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[ ブランド戦略 ]

企業ブランディングとトーンオブボイス

トーン アンド マナーや、それを略したトンマナという言葉は、企業ブランディングの分野に限らず、広告やデザインを中心によく使われています。同じような言葉に「トーン オブ ボイス( Tone of Voice)」がありますが、語句としての認識はあってもその内容や意味について説明できる人はなかなかいないのではないでしょうか。トーン オブ ボイスは、言語上におけるトーン アンド マナーなどとも言われ半ば同じものとも言われることもあります。しかし、本来の役割を考えると、単純な置き換えにはなりません。今回は、企業ブランディングの見地から、両者をそれぞれ別のものと規定したうえで、その意味や期待できる機能、などについて考察していきます。


■ トーンオブボイスとは

[ 図 ] 企業ブランドの“らしさ”は、「ことば遣い・選び」にも影響する

トーン オブ ボイスは“Tone of Voice”の綴りが表す通り、企業としての「声の張りかた(調子)」を意味します。企業が生活者に抱いてほしいブランドのイメージを保つには、どのような語り口をしていくべきなのかという規定や方針です。たとえば、『飾らず実直な』印象を残したい場合と、『積極・情熱的な』印象を残したい場合とでは、実際に使う語句や語尾・文章の長さといったもには必ず差が出てくるはずです。“顧客に寄り添う”ことをブランドの根幹に掲げる企業があった場合、「〜するべきである。/〜だ。」というような価値観を強く押し出す調子の文章で語りかけていくとすれば、顧客や生活者には不信感が募ることになり、企業のアイデンティティが見えなくなってしまいます。また、逆にフランク過ぎても戸惑わせてしまうでしょう。絶妙な距離感を言語面から確保するのに、トーン オブ ボイスは特に有用です。『真摯に向き合う態度で』『分かりやすく、平易に』『フレンドリーな関係性で』『構えずカジュアルに』『専門用語は最小限に』『第一人者、牽引者らしく』など、アウトプットとしてのコミュニケーションに差異が出てくるだろうことが分かります。

■ 機能するトーンオブボイスをつくるには

[ 図 ] 兼ね備えていて当然、という事項はトーンオブボイスとしては機能しない

トーン オブ ボイスの検討は、企業ブランドの管理・運用上でとても役立ちます。ブランド管理室などの部署が、SNSや広告、インフォメーションなどのツールにおいて細かなチェックをする作業を減らせるのです。しかしそれだけに、トーン オブ ボイスについてはしっかりとした共有が大切になってきます。機能しないトーン オブボイスのほとんどは、“あたりまえ”を定義している場合にしばしば起こります。「有益な情報を提供する」「付加価値のある」「利便性を感じさせる」「プロフェッショナルとして」などの規定です。一見、良さそうなにも思えますが、これらのような『当然備えておくべき要素』、『非常に主観的で、成否が発信者のさじ加減で決まる』ものなどは、全く意味をなさないと言えます。道徳的に正しいことを単純に並べるだけの企業やブランド、凡庸な内容に終始するメッセージには、どんな顧客や生活者も魅力を感じることはないでしょう。実際には、トーンオブ ボイスの曖昧な企業は、企業規模の大小にかかわらず存在しており、さらにそれらを手本としてしまう流れが、トーン オブ ボイスをを分かりにくくしています。トーン オブ ボイスは、企業のブランド理念体系に起因し、その性格を顕在化させて表現していくためのものであることを忘れてはいけません。

■ ブランドパーソナリティとの違い

[ 図 ] ブランドパーソナリティをそのままトーンオブボイスとするのは無理がある

トーン オブ ボイスを理解しづらいものにしているもう一つの要因が、ブランドパーソナリティの存在です。ブランドパーソナリティを一言で表すと、「ブランドを“人格”になぞらえたもの」ということになります。“温かみのある”や“スマートな”、“誠実な”、“先駆的である”、“挑戦心のある”などを、一般的には幾つか挙げることによって、その性格を定めていきます。このブランドパーソナリティも、トーン オブ ボイスと似たもののように扱われることがあります。ブランドパーソナリティを、トーン オブ ボイスのように利用できるケースは確かにあります。しかし厳密には両者は異なると言えます。企業ブランディングでは、とかく“何を言うか(what to say)”と“どのように言うか(how to say)”の2点について明確にしていく必要がありますが、ブランドパーソナリティとトーンオブボイスの関係も、この両者のようなものだと考えると理解しやすいかも知れません。トーン オブ ボイスは後者のような働きをもちます。ブランドパーソナリティ(どんな人格か)をより正しく信頼性をもって印象づけるための、伝えかたの技術なのです。

■ トーン オブ ボイスは、いつ開発すべき?

