
[ ブランド戦略 ]
中小企業こそ今すぐ取り組むべきリブランディング
「このままでは埋もれてしまう」そんな不安を抱く中小企業が、今すぐ本気で考えるべきなのがリブランディングです。売上が伸びない、採用が難しくなってきた。こうした状況は、ブランドが時代に追いつけていないサインです。リブランディングは、単なるロゴやデザインの変更ではなく、企業の存在意義を再確認し、ビジョンを明確にする戦略です。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、中小企業が今すぐ実践できるリブランディングの進め方を、成功事例を交えて具体的に分かりやすく解説していきます。
■ なぜ今、中小企業にリブランディングが必要なのか?

【 競争が激化する市場で勝ち抜くため 】
中小企業を取り巻く環境は、ますます激化しています。大手企業のDX投資、外資の台頭、オンラインでの比較。これらは、ブランド力のない企業にとっては不利なのです。価格や機能だけでは選ばれない時代において、”らしさ”を明確に打ち出すブランディングが最大の差別化なのです。
【 変化する顧客ニーズへ対応するため 】
市場が変われば、顧客も変わります。昔ながらの営業手法や商品説明では、今の消費者の心には響きません。デジタル世代は”体験”や”共感”を重視し、企業の考え方や姿勢を伝える必要があります。リブランディングは、こうした変化を捉え、自社の価値を再定義する機会です。
【 古いブランドイメージを払拭するため 】
長年続く企業ほど、無意識のうちに”過去の栄光”が足かせになることがあります。昔は強みだったものが、今では”古臭い”そんなギャップがブランドの成長を妨げます。ロゴやデザインの刷新だけでなく、考え方そのものを時代にフィットさせることが、今の市場では求められています。
■ リブランディングの始め方

【 自社の現状を冷静に“棚卸し”する 】
リブランディングは、まず”今の自分たち”を知ることから始まります。企業理念、自社商品、顧客の評価。これらを可視化し、現実と理想のギャップを知ることが重要です。第三者の声を取り入れることで、”思い込み”をやめ、より客観的なブランド像が見えてきます。棚卸しは”痛み”を伴いますが、それこそが変革の第一歩なのです。
【 社内外のステークホルダーと向き合う 】
ブランドとは、企業と社会との約束です。だからこそ、社内のスタッフや既存の顧客、仕入先や地域住民など、多様なステークホルダーの声に耳を傾ける必要があります。彼らが何を期待し、何に共感しているのか。それを丁寧に拾い上げ、ブランドに反映させることが、長く続くブランドになります。一方通行の発信ではなく、対話が重要なのです。
【 明確な「目的」と「ゴール」を設定する 】
リブランディングを単なる表層の”デザイン変更”で終わらせないためには、なぜやるのか、何を実現したいのかを明確にする必要があります。目的は「採用力強化」かもしれないし、「新市場への参入」かもしれません。目指すゴールが決まれば、施策に一貫性が生まれ、社内のブレもなくなります。目的なきリブランディングは、時間とコストを浪費するだけなのです。
■ リブランディングの進め方

1. チーム編成と社内を巻き込む
リブランディングは、経営陣だけのものではありません。現場の声、若手の視点からのインプットがブランドを高めます。社内にプロジェクトチームをつくり、意見交換のをしながら進めることが重要です。巻き込みのポイントは”対話”と”尊重”です。全員が当事者であるという意識が、ブランドにとって必要です。
2. コンセプトとブランドストーリーの再定義
ブランドの核となるコンセプトとストーリーは、どんな企業にも存在します。それを見つけ、言語化し、時代に合うカタチに再定義することが必要です。「なぜこの事業をしているのか」「誰のために存在しているのか」。この問いへの答えを考えることです。共感されるブランドには、必ずストーリーがあります。
▶︎ 関連記事:売れるブランドに共通する“ブランドストーリー”の作り方
3. デザイン・メッセージ・ツールへの落とし込み
コンセプトが定まったら、それを伝えるための表現に落とし込んでいきます。ロゴ、スローガン、Webサイト、パンフレット、営業資料など。どれもがブランドを伝える”接点”なのです。ここで重要なのは、”トーン&マナー”の統一感。どのツールにも一貫した世界観を表現することで、無意識にブランドを認識し、信頼が得られます。
▶︎ 関連記事:VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは何か?
▶︎ 関連記事:トーン&マナーの重要性と目的
■ リブランディングを加速させるポイント

