
[ ブランド戦略 ]
【必読】行動指針の目的と効果とは
行動指針は、企業のビジョンやミッションを実現するために、社員がどのように行動すればいいかを示すものです。目的は、企業の理念を業務に根づかせ、社員が共通の基準で動けるようにすることにあります。行動指針が浸透している企業では、社員が迷わず行動でき、組織としての判断や動きがよりスムーズになります。結果として、企業文化が強まり、外に向けても一貫したブランドイメージを伝えやすくなります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、行動指針の目的や効果、そしてそれが企業の成長にどんな影響をもたらすのかについて、実際の経験をもとに詳しく解説します。
CONTENTS | 目次
■ 行動指針とは何か?

【 企業を支える土台として機能する 】
この記事では、企業ブランディングを「企業を支える土台」として捉え、体系的に整理していきます。理解を深めるために、ブランドの構造を段階的に考え、頂点にブランドビジョン(企業理念)を置き、次にブランドミッション(企業使命)、ブランドバリュー(企業価値)を広げ、その下をブランドプリンシプル(行動指針)が支える、そんな“ピラミッド+基盤”の形で整理していきます。ここで重要なのは、これらが上から下へ一方的に伝わるのではなく、相互に作用し合う関係にあるという点です。この関係性が崩れると、企業が発信したい意図が正しく伝わらず、ブランディング効果が十分に発揮されません。従業員が理念を自分ごととして理解できない状態では、商品やサービスの質にも影響が及びます。だからこそ、企業ブランディングは理念の共有から行動までをつなぐ、戦略的な視点で進めていくことが欠かせません。
■ 行動指針の5つの目的

1. 企業理念の具体化
行動指針は、企業理念を日々の行動に落とし込むための道しるべです。企業理念や価値観を社員が理解し、実際の業務で体現するためには、行動レベルでの明確な指針が欠かせません。たとえば「顧客第一主義」という理念を実践するには、丁寧な対応や迅速なフォローといった具体的な行動を明示することが有効です。こうした仕組みがあることで、理念が“言葉”で終わらず、“行動”として息づくようになります。
2. チーム内の一貫性を確保
行動指針があることで、社員が共通の基準で動けるようになり、チーム全体の一貫性が保たれます。組織が大きくなるほど、部署や個人によって判断がばらつきやすくなりますが、行動指針があると判断軸がそろい、業務やサービスの質が安定します。その結果、社内外での信頼が高まり、ブランドとしての印象にも良い影響を与え、長期的な組織の安定成長にもつながります。日々の積み重ねが力になります。
3. 顧客満足度の向上
行動指針は、顧客に対する姿勢や対応の質をそろえる効果もあります。たとえば、迅速なレスポンスや誠実な対応といった行動が明示されていると、社員が常に顧客を意識して動けるようになります。結果として、誰が対応しても一定の品質を保つことができ、顧客の信頼や満足度が高まります。こうした積み重ねがリピーターの増加につながり、ブランドへの愛着も強まっていきます。
4. 社員の成長とモチベーション向上
明確な行動指針があると、社員は自分に期待されている行動や役割を理解しやすくなります。それが成長への意識を高め、主体的に動くきっかけになります。また、行動指針を評価やフィードバックの基準に組み込むことで、努力や成果が正しく認められやすくなります。結果として、社員のモチベーションが上がり、個々の成長が組織全体の力につながっていき、前向きな挑戦が生まれやすい環境も育まれます。
5. リスク管理と倫理的な判断基準の提供
行動指針は、リスク対応や倫理的な判断にも役立ちます。たとえば、不正防止や法令遵守といった内容を明示しておくことで、社員が迷ったときの判断基準になります。危機的な場面でも、どう行動すべきかが明確であれば、早い対応やトラブル防止につながります。結果として、企業としての信頼を守りながら、健全で持続的な経営を支えることができ、社会からの評価向上にもつながります。
■ 行動指針の4つの効果

