
[ ブランディングデザイン ]
【保存版】鉄道会社のブランドステートメント事例と開発ガイド
「この鉄道会社は、何を大切にしているのだろう?」そんな問いにしっかり答えられるのが、ブランドステートメントの役割です。鉄道会社も、単なる「移動手段の提供」では選ばれません。安全性、信頼性、環境への配慮。これらをいかに言葉にし、社会と共有するかがブランド価値を左右します。たとえば「地域と未来を結び、安全で快適な移動を提供する」というメッセージは、企業の理念や社会貢献意識が明確に伝わります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、鉄道会社の動向をふまえ、ブランドステートメントの考え方と作り方、実践ポイントを具体的に解説していきます。
■ ブランドステートメントとは?

定義と目的(企業価値・信頼性の説明)
ブランドステートメントとは、企業が社会や顧客に対して「自社は何者で、どんな価値を提供するのか」を明文化した宣言文です。理念・価値観・存在意義を簡潔に表現し、社内外のブランディング活動の軸となります。目的は主に2つです。ひとつは、顧客やパートナーに企業の信頼性・独自性を明確に伝えること。もうひとつは、社員の意識統一を図り、ブランド価値を社内に浸透させることです。短い一文の裏に、企業の深い哲学と未来志向が込められるのが特徴です。
■ ブランドステートメント開発の基本ステップ

1. 企業理念の再確認:企業の存在意義や価値観を整理
ブランドステートメント作成の出発点は、企業の「存在意義」や「価値観」の明確化です。自社はなぜ存在するのか、どんな社会的価値を提供したいのか、どんな未来を目指しているのかを徹底的に掘り下げます。創業時の理念や歴史的背景、経営陣・社員の価値観、企業文化などを紐解き、ステートメントの核となる要素を洗い出す作業です。このプロセスを経ることで、表面的な言葉ではなく、企業の根幹から一貫したメッセージの土台が築かれます。ブランドの「想い」を言語化する重要なステップです。
2. 顧客視点の理解:顧客にどう受け取られたいかを明確化
理念が整理できたら、次に重要なのは「顧客視点」での理解です。自社がどのような印象を持たれたいのか、顧客がブランドを選ぶ理由は何かを深く掘り下げます。ターゲット顧客のニーズ、価値観、生活スタイルに寄り添ったブランドイメージを構築することが求められます。単に企業側の言いたいことではなく、「顧客がどう受け止め、共感し、支持したくなるか」という視点を徹底的に考えることがポイント。顧客の感情や行動に訴求するブランド像が、信頼や愛着につながります。
3. 競合との差別化要因の抽出:市場での独自性を明確に
次に、自社が市場でどのような独自性を持つのかを明確にします。競合企業のブランドステートメントや市場でのポジショニングを分析し、それと比較して「自社ならでは」の価値・強み・文化を抽出します。この差別化要素こそが、ブランドステートメントの核となるメッセージ性を際立たせます。差別化の視点は、商品・サービスの特徴だけでなく、企業姿勢や社会貢献、体験価値など広範囲にわたります。市場の中でブランドの唯一無二性を言語化することで、選ばれる理由が明確になります。
4. 簡潔なメッセージ化:誰でも理解できる平易な言葉で表現
ブランドステートメントは、短く・簡潔で・誰にでも理解しやすい言葉でまとめることが極めて重要です。理念や差別化要素を盛り込みつつ、社内外のさまざまな人が日常的に使いやすい表現を意識します。複雑な業界用語や抽象的な表現は避け、直感的に意味が伝わるフレーズに落とし込むことがポイントです。理想は「社員が自然に口に出せて、顧客が一瞬で意図を理解できる」状態。コピーライティングの工夫や複数案の作成・比較を行い、最も心に響く言い回しを採用します。
■ 鉄道会社のブランドステートメント開発に重視すべきポイント

