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[ ブランド戦略 ]

ブランド戦略から考える企業メッセージとは?

新型コロナウイルスの蔓延により、生活者の暮らしは制限され、企業にも大きく影響しはじめています。このようなとき、主体としての企業はどうあるべきなのでしょうか。そしてビジネスはどうなっていくのでしょうか。生命を直接護るものや、それに付帯したもの以外は企業は発信を慎むべきだという意見があります。しかし企業が何かを伝えることや、従来どおりにビジネスし経済活動を続けていくことは、本当に不謹慎なことなのでしょうか。深刻さを増す海外から、そのヒントとなりそうな一つのムーブメントが発信されました。


■ いま人々が、未知のウイルスに対してできること

アジアに端を発したと言われている今回の新型ウイルスは、未だその全貌には不明な点がことが多いとされています。精度の高い検査キットが一般化することですら数ヶ月程度、治療薬には年単位の開発時間が必要だと言われています。生活者の中には、万一を考えてのマスクすら充分に確保できない人がいるというのが現状です。そうした中でも、これ以上のウイルス拡大を防ぎ、自己感染をも防ぐことにつながるであろうことが、少しずつですが分かってきました。その一つが「一人ひとりの間隔を充分にとる」という、濃厚接触を避けた行動(ソーシャルディスタンス)です。医学的なエビデンスのとれているこのような情報は、正しい情報として一刻も早く共有されていくことが重要であるとされています。こうしたことは国や行政の主導に任せておけば良い、という考えかたの企業があるとすれば、残念ながらその役割を終えていくことになるでしょう。
(※ソーシャルディスタンス:疾病に感染するリスクを低減する方策として、他人と1.8メートルの距離を保つこと)

■ 海外から発信されはじめた、企業としてのメッセージ

新型ウイルス対策のための新しい習慣、ソーシャルディスタンス。国や行政に比べ、周知のスピードや受け止められるインパクトの強さで民間企業に優るものはないでしょう。グローバル企業と言われる大手の企業を中心に、新しい習慣のコモディティ化するためのキャンペーンが展開されはじめました。それは、自分たちのアイデンティティであり、最大の資産とも言える企業の公式ロゴマークを利用するというものです。

■ 企業メッセージと展開事例

[ 出典 ] McDonalds Face Book Pageより

マクドナルド|McDonald’s

ファストフード最大手のマクドナルド社のブラジル法人は、フェイスブック上で同社のロゴの黄色いアーチが2つに分かれている画像を掲載しました。統括する広告会社の説明によれば、今はお客様との間に一定の距離が生まれてしまっている状況であるが、両者は“いつでも一緒にいられる”ことを表したものだということです。ビジネス面でも、ウイルスの感染封じ込めの取り組みとして一部の店舗を閉鎖したり、イートインを中止し持ち帰りのみや、ドライブスルーを通じたメニューの提供を行っています。こうした動きはグローバル企業らしく各国の裁量が許されているようで、チェコ共和国のマクドナルドのフェイスブックは、アイコンを企業ロゴがマスクをつけた姿とし、新型コロナウイルス下において社会のために活動する職業に就いている人々へ商品を提供するなどの支援を表明しています。

[ 出典 ] cocacola-hashtag på Twitterより

コカ・コーラ|Coca-Cola

アメリカの大手飲料メーカーであるコカ・コーラ社では、外出制限で閑散としてしまっているニューヨークのタイムズスクエアの広告媒体に、文字間隔が大きく空いた特別バージョンのロゴを使用したそうです。企業ロゴの直下には、「Staying apart is the best way to stay united.(間隔を空け続けることが、繋がり続ける一番の方法)」というメッセージがコピーライティングの技術をもって書かれています。独り相撲になりがちな企業としてのメッセージの発信ですが、企業ロゴという聖域とも言えるものを用いて体現することで、受け手側の納得度やイメージの向上にも影響してくると言えるでしょう。

[ 出典 ] kappa instagramより

カッパ|Kappa

イタリアのスポーツ用品専門ブランドのカッパ(Kappa)は、同社の公式インスタグラム上で一時的に変更されたロゴマークをポストしました。男女が背中合わせとなっているロゴマークのデザインは、スポーツ用品店ではよく見られる有名なものです。この男女は「OMINI(オミニ)」と呼ばれ、団結力とチームスピリットを表現したものとされています。変更されたロゴマークは、この男女の間が離れたものになっています。なお、この件に関しては、日本国内でKappaブランドを展開するフェニックス社の担当者の説明として、「今イタリアは一人ひとりが距離を取らないとならない。社会的危機の中で、個人個人が距離を取ることの重要性を普及させるためにロゴを変化させた。ただ、離れていても一緒にいようという意味も含まれている」とのコメントを出しています。新型コロナウイルスにもチームプレーで立ち向かっていこうという、強いリーダーシップを感じるメッセージです。

