、金融市場の発展に貢献し続けており、グローバルな投資銀行業務でも存在感を示しています。
[ 出典 ] 野村證券グループ公式サイト歴史より
[ 引用 ] 野村プロパティズより
【 島津製作所(1875年創業) 医療機器 】
島津製作所は、1875年に島津源蔵によって創業された日本の精密機器メーカーで、医療機器や分析機器の分野で世界的に知られています。特にX線装置や超音波診断装置など、医療分野でのイノベーションを推進し、診断技術の向上に寄与しています。島津製作所の製品は、病院や研究機関で広く使用されており、患者の健康管理や疾病の早期発見に重要な役割を果たしています。高度な技術と品質により、医療機器市場での信頼を築き、グローバルに展開しています。
[ 出典 ] 島津製作所公式サイト歴史より
[ 引用 ] 島津製作所記念館より
【 住友林業(1691年創業) 林業・建築 】
住友林業は、1691年に創業された日本の大手林業・建築企業で、住友グループの一社です。もともとは銅山経営に伴う森林保護から始まりましたが、現在では国内外で森林管理、木材の加工・販売、さらには住宅建築や不動産開発を手掛けています。持続可能な林業を推進し、自然環境の保全に配慮した事業活動を展開しており、木造住宅の設計・施工にも強みがあります。特に木材を活用した環境に優しい建築技術で知られ、国内外で多様なプロジェクトを展開しています。
[ 出典 ] 住友林業公式サイトより [ 出典 ] 住友林業の歴史より
【 武田薬品工業(1781年創業) 製薬 】
武田薬品工業は、1781年に江屋長兵衞によって創業された日本最大級の製薬会社で、世界的にも有数の製薬企業です。創業当初は漢方薬の製造・販売から始まりましたが、現在では医療用医薬品を中心に、グローバルに事業を展開しています。特にがん、消化器系疾患、希少疾患、神経科学、ワクチンなどの分野で革新的な治療法を提供しています。2019年にはアイルランドの製薬会社シャイアーを買収し、さらに国際的な存在感を強化。患者の生活を改善するために、研究開発にも積極的に取り組んでいます。
【 日本郵船(1885年創業) 海運業 】
日本郵船は、1885年に創業された日本を代表する海運会社で、三菱グループに属しています。世界有数の総合海運企業として、コンテナ船、液化天然ガス(LNG)船、バルクキャリア、タンカーなど幅広い船舶を運航し、国際物流を支えています。特にエネルギー資源の輸送に強みを持ち、LNGの輸送では世界トップクラスのシェアを誇ります。また、クルーズ事業や港湾運営、航空貨物など多角的な物流サービスも展開。環境への配慮や技術革新にも積極的に取り組んでいます。
【 月桂冠(1637年創業) 酒造業 】
月桂冠は、1637年に京都で創業された日本の老舗酒造メーカーで、特に清酒(日本酒)の生産で広く知られています。もともと「笠置屋」という名前で創業しましたが、1905年に「月桂冠」に改名。品質の高い酒造りにこだわり、国内外で多くの賞を受賞しています。伝統的な酒造技術を継承しながらも、最新の技術を導入し、安定した品質の製品を提供しています。また、海外展開にも積極的で、和食文化の普及とともに日本酒の魅力を世界中に広める活動を行っています。
【 不二家(1910年創業) 菓子製造 】
不二家は、1910年に藤井林右衛門によって創業された日本の菓子製造メーカーで、洋菓子を中心に長い歴史を持つ企業です。創業者・藤井林右衛門が東京に洋菓子店を開業し、日本における本格的な洋菓子文化の普及に貢献しました。不二家は「ミルキー」や「ペコちゃん」で知られ、チョコレート、キャンディ、ケーキなど、多様な商品を展開しています。また、全国展開する洋菓子店やレストランも運営し、幅広い層に親しまれています。品質と安全性にこだわりながら、世代を超えて愛される菓子メーカーです。
[ 出典 ] 不二家公式サイト不二家の歴史より
[ 引用 ] 公益財団法人新宿未来創造財団より
【 山崎製パン(1948年創業) 食品 】
山崎製パンは、1948年に飯島藤十郎によって創業された日本の大手食品メーカーで、特にパンや和洋菓子の製造で広く知られています。「ヤマザキパン」のブランドで親しまれ、食パンや菓子パン、洋菓子、和菓子など多様な製品を提供しています。高度な製造技術と品質管理により、常に新鮮でおいしい製品を提供することを目指しています。また、全国規模での製造・流通ネットワークを活用し、コンビニやスーパーを通じて手軽に購入できる商品を展開。長年にわたり、日常の食卓を支える存在として愛されています。
【 キッコーマン(1804年創業) 食品 】
キッコーマンは、1917年に創業された日本を代表する醤油メーカーで、世界中で醤油を中心とした調味料を提供しています。その歴史は江戸時代にさかのぼり、茂木家や高梨家などが醤油醸造を始めたことに起源があります。キッコーマンの醤油は、その豊かな風味と品質の高さで世界中に認知されており、和食はもちろん、洋食や中華料理にも広く使われています。また、醤油以外にもソース、みりん、豆乳など多彩な製品を展開し、海外市場にも積極的に進出して、日本食文化の普及に大きく貢献しています。
[ 出典 ] キッコーマン公式サイトキッコーマングループの歩みより
【ミツカン(1804年創業) 食品 】
