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ブランドブックの目的や構成と開発ポイント

[ ブランディングデザイン ]

ブランドブックの役割や構成内容と開発ポイント

ブランドブックとは、企業のブランドアイデンティティを体系化したガイドラインであり、組織のビジョンやデザインの統一性を社内外に明確に伝えるためのツールです。その本質的な目的は、ブランドの一貫性を確保し、あらゆるステークホルダーが統一されたメッセージとビジュアル表現を実現できる環境を構築することにあります。具体的な構成要素としては、ロゴ、カラーシステム、タイポグラフィ、トーン・アンド・マナー、ビジュアルスタイルなどのデザイン規定に加え、ミッション、ビジョン、ターゲットオーディエンスの定義まで包括的に網羅されています。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ブランドブックの戦略的意義、基本構成、効果的な開発手法について詳しく解説します。


■ ブランドブックとは

ブランドブックとは、企業が大切にしている理念や価値観、そして表現の考え方をまとめた“ブランドの設計図”のようなものです。単なるデザインマニュアルではなく、「ブランドとは何か」「どう表現するのか」を整理し、関わる人が同じ理解ができるようにするツールです。ブランドの背景や目的、ビジョン、ミッション、バリューなどを明文化することで、ブランドの“らしさ”が共有しやすくなります。また、ロゴやカラー、トーン&マナーといった具体的なルールを示すことで、担当者が変わっても、一貫した表現を続けられるようになります。ブランドブックがあることで、判断の迷いが減り、ブランドの印象が安定します。結果として、ブランドが社内外に浸透し、より信頼される存在へとつながっていきます。

■ ブランドブックの役割

ブランドブックとは

1. ブランドの理念を可視化すること

ブランドブックの役割のひとつは、企業の理念や価値観を“見える形”にすることです。日々の業務の中で見失いがちな「なぜこの事業をしているのか」「どんな未来を目指しているのか」といった想いを、言葉やデザインで整理し共有できるようにします。理念が明確になることで、判断や行動の軸がそろい、組織全体が同じ方向に進みやすくなります。共感と信頼を育むための土台として、理念を“伝わる形”に残すことがブランドづくりの第一歩です。それが企業文化を育て、長く愛されるブランドへとつながります。

 詳細記事:企業理念の重要性と浸透させるポイント

2. ブランドの基準を統一すること

ブランドの印象は、ロゴやデザインだけでなく、言葉づかいや伝え方にも表れます。ブランドブックは、そうした表現の基準を整理し、誰が見ても一定のトーンと品質で担保できるようにするためのものです。単なる規定ではなく、「ブランドらしさとは何か」を具体的に示すことで、制作時の迷いを減らします。たとえば色やフォント、写真の雰囲気などを明確にすることで、どの媒体でも統一された印象を保ちやすくなります。表現の基準が整うと、ブランドの世界観が安定し、受け手にも安心感を与えられます。

 詳細記事:ブランディングデザインとは?目的や重要性を成功事例で解説

3. 社内外の共通言語をつくること

ブランドに関わる人が増えるほど、言葉の意味や理解にズレが生じやすくなります。ブランドブックは、そのズレを防ぎ、誰もが同じ基準で話せる「共通言語」をつくる役割があります。経営層や社員、デザイナーなど立場が違っても、共通の言葉があることで意思疎通がスムーズになります。認識がそろうと議論が前向きになり、判断も早くなります。外部パートナーとも共有でき、ブレの少ない表現が実現します。共通理解の積み重ねが、ブランドを強くしていきます。それが信頼されるブランドを育てる力になります。

 詳細記事:インナーブランディングとアウターブランディングの違いとは?

