
[ ブランディングデザイン ]
ブランドブックの役割や構成内容と開発ポイント
ブランドブックは、企業やブランドの理念、価値観、ブランド戦略、
メッセージ、デザインなどを体系的に整理し、社内外で共有するためのツールです。
単にロゴやブランドカラーの使用方法をまとめたデザインマニュアルではありません。その本質は、「私たちは何者なのか」「誰にどのような価値を提供するのか」「どのようなブランドを目指すのか」という考え方を明確にし、それを言葉、デザイン、コミュニケーション、社員の行動へ一貫してつなげることにあります。企業が成長し、社員や部署、拠点、外部パートナーなどブランドに関わる人が増えるほど、ブランドに対する理解や表現にはズレが生まれやすくなります。ブランドブックは、そのズレを防ぎ、誰もが同じ考え方と判断基準でブランドを扱える状態をつくるための「ブランドの設計書」です。
本記事では、ブランド戦略からCI・VI、WEBサイトまで一貫して支援してきたCHIBICOのブランディングディレクターである筆者が、実務経験をもとに、ブランドブックの役割、主な構成内容、開発前に確認すべきこと、失敗を防ぐポイント、具体的な作り方について解説します。
CONTENTS | 目次
- ■ ブランドブックとは
- ■ ブランドブックが必要になる5つの理由
- ■ ブランドブック=デザインマニュアルではない
- ■ ブランドブックとブランドガイドラインの違い
- ■ ブランドブックをつくる前に確認したい5つのこと
- ■ ブランドブックの主な構成内容
- ■ ブランドブック開発で失敗しないための6つの注意点
- ■ ブランドブック開発の注意点
- ■ ブランドブックの活用方法
- ■ ブランドブックの基本的な作り方
- ■ CHIBICOが考えるブランドブック開発
- ■ CHIBICOが手掛けたブランドブック開発実績
- ■ 有名なブランドガイドラインの事例
- ■ ブランドブックに関するよくある質問
- ■ ブランドブック開発に関するチェックリスト
- ■ まとめ
- ■ おすすめ関連記事
■ ブランドブックとは
ブランドの思想・戦略・表現を一つにつなぐ設計書
ブランドブックとは、企業や商品・サービスが大切にしている理念、価値観、ブランド戦略、メッセージ、デザインなどを体系的に整理したものです。ブランドには、企業理念やPurpose、Mission、Visionのような目に見えない「思想」があります。一方で、ロゴ、カラー、書体、写真、WEBサイトなど、顧客が実際に目にする「表現」もあります。
● なぜ、この企業やブランドが存在するのか
● 誰に、どのような価値を提供するのか
● 競合と比べて、どのような存在を目指すのか
● どのような言葉やデザインで表現するのか
● 社員やパートナーが、どのように実践するのか
ブランドブックでは、それらを別々に整理するのではなく、一つの考え方としてつなげます。
そのため、ブランドブックは「ブランドについて説明する冊子」ではありません。ブランドに関わる人が、日々の仕事の中で同じ方向を向き、一貫したブランドをつくるための共通基準と考えることが重要です。
■ ブランドブックが必要になる5つの理由

