
[ ブランド戦略 ]
化学業界のブランドステートメント開発と成功事例
技術だけでは選ばれなくなる。そんな危機感を抱く化学業界の企業が、取り組むべきなのがブランドステートメントの開発です。価格競争が激化し、環境意識の高まりや規制強化の波が押し寄せる中、「自社は何のために存在するのか」を明確に打ち出せなければ市場に埋もれてしまいます。ブランドステートメントは単なるスローガンではなく、企業の使命を言語化し、持続可能性・安全性・革新性といった価値を社会に示す戦略です。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、化学業界の成功事例を交えながら、ブランドステートメントを効果的に開発・活用する方法を具体的に分かりやすく解説していきます。
■ 化学業界のブランドステートメントとは?

化学業界のブランドステートメントとは、企業が社会や市場に対して「どんな価値を提供し、どのような使命を果たすのか」を明文化した言葉です。化学製品は広範な産業の基盤を支える一方、環境負荷や安全性が常に問われる領域でもあります。そのため、多くの企業が安全性、持続可能性、革新性といった価値観をステートメントに盛り込みます。例えば「環境に優しい化学ソリューションの提供」や「次世代の素材開発を通じた社会課題解決」といった表現が代表例。ブランドステートメントは、社内の意識統一や社外への信頼構築に不可欠な戦略ツールとして位置付けられています。
■ 化学業界のブランドステートメント基本要素

1. 安全性(Safety)
製品の製造・流通・使用における安全性の徹底。化学物質リスクへの責任ある対応。
2. 革新性(Innovation)
新素材や先端技術の開発によって社会課題を解決する姿勢。研究開発力と創造性の強調。
3. 倫理性と透明性(Ethics & Transparency)
製品の製造・流通・使用における安全性の徹底。化学物質リスクへの責任ある対応。
4. 社会貢献・生活価値向上(Social Contribution)
化学技術を通じて人々の暮らしを豊かにし、社会課題(環境・健康・エネルギー等)に取り組む姿勢。
化学業界のブランドステートメントには、業界特有の責任と価値が反映されます。まず「安全性」は不可欠で、製品の製造・流通・使用すべてにおける安心を約束します。次に「革新性」も重要で、最先端の技術開発によって社会課題の解決を目指します。さらに倫理性と透明性、公正な企業活動も信頼構築に不可欠です。これらの要素を軸に企業の使命と姿勢が言語化されます。
■ ブランドステートメント開発の3ステップ

1. 企業理念・価値観の明確化
まずは経営層や社員とともに、自社が社会に果たしたい使命、提供したい価値を言語化します。化学業界では「安全性」「持続可能性」「革新性」などが中心テーマになります。
2. ステークホルダー視点の反映
次に、顧客・パートナー・社会・社員など多様なステークホルダーの期待や求める価値観を把握します。アンケートやインタビュー、競合分析も有効です。
研究開発力と創造性の強調。
3. ブランドステートメントの策定と浸透
理念と期待を統合し、簡潔かつ力強い言葉にまとめます。完成後は、社内研修や広報活動、営業資料などあらゆる場面で一貫して活用し、企業文化とブランド価値を高めていきます。
■ ブランドステートメント開発の目的と効果
【 ブランドステートメント開発の目的 】
企業の存在意義や価値観を明確にし、それを社内外に一貫して伝えることにあります。化学業界では特に安全性・持続可能性・革新性といった要素を軸に、自社の使命を言語化することが信頼構築の鍵となります。
【 ブランドステートメント開発の効果 】
社員が企業の使命や行動指針を共有しやすくなります。また顧客・取引先・社会からの信頼向上にも直結し、価格競争以外の軸でブランド価値を高めることができます。さらに採用活動やCSR活動でも企業の姿勢を明確に打ち出せるため、優秀な人材の確保や社会的評価の向上にも貢献します。
■ 化学業界のブランドステートメント成功事例

三菱ケミカルホールディングス | KAITEKI Value for Tomorrow
三菱ケミカルホールディングスの「KAITEKI Value for Tomorrow」は、持続可能な社会の実現に向けた価値創造の姿勢を示すブランドステートメントです。「KAITEKI」は“快適”だけでなく、環境・社会・経済の調和を意味し、次世代に向けた新たな価値を創出する企業理念を表現しています。化学技術を通じて地球環境や社会課題の解決に貢献し、革新性と持続可能性の両立を目指す姿勢が明確に込められています。未来志向のブランドメッセージとして社内外に浸透しています。
[ 出典 ] 三菱ケミカル・企業情報より