4. ブランドの継続性を守ること

ブランドは、担当者や時代が変わっても続いていくものです。だからこそ、感覚的なやりとりだけに頼らず、誰が見ても理解できる基準を残しておくことが大切です。ブランドブックは、ブランドの考え方や表現の方針を体系的にまとめ、世代や部署を越えて共有できるようにします。担当者が変わっても判断の軸がぶれにくく、ブランドの一貫性を保ちやすくなります。また、企業の成長や環境の変化に合わせて内容を見直すことで、常に時代に合ったブランドとして進化し続けることができます。

5. ブランドの仕組みを作ること

ブランドブックは、感覚や経験だけに頼らず、再現性のある仕組みとしてブランドを運用するための基盤になります。理念やルールを整理しておくことで、属人的な判断に偏らず、誰でも同じ基準で動けるようになります。これは、ブランド運営をよりスムーズで持続的なものにするための考え方です。また、ブランドブックを活用して制作フローやチェック体制を整えれば、日々の業務の中で自然と“ブランドらしさ”を守れるようになります。ブランドが人任せにならず、組織として育っていく環境を整えることができます。

[ 画像引用 ] Creative Soupより

■ ブランドブックの構成内容

ブランドブックの目的

1. ブランドの基盤

ブランドの基盤は、企業の「存在意義」や「目指す姿」を明確にする部分です。ここでは、なぜこのブランドが存在するのか、どんな価値を提供し、どんな未来を描くのかを言語化します。ビジョン、ミッション、バリュー、ブランドパーソナリティなどを整理することで、ブランドの“根幹となる部分”を共有できるようになります。理念や想いを可視化することで、社内の意思統一が生まれ、日々の判断や表現にも一貫性が保たれます。組織全体が同じ方向に進むための出発点となる大切なパートです。

主な内容

  • ブランドの目的・存在意義(ミッション、ビジョン)
  • 大切にする価値観・行動指針(バリュー)
  • ブランドの個性や人となり(パーソナリティ)

 詳細記事:企業理念の重要性と浸透させるポイント

2. ブランドアイデンティティ

ブランドアイデンティティは、ブランドをどのように見せ、どのように感じてもらうかを整理する部分です。ロゴやカラー、書体、写真などのデザイン要素を体系的にまとめ、ブランドの一貫した印象を保ちます。見た目の統一だけでなく、言葉のトーンや雰囲気も含めて“ブランドらしさ”を表現します。誰が制作しても同じ方向性で表現できるようにすることで、社内外の発信が安定し、信頼性の高いブランド体験を生み出せます。その積み重ねが、ブランドの世界観をより強固にしていきます。

主な内容

  • ロゴ、カラー、フォントなどのビジュアルルール
  • 写真やグラフィックのスタイル・トーン&マナー
  • 言葉づかいやメッセージの方向性(トーン定義)

詳細記事:CI(コーポレート・アイデンティティ)の意味や目的と開発とは
詳細記事:VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは何か?効果と成功事例

3. ブランドコミュニケーション

ブランドコミュニケーションは、ブランドの考え方や価値をどのように伝えるかを整理する部分です。コピーやメッセージの方向性、各媒体での表現ルールを定義することで、発信のトーンや内容に一貫性をもたせます。広告、Web、SNS、採用活動など、あらゆる接点で同じ世界観を届けるための設計図となります。ブランドの声や語り口を統一することで、受け手に信頼感と安心感を与え、共感を生む発信がしやすくなります。それがブランドへの理解を深め、長く愛される基盤となります。

主な内容

  • コアメッセージやコピーライティングの指針
  • 媒体別の表現ルール(Web/広告/SNSなど)
  • 言葉とビジュアルの連動ルール

 詳細記事:ブランド戦略とデザインの密接な関係について

4. 運用ガイド

運用ガイドは、ブランドブックを実際の業務や制作にどう活かすかを示すパートです。ルールを形だけにせず、継続的にブランドを育てていくための運用方法を整理します。社内外の誰がどの範囲で使えるのか、制作依頼時のチェックポイント、更新や改訂の進め方などを明確にします。ブランドは一度作って終わりではなく、時代や事業の変化に合わせて進化させていくもの。運用ガイドはそのための「仕組み」を支える土台になります。日々の実践を通じて、ブランドの価値を自然に高めていけます。

