
[ ブランディングデザイン ]
「見た目だけ」に走るブランドデザインの落とし穴
ブランドデザインは、単なる「見た目の美しさ」ではなく、企業の理念や価値を視覚的に表現し、顧客との信頼関係を築く重要な手法です。しかし、見た目だけを追求し、戦略や目的が不明確なデザインは、ブランドの信頼性を損なう可能性があります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、「見た目だけ」に走るブランドデザインの落とし穴について、具体的な事例や戦略的な視点を交えながら詳しく解説します。
■「オシャレなだけのデザイン」の危険性

【 見た目だけ良ければ売れるという誤解 】
美しいデザインが必ずしも売上に直結するわけではありません。見た目を整えることに注力しすぎると、商品やサービスの本質的な価値が伝わらず、顧客の購買意欲を損ねることがあります。例えば、パッケージデザインに凝りすぎて価格が上昇し、顧客が離れてしまうケースもあります。デザインはあくまでブランドの価値を伝える手段であり、戦略的な思考との一貫性が重要です。
【 流行ばかりを追うデザインのリスク 】
トレンドを追うことは重要ですが、流行に流されすぎるとブランドの独自性を失う恐れがあります。例えば、ミニマルデザインが流行しているからといって、すべてのブランドに適用するのは不適切です。ブランドの核となる価値やメッセージが伝わらないデザインは、顧客に混乱を与え、信頼を損なう可能性があります。流行を取り入れる際は、自社のブランド戦略と整合性があるかを慎重に検討する必要があります。
【 誰に向けたブランドなのかを見失う瞬間 】
デザインを進める過程で、ターゲットとなる顧客像を明確にしないまま進行すると、誰にも響かないデザインが出来上がってしまいます。例えば、若年層向けの商品に高級感を出すためにクラシックなデザインを採用すると、ターゲットとのミスマッチが生じます。ブランドデザインは、常に「誰に向けて発信しているのか」を意識し、ターゲットの嗜好や価値観に合わせた設計が求められます。
■ ブランドデザインに欠かせない戦略思考

【 企業理念・ビジョンとデザインの一致 】
ブランドデザインは、企業の理念やビジョンを視覚的に表現することです。例えば、サステナビリティを重視する企業が、再生可能素材を使用したパッケージデザインを採用することで、理念とデザインが一致し、顧客に強いメッセージを伝えることができます。デザインは企業の方向性を示す重要な要素であり、理念との整合性が求められます。
【 顧客インサイトを読み解くリサーチ力 】
顧客の潜在的なニーズや価値観を理解するためには、綿密なリサーチが必要です。例えば、アンケートやインタビューを通じて顧客の声を収集し、それをデザインに反映させることで、顧客との共感を生むことができます。リサーチによって得られたインサイトは、ブランドデザインの方向性を決定づける重要な要素となります。
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【 競合と差別化するためのポジショニング設計 】
市場には多くの競合が存在する中で、自社のブランドを際立たせるためには、明確なポジショニングが必要です。例えば、高品質を訴求するブランドは、洗練されたデザインや高級感のある素材を使用することで、他社との差別化を図ります。ポジショニングに基づいたデザインは、ブランドの独自性を強調し、顧客の記憶に残る存在となります。
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■ デザインは「伝える技術」である

【 見た目の美しさより「意味が伝わる」か 】
デザインの目的は、単に美しさを追求することではなく、伝えたいメッセージを効果的に伝えることです。例えば、警告サインは目立つ色や形状を用いて、瞬時に注意を伝えます。同様に、ブランドデザインも顧客に伝えたい価値や情報を明確に表現する必要があります。見た目の美しさばかり追わず、意味が伝わるデザインを心がけましょう。
【 一貫性のあるブランド体験を設計する視点 】
ブランドの印象は、ロゴやパッケージだけでなく、WEBサイトや店舗、カスタマーサービスなど、あらゆる接点で形成されます。これらすべての要素が一貫したデザインやメッセージを持つことで、顧客に統一感のあるブランド体験を提供できます。例えば、Appleは製品デザインから店舗の内装、広告に至るまで、一貫したミニマルなデザインを貫いています。
【 ロゴ・カラー・フォントの役割を理解する 】
ロゴ、カラー、フォントは、ブランドの個性や価値を視覚的に表現する重要な要素です。例えば、赤は情熱やエネルギーを、青は信頼や安定を象徴します。フォントも、クラシックなセリフ体は伝統や信頼を、モダンなサンセリフ体は革新やシンプルさを表現します。これらの要素を戦略的に選定し、ブランドのメッセージと一致させることが重要です。
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■ 見た目以上に「伝わる力」で成功したブランドデザイン事例

