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ブランドブックの効果とは?目的・メリット・必要な企業と導入判断

[ ブランディングデザイン ]

ブランドブックの効果とは?必要な企業・導入判断・測定方法

ブランドブックは、理念や価値観、目指す姿を整理し、社員や関係者が共通理解するためのものです。重要なのは、情報をまとめるだけでなく、日々の判断や行動に生かせることです。

企業が成長すると、社員や部署、拠点、関係者が増え、自社らしさの認識にも違いが生まれます。ブランドブックは、経営の考えを共通言語に変え、一貫した判断と行動につなげることが目的です。

本記事では、ブランドブックがなぜ必要か、どんな効果があり、どの企業に必要かを株式会社チビコ代表取締役/ブランディングディレクターの今田佳司が、実務経験をもとに解説します。


■ ブランドブックは、どのような効果があるのか?

ブランドブックは、どんな効果があるのか?

ブランドブックの効果は、社員の理念理解、判断の一貫性、制作や承認の効率、採用時の企業理解、顧客接点の統一、担当者交代時の継承などに表れます。重要なのは冊子を完成させることではなく、日常の判断や行動が実際に変化したかを、目的ごとに継続的に確認することです。

【 研究による補足|インターナル・ブランディングと社員行動 】

ブランドブック単体の効果を直接検証した研究は限られています。一方、関連するインターナル・ブランディング研究では、社内でブランドへの理解を深め、考え方を共有することが、社員のブランドへのコミットメントやブランドを支える行動と関係することが示されています。

38研究を統合したメタ分析では、社内ブランド管理が社員のブランド・コミットメントやブランドを支える行動を予測する重要な要因であり、特にブランドコミュニケーションやブランド志向のリーダーシップが重要と報告されています。また、699名を対象とした研究でも、インターナル・ブランディングが社員の態度や行動にプラスの影響を持つことが確認されています。

そのため、ブランドブックも冊子を配布するだけで完結させず、社内コミュニケーション、研修、会議、経営層の行動などと組み合わせ、日常業務で継続的に活用することが重要です。

論文:38研究を統合したメタ分析:Taylor & Francis「Journal of Strategic Marketing」
論文:699名を対象とした研究:「Journal of Service Management」

1. 社員が企業の考えを理解できる

ブランドブックで理念や事業の背景、目指す企業像を一つの物語として整理すると、社員は「なぜこの事業を行うのか」を理解し、状況が変わっても自ら適切に判断できるようになります。

2. 社員の判断に一貫性が生まれる

社員全員が同じ行動をする必要はありません。大切なのは、同じ考え方を起点に、それぞれの立場で判断することです。共通基準があれば、異なる仕事でもブランドの一貫性が高まります。

3. 会議や制作の意思決定が速くなる

判断基準がないと、デザインやコピーは好き嫌いで議論されがちです。ブランドの考えを共有すれば、合っているかを基準に判断でき、制作物の修正や承認にかかる時間を減らせます。

4. 採用時の企業理解を深められる

求職者は給与や仕事内容だけでなく、企業が何を大切にし、どんな人を評価するかも見ています。ブランドブックがあれば、採用から入社後まで、一貫した企業像を伝えやすくなります。

5. 顧客接点の企業らしさを統一できる

ブランドはWEBサイト、営業、商品、SNSなど、顧客との各接点で形成されます。考え方を共有すれば、各接点で同じ企業らしさを再現しやすくなります。視覚表現はVIで整えます。

➤ 詳細記事:VIの作り方|7つの開発手順・構成要素・成功のポイント

6. 企業文化や価値観を次世代へ継承できる

企業には、顧客への姿勢や品質へのこだわりなど、数字に表れにくい価値があります。ブランドブックで言語化し、残すものを明確にすることで、企業文化を次世代へ継承できます。

■ ブランドブックとは何か?

ブランドブックとは何か?

