
[ ブランド戦略 ]
地域ブランディングの成功事例10選
地域ブランディングは、地域が持つ独自の魅力や特性を丁寧に活かし、価値や認知度を高めていくための取り組みです。観光誘致や地場産業の発展につながるだけでなく、地域に暮らす人たちが誇りを持てる環境づくりにも寄与します。ただ、その魅力をどう整理し、どんな形で発信するかが成果を左右する大きなポイントになります。国内外には、独自の戦略で観光地や産業を成長させた地域が数多くあります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、地域ブランディングの成功事例を10選にまとめ、それぞれがどのように特性を活かし、成果につなげてきたのかを分かりやすく解説していきます。
■ 地域ブランディングとは

【 地域ブランディングの定義 】
地域ブランディングとは、地域の魅力や特性を外部にわかりやすく、一貫した形で発信し、地域の価値を高めていくための取り組みです。この手法は観光振興に限らず、企業誘致や住民の暮らしの質の向上、地域外での認知向上など、幅広い目的に活かされます。地域の自然環境や文化、歴史、特産品などを軸に、魅力を整理して伝えることで、他の地域との差別化を図りやすくなります。こうした取り組みは、単なるPRではなく、地域の長期的な発展を支える大切なプロセスであり、住民や訪れる人の双方にとって価値ある地域づくりを目指すものです。地域の未来を見据えた継続的な努力が求められます。
【 地域ブランディングが重要な理由 】
地域ブランディングが求められる背景には、グローバル化や人口減少、都市部への人口集中といった社会の変化があります。地域が持続的に成長していくためには、自分たちの魅力や強みを明確にし、外部に向けて発信することが欠かせません。うまく機能すれば、観光客の増加、企業の進出、移住者の獲得などにつながり、地域経済の活性化や将来への安心感を生み出します。また、地域に暮らす人たちが自分のまちに誇りを持てるようになり、地域全体の一体感が強まる点も大きなメリットです。地方では、人口減少や若い世代の流出といった問題に直面しており、地域ブランディングは重要な手段のひとつと言えます。
【 地域ブランディングにおける課題 】
地域ブランディングには多くの可能性がある一方で、いくつかの課題もあります。まず、地域が持つ魅力や価値を客観的に整理するのが難しく、外部にうまく伝わらないまま終わってしまうケースがあります。また、地域住民の理解や協力が欠かせないにもかかわらず、住民の意見が十分に反映されないまま進められることで、反発を招くこともあります。さらに、継続的な予算や専門人材の確保が難しい地域も多く、短期的な取り組みで止まってしまう危険もあります。こうした課題に向き合うためには、地域の特性に合った無理のない計画と、住民や関係者と一緒に進める体制づくりが重要です。
■ 地域ブランディングの3つの成功要因

1. 独自性の強調
地域ブランディングの成功において最も重要な要素の一つは、その地域ならではの独自性を強調することです。観光客や投資家にとって、その地域でしか得られない体験や特産品があることは大きな魅力になります。例えば、歴史的背景や伝統文化、特有の自然環境、地元でしか味わえない食文化などがブランディングの核になることが多いです。成功している地域は、観光地としての側面だけでなく、地域全体の暮らしや価値観まで一貫して発信しています。他地域との差をわかりやすく示すことができれば、その地域は唯一無二の存在として受け止められ、リピーターやファンも増えていきます。
● その地域でしか得られない体験・価値を明確にする
● 歴史・文化・自然などの独自資源を軸にブランドを構築する
● 他地域との違いをわかりやすく打ち出し、選ばれる理由をつくる
2. 地元資源の活用
地域ブランディングでは、地域が持つ資源をどう活用するかが成功のカギになります。地元の自然、歴史、文化、特産品などは、その地域のアイデンティティをつくる大切な要素です。たとえば、自然が豊かな地域ならエコツーリズムやアウトドア体験が効果的ですし、歴史ある地域なら伝統文化を軸にした体験型ツアーが魅力として機能します。また、地元の農産物や工芸品を商品化・ブランド化することで、観光客に地域の魅力を届けながら、地域経済の活性化にもつながります。これらの資源を最大限に生かし、他にはない価値を提供できれば、地域ブランディングの成功率は大きく高まります。
● 自然・文化・食など地域資源を効果的に活かした企画を設計する
● 体験型プログラムや商品開発で地域の魅力を具体化する
● 地元産品・サービスと観光を結びつけ、経済効果につなげる
3. 持続可能な戦略の構築
地域ブランディングを成功させるには、持続可能な戦略を立てることが欠かせません。一時的なブームやメディア露出だけではなく、長い期間にわたって地域の魅力を維持し、育てていく視点が求められます。例えば、自然環境を大切にするエコツーリズムや、住民との協力を前提にした観光開発は、持続可能な取り組みの代表例です。地元の資源を守りながら活用することで、次世代の発展にもつながります。また、地域経済や住民生活への影響を考えながら進めることも大切です。持続可能なブランディングは、短期の利益だけでなく、未来に向けた成長を見すえたアプローチであり、地域のブランド価値を長く保つ基盤になります。
● 長期的に続けられる運営体制と戦略を整える
● 自然環境や地域資源を守りながら活用するバランスを保つ
● 住民参加と協働を前提に、地域全体で育てる仕組みをつくる
■ 地域ブランディングの具体的な成功事例

