[ ブランド戦略 ]
CI(コーポレート・アイデンティティ)を変更する理由と注意点
CI(コーポレート・アイデンティティ)は、企業のブランド価値や理念を視覚的、言語的に表現する重要な要素です。しかし、時代の変化や市場環境の変動、顧客ニーズの変化などに応じて、CIを刷新する必要が生じることがあります。企業が成長や新しい戦略を展開する際に、既存のCIがそれにふさわしくなくなる場合があり、ブランドの再定義が求められるのです。ただし、CIの変更は、企業の根本的なイメージに直接影響を与えるため、慎重に行う必要があります。誤った変更は、消費者の混乱や信頼の低下を招く可能性があるため、計画的で一貫性のある戦略が重要です。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、CI(コーポレート・アイデンティティ)を変更する理由と、成功するための注意点について解説します。
■ CI(コーポレート・アイデンティティ)を変更する理由
企業がCI(コーポレート・アイデンティティ)を変更する理由には、多様なものがあります。一般的には、市場環境や顧客ニーズの変化、競合他社の動向、業績不振、新規事業参入やM&Aなどの事業戦略の変更、ブランド価値の向上、またはイメージ改善などが考えられます。
【 新たなブランドアイデンティティの確立 】
まず1つ目の理由は、新たなブランドアイデンティティの確立です。新規事業の開始や新商品の発売、新たな顧客層の獲得など、ビジネス戦略の変更に伴って、ブランドアイデンティティを一新する必要がある場合があります。この場合、CI(コーポレート・アイデンティティ)変更によって新しいブランドイメージを顧客にアピールすることができます。
【 ビジネス環境の変化に対応 】
2つ目の理由は、ビジネス環境の変化に対応するためです。例えば、業界全体のマーケットシェアの変化、社会情勢の変化、デジタル化の進展など、ビジネス環境が変化した場合、既存のCI(コーポレート・アイデンティティ)が時代に合わなくなることがあります。このような場合、CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更によって新しいビジネス環境に適応したブランドイメージを構築することが求められます。
【 M&Aや企業再編などによる組織変更 】
3つ目の理由は、M&Aや企業再編などによる組織変更です。異なる企業や事業を統合する場合、CI(コーポレート・アイデンティティ)を一本化することで新しい企業文化を醸成し、統合後の新しいビジョンを表現することができます。また、企業再編などによって事業領域が変化する場合、既存のCI(コーポレート・アイデンティティ)がその新しい事業領域に合わないこともあります。
■ CI(コーポレート・アイデンティティ)を変更する際の注意点
CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更とは、企業やブランドのロゴやコーポレートカラー、ブランドマーク、広告表現、キャッチコピー、企業理念や行動規範などの全体像を統一的に定めたものです。CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更を行う理由は、業績不振の改善、新規市場への参入、競合他社との差別化、社名変更やグループ再編成、M&A後のブランド統合などが挙げられます。しかし、CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更には注意すべきポイントがあります。
【 旧CI(コーポレート・アイデンティティ)の認知度とイメージの調査 】
CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更前のブランドイメージとCI(コーポレート・アイデンティティ)の認知度を調査することが必要です。特に、企業やブランドが誇ってきたイメージが失われないようにすることが大切です。変更後のCI(コーポレート・アイデンティティ)が旧CI(コーポレート・アイデンティティ)と比較してどのようなイメージを持たれるのか、また変更後のCI(コーポレート・アイデンティティ)がターゲット層にどのような影響を与えるのかを事前に把握しておくことが必要です。
【 変更内容の明確化とブランド価値の維持 】
CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更をする場合は、変更内容を明確化することが必要です。具体的に、ロゴの変更をする場合は、変更前と比較してどのような部分を変更するのか、その理由は何か、どのようなメリットがあるのかを明確に説明する必要があります。また、ブランド価値を維持するために、CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更後のロゴやマークが旧CI(コーポレート・アイデンティティ)との連続性を持つようにすることも大切です。
【 社内外への周知と従業員への教育 】
CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更は、社内外に周知する必要があります。CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更によってブランドがどのように変化するのかを従業員や取引先にしっかりと説明する必要があります。また、ブランド変更を受け入れるために、従業員に対してCI(コーポレート・アイデンティティ)の変更に対する理解を深めるための教育を行うことが重要です。
■ 具体的なCI(コーポレート・アイデンティティ)の変更事例
【 NASA|CI(コーポレート・アイデンティティ) 】