ブランドブックをつくる目的は企業によって異なります。
ただし、実際のブランド開発では、ブランドブックが必要になる背景にいくつか共通点があります。
特に次の5つは、ブランドの考え方や運用基準を整理する必要性が高まっている状態です。
1. ブランドの理念や価値観を共有するため
まず、ブランドブックの重要な役割が、企業の理念や価値観を社内で共有することです。
● なぜこの会社が存在するのか
● 何を大切にしているのか
● どのような未来を目指しているのか
● 顧客へどのような価値を提供したいのか
こうした考え方を分かりやすく整理することで、抽象的だった企業理念を社員一人ひとりの仕事とつなげやすくなります。重要なのは、理念を覚えてもらうことではありません。その理念が「自分たちの仕事にとって何を意味するのか」まで理解できる状態をつくることです。
2. ブランドに関する判断基準を統一するため
次に、ブランドブックは日々の業務における判断基準として機能します。
● この広告表現はブランドらしいのか
● この写真をWEBサイトで使用してよいのか
● この言葉づかいはブランドに合っているのか
● 新しいサービスをどのように見せるべきか
企業活動では、このような判断が日常的に発生します。ブランドの基準がなければ、担当者ごとの経験や好みによって判断が変わってしまいます。ブランドブックによって「このブランドならどう考えるか」という共通基準を持つことで、判断のスピードと一貫性を高めることができます。
3. ブランド表現のばらつきを防ぐため
ブランドの印象は、ロゴだけで決まるものではありません。
ブランドは、WEB、会社案内、営業資料、広告、SNS、商品、店舗など、多様な接点で形成されます。媒体ごとに表現が異なると、印象は安定しません。ブランドブックでロゴ、カラー、書体、写真、言葉づかいなどの基準を整理し、どの接点でも一貫したブランドらしさを保ちます。
➤ 詳細記事:インナーブランディングとアウターブランディングの違いとは?
4. 社内外の関係者に共通言語をつくるため
また、企業が成長すると、ブランドに関わる人も増えていきます。
● ブランド担当者
● 広報・マーケティング担当者
● 営業担当者
● 採用担当者
● デザイン会社・広告代理店
立場が違えば、ブランドについての理解や使う言葉も異なります。ブランドブックがあれば、「私たちが言うブランドらしさとは何か」を共通の言葉で確認できます。説明する人によって内容が変わることを防ぎ、社内外の関係者が同じ方向を向いてブランドを扱える状態をつくることができます。
➤ 詳細記事:インナーブランディングとアウターブランディングの違いとは?
5. ブランド資産を継承するため
さらに、ブランドは担当者が変わっても継続していくものです。
経営者交代や人事異動、M&A、海外展開などでブランドに関わる人は変わります。考え方や表現基準を担当者の経験だけに頼ると、解釈も変わりかねません。ブランドブックで歴史、理念、判断基準を明文化し、ブランド資産を次の担当者や次世代へ確実に継承できる仕組みを整えます。
[ 画像引用 ] Creative Soupより
■ ブランドブック=デザインマニュアルではない

ブランドの「WHY」と「HOW」を一つにつなぐ
ブランドブックについて相談を受ける際、
「ロゴの使い方やブランドカラーをまとめたい」という話から始まることがあります。
しかし、それだけであればロゴガイドラインやVIガイドラインで対応できる場合があります。
[ WHY ] なぜ、このブランドが存在するのか
[ WHAT ] どのような価値を提供するのか
[ WHO ] 誰に、その価値を届けるのか
[ HOW ] どのように表現し、行動するのか
ブランドブックで重要なのは、これらを一つにつなげることです。
例えば「革新的なブランド」と定義していても、なぜ革新的である必要があるのか、その革新性をどのような顧客価値へ変えるのか、どのような言葉やデザインで表現するのかが整理されていなければ、実際のブランド運用にはつながりません。ブランドブックは、ルールをまとめることではなく、ブランドの考え方から具体的な行動や表現までを一つのストーリーとして共有することが重要です。
■ ブランドブックとブランドガイドラインの違い

ブランドブックとブランドガイドラインは、
企業によって名称や範囲が異なるため、明確な境界が決まっているわけではありません。
一般的には、ブランドブックは理念やブランド戦略を含めたブランド全体の考え方を共有する役割を持ち、ブランドガイドラインはデザインやコミュニケーションを正しく運用するための具体的な基準を定めます。
● ブランドブック:理念・戦略・価値・世界観・表現・行動を共有する
● ブランドガイドライン:ブランド表現を統一するための運用基準を示す
● VIガイドライン:ロゴ、カラー、書体、写真など視覚表現を規定する
● ロゴガイドライン:ロゴの使用方法に特化した基準を定める
企業によっては、これらを一冊にまとめる場合もあります。重要なのは名称ではありません。「誰が、何のために使うのか」を明確にし、それに必要な情報を設計することです。
■ ブランドブックをつくる前に確認したい5つのこと

