[ ブランド戦略 ]
ブランドブックの開発プロセスと活用方法
ブランドブックは、企業のブランドアイデンティティを明確にし、一貫したメッセージやデザインを社内外で共有するための重要な冊子です。その開発プロセスでは、ブランドのビジョンや価値観、ターゲット市場を深く理解し、ロゴ、カラー、フォント、トーン・アンド・マナーといった視覚的要素や言語的な要素を整理して定義することが求められます。適切に作成されたブランドブックは、マーケティング活動や製品開発において活用され、ブランドの一貫性を維持し、消費者との信頼関係を築く手助けとなります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ブランドブックを開発するための具体的なプロセスと、その効果的な活用方法について詳しく解説します。
■ ブランドブックとは
【 ブランドブックの定義と役割 】
ブランドブックとは、企業やブランドの”設計図”とも言えるものです。そこには、大切にしている価値観や目指すイメージ、マーケティングの方向性、視覚的な表現方法など、ブランドに関わる重要な要素が包括的にまとめられています。具体的には、そのブランドならではの特徴や強み、象徴となるシンボルやロゴマーク、そして顧客とのコミュニケーションで使用するメッセージなどが、わかりやすく記載されています。このブランドブックは、ブランドの一貫性を保つための指針として機能し、社内外の関係者全員がブランドの本質を理解し、共有するための重要なツールとなります。さらに、ブランドの個性を明確に示すことで、市場での競争力を高めることにもつながるのです。
[ 画像引用 ] Creative Soupより
■ ブランドブックの開発プロセス
ブランドブックの開発は、
大きく3つのステップで進めていきます。
まず第一のステップは、ブランドの戦略的な位置づけを定めることです。ここでは、企業理念やビジョン、ミッション、大切にする価値観を明確にし、このブランドがどのような存在なのかを具体的に示していきます。次の第二ステップでは、ブランドブックに盛り込む要素を決定します。ブランドの個性や物語、想定する顧客層など、ブランドに関する情報を整理することで、統一されたブランドイメージを作り上げていきます。そして最後の第三ステップで、ブランドブックのデザインと制作を行います。デザインやレイアウト、使用する言葉や表現方法などを慎重に選び、ブランドの個性をより鮮明に表現していきます。このように、段階的なアプローチを取ることで、効果的なブランドブックを作り上げることができるのです。
1. ブランドの核となるビジョンやバリューの定義
ブランドブック開発の第一歩は、ブランドの使命(ミッション)、目指す未来(ビジョン)、そして大切にする価値観を明確に定めることです。これらは、ブランドの個性を形作る中心的な要素であり、ブック全体を貫く重要な指針となります。ブランドが向かう方向性や達成したい目標、社会に対して提供できる価値を具体的な形で示すことで、関わる人々が同じ方向を見据えて進んでいくことができます。特に、ブランドの一貫性を保ち、長期的な成長を実現するためには、根本となる価値観をはっきりと示し、組織全体で共通の理解を持つことが欠かせません。この段階で固められた価値観は、その後のデザインや伝えるべきメッセージを生み出す土台となっていくのです。
2. 現状のブランド分析とターゲットの明確化
ブランドブック開発の次のステップでは、ブランドの現状把握と市場分析を丁寧に行っていきます。現在のブランドイメージや市場での立ち位置、そして顧客層の特徴を深く理解し、ターゲットとなる消費者が求めているものや期待を明らかにします。これにより、ブランドブックに盛り込むべき重要な要素が見えてきます。この分析作業を通じて、競合他社との違いやブランドならではの強みを改めて確認することができ、ターゲット層の心に響くメッセージや視覚的な表現方法を導き出すことができるのです。このように、誰に向けて発信するのかを明確にすることで、より実践的で効果的なブランドブックを作り上げることが可能になります。
3. ブランド要素のデザインガイドライン設定
ブランドの一貫性を保つ上で欠かせないのが、視覚的な要素に関する明確なガイドラインの設定です。具体的には、ロゴの使い方や色使い、文字のフォント、表現のトーンやマナー、レイアウトなど、デザインに関わるすべての要素について、具体的な使用方法を定めていきます。このガイドラインがあることで、社内の担当者はもちろん、外部のパートナーも、どんな場面でも統一感のあるブランド表現を実現できるようになります。広告やパッケージ、WEBサイトなど、お客様との接点となるあらゆる場面で、このデザインガイドラインが活用され、ブランドの視覚的なアイデンティティを守る重要な基準として機能するのです。
4. 実用的な構成とレイアウトの作成
ブランドブックを開発する際には、実際の使用場面を想定し、使いやすさを重視したレイアウトとフォーマットを心がける必要があります。情報が項目ごとに整理され、視覚的な統一感のあるデザインで構成されていることで、必要な情報をすぐに見つけ出すことができるようになります。また、デジタル版と印刷物の両方を用意することも大切です。利用者の環境や状況に応じて、使い分けができるようにするためです。このように、見やすさと使いやすさにこだわることで、ブランドブックは単なる規則集ではなく、日々の業務の中で自然と手に取りたくなる実用的なツールとしての価値を持つことができるのです。