ブランドブックとは、企業やブランドが重視する理念、価値観、目指す姿を整理し、社員が日常業務で判断できる状態をつくることが目的です。単なる会社紹介やルール集ではなく、経営の考えを行動や表現に変え、ブランドらしさを組織全体で再現するためのものです。

ブランドブックは「読む冊子」ではなく「判断に使う基準」

ブランドブックは、企業理念やブランドストーリー、ロゴ、カラーをまとめるだけの冊子ではありません。「自分たちは何者か」「誰にどんな価値を届けるか」「何を大切に働くか」を社員が理解し、顧客対応、広告、採用など日々の場で自社らしい判断へ置き換えることが本質です。

ブランドブックと似たアイテム比較表

ブランドブックと似た資料は何が違うのか?

ブランドブックと似た資料には、CI、クレド、ブランドガイドラインなどがありますが、それぞれの目的と役割が異なります。ブランドブックは理念や価値観を共有し、CIは企業像を整理し、クレドは行動基準を示し、ガイドラインは表現や運用のルールを定めるための資料です。

企業理念を掲載するだけではブランドブックにならない

企業理念、ミッション、ビジョン、バリューはブランドの核ですが、言葉を掲げるだけでは行動につながりません。価値観の背景や意味、判断の考え方、具体的な行動まで整理し、社員の解釈をそろえることが重要です。必要に応じて、クレドとの役割分担を検討し、整理します。

➤ 詳細記事:クレドとは?意味・作り方・浸透方法・企業事例

■ ブランドブックは何のために必要なのか?

ブランドブックとは

ブランドブックが必要なのは、経営者や一部の担当者だけが持つブランドの考えを、組織全体で共有するためです。社員、部署、拠点、外部パートナーが増えても、何を大切にし、どう判断する企業なのかを共通化し、長期的にも一貫して理解や解釈のずれを防ぎます。

企業が成長するとブランドの解釈は分散するから

創業者や経営者と社員の距離が近いうちは、会話で企業の考えを伝えられます。しかし組織が大きくなると、営業、採用、WEB、外部制作会社などで説明や判断に違いが生まれます。原因は担当者の能力ではなく、ブランドについて共通の判断基準がないことです。

ブランドブックは経営と現場をつなぐツールだから

ブランドブックは、経営者が考える企業の方向性を、社員の日常業務へつなぐ役割を担います。経営方針やブランド戦略を、営業、採用、商品開発、広報で使える判断や表現の基準へ変換します。理念、価値観、行動、視覚表現まで見直す場合は、CIから整理することも必要です。

➤ 詳細記事:CI戦略とは?目的・進め方・デザイン開発のポイント

ブランドブックが必要かは「情報不足」ではなく「判断の分散」で考える

ブランドブックは、資料不足だから作るものではありません。経営者しか語れない、部署ごとに説明が違う、制作時に方向性を確認するなど、判断のずれがあるかを見極めます。必要性は冊子の有無ではなく、企業内でブランド判断がどれほど分散しているかで考えることが重要です。

[ 画像引用 ] Creative Soupより

■ ブランドブックは、どんな課題を解決できるのか?

ブランドブックは、どんな課題を解決できるのか?

ブランドブックで解決できるのは、見た目の統一だけではありません。理念が現場へ伝わらない、部署ごとに判断が違う、担当者に依存する、事業承継で価値観が失われるといった問題を整理し、企業として残すべき考えと変えるべき行動を明確にすることで、組織としての判断の一貫性を高められます。

1. 理念を掲げただけになっている

企業理念やMVVを定めても、社員が仕事との関係を理解しなければ、理念は言葉で終わります。ブランドブックは、背景や意味を伝え、仕事でどう実践するかまでつなぐことが重要です。

2. 部署ごとに企業の伝え方が違う

営業、採用、WEBで伝える内容が違うことも問題です。ブランドの核がなければ、接点ごとに別企業に見えます。変えてよい表現と守るべき核を整理し、一貫性を保つのが重要です。

