
[ ブランディングデザイン ]
トーン&マナーとは?作り方と成功事例
トーン&マナーとは、企業やブランドが発信する際の言葉使いや態度、ビジュアル表現のスタイルなどを規定するものです。ブランディングを考える際に、デザインやロゴ、コピーといった「目に見える要素」に目が行きがちです。しかし、「トーン&マナー」こそ、ブランドの一貫性や世界観を伝える上で重要なのです。これが揃っていないと、どれほど優れた商品やサービスでも、顧客に「ブレた印象」を与えてしまいます。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、トーン&マナーの基本から目的、ブランドにもたらす効果、策定時のポイント、具体事例まで徹底的に解説します。
■ トーン&マナーとは何か?

「トーン」と「マナー」の違いを理解する
まず「トーン」と「マナー」は似て非なるものです。トーンは「感情の温度感」や「表現の雰囲気」を示します。たとえば「親しみやすい」「高級感がある」「誠実」といったものです。一方、マナーは「行動や表現におけるルールや作法」です。言葉選びや敬語の使い方、画像の構図や色づかいまで含まれます。つまり、トーンは感性に、マナーは行動に関わるもの。この2つが揃ってこそ、ブランドの発信が一貫し、顧客に信頼感を与えられるのです。
トーン&マナーが企業活動に不可欠な理由
現代のマーケットは情報が氾濫しており、顧客は短時間でブランドを「感じ取り」ます。その時、言葉の選び方やビジュアル、態度がバラバラだと、「このブランドは信用できるのか?」という疑念を抱かせてしまいます。トーン&マナーはブランドの「人格」を形づくるものです。人格が定まっていない企業は、長期的なブランド価値を築くことは困難です。結果として、広告やSNS投稿、顧客対応のすべてに「軸」が求められる時代になっているのです。
トーン&マナーがブランドの世界観をつくる
トーン&マナーが整っているブランドは、世界観に一貫性があります。スターバックス、アップル、無印良品などが好例です。どんな媒体でも「そのブランドらしい」体験が提供されるため、顧客はブランドの世界に自然と引き込まれ、ファン化が進みます。逆に、接点ごとに印象がバラバラだと、顧客のエンゲージメントは築けません。ブランドの世界観づくりは、トーン&マナー整備から始まるのです。
■トーン&マナーの目的とは?

1. ブランド価値を一貫して伝えること
ブランドの核心は、「何を、どう伝えるか」にあります。トーン&マナーは、その**「どう伝えるか」を一貫させるための指針です。たとえば、どんな広告代理店や外部ライターと仕事をしても、トーン&マナーが明確なら、ブランド価値がブレることはありません。
2. 顧客体験の質を高め信頼を築くこと
顧客は企業との接点(広告、SNS、接客、Webサイト)を総合的に評価しています。トーン&マナーが整っていると、接点ごとに一貫性が保たれ、顧客体験の質が向上します。結果として、企業やブランドに対する信頼感が強化されます。
3. 社内外でブランド理解を統一すること
トーン&マナーは社外への発信だけでなく、社内のブランド理解にも大きな効果があります。社員が一丸となって「自社はこういう言葉づかいをする」「こういう振る舞いをする」という共通認識を持つことで、ブランド価値が組織文化として浸透します。
■トーン&マナーがもたらす影響

1. 競合との差別化につながること
ほとんどの市場は飽和状態です。プロダクトやサービスの差別化だけでは限界がある中、トーン&マナーという「非言語的な資産」がブランドを差別化します。競合が「高級感」を打ち出しているなら、親しみやすさで勝負するなど、独自のポジション確立に貢献します。
2. 顧客ロイヤルティを高めること
一貫したトーン&マナーは、顧客の「安心感」や「親近感」を育みます。これはリピート購買やファン化に直結します。ブランドに「好き」「共感できる」と感じる理由の多くは、プロダクトそのものより、ブランド全体の体験(Tone & Manner)が影響しているのです。
3. 社内カルチャー形成への波及効果
トーン&マナーが明確だと、社員も日常的にブランドらしい行動を意識します。これにより、ブランドイメージと一致した社内カルチャーが形成され、採用や組織づくりにも好影響を及ぼします。
■トーン&マナーのポイントと注意点