ブランドブックは、情報を集めて冊子にすれば完成するものではありません。
制作を始める前に、目的、対象者、ブランド資産、掲載内容、運用方法を整理しておく必要があります。
1. なぜブランドブックをつくるのか
|最初に明確にすべきなのは、ブランドブックをつくる目的です。
「ブランドブックがないから」「リブランディングしたから」といった理由だけでは十分ではありません。
その背景で何を解決したいのかまで整理します。
● 理念やブランド戦略を社員へ浸透させたい
● 部署によって異なるブランド認識を統一したい
● 新しいCI・VIの考え方を共有したい
● 外部制作会社との認識を揃えたい
● 新入社員教育に活用したい
目的によって、ブランドブックに必要な内容は大きく変わります。最初に「誰に何を理解してもらい、どのような変化を生み出したいのか」を明確にすることが重要です。
2. 誰がブランドブックを使うのか
|次に確認したいのが、ブランドブックを使用する人です。
経営者、社員、営業、採用、制作担当では必要な情報が異なります。
理念や背景を伝える内容と、ロゴやカラーなど実務で使う基準を分けて整理します。
● 全社員向けブランドブック
● ブランド担当者向けガイドライン
● 制作会社向けVIガイドライン
すべての情報を一冊に詰め込むのではなく、これらを必要に応じて役割を分ける方法もあります。誰が使うのかを先に決めることで、必要な情報量と表現方法が明確になります。
3. 現在どのようなブランド資産があるのか
|ブランドブックをつくる前には、現在のブランド資産を棚卸しします。
ブランドブック開発では、すべてを新しく定義するのではなく、
既存のブランド資産を整理し、何を残し、変え、加えるかを見極めます。
● 顧客から認知され、信頼につながっているもの
● 社員が大切にしているもの
● 現在の事業には合わなくなっているもの
ブランドブック開発では、すべてを新しく定義するのではなく、既存資産を整理し、何を残し、見直し、新たに加えるかを判断することが重要です。
4. 何をブランドブックに掲載するのか
|ブランドブックに決まったページ数や構成はありません。
Purpose、Mission、Visionからロゴの使用禁止例まですべてを掲載すると、
非常に情報量の多いブランドブックになります。
● 絶対に共有すべきブランドの核
● 日常的に参照する情報
● 特定の担当者だけが必要とする情報
● 別のガイドラインに分ける情報
情報を減らしすぎると実務では使えません。重要なのは情報量ではなく、必要な情報へすぐアクセスできる構成です。何を入れ、何を省くかを見極めます。
5. 完成後にどう運用するのか
|ブランドブックは完成しただけではブランドを変えません。
誰が管理するのか。どのように社員へ共有するのか。新入社員へどう説明するのか。
外部パートナーへどこまで公開するのか。更新が必要になった場合に誰が判断するのか。
● ブランド管理責任者
● 社内説明会・研修
● 外部パートナーへの共有方法
● ブランドに関する承認フロー
まで事前に決めておきます。制作と運用を別々に考えるのではなく、実際に使われ続ける状態から逆算してブランドブックを設計することが重要です。
■ ブランドブックの主な構成内容

ブランドブックに掲載する内容は、企業の目的やブランドの状況によって異なります。
ただし、一般的には「ブランドの基盤」「ブランド戦略」「ブランドアイデンティティ」「ブランドコミュニケーション」「ブランド運用」の5つに整理すると、ブランド全体を理解しやすくなります。
1. ブランドの基盤
ブランドの存在意義や大切にする価値観を整理し、戦略やデザインの判断基準となるブランドの根幹を共有します。
[ 主な内容 ]
● Purpose・Mission
● Vision・Values
● 企業理念・経営理念
● ブランドストーリー
● 創業の背景や歴史
2. ブランド戦略
顧客ニーズ、自社の提供価値、競合との違いを整理し、「どのようなブランドとして選ばれるのか」を明確にします。
[ 主な内容 ]
● ターゲット・顧客ニーズ
● 市場・競合
● ブランドポジショニング
● ブランドの提供価値
● ブランドコンセプト
● ブランドメッセージ・タグライン
3. ブランドアイデンティティ
ブランド戦略を視覚と言語へ落とし込み、すべての表現から一貫したブランドらしさを感じられる状態をつくります。
[ 主な内容 ]
● ブランドシンボル・ロゴタイプ
● ブランドカラー
● 指定書体・タイポグラフィ
● 写真・イラスト表現
● グラフィック・レイアウト
● Tone of Voice
4. ブランドコミュニケーション
WEB、広告、営業、採用など、さまざまな接点でブランドの考え方や価値を一貫して伝える方法を整理します。
[ 主な内容 ]
● コアメッセージ
● WEBサイト
● 会社案内・営業資料
● 広告・SNS
● 採用コミュニケーション
● 商品・パッケージ・店舗
4. ブランド運用
ブランドを継続的に正しく活用するため、管理体制や判断方法、更新ルールを明確にします。
[ 主な内容 ]
● ブランド管理体制
● 制作・承認ルール
● ブランドチェック方法
● ブランドデータ管理
● 更新・改訂ルール
● 社内共有・教育
■ ブランドブック開発で失敗しないための6つの注意点