主な内容

  • ブランド運用ルール(承認・更新・管理方法)
  • 制作・発信時のチェックリストと手順
  • 社内外への共有・浸透の進め方

[ 出典 ] HALLOWEENサイトより

■ ブランドブックの開発プロセス

ブランドブックの開発プロセス

1. 現状分析・課題整理

ブランドブックの開発は、まず“今のブランドを正しく理解すること”から始まります。企業の理念や歴史、事業の方向性を整理し、どんな価値を持ち、どんな課題を抱えているのかを見つめ直します。経営層や社員、顧客へのヒアリングを通じて、ブランドの強み・弱み・誤解されている点などを洗い出すことで、ブランドの現状を客観的に把握します。このプロセスは、単なる情報収集ではなく、“ブランドの本質を掘り起こす”重要な工程です。分析の結果をもとに、今後どんなブランドでありたいか、そのために何を整えるべきかが見えてきます。現状の理解なくして、ブランドの未来像は描けません。

主なポイント

  • 経営層・社員・顧客へのヒアリングや調査を実施する
  • 現状のブランド認識・強み・課題を整理する
  • 今後のブランドの方向性を探るための土台をつくる

2. ブランド戦略設計

次に、ブランドの「進むべき方向」を定める戦略設計の段階に入ります。ここでは、ブランドの目的・役割・存在意義を明確にし、どんな価値を提供していくのかを定義します。企業理念やビジョン、ミッション、バリューなどの再整理を行い、言葉として定着させることで、ブランドの核となるメッセージを構築します。同時に、ターゲットや市場におけるポジショニングを整理し、どのように選ばれるブランドであるべきかを明確にします。この工程で定めた方針が、後の表現やコミュニケーション全体の基準になります。ブランドを“どう見せるか”の前に、“なぜ存在するのか”をはっきりさせることが最も重要です。

主なポイント

  • ブランドの目的・役割・存在意義を明確にする
  • ビジョン・ミッション・バリューを言語化する
  • 市場ポジションと目指すブランド像を整理する

3. ブランドアイデンティティ構築

戦略で定めた方向性を、視覚的・言語的に表現する段階です。ブランドをどのように見せ、どのように感じてもらうかを定義します。ロゴ、カラー、フォント、写真、グラフィック要素などのデザインを体系的に整理し、統一されたブランドイメージをつくります。また、見た目だけでなく、言葉のトーンやメッセージの方向性も設定し、ブランドの個性を具体的に表現します。この工程は「ブランドの人格を形にする」プロセスでもあり、感覚ではなく理論と意図をもってデザインを構築することが大切です。誰が制作しても同じ方向で表現できるようにすることで、発信の質と一貫性を高めていきます。

主なポイント

  • ロゴ・カラー・フォントなどのビジュアル基準を整える
  • 言葉のトーン&マナーを定義し、一貫性を保つ
  • ブランドの個性を視覚・言語の両面で表現する

4. ブランドブック制作

ここでは、戦略とアイデンティティを体系的にまとめ、誰もが理解しやすいかたちで共有するためのブランドブックを制作します。内容構成を設計し、「理念編」「デザイン編」「コミュニケーション編」「運用編」などに整理して、言葉とビジュアルを組み合わせて表現します。制作段階では、ブランドの本質を損なわないよう、経営層・デザイナー・コピーライター・現場担当など、関係者が意見を出し合いながら完成度を高めていきます。目的は“読むための資料”ではなく、“使えるツール”をつくることです。誰が見てもすぐに理解でき、日常の判断や制作に活かせる内容にすることがポイントです。

主なポイント

  • 戦略とデザインを整理し、体系的にまとめる
  • 理念・デザイン・運用など目的別に構成する
  • 実務で使いやすい、わかりやすい表現を意識する

5. 社内浸透・運用支援

ブランドブックは、完成した瞬間がスタートです。ここから実際に社内外へ浸透させ、運用していく段階に入ります。社内説明会や研修などを通して社員の理解を深め、日常業務で自然に使えるようにすることが大切です。また、外部の制作パートナーや代理店にも共有し、同じ基準でブランドを扱える環境を整えます。運用の中で気づいた課題や改善点を定期的に見直し、時代や事業の変化に合わせてアップデートしていくことも重要です。ブランドブックを“守るため”だけでなく、“育てていくため”のツールとして活用することが、長期的なブランド価値を支える力になります。

