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ブランドミッション

[ ブランド戦略 ]

ブランドミッションをあえて定義しない理由とは?

ブランドミッションは、企業ブランディングを考えるうえで、ビジョンとバリューのブリッジとなる重要な働きをするものです。企業がミッションを掲げることは、ブランドを正確かつ深く理解してもらえたり、社内やグループ内に統一した考え方を無理なく浸透させられるなど多くのメリットをもたらします。しかし実際には、ミッションのみを発信している企業などもあり、「企業ブランディングにミッションは本当に必要なのか?」という疑問をもたれる方々もいらっしゃることでしょう。今回の記事では、ブランドミッションを設定していない企業を事例として紹介しながら、ブランドミッションを用いずに行うブランディング活動についてや、ブランドミッションそのものの必要性について考察していきます。


■ ブランドミッションとは

ブランド構造とブランドミッション

[ 図 ] ブランディングにおけるブランドミッションの役割

ブランドミッションとは、ブランドが果たすべき使命であり、存在意義です。ブランドは何のために存在するのか。誰に対してどのようなブランド価値を提供するのかなどを明文化したものです。企業におけるブランドミッションはブランド活動の原動力となるものです。

■ ブランドミッションをあえて定義しない理由とは?

ブランド構造とブランドミッション

[ 図 ] ビジョンとバリューに乖離がある場合は多い

企業のブランディング活動において、ブランドミッション(企業使命)をあえて定義しない理由は、主に下記のようなことがあげられます。

[ 理由① ] 時間的・経済的なコストが抑えられること

ブランドミッションを定義するためには、役員や社員が集まり業務の傍らでディスカッションを重ねることが必要不可欠です。そのため、そこには多大なコストが掛かるのです。

[ 理由② ] 企業経営に自由度が増すこと

機能しないブランドミッションを定義することは、逆に事業や社会活動においての理解や共感が得られません。言葉と行動が合致しないことは、不誠実な企業であることを自ら発信していることと同じなのです。

[ 理由③ ] 既にブランド認知が高い場合にリスクがあること

よく知られている事業を持っているときも同様で、改めてのブランディング活動は社内外に混乱を招くリスクがあることを認識しておくべきなのです。

[ 理由④ ] 企業ブランドよりも他ブランドを優先すべき場合

企業としての考え方は最小限にとどめる方が、得られる成果が大きくなる場合があります。そのような場合は、商品やサービスなどのブランドを全面に打ち出すことも有効です。

■ ブランドミッションを定義しない事例

ブランドミッションという語句にとどまらず、ブランドミッションと同様の役割りをもつものが開示されていない企業の事例をご紹介させていただきます。

事例① セコム株式会社

SECOMブランドロゴ
セコム 企業理念ビジョン歴史

[ 引用 ] セコム/企業理念・ビジョン・歴史より

● 事業内容から、実践的で詳細な事象の開示でブランディングしている

セコム株式会社は一般的な企業ブランド体系をとらず、独自の語句や方法で自社グループ全体のブランディング活動を定めていることでも知られています。いわゆる企業理念にあたるものや、行動指針としての機能をもたせているものはありますが、企業使命の役割を持つものは見受けられません。その理由の一つは、企業理念に相当するものが細かく設定されており、企業使命としての意味合いを含むものとして読み解くことができることにあります。取締役最高顧問であり創業者でもある飯田氏の檄文は、企業としてのあるべき姿勢を説きながら、個々人が執るべき行動指針とも解することができる文章となっています。企業理念として掲げられていることが極めて具体的であることから、一般的なブランディング体系の様式をとる必要がないと判断されているということが推察できます。同社のケースからは、強いリーダーシップと情熱的な信条が浸透している場合は、企業ブランディング全体を包含する企業理念を設定することで機能的に問題はなく、ブランドミッションの設定は必ずとも必須とはならないということが分かります。

[ 事例② ] 株式会社アデランス

アデランスブランドロゴ
 アデランスの企業情報と経営理念

[ 引用 ] アデランス/企業情報・経営理念より

● 全ブランドで共有する企業理念とクレド(信条)で展開している

ウイッグや育毛・増毛サービスなど毛髪の総合グローバルリーディングカンパニーであるアデランス社の企業理念体系は非常にシンプルな構成となっています。主に社外へのコミュニケーションとしては、「経営理念」が端的で具体的な文章で語られているのみです。そして従業員には、ブランドの浸透を図るための「クレド(信条)」が設定されています。経営理念に比べると、クレドで規定されていることは遥かに細やかです。同社の事業を考えると、サービスそのものよりも施術する“人”に対しての高い品質を維持しようという思惑を感じます。また、ブランドミッションおよびその役割を担うものと考えられるものは設定・開示されていません。同社ではターゲットやサービス内容に応じた複数の商品・サービスブランドも所有していますが、どのプロダクトブランドでもコンセプトや理念などを設定していません。これは創業から50年を超えてもなお、主幹事業を毛髪や美容に特化していることが理由の一つであると考えられます。このように、将来的にも事業の内容を絞っていける企業は、ブランドミッションやバリューなどを設定せずに企業ブランドを構築していくことも検討できます。