1. ブランドコンセプトを言語化すること
まずはブランドの**パーパス(存在意義)やバリュー(価値観)**を明確に言語化しましょう。これを土台にトーン&マナーを設計することで、表面的なスローガンではない、深みのある一貫性が生まれます。
2. ターゲット視点で柔軟に規定すること
ターゲット層の価値観やライフスタイルを理解し、それにフィットしたトーン&マナーを設計することが重要です。ターゲットとズレたトーン&マナーは逆効果になるため、マーケットリサーチとペルソナ設定が不可欠です。
3. 決定後の運用と定着させること
策定したトーン&マナーは、ガイドライン化し、実務の中で活用されることが大切です。制作担当者、広報担当者、営業、カスタマーサポートなど、全社的な浸透施策が欠かせません。定期的な見直しとアップデートも推奨されます。
■トーン&マナーの成功事例① 高級・プレミアム系

【 CHANEL(シャネル) 】
CHANELは「時代を超えるエレガンス」を軸とした一貫したトーン&マナーを徹底しています。広告ビジュアルは静的かつ洗練され、言葉遣いは少なく余韻を残す表現。ブランドサイトでも商品説明は詩的かつ厳選された語彙で行い、簡単に「お買い得感」を語ることは一切ありません。これにより、ブランドの希少性とラグジュアリー感を守り続けています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ 余白と静けさを活用した高級感の演出
⚫︎ ミニマルな表現でブランドの神秘性を維持
⚫︎ あえて語りすぎないことで価値を高める

【 Lexus(レクサス) 】
Lexusは「匠の技」と「上質な時間」を感じさせるトーン&マナーを貫いています。映像・音声・文字すべてに静謐さと品格を持たせ、ユーザー体験すべてでプレミアム感を醸成。販売店の接客でも「Lexusらしい」所作や言葉遣いがマニュアル化され、オーナー限定イベントでもブランド世界観が統一されています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ 五感を活用したプレミアム体験設計
⚫︎ 企業文化レベルまで世界観を浸透
⚫︎ プロダクトとサービス体験の完全一致

【 Rolex(ロレックス) 】
Rolexは「永続性・信頼・格式」という価値観を表現するトーン&マナーを徹底。広告では「時間を超える物語」に焦点を当て、製品の機能性よりも歴史やクラフトマンシップに語りの重きを置きます。公式サイトやカタログ、店舗すべてに「品格」が内包されており、価格帯を正当化する心理的価値づけに成功しています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ 長い歴史・伝統のストーリーテリング
⚫︎ クラフトマンシップに焦点を当てた表現
⚫︎ 即物的なセールス感を排除
■トーン&マナーの成功事例② 知的・クリエイティブ系

【 Adobe(アドビ) 】
Adobeは「クリエイターのインスピレーションを刺激する存在」としてトーン&マナーを設計。製品紹介も単なる機能説明に留まらず、実際のクリエイター作品事例や美しいビジュアルで「創造の場」としてのブランドを演出しています。広告コピーは詩的かつ知的で、クリエイティブな顧客層と自然な共鳴を生んでいます。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ 製品を単なるツールでなく「創造の場」として提示
⚫︎ 世界観を支えるビジュアルと語彙選択
⚫︎ 顧客を「ユーザー」でなく「クリエイター」と捉える

【 蔦屋書店(TSUTAYA BOOKS) 】
蔦屋書店は「知的好奇心を刺激する文化空間」を意識したトーン&マナーを設計。商品タグやPOP、Webサイトの文章は文学的な表現が多用され、商品は単なる「モノ」でなく「新しい知の入り口」として提示。空間デザイン、BGM、照明にも統一感を持たせ、書店体験そのものがブランド体験となっています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ 空間・言語・音響まで含めた体験設計
⚫︎ 商品よりも「知の体験」を前面に打ち出す
⚫︎ 知的好奇心層に響く洗練された言語表現

