
[ ブランド戦略 ]
なぜ、BtoB企業こそ「ブランディング」が必要なのか?
「BtoB企業だからブランディングは必要ない」時々そんな声を耳にします。しかし、今や取引先もネットで調べ、他社と比較し、感覚的に「信頼できそう」と感じた企業に問い合わせをしています。つまり、「見え方」や「印象」が、選ばれるかどうかを大きく左右する時代なのです。技術力や実績だけでは伝わらない時代において、BtoBこそブランディングが必要だといえるのは、選ばれる理由をつくり、価格競争から脱却し、長期的な関係性を築くためです。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、BtoB企業が直面する課題から、ブランディングの基本、そしてその効果と具体的な取り組み方まで、分かりやすく解説します。
■ BtoB企業が抱える課題とは

【 競合が増えて選ばれにくくなっている 】
インターネットの普及と情報の透明化により、BtoB企業の競合は急増しています。地域に密着していた中小企業も、今では全国・世界の同業他社と比較される時代です。顧客は「この会社に頼むべき理由」を直感的に判断しようとしますが、見た目や情報発信が弱ければ候補にも入らないことがあります。つまり、いくら良い技術や製品を持っていても、「違いが伝わらなければ選ばれない」という状況に陥ってしまうのです。ここにこそ、ブランディングの力が問われます。
【 商品やサービスだけでは差がつかない 】
多くのBtoB企業が「うちの商品は品質が高い」と言います。しかし、顧客からすれば、その違いを明確に見極めることは難しく、最終的に「価格」「納期」「対応の印象」で判断されることがほとんどです。つまり、技術的な優位性だけでは伝わりにくく、差がつきません。ブランディングは、機能的な違いではなく、「この会社は信頼できそう」「話を聞いてみたい」と思わせる“印象”の差を生み出します。つまり、選ばれる理由を意図的に設計することが、これからの競争において不可欠なのです。
【 価格を下げないと売れない現実 】
多くのBtoB企業が直面しているのが、「価格を下げないと売れない」という現実です。製品やサービスの違いが顧客に伝わりにくく、結局は価格で比較され、値引き競争に巻き込まれてしまいます。本来、企業が持つ技術力や対応力といった“見えにくい価値”こそ評価されるべきですが、それが伝わっていないと価格でしか判断されません。だからこそ、ブランディングを通じて「なぜこの価格なのか」「どんな価値を提供しているのか」を明確に伝えることが重要です。
■ ブランディングって何?なぜ必要?

【 名前や見た目だけがブランドではない 】
ブランドというとロゴや色、スローガンを思い浮かべる方も多いですが、それは表面的な一部に過ぎません。ブランドとは「相手の心に残る会社の印象や信頼」のことです。つまり、商品やサービスの背景にある“考え方”や“姿勢”が、顧客との接点すべてを通じて伝わっているかどうかが鍵になります。見た目だけを整えても、本質的な価値や方向性がブレていれば効果はありません。大切なのは「何を伝えたいか」と「どう伝えるか」の一貫性です。
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【 ブランディングが営業活動を助けてくれる 】
営業が苦戦している企業ほど、ブランディングの力を借りるべきです。なぜなら、ブランドがしっかりしていれば、営業マンが一から説明しなくても、「すでに信頼されている状態」で話が始まるからです。ブランドは無形の“営業の下地”とも言えます。さらに、顧客はブランドから期待を抱くため、価格よりも「価値」に注目して話を聞いてくれます。つまり、ブランドを確立することで、営業活動の質が高まり、成約率も上がりやすくなるのです。
【 BtoB企業でもブランディングは効果的 】
製品や価格だけでの差別化が難しい今、顧客は「信頼できる会社か」「共感できる考え方か」といった印象で判断します。ブランドを確立することで、営業の信頼性が高まり、価格競争からも抜け出しやすくなります。また、企業の姿勢や価値観が明確になることで、採用活動にも良い影響を与えます。規模に関係なく、選ばれる理由を明確にするために、ブランディングは欠かせない要素です。
■ ブランディングで得られる3つのメリット