【 ステークホルダーにより深くコミュニケーションできる 】
多くの企業トップは、従業員がより自律的に行動できる組織を望んでいます。戦略的な行動指針の策定は、その実現に大きく役立つとされています。ここでいう行動指針は、従業員の行動を制限するものではありません。むしろ、判断や行動の自由度を高めるためのものです。従業員が自分の職域で迷いを感じたとき、上司からの指示を待つのではなく、この行動指針を道しるべにしながら自らのプランを立て、上長へ相談・提案できるようにする。そのような主体的な動きが、組織の文化として根付いていくことを目指します。
1. 組織全体の統一感向上
行動指針を明確にすることで、全社員が共通の基準を持って行動しやすくなります。各部署や個人が同じ価値観や目標を共有することで、業務やサービスの質が安定し、企業としての信頼性が高まります。一貫性のある対応が顧客からの評価を高め、ブランドイメージの向上にもつながります。
2. 社員の成長と自己啓発
行動指針は、社員にとって成長や自己啓発の目安になります。期待される役割や改善の方向性が明確になることで、自らのスキル向上に取り組みやすくなります。こうした積極的な姿勢が社員一人ひとりの成長を後押しし、結果として組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。
3. リスクの抑制と倫理基準の確立
行動指針は、判断や行動の基準を共有する役割を持ちます。不正行為の防止やコンプライアンスの遵守を促し、倫理的な判断ができる環境をつくります。結果としてリスク管理が強化され、企業としての社会的信頼が高まります。また、問題が発生した際にも、迅速で適切な対応がしやすくなります。
4. モチベーションと組織貢献意識の向上
行動指針は、社員にとって目指すべき方向を明確にするものです。自分の仕事が組織全体にどう貢献しているかを実感しやすくなり、仕事への目的意識やモチベーションが高まります。その積み重ねが、組織への共感や愛着を育て、健全で前向きな企業文化を支えていきます。
■ 行動指針開発の5つのポイント

【 どの職種・職能をもつ従業員にも響くものが理想の行動指針 】
統計的な裏づけというより、これまで多くの企業と関わってきた経験から感じることですが、経営トップの考えや企業ブランドの方向性が社内に十分に浸透していない場合、その原因のひとつとして「行動指針のつくり方」に課題があることが少なくありません。行動指針の設計は、企業ブランディング活動の成果を左右する重要な要素だと言えるでしょう。策定の際はいくつかのポイントを押さえておく必要があります。まず前提として、ブランドミッション・ビジョン・バリューとの整合性を欠かすことはできません。行動指針が経営トップの「こうあってほしい」という要望だけで構成されてしまうと、社員にとっては共感しにくく、実践につながりにくいものになってしまいます。
1. 明確で理解しやすい内容にする
行動指針は、誰もが理解しやすく実行できるものであることが大切です。専門用語や抽象的な表現は避け、日常の業務にすぐ活かせるような具体的な言葉で示します。そうすることで、社員が日々の行動の中で自然と指針を意識し、実践しやすくなります。結果として組織全体の質も安定していきます。
2. 企業の価値観や理念と一致させる
行動指針は、企業の価値観や理念を具体的な行動に落とし込んだものです。組織の方向性と一致していれば、社員は自分の行動が会社全体の目標にどう貢献しているのかを実感できます。全員が共通の価値観を共有し、それを行動で表現できるようになると、組織の一体感がより強まります。
3. 具体的で行動しやすい内容にする
理念だけで終わらせず、行動に移しやすい具体性を持たせることが効果的です。たとえば「顧客を大切にする」という抽象的な言葉ではなく、「顧客からの問い合わせには24時間以内に対応する」といった具体的な基準を設定することで、社員が動きやすくなります。こうした工夫が成果にも直結します。
4. 社内の声を反映させる
行動指針の策定には、経営陣だけでなく現場の社員の意見も取り入れることが重要です。実際の業務を担う社員の視点を反映することで、よりリアリティのある内容になります。社員自身が納得感を持って実践できる行動指針は、組織全体の一体感を高めます。自然と前向きな行動も広がっていきます。
5. 定期的に見直し、時代や状況に適応させる
企業の成長や社会環境の変化に合わせて、行動指針も定期的に見直す必要があります。時代や価値観の変化に柔軟に対応することで、常に現実に即した行動基準を維持できます。行動指針は、一度つくって終わりではなく、組織の進化とともに更新していくものです。こうした姿勢が企業力を高めていきます。
■ 行動指針の具体的な事例