主なポイント

  • 社内研修・共有会を行い、理解と浸透を図る
  • 外部パートナーともブランド基準を共有する
  • 定期的に見直し、ブランドを成長させていく

■ ブランドブック開発のポイント

ブランドブック開発のポイント

1. 戦略設計のポイント

ブランドブック開発の起点は「戦略設計」です。なぜ作るのか、誰のために使うのかを明確にし、経営戦略・事業戦略・ブランド戦略を繋げる必要があります。単なるデザイン規定に終わらせず、ブランドを全員が理解・実行できるように設計することが肝心です。また、ブック自体が「経営ツール」であることを意識し、短期的なプロジェクト目的ではなく、ブランドの長期的成長を支える指針として機能させます。

2. 構成・内容設計のポイント

ブランドブックの構成は、「なぜ」と「どうやって」のバランスが重要です。理念や価値観などの感性的要素と、戦略やデザインルールなどの論理的要素を一本のストーリーで繋げることが理想です。章立ては“理解 → 共感 → 実践”の流れで設計し、読む人が自然にブランドの本質を理解し、行動へ移せる導線をつくります。また、過度な情報量を避け、使いやすく更新しやすい構成にすることも大切です。

3. デザイン・編集のポイント

ブランドブックのデザイン自体も“ブランド体験”の一部です。単に情報を並べるのではなく、ブランドの世界観を視覚的に感じさせることが必要です。余白・文字組・素材選定などの細部まで、ブランドを表現することが重要です。また、図解や写真などを活用して直感的に理解できる編集を心がけます。さらに、紙・デジタル両方で活用できるデザインにすることで、ブックの“生きた運用”を実現します。

4. 運用・浸透のポイント

ブランドブックは「作って終わり」ではなく、「使われてこそ価値がある」ツールです。社内での教育・研修・ワークショップなどを通じて浸透を促し、ブランド理解を行動へ結びつけます。また、外部パートナーにも共有し、表現や判断の基準として機能させることが重要です。運用段階では更新体制を整え、時代や事業変化に応じて内容をアップデートしていくことが不可欠です。つまり、ブランドブックは“守る”ものではなく、“進化させる”ための生きたドキュメントなのです。

■ ブランドブックの事例紹介

アウディのブランドガイドライン

AUDI | ブランドブック

Audiのブランドブックは、単にロゴやカラーを定めるためのものではなく、ブランドの核「技術による先進性= Vorsprung durch Technik」を、あらゆるタッチポイントで一貫して体現するための仕組みとして設計されています。まず、ブランド戦略の段階で「技術・革新・プレミアム」という価値観を明文化し、それをブランドアイデンティティおよびコミュニケーションに落とし込んでいます。次に、ビジュアル/言語/媒体別のルールを明確にし、社内外すべての表現が「Audiらしさ」を保てるように設計。特にデジタル時代を見据えたUI/UX設計、モジュラー・デザインの導入、グローバル展開へのツール群整備などに重きが置かれています。加えて、運用面も重視されており、更新の仕組みや社内浸透の支援体制もガイドラインに含まれているため、担当者が交代してもブランドの方向性がぶれにくくなっています。

[ 主な特徴 ]

ブランドの核となる価値を言語とデザインで整理
ロゴ・カラー・書体・写真などのデザイン要素を体系化
社内、外部パートナー、デジタルを問わずブランドを継続的に運用・改訂できる

このように、Audiのブランドブックは「なぜこのブランドが存在するのか」「どんな価値をどう伝えるか」「それをどう運用していくか」という全体の設計図として機能しています。ブランドをただ作るのではなく、継続的に育て、変化に対応できるようにする点が特に参考になります。

[ 出典 ] Audi Style Guide(公式ブランドガイドライン)
[ 出典 ] Audi Design System(UI/デジタルガイドライン)
[ 出典 ] Audi Corporate Website(ブランド哲学とストーリー)