1. この会社に頼みたいと思ってもらえる
人は感情で動き、理屈で正当化する。これはBtoBでも同じです。ブランドがある会社は、顧客にとって「頼みたい理由」が自然と浮かびます。営業資料や会社案内を見ただけで「安心できる」「信頼できそう」と思ってもらえるかどうかで、その後の反応が変わってきます。つまり、ブランドが“第一印象”を強くし、その後のやりとりをスムーズにしてくれるのです。「選ばれる会社」には、選ばれる理由があります。それを設計するのがブランディングです。
2. 価格で勝負しなくてもよくなる
ブランディングが成功すると、価格競争から解放されます。なぜなら、顧客が「その会社に頼む価値」を理解し、納得してくれるからです。例えば、「他より高いけど、安心だから」「信頼できるからお願いしたい」と思ってもらえる状態。これは長期的な収益性にもつながります。価格を下げるのではなく、“価値を高めて伝える”ことが、利益を守る近道です。その価値を顧客に届けるための方法こそが、ブランディングです。
3. いい人材が集まりやすくなる
採用の場でも、ブランディングの効果は大きく現れます。求職者は企業の姿勢や考え方を重視しています。しっかりとブランドが伝わっていれば、「ここで働きたい」「価値観が合う」と感じて応募してくれる人が増えます。逆に、どんなに待遇が良くても、会社のイメージが不明確だと魅力は伝わりません。ブランドは社外だけでなく、社内にも好影響を与えるのです。共感を生むブランドは、優秀な人材との“縁”をつなげる力を持っています。
■ ブランディングを始める3つのステップ

1. 誰にどう思ってもらいたいかを考える
ブランディングにおいて大切なのは、「誰に、どう思われたいか」を明確にすることです。これは“ターゲット設定”と“印象設計”とも言えます。たとえば、「堅実で信頼できる技術者集団」と思ってもらいたいのか、それとも「スピード対応が強みの柔軟なパートナー」と伝えたいのか。これによって発信する言葉やデザイン、営業トークも変わってきます。相手の頭の中にどんなイメージを残したいのかを、意図的に設計することがブランドづくりの核です。
2. 社内でブランドの考えを共有する
ブランディングは社外に向けたものと思われがちですが、本質は「社内での共有」にあります。社員一人ひとりが「自社の強みや価値観」を理解していないと、実際の接点でその魅力が伝わらなくなります。だからこそ、ブランドの方向性やメッセージは、社内で繰り返し共有することが大切です。朝礼や社内報、ミーティングの中で、ブランドの考え方を浸透させる。それが、組織全体として“ブレない印象”を外に出せるようになる秘訣です。
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3. ホームページや営業資料も見直す
ブランドは「見た目」と「伝え方」にも現れます。どれだけ良い考え方や戦略があっても、それがホームページやパンフレットでうまく表現されていなければ意味がありません。写真、コピー、デザイン、構成──すべてがブランドの印象を形づくる要素です。また、営業資料も「商品説明」だけでなく、「なぜこの会社に頼むべきか」が伝わる内容に変えることが重要です。ブランディングの成果を“目に見える形”にする作業が、ここにあたります。
■ ブランディングで気をつけるべきポイント

1. 流行りの言葉だけに頼らない
最近では「SDGs」「サステナブル」「DX」など、流行りの言葉を取り入れる企業が増えています。しかし、それが表層的な使い方に留まっていれば、ブランド価値を下げてしまう危険性もあります。ブランディングは「らしさ」と「一貫性」が大切です。言葉を借りてくるのではなく、自分たちの信念から出てきた言葉で語る。それがブランドとしての深みを生み、顧客の心に残るメッセージになります。借り物ではなく、自社の言葉を持ちましょう。
2. 継続することで効果が出る
ブランディングの効果は、一朝一夕では現れません。継続的に取り組むことで、少しずつ“信用貯金”が積み上がっていくイメージです。今日ホームページを変えたからといって、明日から問い合わせが倍になるわけではありません。しかし、続けることで「あの会社はちゃんとしている」「雰囲気がいい」と認識され、徐々に結果に表れてきます。ブランディングとは、地道に信頼を積み重ねていく長期戦略なのです。
3. プロの力を借りるのも選択肢
ブランディングには、戦略・デザイン・コピーなど多様な要素が必要です。そのため、自社だけで完璧にやろうとするのは難易度が高いのが実情です。だからこそ、専門のパートナーと連携することも一つの有効な手段です。外部の視点が入ることで、自社では見えなかった魅力や課題がクリアになることも多いです。自社の“らしさ”をうまく引き出し、言葉やデザインに落とし込んでくれるプロの存在は、ブランディング成功の大きな後押しとなります。
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■ BtoB企業のブランディング成功事例

【 コマツ(建設機械) 】
コマツは、「単なる建設機械メーカー」から「スマート建設ソリューション企業」への変革を進め、業界に新たな価値観を提示しました。特に「KOMTRAX(遠隔管理システム)」を通じて、機械に“デジタルの目”を持たせたことは、保守性・生産性を大きく向上させ、ブランドの差別化に成功。重機という無機質な印象を、顧客の未来を支える“スマートなパートナー”として再定義しました。
[ ブランディングのポイント ]
⚫︎ KOMTRAXで建機をIoT化し、ソリューション型ビジネスへ
⚫︎ グローバルに共通した「安心・安全・環境」価値を訴求
⚫︎ 製品だけでなく「顧客の運用効率」までカバーする発想転換