【 無印良品のブランドデザイン】
「シンプルで美しいだけ」ではなく、「これでいい」という思想に共感する生活者を世界中に生み出しています。流行に乗らず、価格、素材、機能、環境配慮を徹底的に考え抜いた商品哲学が、デザインと一致。店舗、商品、広告、すべてに統一された「無印らしさ」を貫き、世界で広く支持されるブランドになっています。ビジュアルだけでなく「思想」を伝えることに成功した好例です。
[ 成功ポイント ]
⚫︎ これでいい」という思想・価値観の明確化
不要なものを削ぎ落とし、本質的な暮らしを提案する哲学が全商品に一貫して貫かれている。
⚫︎ 企業理念と商品・空間・体験の完全な整合性
「感じ良いくらし」をテーマに、商品、店舗、広告、Webすべてが理念とズレなく設計されている。
⚫︎ 日本発ブランドをあえて「無印=ノーブランド」と定義した逆転戦略
ブランドを主張しないことをアイデンティティ化し、グローバルで「らしさ」を確立した。
⚫︎ 素材・製法・価格・環境配慮に対する徹底した説明責任
単なる見た目の良さではなく、どう作られ、なぜその価格なのかを誠実に開示し、顧客の共感を得ている。
⚫︎ 生活者目線に立った商品企画と顧客参加型の開発姿勢
顧客の声を反映した商品改善や、顧客参加型ワークショップなど、ユーザーとの共創文化を築いている。

【 IKEAのブランドデザイン 】
おしゃれな北欧デザインだけでなく、「誰もが手に届く価格」「自分で組み立てる体験」「ストア自体がショールームとして機能する導線設計」など、商品を購入するまでの体験設計が緻密。見た目だけでは語れない「生活提案型ブランド」として、世界中の家庭に新しい暮らし方を届けています。
[ 成功ポイント ]
⚫︎ 誰もが手の届くデザイン」を実現するビジネスモデルの徹底
自分で運び、組み立てることにより、高品質・低価格の両立を可能にし、世界中で受け入れられている。
⚫︎ ショールーム一体型ストアによる「暮らしの疑似体験」提供
部屋ごとにコーディネートされた空間を歩くことで、暮らしの具体的なイメージを喚起させる店舗設計。
⚫︎ 来店体験をレジャー化し、家族や友人と楽しむ「場」として設計
レストラン、キッズスペース、長時間滞在を促す導線設計により、単なる買い物から体験に昇華。
⚫︎ サステナビリティを押しつけず「日常の選択肢」として提案
リサイクル素材、再生可能エネルギー活用、商品回収サービスなど、環境配慮を取り入れさせている。
⚫︎ グローバル共通のブランドアイデンティティとローカル対応力の両立
どの国でも「IKEAらしさ」を守りつつ、地域の暮らしや文化に合わせた品揃え・サービスを展開。

【 Dysonのブランドデザイン】
「吸引力の変わらない掃除機」で有名なダイソンは、無駄な装飾を排し、技術そのものをデザインの一部として見せることで、性能=美しさを体現。見た目ではなく「機能」を徹底的に伝える戦略で、価格帯が高くても熱狂的なファンを獲得。
[ 成功ポイント ]
⚫︎ テクノロジーそのものを「デザイン」として打ち出す戦略
機能を隠さず見せる設計で「高性能=美しい」という新しい家電の価値観を確立。
⚫︎ 「吸引力」「羽なし扇風機」など分かりやすい機能訴求
誰でも理解できる明快な機能メリットを軸にしたマーケティングで、技術価値を生活者に伝えきった。
⚫︎ 製品カテゴリそのものを塗り替える技術革新型ブランド
「掃除機」「ドライヤー」「空気清浄機」など、既存市場にイノベーションを起こし続ける存在。
⚫︎ プロダクトとブランドストーリーの強力な一体化
創業者ジェームズ・ダイソン自身が技術へのこだわりを語ることで、ブランドへの信頼と共感を醸成。
⚫︎ 価格競争に巻き込まれず「技術ブランド」として確立
安さを売りにせず、高価格でも「選ばれる価値」を示し続け、高付加価値市場を独占的にポジション確立。

【 BALMUDAのブランドデザイン】
「トースターでパンをおいしく焼く」という、単なる機能ではなく「最高の朝食体験」を提案したストーリー設計が支持された家電ブランド。美しいデザインだけでなく、体験価値を丁寧に言語化し、共感を呼んでいます。
[ 成功ポイント ]
⚫︎「機能説明」ではなく「体験ストーリー」で共感を獲得
最高の朝食を、家庭で。という物語設計を前面に打ち出し、機能より先に生活の豊かさを想像させる。
⚫︎「パンを焼く」以上の情緒価値提案に成功
単なる家電性能訴求ではなく、食卓の幸せ・時間の贅沢など、感性に訴える価値を明確にしている。
⚫︎ デザイン×体験×価格戦略で高価格帯市場を創出
価格や機能で競争するのではなく、デザインと体験を重視する層を狙ったポジションを確立。
⚫︎ 創業者自らが「想い」と「開発背景」を発信
創業者が「なぜこれを作ったか」をストーリーとして発信し、ブランドへの信頼とコミュニティを形成。
⚫︎ 世界観を統一した製品ラインナップ展開
トースター、ケトル、ランタン、スピーカーなど、全てにBALMUDAらしい世界観・美学を貫いている。