ブランドブックには、理念の共有、ブランド表現の統一、ブランド資産の継承など多くのメリットがあります。一方で、制作方法を間違えると、「立派なブランドブックをつくったが誰も見ない」という状態になってしまいます。特に次の6点には注意が必要です。
1. デザインから始めない
|最も避けたいのが、ブランドブックの誌面デザインからプロジェクトを始めることです。
ブランドブックは、きれいな冊子をつくることが目的ではありません。なぜブランドブックが必要なのか。現在のブランドには何が不足しているのか。どのようなブランドを目指すのか。社員に何を共有したいのか。こうした内容を整理したうえで、構成やデザインを考えます。経営・事業 → ブランド戦略 → ブランドアイデンティティ → ブランドブックという順序で考えることが重要です。
2. 情報を詰め込みすぎない
|情報量が多いほど、良いブランドブックになるわけではありません。
企業理念、ブランド戦略、デザイン規定、運用ルールまで細かく掲載すると、100ページを超える場合もあります。しかし、必要な情報を探すのに時間がかかれば、日常的には使われなくなります。ブランドブックは「すべてを記録する資料」ではなく、「ブランドを理解して実践するための資料」です。全社員が理解すべき内容と、ブランド担当者やデザイナーだけが必要とする専門的な情報を整理し、必要に応じて別冊やデジタルガイドラインへ分けることも検討します。
3. 抽象的な言葉だけで終わらせない
|PurposeやVisionを掲載しただけでは、社員が実践できるとは限りません。
例えば「挑戦する」「顧客第一」「未来を創る」と書いてあっても、実際の仕事で何を意味するのかが分からなければ、判断基準として機能しません。
● なぜ、この考え方が重要なのか
● 具体的にどのような判断につながるのか
● 社員にはどのような行動を期待するのか
● 顧客接点ではどう表現するのか
ブランドブックでは、ここまで伝えます。抽象的な理念と具体的な仕事をつなげることが重要です。
4. ルールを細かく決めすぎない
|ブランドの一貫性を保とうとするほど、細かなルールを増やしたくなることがあります。
しかし、すべての状況を事前に想定することはできません。禁止事項ばかりを増やすと、ブランド担当者への確認が増え、現場がブランドを自由に活用できなくなります。そのため、「必ず守るルール」と「考え方に沿って判断できる領域」を分けます。ブランドブックはブランドを縛るためのものではありません。一貫性を守りながら、新しい表現やコミュニケーションを生み出せる判断基準にすることが重要です。
5. ブランド担当者だけでつくらない
|ブランドブックはブランド担当者やデザイナーだけのものではありません。
実際にブランドを顧客へ届けるのは、営業、商品開発、採用、カスタマーサービスなど、多くの社員です。そのため、開発段階では経営者やブランド担当者だけでなく、必要に応じて社員へのヒアリングやワークショップを実施します。さまざまな意見をすべて反映する必要はありません。しかし、現場がどのような課題を感じ、どのようなブランド理解を持っているのかを把握することで、実際に使いやすいブランドブックになります。
6. 完成をゴールにしない
|ブランドブックの納品はゴールではありません。
完成後は、社員説明会、研修、ワークショップなどを通じて、その内容を理解し、実際の仕事へ活用できる状態をつくります。また、事業や組織、市場、コミュニケーション環境は変化します。紙のブランドブックをつくった場合でも、必要に応じてPDFやWEB型ブランドガイドラインを併用し、更新できる仕組みを整えることが重要です。ブランドブックは一度「完成させるもの」ではなく、企業活動の中で使いながら育てていくブランド資産です。
■ ブランドブック開発の注意点

1. シンプルで分かりやすい構成にする
[ 必要な情報へ迷わずたどり着ける構成を設計する ]
ブランドブックは、読む人がすぐに理解し、実務で活用できることが重要です。内容が充実していても、複雑で必要な情報を探しにくければ使われません。理念やビジョンなどの「考え方」と、ロゴやデザインなどの「使い方」を整理し、情報を階層化して目次や見出しを明確にします。また、専門用語や抽象的な表現を減らし、具体例やビジュアルを加えることで理解しやすくなります。ブランドブックは読むための資料ではなく、日常業務で使うツールです。必要な情報へ迷わずアクセスできる、シンプルで実用的な構成を意識することが大切です。その使いやすさが、社内への浸透や継続的な活用にもつながります。
2. ビジュアルと文字のバランスを保つ
[ 言葉とビジュアルを組み合わせて理解を深める ]
ブランドブックでは、文章だけでなく、ビジュアルを使って直感的に理解できる構成にすることが重要です。文字が多すぎると読みづらくなり、反対に画像や図解だけではブランドの背景や意図が十分に伝わりません。理念や考え方は言葉で説明し、デザインの方向性やトーンは実例を見せながら伝えることで理解が深まります。例えば、推奨例とNG例を並べれば、判断基準を視覚的に共有できます。さらに、書体、文字サイズ、余白、レイアウトにも配慮し、情報を整理します。言葉とビジュアルが互いに補い合うことで、ブランドの考え方と世界観を分かりやすく伝えられます。
3. 柔軟性を持たせ更新可能にする
[ 変化に対応しながら継続的に活用できる仕組みにする ]
ブランドは、事業や市場、顧客、組織の変化に合わせて成長していくものです。そのためブランドブックも、一度完成させて終わりではなく、継続的に更新できる仕組みを前提に設計することが重要です。あらかじめ更新や追加、改訂のルールを定め、誰が管理し、どのように変更するのかを明確にします。また、オンラインで共有できる形式にすることで、最新版を社内外へ展開しやすくなります。すべてを細かく固定するのではなく、「必ず守る基準」と「状況に応じて変えられる部分」を分けることも大切です。変化に対応できるブランドブックが、ブランドの一貫性と継続的な成長を支えます。
■ ブランドブックの活用方法