【 Googleの行動指針 】
Googleが「10の事実(Ten things we know to be true)」をまとめたのは、会社設立から数年後のことです。この指針は、成長を続ける中でも変わらないGoogleの価値観を明文化したもので、「ユーザーに焦点を当てれば、ほかのことはすべて後からついてくる」といった考え方が代表的です。Googleではこのリストを定期的に見直し、今も内容が“事実”であり続けているかを確認しています。時代やテクノロジーが変化しても、根本的な理念を問い直し続ける姿勢がGoogleらしさを支えているのです。行動指針は単なるスローガンではなく、企業が大切にする価値観を日々の行動に結びつけるための道しるべとして機能しています。Googleの取り組みは、その好例といえるでしょう。
[ Googleが掲げる10の真実 ]
● ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
● 1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
● 遅いより速いほうがいい。
● ウェブでも民主主義は機能する。
● 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
● 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
● 世の中にはまだまだ情報があふれている。
● 情報のニーズはすべての国境を越える。
● スーツがなくても真剣に仕事はできる。
●「すばらしい」では足りない。

【 ローソンの行動指針 】
ローソンの行動指針「ローソンWAY」は、グループの理念を実現するために、社員一人ひとりが自分の役割を理解し、責任を持って行動できるように定められたものです。全員が同じ方向を向き、共通の価値観のもとで行動できるよう、基本となる5つのWAYを軸に構成されています。これらの内容には、「人を想う」「地域とともに歩む」といったローソンらしい考え方が反映されています。さらに、スーパーバイザー(SV)、マーチャンダイザー(MD)、リクルートフィールドカウンセラー(RFC)など、職種ごとに役割に合わせたWAYも設けられています。現場の社員が自分で考え、主体的に行動できるよう工夫されているのが特徴です。こうした取り組みによって、組織全体の一体感が生まれ、日々の業務を通じてブランド価値を高めることにつながっています。ローソンWAYは、単なる言葉ではなく、社員が実践を通じて企業文化をつくっていくための大切な指針となっています。
[ ローソンWAY ]
● マチ一番の笑顔あふれるお店をつくろう。
● アイデアを声に出して、行動しよう。
● チャレンジを、楽しもう。
● 仲間を想い、ひとつになろう。
● 誠実でいよう。

【 ANAの行動指針 】
ANAグループの行動指針「ANA’s Way」は、経営理念やビジョンを実現するために、全社員が大切にすべき考え方や行動の基盤をまとめたものです。社員一人ひとりが日々の業務でどう行動すべきかを考える際の道しるべとなり、組織全体の一体感を育む役割を果たしています。ANAでは、この指針に沿って努力と挑戦を続ける「人の力」と、職種や会社の枠を越えて支え合う「グループ総合力」を大切にしています。これらが合わさることで、ブランドの信頼性や価値を高め、ANAグループの成長を支えています。ANA’s Wayは、単なる理念ではなく、社員一人ひとりが日々の仕事を通じて実践することで意味を持つものです。その積み重ねが、ANAらしさを形づくり、社会から信頼される企業であり続ける力になっています。
[ ANA’s Way ]
● 安全(Safety)安全こそ経営の基盤であり、常に守り続けます。
● お客様視点(Customer Orientation)常にお客様の視点に立ち、最高の価値を生み出します。
● 社会への責任(Social Responsibility)誠実かつ公正に行動し、より良い社会に貢献します。
● チームスピリット(Team Spirit)多様性を活かし、真摯に議論し、一致して行動します。
● 努力と挑戦(Endeavor)グローバルな視野を持ち、ひたむきに努力し、枠を超えて挑戦します。
■ 行動指針は社外にも周知するべきか?

【 社外へ開示しないことで、社内向けに実直で率直な表現ができる 】
企業のWebサイトや会社案内で企業指針を公開する例は多く見られます。行動指針は、従業員が主体的に考え行動するための軸となるものです。では、なぜそれを社外にも示すのでしょうか。ひとつは、企業としての想いや姿勢を伝え、社員の仕事への考え方を外部にも共有するためです。行動指針を企業ブランドの一部と位置づけ、誇りをもって発信する企業もあります。その内容が信頼に値するものであれば、顧客や協力会社との関係は一層強まります。
もうひとつは採用面での効果です。行動指針には企業が社員に求める姿勢が表れており、応募前に企業の価値観を知ってもらうことで、入社後のミスマッチを防ぐことができます。結果として、組織と相性の良い人材と出会える可能性が高まります。一方で、社外に開示せず、社内に限定して率直な言葉で伝える方が効果的な場合もあります。公開するかどうかは戦略の違いであり、重要なのはその行動指針が「自社らしさ」をきちんと体現しているかどうかです。
■ 行動指針を公開しない企業があるのはなぜか
一方で、行動指針を社外に公開していない企業もあります。これは、大企業やM&A直後の企業などでよく見られます。事業領域が広い企業では、全社員が共感できる内容にするために、どうしても抽象的な表現になりやすく、外部に向けて発信しても訴求力が弱まる場合があります。また、合併や体制変更を経た企業では、まず「社会人としての基本」を改めて共有する段階にあることも多く、その内容を社外に示しても魅力的に映らないため、あえて非公開にしているケースもあります。
重要なのは、公開・非公開のどちらにも明確な意図と戦略があるという点です。非公開であっても、社内にはしっかりと行動指針が設定されている企業がほとんどで、その策定は組織の意識を整え、方向性を共有する大きな効果があります。公開の有無は最終的な判断ですが、行動指針をつくること自体が企業ブランディングに欠かせないプロセスです。そして常に、「その内容が本当に自社らしさを表しているか」を見直し続けることが何より大切です。