1. 安全性・信頼性
鉄道業界にとって安全性は最も基本かつ最重要な価値です。設備の老朽化対策、最新の運行管理システム導入、車両メンテナンス体制の強化などを継続的に実施し、事故ゼロを目指しています。また、自然災害時の早期復旧能力や、異常時の迅速な情報提供体制の整備も求められます。安全性の向上は利用者の信頼感を醸成し、ブランド価値を根幹から支える要素。鉄道会社は日々進化する技術と現場の知恵を組み合わせながら、安心して利用できる交通インフラを提供しています。
2. 地域性・コミュニティ連携
鉄道は単なる移動手段ではなく、地域社会との深い関わりを持つ存在です。沿線自治体や地域住民との連携を強化し、まちづくりや観光振興、地域イベントなどにも積極的に参画。駅構内のデザインや施設も地域文化を反映させたものが増えています。また、地域企業との協業やコミュニティスペースの整備を通じ、鉄道が地域経済とコミュニティ形成の中核的役割を担っています。こうした取り組みは地域との信頼関係を築き、ブランドへの愛着を高める重要な戦略です。
3. 環境への配慮・持続可能性
鉄道は他の交通手段と比べてCO₂排出量が低い環境負荷の少ない移動手段として注目されています。近年はさらなる環境配慮が求められ、再生可能エネルギーの活用や省エネ車両の導入、騒音・振動対策の強化が進んでいます。また、沿線の緑化や生物多様性への配慮、環境教育活動など企業としての社会的責任も重視。持続可能な社会の実現に貢献する姿勢を明確に示すことで、企業ブランドへの信頼性や未来志向の価値観が強化されています。
■ 鉄道会社のブランドステートメント事例

東京メトロ : 東京を走らせる力
東京メトロのブランドステートメント「東京を走らせる力」は、単なる交通手段にとどまらず、都市全体を支える存在意識を表現しています。約1日700万人以上の利用者に対し、安全・快適な移動を提供することで、東京という大都市の経済活動や市民生活を円滑に動かしています。地下鉄網の整備やサービス品質の向上だけでなく、駅ナカビジネスや観光促進など街づくりへの貢献も意識されています。この短い言葉に、インフラとしての責任感と東京の未来を走らせる推進力というメッセージが凝縮されています。
[ 出典 ] 東京メトロについてより

東急グループ : 美しい時代へ
東急の「美しい時代へ。」は、未来志向かつ価値志向のブランドビジョンを打ち出したメッセージです。鉄道・都市開発・商業施設・文化活動など幅広い事業を通じて、単なる経済価値の提供ではなく、人々の心豊かな暮らしや美意識の高い社会づくりに貢献することを目指しています。「美しい」という言葉に、都市景観の美しさ・公共空間の快適さ・文化的価値の向上といった多義的な価値が込められており、東急ブランドならではの洗練された企業姿勢を象徴しています。
[ 出典 ] 東急グループ・企業情報より

京急グループ : あんしんを羽ばたく力に
京急グループのブランドステートメント「あんしんを羽ばたく力に」は、安全性を土台としたサービスが人々の未来を切り拓く力になる、という理念を表現しています。鉄道・バス・不動産・観光など多角的な事業を展開する中で、すべての事業活動の根底に「あんしん」を据えています。特に羽田空港アクセスを強みとする同グループにとって、「羽ばたく」という言葉は物理的な移動だけでなく、人生の可能性や夢の実現の象徴でもあります。利用者の安心感と挑戦心を支えるブランド姿勢が端的に示された一文です。
[ 出典 ] 京急グループ・会社概要より

京成グループ : いろんな笑顔を結びたい
京成グループのブランドステートメント「いろんな笑顔を結びたい」は、移動の提供を通じて多様な人々の幸福な瞬間をつなげるという想いを込めたメッセージです。鉄道事業を軸に、空港アクセス、バス、不動産、流通、レジャーなど幅広いサービスを展開しており、日常生活から特別な旅までさまざまな場面で人と人の出会いや喜びを支えています。「いろんな笑顔」という表現が、年齢・性別・目的を問わず、すべての利用者に開かれた温かな企業姿勢を象徴。地域社会とのつながりや親しみやすさを大切にする、京成らしいブランドの個性が光る一文です。
[ 出典 ] 京成グループ・会社情報より

西武鉄道 : でかける人を、ほほえむ人へ。
西武鉄道のブランドステートメント「でかける人を、ほほえむ人へ。」は、移動という行為そのものにポジティブな体験価値を付加するという姿勢を示しています。鉄道は単なる移動手段ではなく、日々の暮らしに彩りや楽しみをもたらすもの。その理念のもと、特急「Laview(ラビュー)」や観光列車の導入、沿線観光の振興、駅ナカ施設の充実など、利用者が自然と笑顔になるような取り組みを展開しています。また、沿線地域とのつながりを重視し、生活と旅の両方で心地よい移動体験を提供。ブランド全体に「温かさ」と「人間味」を感じさせる一文です。
[ 出典 ] 西武鉄道・会社情報より