IBMのブランドガイドライン

IBM | ブランドブック 】

IBMのブランドブックは、企業の核にある「Think」という精神を軸に、テクノロジーと人間らしさの共存を表現するための設計書として機能しています。単なるデザインガイドではなく、企業の理念・デザイン・コミュニケーションを一体で管理し、全世界で一貫したブランド体験を提供することを目的としています。IBM Design Languageと呼ばれるこの仕組みでは、ロゴ、カラー、フォント、写真、イラスト、アイコンなどのビジュアル要素に加え、語り口やトーン、ユーザー体験全体の設計思想までを包括的に定義しています。デジタル・リアルを問わず、どの接点でも“IBMらしさ”を感じられるよう緻密に設計されている点が特徴です。ブランドを「守る」だけでなく、常に進化し続けるためのフレームワークとして運用され、時代の変化にも柔軟に対応できる構造を備えています。

[ 主な特徴 ]

Thinkに基づいた、技術と人間性の調和をデザイン思想に落とし込んでいる
ビジュアルからトーンまで、全ての表現に共通の基準を設定している
グローバル規模での一貫運用と、継続的な改善・進化の仕組みを持っている

IBMのブランドブックは、理念の共有・表現の統一・継続的な運用を支える「ブランド指針」として、完成度の高い事例です。常に進化を続けながら、世界中で一貫したブランド体験を実現しています。社員やパートナーを含むすべての人が同じ価値観で動けるよう、実践的な仕組みとして機能しています。

[ 出典 ] IBM Design Languageより

■ ブランドブック開発の注意点

ブランドブック開発の注意点

1. シンプルで分かりやすい構成にする

ブランドブックは、読む人がすぐに理解し、実際の業務で活かせることが何より大切です。どれだけ内容が充実していても、複雑で読みにくい構成では活用されません。理念やビジョンなどの「考え方」と、ロゴやデザインなどの「使い方」を整理し、誰が見ても迷わない構成を意識しましょう。特に、情報を階層的に整理し、目次や見出しを明確にすることで、必要な情報にすぐアクセスできるようにすることがポイントです。また、専門用語や抽象的な言葉を多用せず、具体的な事例やビジュアルを添えることで、理解が深まりやすくなります。ブランドブックは“読む資料”ではなく、“使うツール”です。使いやすさを最優先に、必要な情報をシンプルに伝えることが、長く活きるドキュメントづくりの基本です。

2. ビジュアルと文字のバランスを保つ

ブランドブックは視覚的な理解を促すツールでもあるため、文字情報だけでなく、ビジュアルの構成にも意識を向けることが重要です。文章が多すぎると伝わりづらくなり、逆に画像や図解ばかりだとブランドの意図が伝わりにくくなります。理想は、「言葉で理念を語り、ビジュアルで印象を定着させる」バランスです。たとえば、ブランドのトーン&マナーを説明する際には、実際のデザイン例や使用NG例を並べることで、直感的に理解できる構成が有効です。また、フォントや余白の使い方も重要です。読みやすさを意識したデザイン設計を行い、内容と見た目が調和したドキュメントを目指すことが大切です。言葉とビジュアルが補い合うことで、ブランドの世界観をより深く、印象的に伝えることができます。

3. 柔軟性を持たせ更新可能にする

ブランドは一度つくって終わりではなく、時代や事業の変化に合わせて成長していくものです。ブランドブックも完成した瞬間がゴールではなく、常に“更新可能”であることが重要です。初期段階から、どのように更新・追加・改訂を行うかを想定し、運用フローを明確にしておくことが望ましいです。たとえば、ブランド担当者や制作チームが改訂を管理できる仕組みを整えたり、オンライン上で共有・更新できるデジタルフォーマットにするなど、運用を考えた構成にします。また、全てを固定的にルール化するのではなく、“守るべき軸”と“状況に応じて柔軟に変えられる部分”を分けておくことで、ブランドが時代に取り残されることを防げます。変化に強いブランドブックは、ブランドの継続的な成長を支える基盤となります。