■ 行動指針に関するよくある質問
行動指針の策定や浸透に関しては、多くの企業が共通の悩みを抱えています。ここでは、実際に現場でよく寄せられる質問をまとめました。
【 よくある質問① 】
Q :行動指針とは何ですか?
A :行動指針は、企業のビジョンやミッションを実現するために、社員がどのように行動すべきかを具体的に示したガイドラインです。理念を日常業務へ落とし込み、組織全体で一貫した行動を促します。
【 よくある質問② 】
Q :行動指針の主な目的は何ですか?
A :社員が迷わず判断し、効率的に業務を遂行するための基準を提示することです。これにより組織のパフォーマンス向上や意思決定の迅速化が期待できます。
【 よくある質問③ 】
Q :行動指針がもたらす効果にはどんなものがありますか?
A : 社内で共通の行動基準が浸透することで、判断力の向上、業務効率の改善、社員同士の信頼関係強化、組織文化の醸成、そしてモチベーションの向上など、多くの効果が得られます。
【 よくある質問④ 】
Q :企業理念と行動指針の違いは何ですか?
A :企業理念は「なぜ存在するのか」という抽象的な価値観を示し、行動指針はそれを「どう実践するか」を具体的に示すものです。行動指針は理念を日常的な判断や行動に落とし込む役割を担います。
【 よくある質問⑤ 】
Q :行動指針を浸透させるにはどうすればよいですか?
A :シンプルで共感しやすい内容にすることが重要です。さらに、研修や朝礼で繰り返し共有し、評価制度や表彰制度と連動させることで、言葉だけでなく実際の行動に根付かせることができます。

■ 行動指針のチェックリスト
行動指針はつくって終わりではなく、運用と改善を重ねてこそ力を発揮します。ここでは、策定前から浸透・改善までを確認できる実践的なチェックリストを紹介します。
【 行動指針策定前のチェック 】
⬜︎ 自社のビジョン・ミッションが明確に定義されているか?
⬜︎ 提供価値や強みが具体的に言語化されているか?
⬜︎ 行動指針を策定する目的が明確になっているか?
【 行動指針の内容設計チェック 】
⬜︎ 行動指針が企業理念やブランドビジョンと一貫しているか?
⬜︎ 指針が社員にとって具体的で理解しやすい表現になっているか?
⬜︎ 顧客体験やブランド価値を高める行動に直結する内容になっているか?
【 浸透と運用体制のチェック 】
⬜︎ 行動指針が社内全体に共有され、認識が統一されているか?
⬜︎ 朝礼・研修・評価制度など、日常業務に組み込む仕組みがあるか?
⬜︎ 管理職やリーダー層が模範となって行動指針を体現しているか?
【 継続的改善のチェック 】
⬜︎ 行動指針の実効性を定期的に評価する仕組みがあるか?
⬜︎ 社員や顧客からのフィードバックを反映する体制が整っているか?
⬜︎ 事業環境やブランド戦略の変化に応じて内容を見直しているか?

■ まとめ
行動指針は、経営トップが従業員の行動を細かく縛るためのものではなく、むしろ一人ひとりの自律を促すために策定されるものです。そして、現場で働く従業員にとっては、行動指針を日々意識して実践することが、経営が描く“目指す姿”に近づくための道しるべとなります。その積み重ねが、業務の質の向上や企業への信頼・共感につながっていきます。また、行動指針を社外に公開するかどうか、あるいはそのタイミングについては、企業の戦略によって判断が分かれるところです。どちらの選択にも理由があり、企業ブランディングの一環として慎重に考えることが大切です。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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