相鉄グループ : ときめきとやすらぎをつなぐ
相鉄グループのブランドステートメント「ときめきとやすらぎをつなぐ」は、日常の移動に加えて心の豊かさや癒しの体験を提供するという姿勢を表しています。都市間輸送や地域交通の利便性を高めつつ、新たな街づくりや観光資源開発にも力を入れている点が特徴です。「ときめき」は新たな発見や感動のある体験を、「やすらぎ」は安心で快適な移動環境や暮らしの質の向上を象徴。沿線開発やリニューアルされた駅空間、デザイン性の高い車両などを通じて、利用者一人ひとりの「心の価値」に寄り添ったブランド体験を創出しています。
[ 出典 ] 相鉄グループ・企業情報より

京阪グループ : こころまち つくろう
京阪グループのブランドステートメント「こころまち つくろう」は、「心待ち」と「まちづくり」を掛け合わせた独自の言葉づかいが特徴です。単なる移動手段の提供にとどまらず、人々が未来に期待し、心豊かに暮らせる街や体験を創出することを目指しています。鉄道サービスの質向上はもちろん、駅周辺の開発や文化・観光資源の活用、地域イベントへの参画など幅広い取り組みを展開。利用者に「この沿線に住みたい」「この街を訪れたい」と感じさせる魅力づくりを進めています。暮らしと感性に寄り添う温かなブランド姿勢が表現された一文です。
[ 出典 ] 京阪グループ・スローガン策定より

名鉄グループ : ココロをつなぐ、あしたへはこぶ。
名鉄グループのブランドステートメント「ココロをつなぐ、あしたへはこぶ。」は、移動を通じて人と人の心をつなぎ、地域や社会の未来に貢献するという意志を表現しています。鉄道・バス・物流・不動産・観光など幅広い事業領域を活かし、単なる距離の移動を超えた「心の交流」や「新たな出会い」の場を提供。とりわけ中部圏の生活インフラを支える存在として、安全性・利便性の向上に取り組みながら、地域との共生を重視しています。「あしたへはこぶ」という言葉には、持続可能な未来への責任感と前向きなブランド姿勢が込められています。
[ 出典 ] 名鉄グループ・企業情報より

南海電鉄 : 愛が、多すぎる。
南海電鉄のブランドステートメント「愛が、多すぎる。」は、企業活動のあらゆる場面に「愛情」と「思いやり」を込めている姿勢をユーモラスかつ力強く表現しています。関西エリアを中心に鉄道・観光・流通・不動産など幅広い事業を展開し、地域社会や利用者への深い愛着を企業文化の中心に据えています。沿線活性化や観光列車「天空」「サザンプレミアム」など魅力的なサービスを通じ、移動の楽しさや地域との絆を育んでいます。「愛が、多すぎる。」という少し遊び心のある表現が、親しみやすさ・地域密着性・人間味のあるブランドイメージを効果的に伝えています。
[ 出典 ] 南海電鉄・プロモーションより
■ ブランドステートメント開発の弊社実績

【 R.T.HEMMA 】
「 毎日を自分らしく、心地よく 〜 Your room, Your Life 〜 」をブランドビジョンに掲げ、インテリアデザインを通して、毎日をより自分らしく、楽しく、心地よいものにしていく企業ブランド。機能、デザイン、低価格、サステナビリティを兼ね備えたサービスをBtoB、BtoCに向けて幅広く展開。
[ 詳細 ] chobico WORKS | R.T.Hemmaより

【 INSIGHT FACTORY 】
「いかにして本音を集めるか」「集めた本音に何を見るか」を独自の知見によって提案し、クライアントと共に、来たる未来を推し量り、切り拓くこと掲げるリサーチ会社のリブランディング。ブランドシンボルは、社名の頭文字である「I」と「F」をモチーフに「どう見るか。なにを見るか。」をデザインで表現。
[ 詳細 ] chobico WORKS | INSIGHT FACTORYより