3. ブランドの担当者が属人化している

ブランド管理が担当者の経験や感覚に依存すると、異動や退職で判断基準まで失われます。ブランドブックで背景を共有し、担当者が変わってもブランドの考えを継承できるようにします。

4. 事業承継で企業らしさが失われる

歴史ある企業では、文化や価値観が創業者や社員の経験に残ります。事業承継や世代交代では、大切にしてきたこと、次世代へも残すべきものを整理し、継承できる形にすることが重要です。

➤ 詳細記事:CI変更の5つの理由|見直すタイミング・範囲・進め方・事例

■ ブランドブックが必要な企業とは?

ブランドブックを検討すべき8つのサイン

ブランドブックが特に必要なのは、事業や組織が拡大し、経営者の考えだけではブランドを共有しきれなくなった企業です。拠点や部署の増加、採用強化、事業承継、リブランディング、外部パートナーの増加など、関係者が増える局面ほど、共通の判断基準を持つ価値が高まります。

ブランドブックを検討すべき8つのサイン

┃ 次のような変化が複数起きている場合は、ブランドブックを検討するタイミングです。

  1. 事業領域が広がり、従来の企業像と合わなくなっている
  2. 社員や部署が増え、経営者の考えが直接伝わりにくい
  3. 拠点、店舗、グループ会社が増えている
  4. 採用を強化しているが、自社の魅力を説明しにくい
  5. 制作会社や代理店など外部パートナーが増えている
  6. 担当者によってブランド表現の判断が違う
  7. 事業承継や経営体制の変更を予定している
  8. リブランディング後の考えを社内へ浸透させたい

➤ 詳細記事:ブランドブックの構成内容と作り方

ブランドブック・CI・クレド・ガイドラインのどれを優先すべきか?

ブランドブック・CI・クレド・ガイドラインの導入判断

優先すべき資料は、企業が抱える課題と目的によって異なります。企業像や方向性を整理するならCI、価値観や行動基準を浸透させるならクレド、ブランドの考え方を共有するならブランドブック、表現や運用を統一するならガイドラインを優先し、必要に応じて段階的に整備します。

ただし、実際の企業課題は一つに分かれるとは限りません。CIを整理したうえでブランドブックを開発する、ブランドブックとブランドガイドラインを連動させるなど、複数の取り組みが必要になる場合もあります。

社員数だけで必要性を判断しない

ブランドブックの必要性は、社員数だけでは判断できません。20人でも事業や拠点が分散していれば必要性は高まり、100人でも経営との距離が近く、判断基準が共有されている企業もあります。重要なのは組織規模ではなく、ブランド理解や判断がどれほど分散しているかです。

「ロゴを変えたい」の奥にブランドブックの必要性がある場合もある

「ロゴを新しくしたい」「WEBサイトを刷新したい」という相談でも、課題がデザインだとは限りません。企業説明が社員ごとに違う、未来像が共有されていない場合、表現だけを変えても認識のずれは残ります。CIとVIのどこから見直すべきか、役割を整理して判断します。

➤ 詳細記事:CIとVIの違いとは?目的・関係・見直し方・成功事例

■ ブランドブックを作っても効果が出ないのはなぜか?

ブランドブックを作っても効果が出ない原因

ブランドブックを作っても効果が出ない理由は、内容が抽象的で日常の判断に使えないことです。理念や美しい言葉だけを並べても、営業、採用、広報などで何を基準に判断するかが分からなければ浸透しません。利用者と場面から逆算し、具体的な判断基準を示す必要があります。

1. 経営者の言葉をまとめただけになっている

経営者が大切にする考えを整理しても、そのままでは社員が仕事へ置き換えにくい場合があります。企業として大切なことと、現場でどう判断するかを結び付けることが何よりも重要です。