【 北海道・ニセコ 】
国際的リゾートへの変貌
ニセコは、北海道特有の上質な雪質から「パウダースノーの聖地」として世界中のスキー・スノーボード愛好者に知られています。とくにオーストラリアやアジアからの観光客が増え、国際色豊かなリゾートエリアへと発展しました。外国人向けの施設やサービスが整備され、訪問者数は大きく伸びています。リゾート開発が進む中で、高級ホテルやコンドミニアムが次々に建設され、海外投資も入り、地域経済への貢献が広がっています。また、冬だけでなく、夏のアウトドアや温泉を楽しむ観光客も増えており、通年で魅力を感じられる観光地として評価が高まっています。
● 世界レベルの「パウダースノー」品質
希少性の高い雪質が、国際的な競争力と強いブランドイメージを生んだ。
● 外国人旅行者を前提にした環境整備
英語対応や海外仕様のサービス導入が、訪問者の安心感と満足度を高めた。
● 外資参入によるリゾート開発の加速
高級ホテルやコンドミニアム建設が、国際リゾートとしての価値を押し上げた。
● 冬夏どちらも集客できる体験設計
ウィンターだけでなく、夏のアクティビティや温泉が通年観光を支えた。
● 地域経済全体への波及効果の大きさ
観光客増加や投資流入が、雇用拡大や地域の持続的発展に寄与した。
[ 出典 ] 北海道ニセコ町サイトより
[ 出典 ] 日本旅行サイトより
[ 出典 ] NISEKO UNITEDサイトより

【 長野・白馬 】
アウトドア天国としての再生
白馬村は、1998年の長野オリンピックをきっかけに世界的なスキーリゾートとして知られるようになりましたが、近年はアウトドアアクティビティの充実によって、冬以外の季節にも多くの観光客が訪れるようになっています。ハイキングやマウンテンバイク、カヤックなどの自然体験が楽しめる環境が整い、国内外の若い世代やファミリー層から支持を集めています。さらに、環境に配慮した観光施策を進めることで、持続可能な観光地としての位置づけを強めています。地元の食文化や温泉も魅力として発信され、四季を通じて訪れたくなる地域としての価値が高まっています。
● オリンピック遺産を活かした国際的な知名度
● 四季を通じて楽しめるアウトドア体験の充実
● 若者・ファミリー層に響くアクティビティ設計
● 環境に配慮した持続可能な観光施策の推進
● 食文化・温泉など地域資源を組み合わせた多面的な魅力発信
[ 出典 ] 白馬村公式観光サイトより
[ 出典 ] 白馬マウンテンリゾートサイトより
[ 出典 ] PR TIMESサイトより