旭化成グループ | 昨日まで世界になかったものを。
旭化成グループのブランドスローガン「昨日まで世界になかったものを。」は、独自の発想と技術力によって新しい価値を創造し、社会に貢献する姿勢を表現しています。化学、繊維、電子材料、住宅、医療と幅広い分野で革新を追求し、社会課題の解決に挑戦。既存の枠組みにとらわれず、未来志向のものづくりを推進しています。このスローガンは社員一人ひとりの創造的な挑戦を促すとともに、旭化成の企業文化とブランド価値を世界に発信する核となっています。
[ 出典 ] 旭化成・グループ理念より

住友化学 | 豊かな明日を支える創造的ハイブリッド・ケミストリー
住友化学のブランドスローガン「豊かな明日を支える創造的ハイブリッド・ケミストリー」は、多様な技術や知見を融合させ、持続可能な社会の実現に貢献する姿勢を表現しています。農業、医薬品、エネルギー、ICTなど幅広い分野において、化学の枠を超えたソリューションを創出。環境保全と経済成長の両立を目指し、革新と協創を推進しています。このスローガンは、住友化学の挑戦的な企業文化と未来志向の価値観を端的に示すブランドメッセージとして機能しています。
[ 出典 ]住友化学・企業情報より

日東電工 | Innovation for Customers
日東電工のブランドスローガン「Innovation for Customers」は、顧客の課題解決と価値創造を最優先に据えた革新志向の姿勢を表現しています。ニッチ市場や隠れたニーズに応える独自技術の開発に注力し、常に顧客の期待を超える製品やソリューションを提供。エレクトロニクス、自動車、医療、インフラなど多彩な分野で「顧客起点のイノベーション」を実践しています。このスローガンは、日東電工の柔軟性とスピード感ある企業文化を象徴する重要なブランドメッセージです。
[ 出典 ]日東電工・経営理念より

富士フイルムグループ | Value from Innovation
富士フイルムグループのブランドスローガン「Value from Innovation」は、革新(イノベーション)を通じて新たな価値(バリュー)を社会に提供するという企業姿勢を明確に示しています。写真フィルム事業から培った技術力を医療、材料、バイオサイエンス、環境分野へと展開し、社会課題の解決に貢献。既存技術と新しい発想の融合により、持続可能な成長と社会価値の創出を追求しています。このスローガンは、変革を恐れない富士フイルムの企業文化を象徴し、グローバルなブランド価値を高めています。
[ 出典 ]富士フイルム・企業情報より

日本化薬 | 世界的すきま発想。
日本化薬のブランドスローガン「世界的すきま発想。」は、大手が手掛けにくい“すきま”市場に着目し、独自の発想と技術で新たな価値を創造する企業姿勢を表現しています。医薬品、化成品、機能材料、防衛関連製品など幅広い事業領域で、ニッチで高付加価値な市場に特化したソリューションを提供。市場の見落とされたニーズを見極め、柔軟かつスピーディに応える開発力と挑戦的な精神がこのスローガンに凝縮されています。差別化戦略の象徴として社内外に浸透しています。
[ 出典 ] 日本化薬・企業情報より

デンカ | できるをつくる。Possibility of chemistry.
デンカのブランドスローガン「できるをつくる。Possibility of chemistry.」は、化学の可能性を追求し、社会や産業のさまざまな「できる」を創出する姿勢を表現しています。幅広い材料開発を強みに、医療・エネルギー・インフラ・環境分野などで高機能な製品と革新的なソリューションを提供。課題解決型のアプローチを通じて、未来志向の価値創造に貢献しています。このスローガンは、挑戦と進化を続ける企業文化を象徴し、社内外にブランドの方向性を強く打ち出しています。
[ 出典 ]デンカ・会社情報より
■ まとめ
化学業界のブランドステートメントは、企業の使命や価値観を社会に伝える重要な役割を担います。安全性・持続可能性・革新性を軸に、自社の存在意義や社会貢献への姿勢を明確に示すことで、顧客・取引先・社会との信頼構築に直結します。さらに、社員の意識統一や採用活動、ブランド価値向上にも効果を発揮。今回紹介した各社の事例からも分かる通り、言葉に企業文化や未来への意志が凝縮されています。変化の激しい市場環境だからこそ、自社のブランドステートメントを見直し、次世代に選ばれる存在となるための基盤づくりが今後ますます求められます。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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