【 島精機製作所(編み機・アパレル機器) 】
島精機製作所は、アパレル機器の分野で「テクノロジー×ファッション」の融合を体現した企業です。世界初の「完全無縫製横編機(WHOLEGARMENT®)」を開発し、アパレル業界に革命を起こしました。その高度な技術力を“感性”と“創造性”の文脈で伝えることで、単なる機械メーカーではなく、「ファッションを変える技術ブランド」としての立ち位置を築いています。
[ ブランディングのポイント ]
⚫︎ 技術革新(WHOLEGARMENT®)をブランドの中核に据える
⚫︎ 機械メーカーから「ファッションテック企業」への転換
⚫︎ 海外ファッション業界への共創提案でブランド力を拡張

【 オカムラ(オフィス家具) 】
オカムラは、単なるオフィス家具メーカーから「働き方をデザインする企業」へとブランドを再構築しました。ワークプレイスの在り方が問われる現代において、“働く人の体験”を起点とした空間づくりを推進。製品カタログではなく、事例ストーリーやリサーチレポートを積極発信し、BtoB顧客の戦略パートナーとして信頼を得ています。
[ ブランディングのポイント ]
⚫︎ 「働き方改革」とブランドメッセージを結びつける戦略
⚫︎ ユーザー体験を起点にした空間デザイン提案
⚫︎ 製品スペックよりも「働く場の質」を強調するストーリーテリング

【 タカラスタンダード(住宅設備) 】
タカラスタンダードは、「高品質なホーロー製キッチン」という独自素材を軸に、差別化されたブランド戦略を展開しています。“ホーロー=タカラ”というポジショニングを確立し、単なる住宅設備会社ではなく、「暮らしの価値を支える素材のプロフェッショナル」として、BtoB(住宅会社・工務店)に信頼されています。
[ ブランディングのポイント ]
⚫︎ 「ホーロー=安心・清潔・長持ち」のイメージ定着
⚫︎ 住宅会社との共創を通じた市場浸透
⚫︎ ブランドコンセプトを体験できるショールーム活用

【 日東電工(素材メーカー) 】
日東電工は、“目に見えないけれど不可欠な存在”をブランドメッセージに掲げ、素材メーカーという地味になりがちな業態を知的で先進的な企業イメージへと昇華。一般向けには認知が低いながらも、業界内では「技術を応用し、社会課題を解決する会社」として強固なブランドを確立しています。
[ ブランディングのポイント ]
⚫︎ 「なくてはならない会社」という抽象的価値の言語化
⚫︎ 技術紹介にとどまらず「未来への貢献」を語るコンテンツ設計
⚫︎ R&Dを起点としたブランドコミュニケーション

【 東京エレクトロン(半導体製造装置) 】
東京エレクトロンは、高度な半導体製造技術という極めて専門的な領域で、「テクノロジー×人間性」の両立を掲げるユニークなブランド設計を行っています。難解になりがちな技術説明を、人間味あるデザインやメッセージで“共感”につなげ、グローバルBtoB企業としての存在感を強めています。
[ ブランディングのポイント ]
⚫︎ 「世界と未来を変える技術」のメッセージ統一
⚫︎ 映像やビジュアルに人間的な感覚を織り込むブランド演出
⚫︎ 専門性と社会性を両立するトーン設計

【 ヤマハ発動機(産業用ロボット・輸送機器) 】
ヤマハ発動機は、「感動創造企業」というスローガンを掲げ、BtoB領域でも“心を動かすブランド”としての姿勢を徹底しています。産業用ロボットなど機能重視の製品であっても、「人のためのテクノロジー」という視点で語ることで、製品ではなく企業としての哲学が顧客の共感を呼んでいます。
[ ブランディングのポイント ]
⚫︎ 「Revs your Heart」の世界観をBtoBにも適用
⚫︎ 工業製品を“感動を生む道具”として再定義
⚫︎ 技術ではなく“体験”を中心にしたメッセージ展開
■ まとめ
BtoB企業にとって、ブランディングは「選ばれるための必須戦略」です。ただし、それは派手な広告や目立つロゴをつくることではなく、「自分たちは何者で、なぜ選ばれるべきか」を明確にし、それを一貫して伝え続けることにあります。商品やサービスの差別化が難しい時代だからこそ、印象と信頼をつくるブランディングが大きな武器になるのです。今こそ、BtoB企業も“ブランドという土台”を見直すタイミングです。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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– ブランド戦略からデザイン開発まで –
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