【 熊本・熊本城 】
震災からの復興と観光資源化
熊本城は、日本三名城の一つとして広く知られ、地元の象徴的な存在でしたが、2016年の熊本地震で大きな被害を受けました。その後、復旧の過程そのものが観光資源となり、「今しか見られない姿」として多くの人の関心を集めています。修復の様子を見学できる仕組みが整えられ、復興の歩みを実感できる点が支持されています。また、熊本市内のほかの観光地と連携したイベントや、復興支援グッズの展開なども進められ、地域経済の活性化にもつながっています。熊本城の復興は、地域の再生を象徴する取り組みとして国内外から注目され続けています。
● 修復過程そのものを観光コンテンツ化
● 復興ストーリーによる感情的な共感の獲得
● 周辺観光地と連携し回遊性を高めた
● 復興支援グッズや企画で経済効果を生んだ
● 継続的な情報発信で話題性を保った
[ 出典 ] 熊本市観光ガイドサイトより
[ 出典 ] Tripaサイトより

【 香川・小豆島 】
オリーブの島の新しい顔
香川県の小豆島は、日本で初めてオリーブの栽培に成功した場所として「オリーブの島」として知られています。オリーブを中心に観光資源の開発が進み、オリーブオイルや関連商品が土産物として人気を集めています。近年は、オリーブをテーマにした体験型観光やグルメツアーも増え、特に女性や健康志向の旅行者から良い反応があります。また、地元産品を活かした特産品のブランド化や、島内各地にアート作品を展示する「瀬戸内国際芸術祭」などを通じて、地域全体の活気づく動きが続いています。オリーブとアートの組み合わせが、新しい観光スタイルとして根づいています。
● 小豆島は日本で初めてオリーブ栽培に成功し、「オリーブの島」として知られている。
● オリーブ関連の商品や土産が観光の定番になっている。
● 体験型のオリーブ観光やグルメツアーが人気を集めている。
● 地元産品を活かした特産品のブランド化が進んでいる。
● 瀬戸内国際芸術祭などのアートが、地域活性化の新しい軸になっている。
[ 出典 ] 小豆島観光協会公式サイトより
[ 出典 ] 旅色公式サイトより

【 石川・金沢 】
伝統と現代が融合する文化都市
金沢市は、江戸時代から続く伝統文化と現代のクリエイティブな文化が重なり合う都市として国内外で評価されています。兼六園や金沢城といった歴史的な観光資源に加え、21世紀美術館や工芸の展示が、訪れる人に新しい楽しみを提供しています。街並みや伝統工芸、食文化を大切にしながら、現代的な芸術やデザインを取り入れることで、若い世代の観光客にも広く受け入れられています。また、観光地としての知名度を生かし、国際イベントや会議の誘致にも取り組んでおり、地域のブランド力がさらに強まっています。
● 伝統文化と現代のクリエイティブ文化が共存する都市として国内外から評価されている。
● 兼六園や金沢城などの歴史的観光資源に、21世紀美術館や工芸の展示が新しい魅力を加えている。
● 伝統的な街並みや工芸、食文化を守りながら、現代的な芸術やデザインも積極的に取り入れている。
● 若い世代を含む幅広い観光客層を引き寄せる力が高まっている。
● 国際イベントや会議の誘致が進み、地域としてのブランド価値が強化されている。
[ 出典 ] 金沢旅物語サイトより
[ 出典 ] 星野リゾート公式サイトより
[ 出典 ] 金沢21世紀美術館公式サイトより

【 沖縄・那覇 】
アジアと日本の交差点としての発展
那覇市は、沖縄県の玄関口であると同時に、アジアとの文化交流の拠点として発展してきました。那覇空港の国際線が充実したことで、台湾や中国、韓国からの観光客が増え、観光収入も伸びています。首里城を中心とした歴史的な観光資源に加え、国際通りでのショッピングや地元グルメが人気の観光要素です。近年はリゾートホテルや高級ブランド店が増え、富裕層の旅行者にもアプローチできるようになっています。また、伝統的な琉球文化と現代的な街並みがバランスよく共存し、那覇は「アジアと日本が交わる都市」としての存在感を高めています。
● 那覇市は沖縄の玄関口であり、アジアとの文化交流の拠点として発展している。
● 国際線の拡大により、台湾・中国・韓国からの観光客が増え、観光収入が伸びている。
● 首里城などの歴史資源に加え、国際通りのショッピングや地元グルメが観光の中心となっている。
● リゾートホテルや高級ブランド店の進出で、富裕層への訴求力が高まっている。
● 琉球文化と現代的な街づくりが共存し、アジアと日本が交わる都市としてのブランドを築いている。
[ 出典 ] 那覇市公式サイトより
[ 出典 ] JTB公式サイトより
[ 出典 ] おきなわ物語サイトより