■ ブランドブックの活用方法

ブランドブックの活用方法

1. 広告やプロモーションの基準として活用

ブランドブックは、広告やプロモーション活動において、視覚的な要素やメッセージの一貫性を保つための重要な基準となります。広告やキャンペーンごとにブランドの表現方法がバラバラでは、消費者に戸惑いを与えかねません。しかし、ブランドブックという明確な指針があることで、ロゴの使い方や色使い、表現のトーンが統一され、人々の心に残るブランドイメージを築くことができます。さらに、このブランドブックの基準に沿って作られる広告には、企業の大切にする価値観や理念が自然と反映されます。そのため、消費者がブランドに親しみを感じ、信頼関係を築きやすくなるのです。

2. 外部パートナーへの共有

ブランドブックは、デザイナーや広告代理店、販売パートナーといった外部の協力者とも共有することが大切です。これにより、社外のパートナーも、ブランドの方向性に沿った活動を展開することができるようになります。外部のパートナーが、ブランドの基準をしっかりと理解した上で制作やプロモーション活動を行うことで、お客様が体験するブランドの世界観に一貫性が生まれます。このように、ブランドブックを通じて外部の関係者とブランドへの理解を共有することで、ブランドイメージはより強固なものとなり、結果として消費者との信頼関係を深めることにつながっていくのです。

3. 社内研修や新入社員の教育に利用

ブランドブックは、社内研修や新入社員教育において、とても重要な役割を果たします。企業が大切にしている価値観やビジョンを、新しく仲間になった社員にわかりやすく伝えるための教材として活用できるのです。このブランドブックには、日々の業務やお客様との接し方に関するルール、望ましい表現方法なども具体的に示されています。これにより、新入社員は企業文化を早期に理解し、ブランドの基準に沿った行動や判断ができるようになります。このように、ブランドブックを教育に活用することで、組織全体のブランド力が高まり、社員一人ひとりの中にブランドへの共通認識が育まれていくのです。

4. 社内の行動指針やCSR活動の基準

ブランドブックは、社内での行動指針として、また企業の社会的責任(CSR)活動を進める上でも重要な役割を果たします。ブランドが大切にする価値観や果たすべき使命を社内に浸透させることで、日々の業務やお客様との関わりにおいて、一貫した対応が可能になります。また、社会貢献活動においても、ブランドブックの示す方向性に沿って取り組みを進めることが大切です。こうした一貫した姿勢により、ブランドの信頼性や企業の社会に対する真摯な姿勢が伝わり、結果としてブランドの価値をさらに高めることにつながります。

■ ブランドブックを浸透させるための手法

ブランドブックを浸透させるための手法

左図 : だだ配布する 右図 : 内容説明とともに配布する

1. 教育・研修での活用

ブランドブックを浸透させる最も効果的な手法は、教育と体験を通して理解を深めることです。新入社員研修やリーダー研修などに組み込み、理念・ビジョン・トーン&マナーを体感的に学ぶ場を設けます。単なる座学ではなく、ブランドをテーマにしたワークショップ形式が有効です。社員一人ひとりが「自分の行動がブランド体験の一部である」と理解することで、ブランドが組織文化として根づきます。また、部署横断でブランドを議論する“ブランドラボ”を設置し、継続的なアップデートと共創を促すことも重要です。

2. 社内コミュニケーションの仕組み化

ブランドを浸透させるには、日常的な社内コミュニケーションが欠かせません。ブランドに関するニュースや成功事例を定期的に社内で共有し、社員が誇りを持てる空気をつくります。また、ブランドブックの内容を「生きた事例」として紹介し、単なる文書ではなく“行動の指針”として意識させることが重要です。さらに、ブランド相談窓口や社内SNSを活用し、社員が気軽に質問・意見交換できる環境を整えます。こうした継続的な発信と対話の仕組みが、ブランド理解を組織全体に浸透させます。

3. ビジュアル・スペースでの浸透

ブランドの世界観を日常的に感じられるようにすることは、意識浸透に大きな効果をもたらします。オフィス内にブランドメッセージやビジョンを掲出したり、ブランドカラーや象徴的なグラフィックをインテリアや什器に取り入れることで、社員が日常的にブランドを体感できます。また、社内イベントや展示スペースでブランドの歴史や価値観を紹介することで、ブランドの“誇り”を共有できます。こうした環境設計は、理念を言葉だけでなく、空間・視覚・感覚として定着させる重要な手法です。