5. 最終デザインとデジタル化
フィードバックを反映して完成したブランドブックは、主にデジタルフォーマットで提供されます。社内のイントラネットやクラウドサービスを通じて閲覧できるようにすることで、社員が必要な時にすぐに確認できる環境が整います。デジタル版には大きなメリットがあります。内容の更新や改訂が必要になった際も、すぐに最新版を共有できるため、常に最新のガイドラインに沿った活動を行うことができます。一方で、印刷版も用意しておくと便利です。社員研修や社内外での説明資料として活用できるなど、デジタル版とは異なる場面で役立つからです。このように、両方の形式を使い分けることで、より効果的な活用が可能になります。
■ ブランドブック開発の注意点
ブランドブックを開発する際には、いくつかの重要なポイントに注意を払う必要があります。まず大切なのは、ブランドブックを固定的なものとせず、継続的に改善・更新していくという視点です。ブランドの戦略や取り巻く環境が変化した際には、それに合わせてブランドブックも更新することで、ブランドの一貫性を保ち、イメージの低下を防ぐことができます。また、ブランドブックの作成には相当な時間と労力が必要となります。そのため、プロジェクトマネージャーやコンサルタントと緊密に連携しながら、計画的に進めていくことが重要です。そして何より、内容は可能な限り簡潔で分かりやすいものにすることを心がけましょう。必要な情報を効率よく伝えることが、実用的なブランドブックの基本となります。
1. ブランドの核となるビジョンやミッションを明確にする
ブランドブックで最も大切な土台となるのは、ブランドが持つ価値観とミッションです。これらは、なぜそのブランドが存在するのかを示す根本的な要素であり、企業のあらゆる活動に一貫性を与える指針となります。この核となる価値観やミッションが明確に定められていないと、ブランドブックの内容があいまいなものとなり、社員や外部のパートナーが本質を理解しづらくなってしまいます。そのため、ブランドが提供する価値や目指す未来像をしっかりと定義することが重要です。これにより、ブランドブックの全ページを通じて一貫したメッセージを伝えることができ、組織内外での理解と浸透が進みやすくなります。このプロセスは、ブランドの個性を効果的に伝えるために欠かせないステップなのです。
2. シンプルで分かりやすい構成にする
ブランドブックを開発する際には、必要な情報をしっかりと盛り込みながらも、全体をシンプルで分かりやすい構成にまとめることが大切です。特に、初めてブランドブックを手にする社員やパートナーの視点に立って、各セクションを整理し、必要以上に細かい説明は避けることで、読みやすさが向上します。また、見た目の面でも、直感的に内容が把握できるよう、見出しや項目を整理したレイアウトを心がけます。文字だけでなく、視覚的な分かりやすさも重要なポイントです。このように、シンプルな構成を意識することで、関係者が必要な情報にすぐにアクセスできるようになり、日々の業務の中で活用される機会も自然と増えていくのです。
3. 柔軟性を持たせ、更新可能にする
ブランドブックは、企業の成長や市場環境の変化に柔軟に対応できるよう、更新のしやすさを意識して構成することが大切です。時代とともに変わる要素や、新しい戦略に応じて内容を見直し、必要な情報を追加したり修正したりできる余地を持たせておくのです。特にデジタル版として提供する場合は、こうした更新作業を素早く行うことができ、社員がいつでも最新の情報にアクセスできる環境を整えることができます。このように柔軟性を持たせることで、ブランドの進化の過程でも一貫性を保ちながら、長期的な視点でブランド価値を高めていくことが可能になります。
4. 社内外の関係者からフィードバックを得る
ブランドブックを実際の業務で活用できる実用的なものにするためには、社内の様々な部門や外部のパートナーから意見を集めることが大切です。作成したブランドブックを実際に確認してもらい、日々の業務で本当に役立つ内容になっているかどうかを検証するのです。現場で働く関係者からの意見を丁寧に取り入れることで、より使いやすく、実務に即したガイドラインに仕上げることができます。このように、フィードバックを収集し反映させていく過程を通じて、ブランドブックは現実の業務により適したものとなり、結果として組織全体で統一されたブランドイメージを構築することが可能になります。
5. ビジュアルと内容のバランスを保つ
ブランドブックでは、ブランドのイメージを効果的に伝えるために、視覚的な要素と文章のバランスを大切にする必要があります。文字ばかりが並んでいると内容が理解しづらくなるため、適切なイラストや写真、見やすいレイアウトを取り入れることで、直感的な理解を助けます。このように、視覚的な要素と内容が互いに補完し合うことで、関係者はブランドの意図をより理解しやすくなり、ガイドラインを実践する際の助けにもなります。さらに、見た目の美しさにもこだわったブランドブックは、社員やパートナーが自然と手に取りたくなるものとなり、長期的にブランドの一貫性を保つことにもつながっていくのです。