1. 広告やプロモーションの基準として活用
[ 一貫した表現でブランドイメージを統一する ]
ブランドブックは、広告やプロモーション活動において、視覚的な要素やメッセージの一貫性を保つための重要な基準となります。広告やキャンペーンごとにブランドの表現方法がバラバラでは、消費者に戸惑いを与えかねません。しかし、ブランドブックという明確な指針があることで、ロゴの使い方や色使い、表現のトーンが統一され、人々の心に残るブランドイメージを築くことができます。さらに、このブランドブックの基準に沿って作られる広告には、企業の大切にする価値観や理念が自然と反映されます。そのため、消費者がブランドに親しみを感じ、信頼関係を築きやすくなるのです。
2. 外部パートナーへの共有
[ 社外の関係者ともブランドの基準を共有する ]
ブランドブックは、デザイナーや広告代理店、販売パートナーといった外部の協力者とも共有することが大切です。これにより、社外のパートナーも、ブランドの方向性に沿った活動を展開することができるようになります。外部のパートナーが、ブランドの基準をしっかりと理解した上で制作やプロモーション活動を行うことで、お客様が体験するブランドの世界観に一貫性が生まれます。このように、ブランドブックを通じて外部の関係者とブランドへの理解を共有することで、ブランドイメージはより強固なものとなり、結果として消費者との信頼関係を深めることにつながっていくのです。
3. 社内研修や新入社員の教育に利用
[ ブランドへの理解を深め、共通認識を育てる ]
ブランドブックは、社内研修や新入社員教育において、とても重要な役割を果たします。企業が大切にしている価値観やビジョンを、新しく仲間になった社員にわかりやすく伝えるための教材として活用できるのです。このブランドブックには、日々の業務やお客様との接し方に関するルール、望ましい表現方法なども具体的に示されています。これにより、新入社員は企業文化を早期に理解し、ブランドの基準に沿った行動や判断ができるようになります。このように、ブランドブックを教育に活用することで、組織全体のブランド力が高まり、社員一人ひとりの中にブランドへの共通認識が育まれていくのです。
4. 社内の行動指針やCSR活動の基準
[ ブランドの価値観を日々の判断や行動につなげる ]
ブランドブックは、社内の行動指針としてだけでなく、企業の社会的責任(CSR)活動を進める上でも重要な役割を果たします。ブランドが大切にする価値や使命を社内で共有することで、日々の業務や顧客対応において、一貫した判断や行動がしやすくなります。また、社会貢献や環境活動などにおいても、ブランドの考え方に沿って取り組むことで、企業としての姿勢に一貫性が生まれます。こうした継続的な実践が、社内外からの信頼を高め、企業の社会に対する責任ある姿勢を伝えるとともに、長期的なブランド価値の向上につながります。社員の判断基準を揃えることにもつながります。
■ ブランドブックの基本的な作り方

