
[ ブランド戦略 ]
ブランド担当者の実務ステップ |現場で成果を出す方法
ブランド担当者になったけど、何から手をつければいいのかわからない。そんな方のための実践ガイドです。ブランディングは一部の専門家だけの仕事ではありません。実際には、ブランドを体現し、顧客に届けるのは現場です。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ブランド担当者やブランドマネージャーとして現場を動かす立場の方に向けて、「何から始めるべきか」「どう進めればよいか」「どこまでやるべきか」 を初心者にもわかりやすく、具体的な手順とともに解説します。
■ ブランド担当者の役割とは?

【 経営と現場をつなぐハブ機能 】
ブランド担当者、あるいはブランドマネージャーの役割は何でしょうか。単にブランドロゴを管理したり、ガイドラインを整備したりする「クリエイティブ寄りの職種」と誤解されることがよくあります。しかし、ブランド担当者の真の仕事は 「経営層のブランド戦略」と「現場の実行」の間に立つハブ(橋渡し)となること にあります。ブランド戦略は、企業が「どう見られたいか」「どんな価値を提供したいか」という長期的な意図を定義します。一方で、実際に顧客と接するのは現場のスタッフであり、その現場こそがブランド価値を日々体現しているのです。このギャップを埋めなければ、ブランド戦略は机上の空論になってしまいます。
⚫︎ 翻訳者としての役割
経営層のブランド戦略や抽象的な理念を、現場が実務として理解し、行動に移せる形へ翻訳する。たとえば、接客マニュアルや商品開発の方針にブランド意図を落とし込む。
⚫︎ 浸透促進者としての役割
ブランド価値が組織全体に一貫して伝わり、行動として定着するよう促進する。トレーニング、ガイドライン運用、現場との定期的な対話などを通じて支援する。
⚫︎ 双方向のフィードバック収集者
現場で起きていること、顧客からのリアルな反応、ブランドの運用上の課題を経営層にフィードバックする。ブランド戦略そのものを進化させる材料を持ち帰る役割も担う。
▶︎ 引用:ブランドマネージャーとはどんな仕事?
▶︎ 引用:ブランドマネージャーとは? 気になる業務内容など詳しく解説
【 ブランドとは何か?を現場の視点から】
ブランドの本質は 「顧客の頭の中に蓄積された印象や信頼感」 そのものです。この「印象や信頼感」は、現場での体験を通じて形作られます。たとえば、どれだけ美しい広告が出ていても、店舗での接客が粗雑であれば、その瞬間にブランド価値は毀損します。逆に、広告では語りきれなかったブランドの信頼感が、現場の行動・サービス・対応を通じて伝われば、顧客の中にブランドへの強い共感が生まれます。このため、ブランド担当者は現場がブランドの意図を深く理解し、自分たちの日常業務にどう落とし込むべきかをしっかりとサポートする必要があります。
⚫︎ ブランドとはの理解
・見た目やデザインではなく、顧客や社会にどう思われるか
・商品・サービス・体験の積み重ねでつくられる無形資産
⚫︎ 担当者が目指すべき状態
・自分の言葉で説明できるようにする
・ブランドは顧客体験そのものだと語れるようにする
▶︎ 詳細記事:企業理念の重要性と浸透させるポイント
▶︎ 詳細記事:ブランドエクスペリエンスの重要性と成功事例
■ 実務スタート前に確認すべきこと

【 ブランド定義の整理 】
まず確認すべきは、「自社のブランドとは何なのか」を明確に整理することです。ブランドはロゴや色ではありません。「どんな価値を社会に提供したいのか」「顧客にどう思われたいのか」この ブランドの核心的な定義(ブランド・アイデンティティ) を、担当者自身がしっかり理解しておく必要があります。最低限、次の項目が言語化されているかを確認しましょう。
⚫︎ ブランド理念/ブランドビジョン(Why:なぜ存在するのか)