4. デジタル運用・アクセス性の向上

ブランドブックをデジタル化し、社員がいつでもアクセスできる状態を整えることが現代的な浸透手法です。PDFや専用Webサイト、クラウドシステムなどで運用し、必要な情報を瞬時に引き出せる環境を整備します。また、更新情報を自動通知する仕組みを導入し、常に最新の内容が共有されるようにします。テンプレートやデザイン素材も一元管理することで、誰でも正しくブランド表現を再現できます。デジタル化は単なる利便性向上ではなく、“ブランドを日常に組み込む”ための仕組みづくりです。

■ ブランドブックの役割の変化

ブランドブックの役割の変化

1. 静的マニュアルから、動的なブランドプラットフォームへ

かつてブランドブックは「ロゴ・カラー・書体の使い方」を定めた“静的なデザインマニュアル”でした。しかし現在は、変化する時代や多様な接点に対応する「動的なブランドプラットフォーム」へと進化しています。単なる統一ルールではなく、ブランドの思想・判断基準・世界観を共有し、社内外の誰もがブランドを“生きた基準”として使える状態にすることが目的です。常に更新され、柔軟に進化できる仕組みとしてブランドを支える「知的インフラ」へと役割が変わっています。

2. デザイン統制ツールから、経営・組織の共通言語へ

ブランドブックはもはやデザインの管理ツールではありません。経営と現場、マーケティングと人事、すべての組織領域をつなぐ“共通言語”としての役割を担っています。ブランドのビジョンや価値観を軸に、判断・行動・表現の一貫性を保ち、全社員が同じ方向を向くための「文化的フレーム」として機能します。デザイン統制を超え、意思決定やコミュニケーションの基準となることで、ブランドが経営そのものの中に息づく状態をつくり出します。

3. 外向けツールから、内外をつなぐブランド体験設計書へ

従来のブランドブックは、主に外部デザイナーや広告代理店向けの運用資料でした。今はその役割が大きく変わり、社内教育・採用・組織文化づくりまでを含めた“内外をつなぐ体験設計書”としての価値を持っています。ブランドブックは、社員がブランドの一部として振る舞い、顧客に一貫した体験を届けるための接続点です。つまり、社内の「理解と共感」と、社外の「体験と信頼」をつなぐハブ。ブランドの内的思想と外的表現を架橋する戦略ドキュメントへと進化しています。

4. 完成物から、共創的な運用プロセスへ

かつてブランドブックは、一度作成すれば完成する「納品型ドキュメント」でした。現代ではそれが、社員・パートナー・クリエイターが共に更新していく“共創プロセス”へと変わっています。ブランドは固定的なものではなく、社会・市場・組織の変化とともに進化していく生き物です。そのため、ブックも常に見直し、改善されるべき運用資産です。関係者全員が関わりながらブランドを育てる文化を醸成することが、今の時代におけるブランドブックの本質的な役割といえます。

■ 弊社のブランドブック開発実績

株式会社チビコは、企業や商品の理念や価値観を「伝わるかたち」に整理するブランドブック開発を行っています。言葉やビジュアルを戦略的に構成し、ブランドの想いと世界観を伝えるツールとしてデザインしています。業種や規模を問わず、ブランドの軸を明確にし、共感を生み出す基盤づくりを支援しています。

ブランドブック開発実績1

[ SEMBAブランドブック ]
株式会社船場(英名:SEMBA CORPORATION)は、1947年創業・1962年設立。東京都港区芝浦を本社とし、商業施設・オフィス・教育・ヘルスケア・ホテル等を対象に、調査・企画・デザイン・施工・運営まで一貫して手掛け、国内外で展開する空間デザイン・建築プロデュース企業です。

ブランドブック開発実績1

[ NOSAWAブランドブック ]
株式会社野澤組(英名 NOSAWA & Co., LTD.)は、1869年創業・東京都千代田区有楽町に本社を置く総合貿易商社です。食品・畜産・機械・繊維・開発の5部門で「農場から食卓まで(Farm to Table)」を掲げ、世界から価値を国内へ、国内の文化を世界へ発信しています。