ブランドブックの内容や制作範囲は企業によって異なりますが、基本的には次のような流れで開発します。
【 STEP 1 】 現状把握
|経営者・社員へのヒアリング、顧客、市場、競合、既存ブランドの使用状況などを確認します。
企業が現在どのようなブランドとして認識され、どのような強みや課題を持っているのかを整理します。同時に、企業理念、ブランドメッセージ、ロゴ、WEBサイト、会社案内、営業資料など、現在のブランド資産も棚卸しします。
【 STEP 2 】 課題の特定
|現在のブランドと、これから目指すブランドの間にあるギャップを整理します。
例えば、理念はあるが社員に浸透していない。ブランド戦略は定義されているがデザインとつながっていない。媒体ごとにブランド表現が異なる。外部制作会社へブランドの考え方を説明できない。こうした問題の中から、ブランドブックによって解決すべき課題と優先順位を明確にします。
【 STEP 3 】 ブランド戦略の整理
|企業の存在意義、価値観、ブランドコンセプト、提供価値など、ブランドの核を整理します。
既存のPurpose、Mission、Vision、Valuesが現在も有効であれば、すべてを新しくする必要はありません。これまで築いてきたブランド資産を踏まえながら、何を残し、何を再定義し、何を新しく加えるのかを判断します。
【 STEP 4 】 ブランドアイデンティティの体系化
|ブランド戦略を、言葉と視覚表現へ落とし込みます。
必要に応じて、ロゴ、ブランドカラー、書体、写真、グラフィック、ブランドメッセージ、Tone of Voiceなどを整理します。個々のデザイン要素を単独で定義するのではなく、ブランド戦略との関係を明確にし、「なぜこの表現なのか」が説明できる状態をつくります。
【 STEP 5 】 ブランドブックの編集・デザイン
|整理した内容を、ブランドブックとして編集します。
ブランドの背景から理念、戦略、アイデンティティ、コミュニケーション、運用へと、読む人が自然に理解できる順序で構成します。ブランドブック自体もブランド体験の一つです。そのため、文字組、余白、写真、図解、用紙、製本なども含め、そのブランドらしさを感じられるデザインへ仕上げます。重要なのは装飾性ではなく、「分かりやすく、読みやすく、使いやすいこと」です。
【 STEP 6 】 社内導入・運用
|完成したブランドブックを社員や外部パートナーへ共有します。
単に配布するだけではなく、経営者からブランドの背景を説明したり、社員研修やワークショップで活用したりすることで理解を深めます。さらに、日常の制作や判断にブランドブックを使用し、必要に応じて内容を更新します。ブランドブック開発は、冊子をつくるプロジェクトではなく、ブランドを組織へ実装し、継続的に運用するところまでを含めて考えることが重要です。
■ CHIBICOが考えるブランドブック開発

私たちは、ブランドブックを単なる「ブランドを説明する冊子」とは考えていません。
● 事業が広がった
● ブランドの方向性を見直した
● CI・VIを変更した
● 組織が大きくなった
● 海外や新しい市場へ展開する
ブランドブックが必要になる背景には、多くの場合、企業やブランドの変化があります。こうした変化によって、以前は共有できていたブランドの考え方が伝わりにくくなることがあります。だからこそ、私たちは最初にブランドブックのページ構成を考えるのではなく、「現在の事業」「現在のブランド」「これから目指すブランド」の3つを確認します。
経営事業 ➡︎ ブランド戦略 ➡︎ ブランドメッセージ ➡︎ VI
➡︎ コミュニケーション ➡︎ 社員の行動・ブランド体験
そのうえで、これらを一つにつなげていきます。
ブランドブックで重要なのは、情報を増やすことではありません。複雑になった企業やブランドの考え方を整理し、誰もが理解できる共通基準へ変えることです。そして、その共通基準を日々の判断、行動、デザイン、コミュニケーションへつなげることが、ブランドブック開発の本質だと考えています。
■ CHIBICOが手掛けたブランドブック開発実績
CHIBICOでは、企業の理念や価値観、ブランド戦略、VIなどを整理し、
社内外で共有・活用するためのブランドブック開発を行っています。

[ SEMBA|企業の思想とブランドを組織へ共有する ]
企業として大切にする考え方を整理し、
社員一人ひとりが日々の仕事で実践できるブランドブックを開発しました。
SEMBAは、商業施設、オフィス、教育、ヘルスケア、ホテルなど、さまざまな領域で空間づくりを手掛ける企業です。企業が成長し、事業や関わる人が広がるほど、「自分たちは何者なのか」「何を大切にする企業なのか」を組織全体で共有することが重要になります。ブランドブックでは、企業理念やブランドの考え方を整理し、社員が共通の認識を持てるよう体系化しました。単に理念を記録するのではなく、企業が目指す方向を理解し、それぞれの仕事や顧客との接点でブランドらしい判断や行動につなげるための共通基盤として設計しています。さらに、社内の一体感を高める役割も担っています。

[ NOSAWA|長い歴史とこれからの企業像をつなぐ ]
創業から受け継がれてきた企業の精神と価値観を整理し、
次の世代へ継承するブランドブックを開発しました。
NOSAWAは1869年創業の歴史を持つ総合貿易商社です。長い歴史を持つ企業のブランド開発では、新しい表現を加えるだけではなく、創業以来培ってきた文化や価値観、事業への姿勢の中から「これからも残すべきもの」を見極めることが重要です。ブランドブックでは、過去から受け継がれてきた企業らしさと、これから目指す企業像を整理し、一つのストーリーとして体系化しました。歴史を保存するだけではなく、その意味や価値を次の世代の社員が理解し、日々の判断やこれからの事業へ活かせる状態をつくることも、ブランドブックの重要な役割です。さらに、企業文化を未来へ継承する基盤としても機能します。
■ 有名なブランドガイドラインの事例
ブランドブックやブランドガイドラインの考え方は、世界的な企業でも活用されています。特に現在は、紙の冊子だけではなく、WEB上で常に最新情報を共有できるブランドプラットフォームとして運用する企業も増えています。