⚫︎ ブランドの提供価値(What:どんな価値を届けているか)
⚫︎ ブランドの人格・トーン&マナー(How:どんな態度・表現で価値を伝えるか)
▶︎ 詳細記事:ブランドビジョン(企業理念)の開発と展開事例
▶︎ 詳細記事:ブランドバリュー(企業価値)の定義と設定
▶︎ 詳細記事:トーン&マナーの重要性と目的
【 経営戦略との整合性チェック 】
次に確認すべきは、ブランドが 現在の経営戦略ときちんと整合しているか です。ありがちな失敗は、ブランドと経営の方向性がズレたまま動き出してしまうことです。たとえば、経営戦略では「プレミアム市場への注力」を掲げているのに、現場では「価格競争の意識」で動いていたら矛盾が生じます。ブランドは単なるデザイン戦略ではなく、事業戦略の一部であるべきなのです。
⚫︎ 経営層が今、どの市場/ターゲット層を狙っているのか
⚫︎ 提供価値や価格戦略はどう設計されているのか
⚫︎ ブランドの打ち出し方がそれと矛盾していないか
【 資産(ブランド資料)の棚卸し 】
最後に行うべきは、既存のブランド資産の棚卸しです。ブランド活動には、これまでに作成されたさまざまな資料やデザイン資産、表現ルールなどが存在します。これを正確に把握せずに新たな活動を始めると、二重作業やブランドの一貫性欠如が発生しやすくなります。
⚫︎ ブランドガイドライン(デザインルール/ロゴ使用規定/トーン&マナー など)
⚫︎ コピーライティング・メッセージ集
⚫︎ 過去の広告・販促物・Webコンテンツ
⚫︎ 社内向けブランド啓蒙資料(社内研修資料など)
⚫︎ 顧客向けブランドストーリーテリングの資料
▶︎ 詳細記事:ブランドガイドラインの作り方や構成内容と成功事例6選
▶︎ 詳細記事:ロゴガイドラインの目的や構成と開発事例
■ ブランド方針を社内に落とし込む

【 ブランド方針を共有・合意形成する 】
担当者がいくら素晴らしいブランド方針を考えても、経営層や関係部署の理解・合意がなければ絵に描いた餅になります。実務で最も大事なのは「自分たちで決めた」という納得感を、各ステークホルダーに持ってもらうことです。そのためには、決定事項を一方的に伝えるのではなく、議論の場を設けて「意見を反映させるプロセス」を設計することが重要です。
⚫︎ 共有・合意形成のポイント
・「決まったから守って」ではなく、みんなで決めた感覚を作る
・意見を反映できる場を用意し、対話を重ねる
・戦略レベル(経営層)と実行レベル(現場)でそれぞれ合意を得る
⚫︎ 担当者のアクション
・一方的に伝えるのではなく、対話・議論の場を設計
・現場に「自分ごと」として考えさせる問いかけを行う
・「全員のもの」という意識づくりをリードする
【 ブランドの共通認識を作るための説明資料・言葉を整える 】
ブランド方針を定めたら、それを社内外に伝える「言葉」と「資料」を整えることが次の実務です。担当者だけが理解していても意味がなく、誰でも同じように語れ、使える状態を目指します。まずは、ブランドの使命や約束、世界観を一言で表す「ブランドステートメント」や「タグライン」を作ること。さらに、誰でも理解しやすいように、ビジュアルや事例を交えた説明資料を準備しましょう。
⚫︎ 作成すべき主なツール
・ブランドステートメント・タグライン
・ブランドの使命・約束・世界観を伝える説明資料
・ビジュアル・事例を使ったわかりやすいガイド
⚫︎ 担当者のアクション
・専門用語を使わず、誰でも理解できる言葉で整える
・営業や開発でも使える「現場目線の言葉」を選ぶ
・資料だけでなく、伝え方・話し方の工夫も設計
▶︎ 詳細記事:ブランドスローガンを掲げる意味や目的と開発事例
▶︎ 詳細記事:ブランドミッションとは何か?定義と開発事例
▶︎ 詳細記事:VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは何か?