[ 事例③ ] 清水建設株式会社

清水建設ブランドロゴ
 清水建設の企業情報と経営方針

[ 引用 ] 清水建設/企業情報・経営方針より

● 社是・経営理念ともにシンプルな形で開示されている

総合建設会社(ゼネコン)の一つである清水建設社の企業ブランド体系は、ドメスティックな一面とグローバルな一面とを兼ね備えた構成となっており、ブランドミッションについての規定はもっていません。こんにちではあまり見かけない「社是」として、道徳と経済の合一を旨とする“論語と算盤”を掲げています。これは清水建設の社歴に深く関わりを持つ渋沢栄一氏との関係性を示すものだと言えるでしょう。さらに「経営理念」と「SHIMIZ VISION 2030(長期ビジョン)」「中期経営計画」を設定していますが、ブランドミッションやバリューといったものは見られません。一方でグローバルな特徴としては、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)から、17の達成目標をSHIMIZ VISION 2030の基本に据えているなど、国際的で時勢的な協調性を大きく打ち出していることが挙げられます。同社のブランド体系からは、国際的に共有されている指標を用いることにより、ブランドミッションの大きな役割りの一つである企業としての使命や取り組むべきことなどを明確にすることができることが分かります。事業規模が大きい企業体などでは、一つのトレンドとなっていく可能性を持っています。

[ 事例④ ] 株式会社サカタのタネ

サカタのタネブランドロゴ
サカタのタネの企業情報

[ 引用 ] サカタのタネ/企業情報・トップメッセージより

● トップのメッセージにすべてを集約している

プリンスメロンの開発メーカーとしても名高いサカタのタネ社は、国内有数の種苗会社です。同社の企業理念体系もオリジナリティのある構成であると言えます。まず、企業理念などの体系と企業代表のメッセージは、一般的に別のものとして展開されますが、同社では極めて近い距離感をもって掲げられています。また、その要因の一つとも言えますが、企業理念についてもかなりシンプルなものとなっています。「社是」「経営理念」「スローガン」の3つで構成されていますが、いずれも語句が設定されているだけで補完する文章などは開示されていません。そして、それに続く形で「トップメッセージ」を掲げるスタイルをとっています。このトップメッセージには相応の文章量が充てられており、かつ、具体的に踏み込んだものとなっています。内容を踏まえると、企業によっては「ブランドミッション」として周知を図ることも充分に検討できそうです。同社のケースからは、ブランド体系のボリュームや、任期・交替時の対応、企業は誰のものかなど一定の条件や留意点はあるものの、CEOや企業代表・取締役陣からの“メッセージ”/“ご挨拶”の体を借りて、ブランドミッションやビジョンを語っていくという選択肢もあることが分かります。

[ 事例⑤ ] 任天堂株式会社

任天堂ブランドロゴ
任天堂の経営方針

[ 引用 ] 任天堂/経営方針より

● 任天堂社は、“特定の経営指標を目標として定めていません”と明記している

今や世界的にみても知らない人のいない企業であろう任天堂株式会社は、コンピュータゲームや玩具の開発・製造・販売からスマートデバイスやキャラクタなど知的財産コンテンツ事業までを手掛けている企業です。しかし、同社のブランド体系ついて詳しくご存知であるというかたは、ほぼいらっしゃらないのではないでしょうか。それもそのはずです。同社は、企業理念などのブランド体系自体を設定していないからです。もちろん、無計画に体系を敷かないのではありません。思い切ったアイデアを生み出すためには、周りに花にも無いほうが良い。社員が縛られて自由な発想・発言ができなくなる恐れが出てくる、などのことがその理由であると言われています。同社のケースからは、一部分しかないブランド体系から得られるものは殆どなく、逆説的な発想で『何も掲げない・制限しない』ということが企業としての理念/信条である、と割り切ってしまうことも可能であることが分かります。蛇足ではありますが、同社の採用情報には「お客様を良い意味で驚かせること、そして笑顔にすること」が同社の使命であると記されており、こうした箇所にはブランドミッションに通ずる考えかたを窺い知ることができます。

■ ブランドミッションは無くても良いのか?

ブランドミッションについては以前のブログにまとめていますが、企業の内外に向けた緻密なコミュニケーションを可能にするという意味でも、ブランドミッションを設定することの意義・必要性は非常に高いと言えます。

しかし、企業ビジョンのような端的なワンフレーズだけでは解釈の余地が大き過ぎ、真意を正確に理解させることは困難です。逆に、かなりの文字数を必要とする長文や代表者のコメントで充当する場合は、読み手が全文に目を通してくれることが前提となっていたり、代表者の交代により内容が差し替える必要性が出てきたりと、ブランドを育てていくために必要ま条件が多くなってしまいます。そのため、企業や事業、商品・サービスの認知に絶対の自信がある場合を除いて、企業としてのビジョン(志や大義)とバリュー(価値/価値観)の橋渡しとなるブランドミッションを設定することは、企業ブランドを体系化するうえで意義のあることだと言えます。

ただし、ブランディング活動の一つの戦略として、外部(Webサイトなど)には開示しないという方法も検討できます。インナーブランディングとして企業・グループ内でのみ通用する社内用語や、士気を高める強い語調などの表現を用いることにより、ブランド体系の浸透と実践を押し進めることが可能となるでしょう。

■ まとめ

ブランドミッションの無い企業のブランド体系について、事例を挙げてご紹介いたしました。ベンチマークとした企業は、それぞれ特殊な事情や背景を抱えていることが分かります。また、設定・開示しないことのメリットは、ごく限定されたものであることもお分かりいただけたでしょうか。企業の理念体系の開示目的は、企業への正しい認知と理解を促すことです。まずはブランドビジョンを頂点に、ミッションをはさみ、バリューおよび行動指針への落とし込みを図るほうが、企業理念体系の目的を果たすことができるでしょう。企業の理念体系への共感なくして一般生活者の支持を得られなくなっている現状を考えれば、ブランドミッションの設定と開示の重要性はさらに高まっていくと言えるでしょう。

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