2. 抽象的な言葉が多すぎる

「挑戦」「信頼」「革新」などの言葉は、意味が具体化されなければ行動につながりません。その企業にとって何を指し、どんな行動を求めるのかまで具体的に掘り下げる必要があります。

3. 情報を詰め込みすぎている

ブランドブックに情報を詰め込みすぎると、重要なことが見えにくくなります。ブランドの核、判断基準、具体例、詳細ルールを階層化し、目的別に参照できる構成が実務上でも重要です。

4. ブランドガイドラインと役割が混在している

ブランドブックは理解と共感をつくり、ブランドガイドラインは表現の運用基準を定めます。両者の役割を分け、ロゴやカラーなど詳細な表現ルールは、ブランドガイドラインとして整理します。

➤ 詳細記事:ブランドガイドラインとは?作り方・構成内容・運用方法と成功事例

5. 配布しただけで終わっている

ブランドブックは、一度読めば浸透するものではありません。研修、会議、採用、企画、制作など日常業務で繰り返し使い、判断時に自然と参照される状態を確実につくることが重要です。

■ ブランドブックの効果はどのように測るのか?

ブランドブックの効果はどのように測るのか?

ブランドブックの効果は、認知度だけで評価せず、社内理解と運用の変化を目的別に確認します。理念の理解度、判断や承認に要する時間、制作物の修正回数、ブランド表現の誤用、採用候補者の理解、外部パートナーからの確認件数などを導入前後で継続して比較することが有効です。

1. 「何を改善するブランドブックなのか」を決める

ブランドブックの効果測定では、開発前に目的を明確にします。理念の浸透、表現の統一、価値観の継承など、目的によって指標は異なるため、完成後ではなく事前に決めることが重要です。

2. 社員理解は「知っているか」ではなく「説明できるか」で見る

理念を覚えているだけでは十分ではありません。自分の言葉で意味を説明できるか、実務で自社らしい判断ができるかを確認し、理解度調査や具体的なケースを用いて実際の理解を見ます。

3. 採用や顧客評価は中長期で確認する

採用候補者や顧客の認識も確認します。ただし、採用施策や商品、広告など複数要因が影響するため、ブランドブック単体の成果とせず、中長期の変化として慎重に捉える必要があります。

ブランドブックの効果測定例

重要なのは、ブランドブック完成後にKPIを考えるのではなく、開発前に「何を改善するためのブランドブックなのか」と現状値を確認しておくことです。導入後も一定期間ごとに測定し、内容や運用方法を見直します。

ブランドブックの効果測定

ブランドブックの効果は、配布数や閲覧数だけでなく、社員の理解度、行動変化、ブランド表現の一貫性、採用や営業での活用状況などから確認します。公開前に目的と評価指標を定めて、調査やヒアリングを通じて浸透度を測り、内容や運用方法を継続的に改善することが重要です。

■ CHIBICOはブランドブック開発をどう考えるのか?

CHIBICOはブランドブック開発をどう考えるのか?

CHIBICOでは、ブランドブックを完成品ではなく、企業の考えを社員が理解し、判断し、行動できるようにし、次の世代へ継承するための共通基盤と考えています。既存の理念や歴史を尊重しながら、何を残し、何を変え、何を加えるかを見極め、実際の業務で使える言葉と仕組みへ具体化します。

最初からブランドブックを作ると決めない

CHIBICOでは、ブランドブックを作りたいというご相談でも、最初に冊子構成を決めません。まず、なぜ必要なのかを確認します。理念浸透、認識の統一、リブランディング、事業承継など課題を整理し、必要に応じて、CIやクレド、ブランドガイドラインから整えるべきかも含めて検討します。

ブランド資産を「残す・変える・加える・なくす」で整理する

長く続く企業には、理念、社名、ロゴ、言葉、歴史、文化、社員の行動、顧客評価など多くのブランド資産があります。すべてを新しくせず、「残す」「変える」「加える」「なくす」で整理し、蓄積された価値から何を未来へ残すのかを慎重に見極めることが重要です。

ブランドブックの利用者と利用場面から考える

ブランドブックは、経営者、新入社員、採用、研修、営業、制作会社など、使う人と場面によって必要な内容が変わります。何を載せたいかではなく、誰が、どの場面で、何を判断するために使うかを明確にすることで、実務で使える内容になります。詳細は関連記事でも解説します。

➤ 関連記事:ブランドブックとは?目的・構成内容・作り方・活用方法と事例

■ CHIBICOのブランドブック開発事例から何が分かるのか?