1. 社員の理解と共感を得るための工夫
外見を整えても、共感がなければブランドは成立しません。ブランドは社員によって育てるものです。社内説明会、ワークショップ、ブランドブックなどを通じて、ブランドの意義や背景を丁寧に伝える仕組みが必要です。社員一人ひとりがブランドの”語り手”となったとき、本当の意味でブランドは機能し始めます。
2. 顧客とのタッチポイントをどう変えるか
リブランディング後に重要なのは、顧客との接点をどう変えるかです。Webのトーン、言葉づかい、SNSでの発信まで、一貫した体験設計が必要です。タッチポイントに”違和感”があると、ブランドはブレて見えます。すべての顧客との接点にブランドを浸透させること。それが、選ばれる理由なのです。
3. ローンチ後のブランド定着をどう進めるか
リブランディングは”完成”ではなく”始まり”です。公開後は、定期的な振り返りや社内での再共有を行い、ブランドが浸透するよう育てていく必要があります。リブランディングを「イベント」で終わらせないために、PDCAを回し、ブランド体験をアップデートし続ける姿勢が求められます。
■ 中小企業のリブランディング成功事例

【 Vermicular・バーミキュラ 】
無水調理鍋「バーミキュラ」で有名な愛知ドビーは、町工場から世界を目指すブランドへと変貌を遂げました。鋳物技術の継承と革新を両立させることで、料理の価値そのものを変えるブランドを確立。デザイン性と機能性の高さ、ブランドストーリーの丁寧な発信が相まって、高価格帯でありながら熱狂的なファンを獲得。製品だけでなく、ライフスタイル全体を包み込む世界観が際立ちます。
リブランディング成功の構造

[ プロダクトへの徹底したこだわり(ブランドの核)]
⚫︎ 鋳物ホーロー鍋の“ズレ”を極限まで排除
⚫︎ 無水調理という健康志向かつ味の深みを訴求
⚫︎ 日本の町工場発 → “テック×クラフト”のイメージ
[ ブランドストーリー:兄弟の情熱×日本の技術 ]
⚫︎ 創業者である兄弟が「町工場再生」と「最高の鍋」を目指した物語
⚫︎ パーパスドリブンなストーリーテリングが共感を呼ぶ
⚫︎ 「時間と手間をかけてでも“いいもの”を届けたい」→ ブランドへの信頼形成
[ ブランドデザイン:ミニマルで統一された世界観 ]
⚫︎ トンマナ:白背景 × 中間トーン × 温かみ
⚫︎ 料理 × 器 × キッチン全体で「理想の暮らし」を表現
⚫︎ ビジュアルからも「丁寧な暮らし」「心豊かになる体験」を想起させる
[ 拡張性のあるブランド戦略 ]
⚫︎ ライスポット、フライパンなど「周辺調理器具」に拡大
⚫︎ ブランドの約束(おいしさ × 心地よさ)を裏切らない製品設計
⚫︎ 統一されたトーンでファンの囲い込みに成功

【 OTA KNIT・おおたニット 】
群馬県太田市の地域産業を背景に、複数の地元ニット工場とファッションブランド「to touch」が連携して生まれた地域発のファクトリーブランド。70年以上続く産地の技術力を活かし、丁寧なものづくりを軸に高品質なニット製品を展開。太田ニット工業協同組合の支援のもと、統一されたロゴや世界観、ECを通じて、都市圏市場にもアプローチ。地域産業の再評価と次世代への継承モデルを提示している。
リブランディング成功の構造