【 note(ノート) 】
noteは「誰もがクリエイター」という思想をトーン&マナーで体現。プラットフォームの文章は敷居が低く温かい語り口を採用し、ユーザー間の心理的障壁を下げています。UI/UX設計も「見た目を整える」より「書く行為への没入」を優先。運営メッセージやヘルプも共感を呼ぶ語り方で、コミュニティ意識を醸成しています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ インクルーシブな語り口で参加意欲を喚起
⚫︎ UI/UXがブランド思想と一貫
⚫︎ 「誰でも表現できる」文化の土壌を形成
■トーン&マナーの成功事例③ カジュアル・親しみやすい系

【 ユニクロ(UNIQLO) 】
ユニクロは「毎日をより良くする服」という思想に沿って、誰にでもわかりやすい、シンプルなトーン&マナーを徹底。広告コピーは平易でポジティブな表現が中心。Webサイトや店頭POPでも情報設計が明快で、難解な専門用語は避けています。ターゲットの裾野を広げる姿勢が表現に一貫して現れています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ 明快で親しみやすい言葉選び
⚫︎ 「誰にでもフィットする」マス向け設計
⚫︎ 商品説明とブランドイメージの一貫性

【 Zoff(ゾフ) 】
Zoffは「メガネ選びをもっと楽しく気軽に」を体現するトーン&マナーを採用。広告・SNS・POPすべてに親しみやすく明るい語り口が使われており、若年層からファミリー層まで幅広いターゲットに響く表現が徹底されています。店頭スタッフ教育でもカジュアルな接客マナーが推奨され、一貫したブランド体験を提供しています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ 若年層・初心者層に配慮したカジュアルなトーン
⚫︎ 購買体験自体を「楽しいもの」として演出
⚫︎ 店頭・Web・広告でトーンのブレがない

【 ニトリ 】
ニトリは「お、ねだん以上。」というキャッチコピーに象徴される親近感とお得感をトーン&マナーに反映。WebサイトやCM、カタログの文体はフランクで庶民的。難しい専門用語は避け、暮らしに寄り添う語り口を意識。あらゆるタッチポイントで「賢い消費者目線」を前面に出しています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ 庶民性・お得感を強調する語り口
⚫︎ 「難しさ」を徹底的に排除
⚫︎ 広告と店舗体験のトーンが一致
■トーン&マナーの成功事例④ ポップ・楽しい・ワクワク系

【 ディズニー 】
ディズニーは「夢と魔法の王国」というブランドアイデンティティをトーン&マナー全体で表現。広告コピーやサイト文言は明るくポジティブで、やや子供っぽさも意図的に残すことで非日常感を演出。パーク内アナウンスやスタッフの接客文言まで細かくトーンが管理され、ファンタジー体験を損なわない一貫性が保たれています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ あらゆる接点で「夢・魔法」の世界観を演出
⚫︎ 親子三世代に通用する明るく柔らかな語り口
⚫︎ 社員教育まで徹底された表現統一

【 LINE 】
LINEは「気軽につながる」をテーマに、プラットフォーム内外のトーンを親しみやすく設計。サービス説明文・エラーメッセージ・通知などにもカジュアルな口調を採用し、ユーザー心理的距離を縮めています。広報活動やブランド広告でも「生活に寄り添う便利な友だち」のポジショニングを貫いています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ カジュアルかつ親近感ある語り口
⚫︎ 技術的なサービスを生活視点で翻訳
⚫︎ 全ユーザー層向けの心理的障壁低減

【 日清食品 】
日清は「遊び心と独自性」に富んだトーン&マナーを採用。カップヌードルなどの広告はポップで意表を突く表現が多く、SNSでもウィットに富んだ語り口でブランドのユニークな個性を発揮。業界トップでありながら挑戦的な姿勢を感じさせる表現がブランドの「元気さ」を支えています。
[ トーン&マナーの成功ポイント ]
⚫︎ ウィットに富んだ軽妙な語り口
⚫︎ SNS時代にマッチする遊び心のある表現
⚫︎ トップブランドの余裕を感じさせるスタイル
■ まとめ
トーン&マナーは、ブランドの世界観と一貫性を支える極めて重要な要素です。プロダクトやデザインだけでは伝えきれない「ブランドの人格」を形づくります。競争が激化する市場において、顧客との関係性を深め、差別化を図るには今こそトーン&マナー整備が不可欠です。ぜひ今回の記事を参考に、自社のトーン&マナーを見直し、ブランド価値向上の取り組みを始めてみてください。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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