【 Audi|デジタル環境まで含めブランド表現を体系化 】
多様化するブランド接点に対応しながら、
一貫したAudiらしさを維持するためのデザインシステムを構築しています。
Audiでは、ロゴ、ブランドカラー、タイポグラフィ、レイアウト、写真、アイコン、インターフェースなど、ブランド表現をStyle Guideとして体系的に公開しています。特徴は、単にデザインを統一するだけではなく、デジタルを含む多様なブランド接点でAudiらしい体験をつくるための基準として設計されていることです。各要素には使用法やルールが示され、広告、WEBサイト、アプリ、店舗、映像など異なる媒体でも、一貫したブランド表現を実現できる仕組みが整えられています。また、社内外の担当者が基準を共有することで、品質を保ちつつ、媒体や目的に応じて柔軟に展開できる点も特徴です。
[ ブランドガイドラインのポイント ]
● ブランド表現を体系的に整理
● デジタルを含む多様な媒体へ対応
● 社内外の制作関係者が参照できる仕組み
● ブランドを固定せず継続的に運用できる構造
ブランドに関わる媒体が増えるほど、一冊の固定された冊子だけですべてを管理することは難しくなります。ブランドの核を守りながら、変化する環境へ対応できる仕組みを持つことが参考になります。
[ 出典 ] Audi Style Guide(公式ブランドガイドライン)
[ 出典 ] Audi Design System(UI/デジタルガイドライン)
[ 出典 ] Audi Corporate Website(ブランド哲学とストーリー)

【 IBM|ブランド表現をDesign Languageとして体系化 】
ブランドを構成する多様なデザイン要素を、
共通する思想と原則のもとで一つのシステムとして体系化しています。
IBMでは、IBM Design Languageとして、ロゴ、カラー、タイポグラフィ、写真、イラスト、アイコン、データビジュアライゼーションなど、幅広いブランド表現を体系化しています。個々のデザインルールを独立して管理するのではなく、共通するデザイン思想のもとでさまざまな表現をつなげている点が特徴です。さらにWEBサイトやアプリ、製品、広告、イベントなど多様な接点で一貫したブランド体験を生み出せるよう、各要素の考え方や使用方法を明確にしています。デザインを単なる見た目の統一ではなく、IBMらしい体験を生み出すための共通基盤として位置づけている点に特徴があります。
[ ブランドガイドラインのポイント ]
● ロゴから写真まで幅広い視覚要素を体系化
● ブランドカラーや書体に明確な基準を設定
● デジタルを含むさまざまな接点で一貫して展開
● ガイドラインをWEB上で継続的に管理・更新
ブランドブックを「完成した冊子」と考えるのではなく、ブランドを継続的に運用するためのシステムとして捉える考え方が参考になります。