[ 出典 ] Audi Twitterより

アウディ|フォルクスワーゲン

ドイツの大手自動車メーカーもアクションを起こしました。それぞれの自社ロゴマークを変更したものをTwitterにアップし、ソーシャルディスタンスの習慣化を後押ししています。アウディ社は重なり合う「フォーシルバーリングス」のエンブレムを切り離す変更を施しました。生活者に外出を控え、距離を保ち、健康であり続けるための行動を促すことをメッセージしています。特筆すべきは、このキャンペーンのために動画を作成していることです。フォーシルバーリングスが離れまた重なり合うという時間をかけた動きの中で、世界が団結してこの危機を乗り越えましょうと発信しています。アウディ社のキャンペーンは主要な言語にトランスレートされながら、#AudiTogeterのハッシュタグと共に展開されています。また、アウディ社を傘下とするフォルクスワーゲン社もこの動きに同調しています。円の中にデザインされたVとWが美しくならぶ、あの有名なロゴマークも、VとWとの間隔が空けられソーシャルディスタンスの習慣化を促すものとなっています。

[ 出典 ] adsoftheworld.comより

ロゴマークの変更はしないまでも、同じくソーシャルディスタンスのキャンペーンを展開しているブランドがああります。アメリカのスポーツ用品大手のナイキです。ナイキ社は、ロゴマークの変更こそしていないものの、有名スポーツ選手のSNSに現れては自宅などで過ごすことを推奨するポストを続けているそうです。

[ 出典 ] WWFジャパンtwitterより

世界自然保護基金|WWF

世界約100ヵ国で活動する環境保護団体の世界自然保護基金も、ロゴマークを変更するものとは違うアプローチで、ソーシャルディスタンスの周知を働きかけています。世界動物保護基金はTwitterをつかい、この行動に賛同しています。表現方法についても、極めて世界自然保護基金らしいものとなっています。ソーシャルディスタンスの理想的な距離は約2メートルとされていますが、その2メートルという間隔について、動物を例にシリーズ化したものとなっています。例として挙げられているのは、ジャイアントパンダ、オサガメ、ホッキョクグマ、キングペンギンなどの、レッドリストに掲載されている絶滅を危惧されている動物たちです。生活者から、なぜもっと一般的な動物を挙げないのか、全く距離感が沸かない、などと反応されることは想定内。むしろそれを狙うことで自分たちの活動にも注意を向けるという、SNSの理想的な使い方をであると言えるでしょう。

■ 企業は社会情勢に応じてブランディングできる

こうした海外企業の動きが、賛否両論を巻き起こしていることも確かなことです。否定的に見る人々は、人命の関わることへのアクションとしては、事態を軽く見すぎているのではないかと言っています。肯定的に見る人々は、企業の即時性と柔軟性や、言語を超えても意味が理解できるクリエイティブ性について評価をしています。どちらの側面にも一理があり、こうした議論の種となることさえも意義のあることだとも言えるでしょう。しかしこうした企業の活動は、社会全体からすれば好意的に受け入れられるでしょう。どの企業のメッセージも、意図するところは社会の健全化の回復であるからです。社会との接点を持つことは、これからの企業ブランディングには欠かすことのできない要素となっていくでしょう。

■ まとめ

社会情勢を踏まえた企業メッセージが、世界のあちこちから同時多発的に発信されました。それぞれのアクションは、各企業の性格やスタンスを巧く表現したものとなっています。ニュースメディアやSNSでも拡散されることになりました。これに気づいた生活者は、これから各企業のロゴマークの載った商品やサービスに触れる度、今回のキャンペーンを思い出し提供される商品やサービスに親密さと信頼性を感じることでしょう。ビジネスを見えないチカラで後押しするもの。それが企業におけるブランディング活動です。硬直しがちな社会情勢の中でもできることはある。ここに、企業ブランディングのヒントがあったように感じます。

[ 引用 ] CNNより、中日スポーツより

株式会社チビコ今田佳司ブランディングディレクター

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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