【 各部門が実行できるレベルまで方針を翻訳・具体化する 】
ブランド方針が決まっても「結局、現場は何をすればいいのか」が不明確では、実行にはつながりません。実務担当者には、抽象的な方針を各部門の行動に落とし込む翻訳力が求められます。たとえば、営業であればどんな提案時の言葉づかいやツールを使うべきか、カスタマーサポートならどんな対応姿勢を大切にするべきか、といった具体的な行動基準を示すことです。
⚫︎ 具体化のポイント
・「結局、現場は何をすればいいの?」を明確にする
・部門ごとの実務に置き換えて翻訳する
・一律ルールではなく、各部門・各業務ごとに具体化する
⚫︎ 担当者のアクション
・ワークショップや対話の場を設定
・現場が実際に使う言葉やツールに落とし込む
・「自分たちの工夫」を引き出し、全社に展開
■ 実務で使えるルール・ツールを整える

【 ロゴ・カラー・フォントなど基本ガイドラインをまとめる 】
ブランドの「見た目の一貫性」を担保するためには、基本的なデザインルールを明文化したガイドライン整備が必須です。ロゴの使い方、カラーコード、フォント指定、レイアウトルールなど、誰が使っても同じクオリティになるように、具体的でわかりやすいガイドを作りましょう。
⚫︎ ガイドラインに盛り込むべき要素
・ロゴの使い方(サイズ・余白・NG例)
・ブランドカラー(カラーコード・使用比率)
・フォント指定(和文・欧文)
⚫︎ 担当者のアクション
・「何がNG」だけでなく「どうすればOKか」を明示
・現場・パートナーが迷わず使える実用的ガイドを作る
・データ提供・管理方法もあわせて整備する
▶︎ 詳細記事:ロゴガイドラインの目的や構成と開発事例
▶︎ 詳細記事:ブランドカラーとは?設定方法とロゴの配色について
【 メッセージ例・トーン&マナー集を作成する 】
ブランドの世界観や価値観を伝えるには「言葉の使い方」が非常に重要です。ビジュアルだけでなく、発信するメッセージのトーンや言い回しに一貫性を持たせることで、ブランドの人格が顧客に伝わります。そこで、ブランドらしい言葉づかいの例や、避けるべき表現、シーン別のメッセージ例などをまとめた「トーン&マナー集」を作成しましょう。
⚫︎ トーン&マナー集に盛り込むべき要素
・ブランドらしい言葉づかい(例:やさしく、誠実に など)
・避けるべき表現や言い回し
・ブランド人格を伝える「言葉のトーン指針」
⚫︎ 担当者のアクション
・実際に使える言葉例をシーン別に用意
・現場や外部パートナーにも説明しやすい形式に整える
・マニュアルではなく「使えるツール」として設計する
▶︎ 詳細記事:一貫性のあるブランドメッセージを作るためのヒント
▶︎ 詳細記事:トーン&マナーの重要性と目的
【 社内外に配布する「使いやすい資料」や「FAQ」を用意する 】
どんなに良いガイドラインや方針を作っても、現場が「どう使えばいいかわからない」「質問しづらい」と感じれば活用されません。そのため、誰でもすぐに理解・活用できる「使いやすい資料」や「FAQ集」を用意しましょう。よくある質問や、使い方の事例、ダウンロードリンク、問い合わせ先などを1つの資料や社内ポータルにまとめると効果的です。
⚫︎ 用意すべきサポート資料・ツール
・使い方ガイド・FAQ集
・営業資料・提案書テンプレート
・名刺・メール署名・プレゼン資料フォーマット
⚫︎ 担当者のアクション
・「これさえ見ればわかる」資料を用意
・よくある質問を事前にまとめ、問い合わせを減らす
・資料・ツールの更新・周知フローを整える
■ 推進・運用を定着させるためにやること

【 社内説明会・ワークショップ・OJTで現場を巻き込む 】
ブランドは「決めただけ」では意味がなく、現場が「自分ごと化」して初めて力を発揮します。そのため、方針発表で終わらせず、社内説明会やワークショップ、OJT(実地指導)などを通じて、社員一人ひとりに“腹落ち”させる場づくりが不可欠です。特に、受け身で聞くだけの説明会ではなく、自分の言葉で語ったり、実際の業務に当てはめて考えたりできる「参加型プログラム」が効果的です。