ブランドブックの事例を見るときは、ページ数やデザインの美しさだけで評価してはいけません。理念や歴史がどう整理され、社員の判断や行動、採用、顧客接点、次世代への継承へつながっているかを見ることで、その企業にとってブランドブックが果たす真の役割を理解できます。

SEMBAブランドブック

SEMBA│理念を社員の日常業務へつなげるブランドブック

SEMBAでは、企業が大切にしてきた理念や価値観を整理し、社員一人ひとりが日常業務の判断へつなげられるブランドブックを開発しました。企業理念を記録するだけではなく、その背景や意味を理解し、自分の仕事へ置き換えられる共通基準として機能させることを重視した事例です。

[ 課 題 ]
事業領域や拠点、社員、関係者が広がるほど、企業が大切にする考え方の解釈には違いが生まれます。SEMBAが長年培ってきた理念や企業文化を残しながら、「自分たちは何者なのか」「仕事で何を大切にするのか」を社員一人ひとりが理解し、日常業務へつなげられる状態をつくることが課題でした。

[ 判 断 ]
理念や歴史を一冊に記録するだけでは、社員の日常的な判断基準にはなりません。企業の考え方を説明するだけではなく、その背景や意味を理解し、それぞれの立場や仕事へ置き換えられる共通基盤が必要だと判断しました。ブランドブックを「読む資料」ではなく「仕事で使う基準」として開発しています。

[ 残したいブランド資産 ]
残したのは、SEMBAが長年培ってきた企業理念、価値観、企業文化です。現在もSEMBAは、企業理念「SUCCESS PARTNER」、Vision「Good Ethical Company」、Mission「未来にやさしい空間を」を掲げています。企業の歴史や事業が変化しても、継承すべき考え方をブランドの核として扱いました。

[ 加えたいブランド資産 ]
新しく加えたのは、理念や価値観を社員が自分の仕事へ置き換えて理解するための言葉と構成です。経営の考えをそのまま掲載するのではなく、「なぜこの考えを大切にするのか」「日常業務で何を基準に判断するのか」が伝わるよう整理し、社員が自分自身の行動と結び付けられる内容へ具体化しました。

[ ブランドブックの役割 ]
SEMBAのブランドブックは、企業を外部へ紹介するためだけの冊子ではありません。企業として大切にする考えを社員が理解し、顧客対応やプロジェクト、日常の意思決定で立ち返るための共通基盤です。企業理念と実際の仕事との距離を縮め、「SEMBAらしい判断とは何か」を組織で共有する役割を持たせました。

[ 実際の活用 ]
ブランドブックは、社員が企業の考え方を理解し、自分の仕事へ置き換えるための社内共有ツールとして開発しました。具体的な利用頻度や浸透率などの効果測定値は公開していません。そのため成果を数値で断定するのではなく、理念や価値観を日常業務へつなぐための共通基準として開発したこと自体を、この事例の重要なポイントとしています。

公式情報:株式会社船場「SEMBAの想い」

NOSAWAブランドブック

NOSAWA│150年以上の歴史と価値観を次世代へ継承するブランドブック

NOSAWAでは、創業以来受け継がれてきた企業の精神や価値観を整理し、次の世代へ継承するブランドブックを開発しました。長い歴史を年表として残すだけではなく、過去から何を受け継ぎ、現在の仕事にどう生かし、未来へ何を残すのかを明確にしたことが、この事例の重要なポイントです。