ミツカンは、1804年に愛知県で創業された日本の老舗食品メーカーで、特に酢の製造で知られています。創業者の中野又左衛門が酒粕を活用した酢の製法を開発し、以来「米酢」や「穀物酢」といった製品で日本の食卓に欠かせない存在となりました。ミツカンは、酢以外にも鍋のつゆ、調味料、パスタソースなど幅広い食品を展開し、家庭料理や外食産業を支えています。また、環境保護や持続可能な製品作りにも積極的に取り組み、伝統と革新を両立させる企業として成長を続けています。
【 キリンビール(1907年創業) ビール 】
キリンビールは、1907年に創業された日本の大手ビールメーカーで、国内外で広く知られています。その前身は19世紀に設立されたスプリングバレー・ブルワリーで現在のキリンビールは、質の高いビールを提供するブランドとして確立されました。代表的な製品には「キリン一番搾り」や「キリンクラシックラガー」があり、独自の製法による豊かな風味が特徴です。ビールだけでなく、発泡酒やノンアルコール飲料など、消費者の多様なニーズに応える商品を展開。環境への配慮や国際展開にも積極的に取り組んでいます。
■ 100年企業が選ばれ続ける理由
【 一貫したブランドメッセージの発信 】
100年企業の多くは、一貫したブランドメッセージを発信し続けています。例えば、ロレックスは創業以来、常に「高級感」と「品質」を強調し続けています。時計のデザインや技術が進化しても、ブランドが伝える価値は一貫しており、これが顧客にとっての信頼感に繋がっています。長期的に信頼されるブランドメッセージを持つことは、企業が100年続くための重要な要素です。
[ 関連記事 ] 一貫性のあるブランドメッセージを作るためのヒント
【 顧客との絆を重視した戦略 】
100年企業は、単なる商品やサービスの提供にとどまらず、顧客との深い絆を築いてきました。虎屋のように、世代を超えて愛されるブランドは、顧客のニーズに敏感に応え、時には時代の変化に合わせて商品を改善しています。顧客を単なる消費者として見るのではなく、長期的なパートナーとして捉える姿勢が、ブランドの持続的な成功に大きく寄与しています。
【 伝統と革新のバランス 】
伝統を大切にしつつ、時代の流れに合わせて革新を取り入れることが、100年企業の最大の強みです。たとえば、トヨタ自動車は長年の技術力を維持しつつ、ハイブリッドカーや電気自動車のような最先端の技術を積極的に導入しています。このように、根本の価値観を守りながらも、絶えず革新を続ける姿勢がブランドの進化を支えているのです。
■ 100年企業から学ぶブランド価値の高め方
【 顧客との信頼関係を築く】
100年企業は、長期に渡って顧客との深い信頼関係を築いてきました。特に老舗として知られる企業は、品質へのこだわりや一貫したサービスを通じて、顧客からの信頼を得ています。ブランドの信頼性を高めるためには、顧客が何を求めているかを理解し、それに応えるための努力を積み重ねることが不可欠です。
【 ストーリーでブランドの歴史を伝える 】
多くの100年企業は、自社の歴史や創業者のストーリーをブランドの一部として活用しています。これにより、顧客に対して単なる商品やサービス以上の価値を提供しています。たとえば、老舗の酒造メーカーは、伝統的な酒造りの過程や地域とのつながりをストーリーとして発信し、顧客の共感を得ています。ブランドの歴史をうまく伝えることで、商品そのものに付加価値を持たせることができます。
【 伝統と革新のバランスを取る 】
長寿企業は、創業からの伝統を守りながらも、時代の変化に対応するための革新を続けています。例えば、酒造や味噌、醤油などの食品業界では、昔ながらの製法を大切にしつつ、新しい技術やトレンドを取り入れてきました。これにより、伝統を守りながら現代のニーズにも対応し、ブランドの価値を維持しています。
【 持続可能な経営と社会的責任を重視する 】
現代の顧客は、企業の社会的責任や環境への配慮を重視する傾向が強まっています。100年企業の多くは、長く続くために環境に配慮した持続可能な経営を行ってきました。例えば、森林保全を進めながら木材を利用する住友林業や、地域社会との共生を大切にする企業がその例です。持続可能な取り組みを行うことで、顧客からの信頼をさらに強化し、ブランド価値を高めることができます。
【 時代に合わせたマーケティング戦略を展開する 】
100年企業は、その長い歴史の中で、時代ごとのマーケティング手法を巧みに取り入れています。伝統的な広告手法から、近年ではデジタルマーケティングやSNSを活用した戦略を展開し、幅広い層にアプローチしています。特に、若年層に対してもブランドを魅力的に見せるために、新しい技術やプラットフォームを柔軟に採用しています。
■ まとめ
100年企業に共通するのは、一貫性のあるブランドメッセージと、顧客との深い絆、そして時代に応じた革新のバランスです。伝統を大切にしながらも市場の変化に対応する柔軟さが、ブランドの長寿を支えてきました。今の時代においても、100年企業のブランディングの秘訣から学べることは多く、長期的なブランド価値を築くための貴重なヒントが詰まっています。
株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。
【 株式会社チビコ 】
ブランド戦略とデザインの力でブランド価値を最大化し
永く愛され続けるブランドを支援する会社
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