[ 図 ] ブランドパーソナリティを具現化するトーンアンドマナーとの同時開発が理想的

トーン オブ ボイスがブランドパーソナリティを拠りどころに開発されるものであることは前述の通りですが、同じように、企業のロゴマークや、商品、パッケージデザインなどのビジュアルに関することもまた、ブランドパーソナリティを受けて開発されるものとなります。つまり、言語的なトーン オブ ボイスも、デザインなどの視覚的な、いわゆる“トーン アンド マナー”と同時期に開発されるものであることが分かります。両者の相乗効果により、企業の“らしさ”はより確かなものになると言えるでしょう。ロゴマークやデザインを企業のブランド体系だけを視覚的なデザインに乗せているだけでは、その効果は充分なものとは言えないのかも知れません。理想的な開発時期はブランドパーソナリティの開発後、トーン アンド マナーと同時期に、ということになりますが、タイミングにこだわる必要性はそう高くはありません。トーン オブ ボイスの目的は、あくまでブランドとしての人格に、統一性をもたせることにあるからです。トーン オブ ボイスの開発は、企業にとって有益な面が多々あります。まだまだ馴染みが薄いトーン オブ ボイスですが、企業ブランディングの整理という観点からも是非とも検討していきたい要素の一つです。 

■ 効果的なトーン オブ ボイスのつくりかた

[ 図 ] 複数の分野への投影により、ブランドへの共有認識と執るべき戦略が定まっていく

「良いトーン オブ ボイス」というものがあるとすれば、それは“企業らしさを反映した文章やメッセージであり、生活者や顧客・社会全体とコミュニケーションできる規定”ということになるでしょう。では、良いトーンオブ ボイスは、どうすれば開発できるのでしょうか。それにはいくつかの方法があるはずですが、最も理解しやすいのはやはり、企業ブランド開発の一環で行われるブランドパーソナリティに立ち返ることです。ブランドパーソナリティの詳細についてはこの記事では割愛しますが、その中で重要な『ブランドの世界観の共有』は、トーン オブ ボイスの開発とその共有に役に立つでしょう。どうしても感覚的で曖昧な表現になりがちなトーンオブ ボイスの、そのスケール感を合わせていくことは、企業ブランディング全体の成功に関わる重要なファクターと言えるでしょう。基本的にトーン オブ ボイスは社外に開示するものではないので、その開発段階もブランドの共有を第一に考えることが重要です。

■ トーン オブ ボイスの活かしかた

[ 図 ] 制作物や製作者を選ばず、統一した企業ブランディング活動が可能になる

実際のケースでは、トーン オブ ボイスを利用する頻度の高い担当者は、ブランドを統括する部署よりも、SNSや広告、広報の実務担当者かも知れません。ブランドを統括する部署の業務を軽減するためにも、各担当者とともに、企業ブランディングの理念体系からこのトーン オブ ボイスに至るまでの認識を共有していくことが必要です。現代の企業ブランディングにおいてはSNSやWebの重要度が上がっていることは周知の通りですが、SNSひとつとってもTwiterとInstagramとFacebookでは、それぞれの媒体性質が異なります。トーンオブ ボイスの開発は、それらを画一的なものにするためのものではありません。各媒体の性質を理解し、使い分けることで一つの企業ブランドを確立し、各媒体の性格の違う生活者や顧客にコミュニケーションを図るためのものであることを常に意識していく必要があります。そうした意味からも、一定期間に発信された企業メッセージの実例を元に、残念ながら上手く行かなかったケースについての討議や、次回以降の摺り合わせをしていくことは有用でしょう。制作物をアウトソーシングしているような場合でも、より的確なディレクションが可能になります。担当者の変更も企業では定期的に行われます。そうした場合でも統一感のある企業ブランディングを続けていくために、トーン オブ ボイスの開発は極めて有用な手段となります。

■ まとめ

企業ブランディングを言語面からコントロールする規定、トーンオブボイスについて可能な限りシンプルにまとめてみました。前述のパラグラフでは様々な“例え”ていくスタイルを紹介しましたが、逆に、生活者や顧客に『もたれたくない印象』『なりたくない対象』というものについて、ブランドの世界観の共有することで見えてくるものがあるはずです。これもまたトーンオブボイスと言えるでしょう。このように、理論として理解するよりも、ワークショップのような形で実践していくことのほうが理解しやすいものでもあります。トーンオブボイスを開発し運用していくことは、企業としてのメッセージの表現的な足並みを揃えることであり、生活者や顧客からの支持や信頼の向上へとつながっていくはずです。ぜひこれを機会に、トーンオブボイスの開発をご検討されてみてはいかがでしょうか。

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