[ 課 題 ]
NOSAWAには、長い歴史で培われた企業文化、事業経験、顧客との信頼、仕事への姿勢があります。一方、企業が世代を越えて続くほど、その背景を知る社員は少なくなります。歴史を保存するだけではなく、創業以来受け継がれてきた精神を、現在と未来の社員が理解できる形で継承することが課題でした。

[ 判 断 ]
過去の出来事や沿革を並べただけでは、企業文化の継承にはつながりません。重要なのは、その歴史の中でNOSAWAが何を大切にし、どのように判断し、挑戦してきたのかを読み解くことです。そこで、歴史から現在まで一貫している価値観を抽出し、未来の判断へつながるブランド資産として整理しました。

[ 残したいブランド資産 ]
ブランド資産として残したのが、創業者・野澤卯之吉から受け継がれてきた「士魂商才」の精神です。現在もNOSAWAは「士魂商才の精神と先駆的なソリューションで、業界の発展に寄与する」を掲げています。150年以上続く歴史そのものではなく、その歴史を生み出してきた精神を継承すべき資産と捉えました。

[ 加えたいブランド資産 ]
歴史や創業精神を社員が理解できるよう、過去の出来事と現在の事業、価値観、仕事への姿勢をつなぐ言葉と構成を加えました。さらに、NOSAWAらしいGentleman Agreement、Total Approach、Farm to Tableといった現在の考え方へつなげることで、現在と未来を結ぶストーリーとして整理しました。

[ ブランドブックの役割 ]
ブランドブックの役割は、歴史を記録することではありません。創業以来受け継がれてきた精神や価値観を、社員が自分たちの仕事と結び付けて理解し、次の世代へ継承するための共通基盤です。「昔から続いている会社」ではなく、「なぜ続いてきたのか」を共有できるブランドブックを目指しました。

[ 実際の活用 ]
ブランドブックは、企業の歴史や価値観を世代を越えて共有し、NOSAWAらしい判断や行動を継承するための社内基盤として開発しました。具体的な浸透率や行動変化などの効果測定値は公開していません。そのため、成果を推測するのではなく、歴史、創業精神、現在の経営理念を一つの流れとして整理し、次世代へ伝えられる状態をつくったことを事例として示します。

公式情報:株式会社野澤組「社長メッセージ/Farm to Table」

■ 公開されているブランドシステムから何を学べるのか?

IBMのブランドガイドライン

IBM│原則を共有し、判断の一貫性をつくる

IBMは「IBM Design Language」を公開し、IBMを代表してデザインを制作・承認する人が使える原則や基準を体系化しています。全社で統一したシステムを構築し、ブランド表現の一貫性や効率を高めることが目的です。参考になるのは、完成したデザイン例だけでなく、「IBMらしいか」を判断する原則まで共有している点です。ブランドブックそのものではありませんが、個別の答えではなく、判断できる共通原則を持つという考え方は、ブランドブック開発にも通じます。

[ 出典 ] IBM Design Languageより

アウディのブランドガイドライン

Audi│多様な接点でブランド表現を統一する

Audiは、ブランド表現に関する基準をオンラインのStyle Guideとして公開しています。ロゴやカラーなどの見た目を揃えるだけでなく、デジタル、広告、映像、空間など多様なブランド接点で、一貫した表現を実現するための共通基盤として運用しています。ブランドの考え方と具体的な表現ルールを結び、社内外の関係者が同じ基準で判断できる仕組みとして体系化されている点も特徴です。ブランドを幅広い接点で一貫して運用する考え方として、ブランドブック開発にも参考になります。

[ 出典 ] Audi Style Guideより

FAQ-よくある質問

■ ブランドブックについてよくある質問は?