 詳細記事 : 株式会社チビコ・ブランディング実績一覧

FAQ-よくある質問

■ ブランドブックに関するよくある質問

ブランドブック制作の相談で多いのは、「どこまで書けばいいのか」という迷いです。現場で多くの事例を見てきた経験から、その最適な構成と考え方をお伝えします。

【 よくある質問① 】

Q :ブランドブックって何のためにあるのですか?
A :ブランドブックは、企業のビジョン・価値観・デザイン要素を体系化した「ブランドの設計図」です。ロゴやカラー、フォント、トーン&マナーなどを明文化し、社内外の関係者が 統一されたブランドイメージで発信できるようにするための資料です。

【 よくある質問② 】

Q :ブランドブックをつくるとどんな効果が得られますか?
A :組織内部でブランド理念を共有し、広告やプロモーションといったあらゆる接点で一貫性のあるブランド体験を提供できます。その結果、信頼性や認知度が向上し、ブランド価値の強化につながります。

【 よくある質問③ 】

Q :チームやパートナーとのブランドの共通理解をどう作れますか?
A :ブランドブックは、ビジョンや方針を明確に伝えるツールとして働きます。社内外の関係者にブランドの意図や背景を理解させ、一貫したコミュニケーションを可能にします。

【 よくある質問④ 】

Q :採用活動でブランドブックはどんな使われ方をするの?
A :採用時に企業のビジョンや価値観を伝えるメッセージツールとして機能します。ミスマッチを減らし、企業文化に共感できる人材の獲得と定着を支援します。

【 よくある質問⑤ 】

Q :ブランドブックが社内浸透に効くって本当ですか?
A :ブランド理念やビジョンの浸透を促進し、行動の一貫性を強化します。特に、経営統合や組織変革期には理念共有において重要な役割を果たします。

checklist-チェックリスト

■ ブランドブック開発に関するチェックリスト

ブランドブック開発を重ねて実感するのは、「作って終わり」にしない設計が成功の鍵だということ。ここでは、現場で役立つ実践的なチェックポイントをまとめました。

【 ブランド理解の共有チェック 】

⬜︎ ブランドのビジョン・価値観・世界観が、ブランドブックに明確に反映されているか?
⬜︎ ロゴ、カラー、フォント、トーン&マナー、ブランドメッセージなどが体系化されているか?

【 運用と信頼性のチェッ

⬜︎ 社内外の関係者(営業、デザイナー、パートナーなど)にブランドブックが共有・活用されているか?
⬜︎ ブランドブックに基づく運用で、マーケティングやデザイン表現に統一感/信頼感が表れているか?

【 実効性と改善のチェック 】

⬜︎ ブランドブック策定後、ブランドの認知/信頼性/コミュニケーションの成果が評価されているか?
⬜︎ ブランドの方向性が変わった際に、ブランドブックを更新するプロセスが仕組み化されているか?

記事のまとめ

■ まとめ

ブランドブックは、企業やブランドの“設計図”とも言えるツールで、ミッション/ビジョン/ターゲット定義から、ロゴ、カラーパレット、タイポグラフィ、トーン&マナー、ビジュアルスタイルなどの表現ルールまでを体系的にまとめたガイドラインです。主な目的はブランドの一貫性を保つことであり、社内はもちろんデザインパートナーや制作チーム、代理店といった社外関係者に対しても、「このブランドが何を、どう伝えたいのか」を明確に共有できる基盤を構築します。結果として、広告、WEB、製品パッケージ、接客接点などあらゆるタッチポイントに統一感が生まれ、ブランドの認知や信頼性が向上します。ブランドブックの開発にあたっては、戦略の整理(WHY/ターゲット/ポジショニング)をまず整え、その言語化されたアイデンティティをビジュアルルールと接続するプロセスが重要です。これによりブランドは強く、持続可能なものになります。

株式会社チビコ今田佳司ブランディングディレクター

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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