⚫︎ 成功する現場巻き込みのポイント
・参加型・体験型プログラムにする(例:ロールプレイング、グループワーク)
・業務を例に考えさせる(例:自分の担当業務ならどう実践できるか話し合う)
・なぜ必要か、どう役立つかを対話する
⚫︎ 担当者のアクション
・受け身で終わらせない「参加型設計」
・現場目線・実務目線の対話を重視
・現場に足を運び、目線を合わせて伴走
【 ブランドチェック・運用サポート体制をつくる 】
ブランド運用は「一度決めて終わり」ではなく、日々の現場で正しく使われ続けることが重要です。そのため、作ったルールや資料が守られているか、現場で正しく運用されているかをチェックする仕組みが必要になります。たとえば、広告や販促物、営業資料などをリリース前に確認する「ブランドチェックフロー」を設けたり、担当者がレビュー役として相談を受け付ける窓口を作ったりすることが有効です。
⚫︎ 必要な運用サポート例
・ブランドチェックフロー(リリース前の資料・広告確認プロセス)
・相談窓口・レビュー体制(現場やパートナーが気軽に相談できる窓口)
・ガイドライン運用サポート(「これってOK?」にすぐ答えられる仕組み)
⚫︎ 担当者のアクション
・「守らせる」ではなく「支える」スタンスを徹底
・縛りではなく、安心して使える環境をつくる
・相談・チェックを負担にしない仕組みづくり
【 定期的なフィードバック・改善サイクルを回す仕組みを作る 】
ブランド運用は一度作って終わりではなく、顧客や市場の変化に合わせて育て続けるものです。そのためには、定期的に現場や顧客からフィードバックを集め、改善し続ける仕組みを作ることが重要です。営業やカスタマーサポートからの声、顧客アンケート、SNS反応、制作物レビュー結果など、あらゆる情報を収集・共有し、改善ポイントを見える化します。
⚫︎ 集めるべきフィードバック
・営業・CSからの顧客反応
・顧客アンケート・NPSスコア
・制作物レビュー・現場運用実態
⚫︎ 担当者のアクション
・「守る人」ではなく「育てる人」になる
・現場・顧客の声をもとに改善提案を出し続ける
・改善を「全社文化」として根付かせる
▶︎ 詳細記事:インナーブランディングとは?その目的と効果
▶︎ 詳細記事:インナーブランディング成功へのステップ
■ まとめ
ブランディング業務を任された現場担当者にとって、最も重要なのは「実際に動かし、現場を巻き込み、成果につなげる力」です。経営やデザイナーが決めた方針をそのまま現場に伝えるだけではなく、自分自身がその意味を深く理解し、言葉や行動に落とし込んでいくことが求められます。まずは、経営や事業戦略との整合性を確認し、社内外に散在する情報や意見を集め、ブランドの「今」を見える化することから始めましょう。そして、経営・現場・顧客をつなぐ翻訳者として、方針をわかりやすい言葉や資料に整え、具体的な実践レベルまで落とし込むことが担当者の腕の見せどころです。また、ルールやツールを整備し、現場で迷わず使える仕組みを作ること。そして、説明会やワークショップを通じて、社員一人ひとりが「自分ごと」として捉えられるように伴走し続けることが大切です。さらに、運用後もフィードバックと改善を繰り返し、ブランドを“守る”だけでなく“育てる”視点で関わり続ける姿勢が、真のブランド担当者として信頼を得る道となります。ブランドは「使われてこそ価値がある」。現場に寄り添い、実行と改善をリードする“推進役”として、ぜひ一歩踏み出してください。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

【 ご質問、お打合せ希望など、お気軽にお問合わせください。】
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