【 I’ROM GROUP 】
希望と安⼼に満ちた健やかな未来を、すべての⼈へ。アイロムグループは「憂いなき未来のために。」のブランドプロミスのもと、人々の未来が希望と安心そして健康で満ちあふれたものとなるように先端医療事業、SMO事業、CRO事業、メディカルサポート事業の4つの事業でブランドを展開しています。
[ 詳細 ] chobico WORKS | I’ROM GROUPより

【 RENEWABLE JAPAN 】
すべての人を、エネルギーの主人公に。「主人公」という言葉には、同じ時代を生きる一人ひとりにエネルギーづくりの主体となって活躍していただける社会を実現したいというブランドの想いを込めています。そして、共にエネルギーについて考え行動し社会の創生に寄与していく企業の姿勢を表しています。
[ 詳細 ] chobico WORKS | RENEWABLE JAPANより

■ ブランドステートメントに関するよくある質問
【 よくある質問① 】
Q :ブランドステートメントとは通常のスローガンとどう違うのですか?
A :ブランドステートメントは、企業が社会や顧客に向けて「何者で、どんな価値を提供するのか」を明文化した宣言文です。スローガンが一時的な印象を強めるのに対し、ブランドステートメントは「信頼性」「理念」「価値観」を社内外で統一的に伝えるための核となる言葉です。
【 よくある質問② 】
Q :鉄道会社にブランドステートメントが特に必要な理由は何ですか?
A :鉄道は「安全性」「信頼」「環境配慮」という社会インフラとしての責任が求められるため、これらの価値を社会に言語化し、共有することでブランド信頼と存在意義を明確化できます。例えば「地域と未来を結び、安全で快適な移動を提供する」という表現は、その必要性を端的に示しています。
【 よくある質問③ 】
Q :ブランドステートメントを開発する際、重点的に含めるべき要素は何ですか?
A :以下の三点をしっかり押さえましょう。
- 安全性と信頼性 — 鉄道では不可欠な根幹価値です。
- 地域性・コミュニティ連携 — 鉄道が地域社会と共に歩む存在であることを伝えます。
- 環境への配慮・持続可能性 — 鉄道ならではの低炭素性/社会的責任姿勢を言語化します。
【 よくある質問④ 】
Q :成功している鉄道会社のステートメントにはどんな特徴がありますか?
A :東京メトロの「東京を走らせる力」は都市インフラとしての使命感と都市生命を支える推進力を語ります。東急グループの「美しい時代へ。」は都市の文化と価値を融合する未来志向を、京急の「あんしんを羽ばたく力に」は安心を土台に人生や可能性の支援を象徴しています。
【 よくある質問⑤ 】
Q :社員や利用者に浸透させるためにはどう実施すべきですか?
A :ステートメントは社内での共通価値として、朝礼や社内研修、社外でも広告・駅構内・CSR活動など多面的に展開することで、一貫性のある体験と信頼を築く基盤になります。

■ ブランドステートメント開発をする前のチェックリスト
【 価値観の明文化と役割の定義のチェック 】
⬜︎ 安全性・信頼性が明確に表現され、「安心できるインフラ」としての役割を果たしているか?
⬜︎ 環境への配慮や持続可能性が、地球・地域社会への責任として言語化されているか?
⬜︎ 「地域性」や「コミュニティとの連携」が表現され、鉄道が地域社会に根ざした存在であることが伝わっているか?
【 個性の抽出と事例による発想のチェック 】
⬜︎ ブランドステートメントに独自の視点や物語性があり、差別化を図れているか?
⬜︎ 利用者の感情に響くような情緒的表現が含まれているか?
⬜︎ ブランドの大義や未来志向が響くメッセージになっているか?
【 社内浸透と日常活用のチェック 】
⬜︎ ステートメントが、一貫した社内共有の基盤となるように設計されているか?
【 社会との接点・発信力のチェック 】
⬜︎ 顧客・地域社会に対して「安心・快適・共感」を表現できる表現になっているか?

■まとめ
ブランドステートメントの具体的な開発事例について述べてきましたが、一番大切なことは、ブランドステートメントが顧客に与えるインパクトの大切さを理解し、魅力的なブランドステートメントを作らなければならないということです。ブランドステートメントを安易に考え何となく作ってしまうと、効果を期待できないだけではなく、逆にブランドイメージを低下させてしまいます。企業は、ブランドのビジョンや理念を伝えることのできるブランドステートメントをしっかりと考え掲げていくことが重要なのです。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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