【 JINSのブランドデザイン】
メガネを「ダサいもの」から「誰もが気軽に選べるファッションアイテム」へと認識を変えたブランド。ブルーライトカットや花粉カットなど機能性訴求と、安価・短納期・スタイリッシュな体験を提供し、新しい市場を開拓。
[ 成功ポイント ]
⚫︎ メガネ=高額・専門店という常識を覆した価格破壊戦略
メガネは9,000円均一、レンズ代込み・即日受け取りを打ち出し、メガネを気軽な日用品へと認識を転換。
⚫︎ 機能×ファッションで新しい選択基準を提案
ブルーライトカット、軽量素材など機能性とデザインやカラーバリエーションのファッション性を両立。
⚫︎ JINS SCREENでメガネ市場の拡張に成功
視力矯正だけでなく目を守るという使い方を提示し、PC・スマホ時代にマッチした需要創出に成功。
⚫︎ オープンな店舗設計とUX(ユーザー体験)の革新
入りにくさを排除し、気軽に試せるオープン什器・セルフ選択型の売り場設計で新しい購買体験を実現。
⚫︎ ブランドストーリーを「体験」としてデザイン
JINS PARKやJINS BRAINなど、メガネ販売にとどまらず、ライフスタイル提案しファン化を促進。

【 Snow Peakのブランドデザイン 】
生命保険=難解・不透明というイメージを覆し、ネット完結型・分かりやすい言葉・社長自ら発信する姿勢で顧客との「対話」を重視。商品よりも「正直さ」「誠実さ」が伝わるブランドとして差別化に成功。
[ 成功ポイント ]
⚫︎ 製品ではなく自然と人をつなぐライフスタイルを提案
人間性を回復するためのアウトドア体験というブランドビジョンを前面に打ち出し、共感を集めている。
⚫︎ ギアだけでなく「体験」「場」「時間」をデザイン
キャンプ場運営やイベント開催を通じ、商品を使うリアルな場を提供しブランド体験を重視している。
⚫︎ 高価格×高品質×生涯保証の「プレミアム戦略」
安さを売りにせず、一生使える品質を提供し、道具を超えた愛着を生み出すブランドを確立。
⚫︎ 都市と自然をつなぐアパレルやオフィス事業展開
アウトドアにとどまらず、都市生活者向けアパレルやキャンプオフィスなど、思想を拡張し続けている。
⚫︎ 創業地・新潟への地域貢献と一体化したブランド設計
本社やキャンプ場を新潟に置き、地域再生や雇用創出にも取り組み企業活動を超えて信頼を築いている。
■ 成果を出すブランドデザインの進め方

1. ブランドストーリーと世界観の構築
単なる商品説明や機能訴求では、顧客の心に深く刺さるブランドにはなりません。顧客が共感し、心から応援したくなるブランドを目指すなら、ブランド独自のストーリーや世界観を設計することが重要です。創業の背景、理念、挑戦する理由など、ストーリーを具体的に言語化し、デザイン全体にその世界観を反映させる。そうすることで、単なるモノ売りではなく「物語に共感して買う」という感情的価値を提供できます。
2. 顧客インサイトを読み解くリサーチ力
顧客の潜在的なニーズや価値観を理解するためには、綿密なリサーチが必要です。例えば、アンケートやインタビューを通じて顧客の声を収集し、それをデザインに反映させることで、顧客との共感を生むことができます。リサーチによって得られたインサイトは、ブランドデザインの方向性を決定づける重要な要素となります。
3. 競合と差別化するためのポジショニング設計
市場には多くの競合が存在する中で、自社のブランドを際立たせるためには、明確なポジショニングが必要です。例えば、高品質を訴求するブランドは、洗練されたデザインや高級感のある素材を使用することで、他社との差別化を図ります。ポジショニングに基づいたデザインは、ブランドの独自性を強調し、顧客の記憶に残る存在となります。
■ まとめ
ブランドデザインは「見た目が良いかどうか」だけで語るものではありません。大切なのは、誰に、何を、どう伝えるかという戦略思考と、顧客体験まで一貫して設計する姿勢です。流行や派手さに振り回されるのではなく、自社らしさを掘り下げ、顧客に真に響く「意味あるデザイン」を積み重ねることが、ブランドを長く愛される存在へと育てます。見た目だけでなく「伝わる力」を武器に、あなたのブランド価値を高めてください。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

【 ご質問、お打合せ希望など、お気軽にお問合わせください。】
– ブランド戦略からデザイン開発まで –
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