ブランドブックについて多くの疑問は、必要な企業、ブランドガイドラインとの違い、社員への浸透、更新頻度、効果測定、制作範囲に集中します。重要なのは一般的な正解を当てはめることではなく、自社の課題と利用場面から、必要な内容と運用方法を具体的に見極めることです。

Q1. ブランドブックとブランドガイドラインの違いは何ですか?

ブランドブックは理念、価値観、背景、目指す姿など「なぜこのブランドなのか」を共有します。ブランドガイドラインはロゴ、色、書体、写真、言葉など各表現と運用の基準を定めます。

Q2. ブランドブックは社員数何人から必要ですか?

明確な人数基準はありません。社員数より、ブランド判断が社内でどの程度分散しているかが重要です。部署や拠点、担当者によって企業説明や判断が変わるときが検討のタイミングです。

Q3. ブランドブックは紙で作る必要がありますか?

紙に限定する必要はありません。冊子、PDF、イントラネット、オンラインガイドなど、必要な場面で確認できる形式を選びます。内容の更新頻度に応じて媒体を分ける方法も有効です。

Q4. ブランドブックはどのくらいの頻度で更新しますか?

一律の見直し周期はありません。事業領域、経営方針、組織、市場、顧客、ブランド戦略が変わり、実態と記載内容にずれが生じたときが見直し時です。変わらない核は残して更新します。

Q5. ブランドブックを社内へ浸透させるにはどうすればよいですか?

配布するだけでは浸透しません。経営層の説明、ブランド研修、ワークショップ、入社時教育、会議や制作依頼など、日常業務で繰り返し使い、社員が仕事へ置き換える機会をつくります。

Q6. ブランドブックとクレドはどちらを作るべきですか?

目的によって異なります。理念、背景、歴史、ブランドの世界観を共有するならブランドブック、日常の判断や行動の基準ならクレドが適しています。両方を組み合わせる方法も有効です。

Q7. ブランドブックを作れば、理念は社員へ浸透しますか?

ブランドブックを配布するだけでは浸透しません。経営層の説明、研修、会議、採用、評価など日常業務へ組み込み、社員が自分の仕事へ置き換えて考える機会を継続的につくることが重要です。

Q8. ブランドブックの効果は、どのくらいで確認できますか?

一律の期間はありません。理念理解や利用状況は比較的早く確認できますが、行動変化、採用、顧客評価などは中長期で確認します。導入前に基準値を取り、3か月、6か月、1年など継続して比較します。

記事のまとめ

■ まとめ

ブランドブックは、理念や価値観を美しくまとめる冊子ではありません。経営、採用、営業、広報、デザインの判断をそろえ、ブランドらしい行動と表現を継続するための基盤です。経営者の考えが現場まで届かず、部署ごとに説明が異なり、判断が属人化している場合に有効です。

ただし、理念や目指す方向が曖昧な場合は、ブランドブックより先にCIを整理する必要があります。企業の考えが明確でも、ロゴやカラーなどの表現が不統一なら、ブランドガイドラインやVIを優先します。重要なのは、冊子を作ることではなく、自社の課題に合う仕組みを選ぶことです。

■ 参考文献・一次情報

Afshardoost, M., Eshaghi, M. S., & Bowden, J. L.-H.(2023)“Internal brand management, brand understanding, employee brand commitment, and brand citizenship behavior: a meta-analysis.”
Punjaisri, K., Evanschitzky, H., & Wilson, A.(2009)“Internal branding: An enabler of employees’ brand-supporting behaviours.”
株式会社船場「SEMBAの想い」
株式会社野澤組「社長メッセージ」
IBM「IBM Design Language」
Audi「Corporate Identity / Brand Guidelines」

株式会社チビコ今田佳司ブランディングディレクター

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。


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ブランドブックを作ること自体が目的ではありません。
理念浸透、組織拡大、事業承継、リブランディングなど現在の課題を確認し、
ブランドブック、CI、クレド、ブランドガイドラインのどこから整えるべきかを整理します。
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