■ ブランドブックに関するよくある質問
ブランドブックについて寄せられるご質問の中から、特に多い内容をまとめました。役割や効果、活用シーンまで、実務で気になるポイントをわかりやすく紹介します。
Q1. ブランドブックって何のためにあるのですか?
● 必要です。
技術力だけで十分に差別化できる市場であれば必要性は低いかもしれません。しかし競合が増え、機能や品質だけでは違いが伝わりにくくなれば、企業として「なぜ選ばれるのか」を明確にする必要があります。
特にBtoBでは、企業の信頼性、専門性、実績、将来性まで含めて意思決定されるため、企業ブランドが重要になります。
Q2. ブランドブックをつくるとどんな効果が得られますか?
● 必ずしもそうではありません。
技術力は重要なブランド資産ですが、その価値が市場へ伝わらなければブランドにはなりません。「何がすごい技術なのか」だけではなく、「その技術によって顧客に何が起きるのか」まで翻訳することが重要です。
Q3. チームやパートナーとのブランドの共通理解をどう作れますか?
● 対象範囲が異なります。
技術ブランディングは、特定の技術や研究開発力をブランド資産として価値化する取り組みです。テクノロジー企業のブランディングでは、技術に加えて企業理念、事業、組織、採用、顧客体験、VIなど企業全体を対象にします。
Q4. 採用活動でブランドブックはどんな使われ方をするの?
● 重要です。
BtoBだから見た目は関係ないということではありません。WEBサイト、営業資料、展示会、製品UIなどは、顧客が企業の専門性や信頼性を判断する重要な接点です。ただし、デザインだけを新しくするのではなく、ブランド戦略を視覚的に伝えることが重要です。
Q5. ブランドブックが社内浸透に効くって本当ですか?
● ブランド課題によって異なります。
企業の価値やポジショニングが明確であれば、WEBサイトだけを改善することも可能です。一方、「何の会社なのか」「競合との違いは何か」「これから何を目指すのか」が曖昧な状態では、WEBサイト制作より前にブランド戦略を整理する必要があります。
【 よくある質問① 】
Q :ブランドブックって何のためにあるのですか?
A :ブランドブックは、企業のビジョン・価値観・デザイン要素を体系化した「ブランドの設計図」です。ロゴやカラー、フォント、トーン&マナーなどを明文化し、社内外の関係者が 統一されたブランドイメージで発信できるようにするための資料です。
【 よくある質問② 】
Q :ブランドブックをつくるとどんな効果が得られますか?
A :組織内部でブランド理念を共有し、広告やプロモーションといったあらゆる接点で一貫性のあるブランド体験を提供できます。その結果、信頼性や認知度が向上し、ブランド価値の強化につながります。
【 よくある質問③ 】
Q :チームやパートナーとのブランドの共通理解をどう作れますか?
A :ブランドブックは、ビジョンや方針を明確に伝えるツールとして働きます。社内外の関係者にブランドの意図や背景を理解させ、一貫したコミュニケーションを可能にします。
【 よくある質問④ 】
Q :採用活動でブランドブックはどんな使われ方をするの?
A :採用時に企業のビジョンや価値観を伝えるメッセージツールとして機能します。ミスマッチを減らし、企業文化に共感できる人材の獲得と定着を支援します。
【 よくある質問⑤ 】
Q :ブランドブックが社内浸透に効くって本当ですか?
A :ブランド理念やビジョンの浸透を促進し、行動の一貫性を強化します。特に、経営統合や組織変革期には理念共有において重要な役割を果たします。

■ ブランドブック開発に関するチェックリスト
ブランドブックの必要性や現在のブランド運用状況を確認するために、次の項目をチェックしてみてください。
【 ブランドの考え方 】
□ Purpose・Mission・Vision・Valuesが整理されている
□ ブランドが提供する価値を明確に説明できる
□ ターゲットが明確になっている
□ 競合との違いを説明できる
□ ブランドコンセプトが言語化されている
□ 社員がブランドの方向性を理解している
【 ブランドの表現 】
□ ロゴの使用基準が整理されている
□ ブランドカラーが統一されている
□ 使用する書体が決まっている
□ 写真やイラストの方向性が整理されている
□ WEB、営業資料、採用などで統一感がある
□ ブランドメッセージや言葉づかいに一貫性がある
【 ブランドの運用 】
□ 社内でブランドブックが共有されている
□ 外部制作会社へブランドの考え方を説明できる
□ ブランドに関する判断基準が明確になっている
□ 新入社員へブランドを説明する仕組みがある
□ ブランドの管理責任者が決まっている
□ 必要に応じてブランドブックを更新できる
当てはまらない項目が多い場合は、ブランドブックを新しく開発する、または既存のブランドブックやガイドラインを見直すタイミングかもしれません。

■ まとめ
ブランドブックとは、企業やブランドの理念、戦略、メッセージ、デザイン、コミュニケーションなどを体系的に整理し、社内外で共有するための「ブランドの設計書」です。
重要なのは、ブランドに関する情報を一冊にまとめることではありません。
「私たちは何者なのか」
「なぜこの事業を行っているのか」
「誰にどのような価値を提供するのか」
「どのようなブランドを目指すのか」
「それをどのように表現し、行動へ移すのか」
を一つの考え方としてつなげることが、本来の目的です。
そのため、ブランドブック開発では、デザインから始めるのではなく、経営や事業、顧客、市場、現在のブランドを整理したうえで、ブランド戦略、ブランドアイデンティティ、コミュニケーション、運用へ落とし込んでいく必要があります。
また、ブランドブックは完成して終わりではありません。社員教育、営業、採用、広告、WEBサイト、外部パートナーとの制作など、日々の企業活動で繰り返し活用しながら、事業や組織の変化に合わせて更新していくことが重要です。
ブランドが一部の担当者の感覚に依存せず、組織全体の共通認識として理解され、さまざまな接点で一貫して表現される。
そのための基盤をつくることが、ブランドブック開発の最も大きな役割です。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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