6. 目的やターゲットに応じてカスタマイズする
ブランドブックは、誰が使うのか、どんな目的で使うのかによって、内容をきめ細かく調整することが大切です。例えば、社内向けのものには企業理念や日々の業務における具体的な行動指針を詳しく記載し、外部のパートナー向けには、デザインや広告制作に必要なガイドラインを中心に構成するといった具合です。このように、使用する場面や対象に応じて、内容や表現方法を適切に使い分けることで、ブランドブックはより実用的なものとなります。その結果、関係者それぞれが必要な情報を効率よく理解し、実践できるようになります。こうした工夫により、どの場面においてもブランドの一貫性を保つことが可能になるのです。
■ ブランドブックの活用方法
ブランドブックは、企業やブランドの統一されたイメージを維持するための重要なツールです。これを活用することで、社内外の関係者全員がブランディングに関する情報を共有し、共通の理解を持つことができます。また、ブランドブックは効果的なコミュニケーションツールとしても機能し、関係者のブランドに対する理解をより深めることができます。新しいプロジェクトや商品開発に取り組む際には、このブランドブックがガイドラインとなり、一貫したブランドイメージを保つことが可能になります。特に重要なのは、ブランドブックを固定的なものとせず、継続的に改善・更新していくという視点です。市場環境や企業戦略の変化に応じて定期的に見直しを行うことで、企業やブランドの長期的な成長をしっかりと支えることができるのです。
1. 広告やプロモーションの基準として活用
ブランドブックは、広告やプロモーション活動において、視覚的な要素やメッセージの一貫性を保つための重要な基準となります。広告やキャンペーンごとにブランドの表現方法がバラバラでは、消費者に戸惑いを与えかねません。しかし、ブランドブックという明確な指針があることで、ロゴの使い方や色使い、表現のトーンが統一され、人々の心に残るブランドイメージを築くことができます。さらに、このブランドブックの基準に沿って作られる広告には、企業の大切にする価値観や理念が自然と反映されます。そのため、消費者がブランドに親しみを感じ、信頼関係を築きやすくなるのです。
2. 外部パートナーへの共有
ブランドブックは、デザイナーや広告代理店、販売パートナーといった外部の協力者とも共有することが大切です。これにより、社外のパートナーも、ブランドの方向性に沿った活動を展開することができるようになります。外部のパートナーが、ブランドの基準をしっかりと理解した上で制作やプロモーション活動を行うことで、お客様が体験するブランドの世界観に一貫性が生まれます。このように、ブランドブックを通じて外部の関係者とブランドへの理解を共有することで、ブランドイメージはより強固なものとなり、結果として消費者との信頼関係を深めることにつながっていくのです。
3. 社内研修や新入社員の教育に利用
ブランドブックは、社内研修や新入社員教育において、とても重要な役割を果たします。企業が大切にしている価値観やビジョンを、新しく仲間になった社員にわかりやすく伝えるための教材として活用できるのです。このブランドブックには、日々の業務やお客様との接し方に関するルール、望ましい表現方法なども具体的に示されています。これにより、新入社員は企業文化を早期に理解し、ブランドの基準に沿った行動や判断ができるようになります。このように、ブランドブックを教育に活用することで、組織全体のブランド力が高まり、社員一人ひとりの中にブランドへの共通認識が育まれていくのです。
4. 社内の行動指針やCSR活動の基準
ブランドブックは、社内での行動指針として、また企業の社会的責任(CSR)活動を進める上でも重要な役割を果たします。ブランドが大切にする価値観や果たすべき使命を社内に浸透させることで、日々の業務やお客様との関わりにおいて、一貫した対応が可能になります。また、社会貢献活動においても、ブランドブックの示す方向性に沿って取り組みを進めることが大切です。こうした一貫した姿勢により、ブランドの信頼性や企業の社会に対する真摯な姿勢が伝わり、結果としてブランドの価値をさらに高めることにつながります。
■ まとめ
ブランドブックは、ブランドが目指す方向性やメッセージを明確に示し、統一されたブランドイメージを築くための重要なツールです。作成にあたっては、ブランドの戦略的な位置づけを定め、必要な要素を整理し、効果的なデザインで仕上げていく必要があります。そして、完成したブランドブックを組織全体で共有することが大切です。また、定期的な見直しと更新の計画を立てることで、ブランドブックは常に進化し、ブランドの価値を高め続けることができます。重要なのは、ブランドブックが単なる規則集ではなく、企業の価値観やビジョンを伝える重要なコミュニケーションツールだという点です。社員やパートナー、そしてお客様を含むすべての関係者が、このブランドブックを通じてブランドの本質を理解し、一貫性のある関係を築いていくことができるのです。
株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。
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