NASAは2019年に、宇宙飛行士が月面で着用する宇宙服の新しいデザインを発表しました。これに伴い、NASAのCI(コーポレート・アイデンティティ)も変更され、新しいロゴが発表されました。新しいCI(コーポレート・アイデンティティ)は、従来のロゴと同様に青地に白い「NASA」の文字が特徴ですが、フォントが変更され、立体感を強調するデザインになっています。この変更は、NASAの宇宙探査計画をより現代的なものにすることを目的としています。また、新しいCI(コーポレート・アイデンティティ)にはデジタルプレゼンスに関する改善も含まれており、新しいロゴはSNSなどのデジタルメディアにも最適化されています。NASAは常に時代に合わせた変革を行い、CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更もその一環として実施されています。
[ 出典 ] NASA公式HPより
【 湖池屋|CI(コーポレート・アイデンティティ) 】
湖池屋は、日本のお菓子メーカーであり、ポテトチップスやスナック菓子などが有名です。湖池屋は、2015年にCI(コーポレート・アイデンティティ)を一新し、ロゴマークやパッケージデザインを変更しました。新CI(コーポレート・アイデンティティ)は、「変わらない、という強い想い」と「新しいものに挑戦すること」を表現しています。従来のCI(コーポレート・アイデンティティ)の赤と白のカラーから、モノクロを基調としたデザインに変更され、見た目もシンプルでスタイリッシュになりました。このCI(コーポレート・アイデンティティ)変更により、湖池屋はより若い世代や海外市場にアピールし、新しい時代に対応することができました。しかし、一方で、従来のイメージを持つ消費者からの反発もあったとされています。
[ 出典 ] 湖池屋公式HPより
【 Mastercard|CI(コーポレート・アイデンティティ) 】
Mastercardは、2019年1月にCI(コーポレート・アイデンティティ)を変更しました。新しいCI(コーポレート・アイデンティティ)は、従来の「Mastercard」の文字と共に、赤と黄色の2つの円が重なり合うデザインとなりました。これは、Mastercardがクレジットカードのブランドとして知られるようになった1979年以来初めてのCI(コーポレート・アイデンティティ)変更でした。同社は、変更後のCI(コーポレート・アイデンティティ)によって、シンプルかつ現代的なブランドのイメージを表現し、グローバル市場での競争力を高めることを目指しました。CI(コーポレート・アイデンティティ)変更には、従業員や外部関係者への周知や説明の徹底、変更後のCI(コーポレート・アイデンティティ)の適切な管理と評価などの注意点があります。Mastercardは、変更後のCI(コーポレート・アイデンティティ)に対して、ブランドマネジメントの向上に取り組んでいます。
[ 出典 ] マスターカード公式HPより
【 Mercari|CI(コーポレート・アイデンティティ) 】
日本のオンラインマーケットプレイスであるMercariは、2019年にCI(コーポレート・アイデンティティ)変更を実施しました。旧CI(コーポレート・アイデンティティ)の赤いボックスを廃止し、新しいCI(コーポレート・アイデンティティ)は白と青を基調としたシンプルなデザインとなりました。同時に、ロゴマークも大幅に変更され、軽快なタッチのものになりました。CI(コーポレート・アイデンティティ)変更の理由は、グローバルでの事業展開を見据え、よりシンプルで認知されやすく、クリーンでモダンな印象を与えるデザインにすることでした。また、スマートフォンでの利用が増えている現代において、小さな画面でもクリアに表示されるデザインにすることも目的のひとつでした。
[ 出典 ] メルカリ公式HPより
【 Starbucks|CI(コーポレート・アイデンティティ) 】
Starbucksは2011年にCI(コーポレート・アイデンティティ)を変更し、従来の緑色と黒色のロゴを、シンプルな緑色のロゴに変更しました。新CI(コーポレート・アイデンティティ)のデザインは、”Siren”と呼ばれる二本足の人魚のアイコンに基づいています。この新CI(コーポレート・アイデンティティ)は、新しい店舗やメニューを導入することを目的として導入されました。また、CI(コーポレート・アイデンティティ)変更に伴い、コーヒーカップや店内のインテリアも変更され、全体的にシンプルで清潔感のある印象になりました。CI(コーポレート・アイデンティティ)変更は、ブランドの価値やイメージを維持するために必要でStarbucksの場合も、新しい店舗や新しい製品を展開する上で、より現代的で親しみやすいブランドイメージを作り出すことを目的として、CI(コーポレート・アイデンティティ)変更が行われました。
[ 出典 ] スターバックス公式HPより
■ まとめ
CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更理由には、新しい価値観・戦略の採用、M&Aなどの組織的変化、ブランドイメージの変更、グローバル展開などが挙げられる。しかし、CI(コーポレート・アイデンティティ)変更はブランド価値を損ねるリスクがあり、変更前の認知度やイメージを考慮した上で慎重に判断する必要があります。CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更後には、ブランド監視の重要性やブランドガイドラインの遵守、評価と改善の実施などが必要になります。適切な管理と維持を行わなければ、CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更によるブランド価値の損失が生じる可能性があります。CI(コーポレート・アイデンティティ)の変更は、企業のブランド価値やイメージを大きく左右する重要な決定です。慎重かつ適切な判断が必要であり、その管理と維持にも注意が必要です。
株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。
【 株式会社チビコ 】
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