[ 地域資源の価値を再構築:産業×ブランドの交点 ]
⚫︎ 太田市のニット産業は高度成長期に発展→近年は衰退傾向
⚫︎ そこに「再興」の視点を持ち込み、「伝統」から「革新」への転換
⚫︎ 地場資源を「新たな文脈」で編集し直した点が秀逸
[ 共創型ものづくり:地域全体をブランド化 ]
⚫︎ 地元ニッター、縫製職人、繊維業者などと連携
⚫︎ ものづくりの現場をブランドストーリーの一部に
⚫︎ まさに「産地の顔が見える商品」の体現
[ ブランドストーリー:産地から未来へ ]
⚫︎ 地元愛 × 日本品質 × 心地よさを感じるナラティブ設計
⚫︎ デザイナー山鹿直子氏を起用し、プロフェッショナル視点で統一感を演出
⚫︎ 「つくる人」「使う人」「支える人」すべてが関わる三方よし型ブランド
[ 販売・チャネル戦略:地方発 → 都市拡散 ]
⚫︎ ギフトショー(東京ビッグサイト)
⚫︎ POPUPショップ(百貨店やセレクトショップ)
⚫︎ 自社ECサイトでの販売

【 ツジセイ製菓株式会社 】
昭和テイストのどら焼きを製造していたツジセイ製菓は、老舗の味を活かしながら、若年層・海外市場に向けたブランド戦略を取りました。レトロな和菓子の魅力をモダンにしたパッケージと、海外向けのビジュアル展開により、訪日外国人や若い世代への認知を拡大。販路も百貨店からECへと広げ、ブランド体験を多様化しました。昔ながらの価値をどう現代化するか。その試みがブランド成長の鍵となっています。
リブランディング成功の構造

[ お土産文化の再定義:感動を贈る新しい価値提案 ]
⚫︎ お土産を単なる「モノ」ではなく、人と人をつなぐ感動の媒介として再定義
⚫︎ 贈る人と贈られる人の間に生まれるストーリー性と感情価値を重視
⚫︎ 「持ち帰る」だけでなく「記憶に残す」ことを目的とした体験型ギフトへ昇華
[ 共感を生むブランドストーリー設計:贈る感動を製造するおかしな会社 ]
⚫︎ 「おかしな会社」という言葉遊びと企業姿勢を融合させたユーモラスなネーミング
⚫︎ 「まじめにふざける」スタンスで、信頼と笑いの共存を可能に
⚫︎ ブランドパーパスを全社一体で“体現”する組織文化がある
[ 製品開発とデザインの融合:遊び心と品質の両立 ]
⚫︎ キャラクターや仕掛け付きなど、遊び心あるパッケージデザインで感情を動かす
⚫︎ 味・素材・安全性にも配慮し、“ふざけていても真面目”な品質担保を徹底
⚫︎ 商品自体が“語れる”ように設計されており、贈る楽しさと話題性を創出
[ 顧客体験(CX)の設計:開封時の驚きと楽しさ ]
⚫︎ 商品に触れた瞬間から始まる「物語」をUXの起点として設計
⚫︎ 開封時の驚き・笑い・共感が連鎖する感情トリガー型UX
⚫︎ 購入者と受け手の両方に異なる文脈の体験価値を提供する多層構造
■ リブランディングで失敗しないための注意点

1. よくある失敗とその回避法
リブランディングの落とし穴は、「見た目だけ」で終わることです。ロゴやWebを変えても、企業の本質が変わらなければ意味がありません。実をともなうリブランディングを行うには、理念・ビジョンとの整合性を重視しましょう。また、社内の理解を放置すると歪みが生じます。
2. 経営陣と現場の温度差をなくす
トップの思いだけが先行し、現場が「また何か始まった」と冷ややかに見ている状態では、リブランディングは失敗します。まずは現場の声に耳を傾け、なぜ変えるのかを”腹落ち”させることが重要です。ときには現場リーダーに発信の役割を任せ、”共に作る”空気をつくることも必要です。
3. 費用対効果を見極める視点
リブランディングはコストが掛かります。ですが、その投資は”費用”ではなく”資産”につながります。短期的な売上だけでなく、採用、社内教育、価格競争からの脱却といった長期的な価値を見据えて評価すべきです。定量指標と定性評価を両立させることで、より冷静に効果を判断できます。
■ まとめ
リブランディングは、企業の見た目を変えるだけではありません。それは、自社の存在意義を問い直し、社会との関係性を再定義し、未来への足場を築くことなのです。中小企業だからこそ、フットワーク軽く、スピーディーに進められる強みがあります。完璧を求めるのではなく、”今の等身大”から始めてください。ブランドは、つくるものではなく”育てるもの”。その第一歩を、今日から踏み出してみませんか。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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