【 鹿児島・霧島温泉 】
健康志向を取り入れた癒しの観光地
霧島温泉は、鹿児島県を代表する温泉地で、観光資源として幅広く評価されています。霧島連山の自然に囲まれた環境の中で、地元食材を使ったヘルシーな料理や、リラクゼーションを重視した観光プランが、健康志向の旅行者に支持されています。また、温泉の効能や自然療法をテーマにしたツアーやイベントも行われ、リピーターが増えるきっかけになっています。さらに、温泉地としての歴史的な魅力に加え、自然との共生を意識した環境配慮型の開発も進み、持続可能な観光地としてのブランドが形づくられています。
● 霧島温泉は鹿児島県を代表する温泉地として広く評価されている。
● 霧島連山の自然環境の中で、地元食材を使ったヘルシーな料理やリラクゼーション重視のプランが人気。
● 温泉の効能や自然療法をテーマにしたツアーやイベントが、リピーターを増やしている。
● 歴史ある温泉地としての魅力に加え、環境に配慮した開発が進んでいる。
● 自然との共生を意識した取り組みにより、持続可能な観光地としてのブランドが強まっている。
[ 出典 ] 鹿児島県霧島市公式サイトより
[ 出典 ] かごしまの旅サイトより

【 島根・出雲 】
神話の世界を現代観光に活かす
出雲市は、神話の地として広く知られ、出雲大社を中心とした観光が大きな魅力になっています。縁結びの神様で知られる出雲大社には全国から多くの参拝者が訪れ、神話にまつわる観光スポットも多く整っています。近年は、神話をテーマにした体験型の観光や、出雲の歴史や文化を深く知るガイドツアーが人気を集めています。出雲そばをはじめとした地元グルメも観光客から好まれ、観光と地域経済がしっかり結びついている点が特徴です。神話を現代の観光資源として活かすことで、古代と現代が自然に重なる独自の地域ブランディングが進んでいます。
● 出雲市は神話の地として知られ、出雲大社を中心とした観光が大きな柱になっている。
● 縁結びで知られる出雲大社に全国から参拝者が集まり、神話ゆかりのスポットも充実している。
● 神話をテーマにした体験型観光や、歴史・文化を深く知るガイドツアーが人気を伸ばしている。
● 出雲そばなどの地元グルメが観光客から好評で、観光と地域経済が密接につながっている。
● 神話を現代の観光資源として生かし、古代と現代が重なる独自の地域ブランディングが進んでいる。
[ 出典 ] 出雲観光協会公式サイトより
[ 出典 ] NAVITIME Travelサイトより

【 福岡・博多 】
食文化と祭りが生むブランド力
博多は、九州最大の都市として、特に食文化が観光資源として大きな役割を持っています。ラーメン、もつ鍋、明太子などの名物グルメが、多くの観光客の目的になっています。また、「博多祇園山笠」や「どんたく港まつり」といった大規模な祭りも、国内外から人を集めるイベントとして定着しています。さらに、福岡は交通アクセスが良く、アジア各国との行き来がしやすいことから、訪日外国人観光客にも選ばれやすい地域です。博多の活気ある街並みや食文化、伝統行事を中心とした観光資源が地域ブランドを支え、観光産業が地域経済にも大きく貢献しています。
● 博多は九州最大の都市で、食文化が主要な観光資源になっている。
● ラーメン・もつ鍋・明太子などの名物グルメが観光客を引きつけている。
● 「博多祇園山笠」や「どんたく港まつり」など、大規模な祭りが国内外から人を集めている。
● アジアとのアクセスが良く、訪日外国人にも人気が高い。
● 街の活気や食文化、伝統行事が地域ブランドを強化し、観光が地域経済に貢献している。
[ 出典 ] 博多市博多区公式サイトより
[ 出典 ] まつりーとサイトより
[ 出典 ] クロスロードふくおかサイトより

【 山梨・富士山 】
世界遺産の観光資源化とその効果
富士山は、2013年の世界遺産登録をきっかけに、観光地としての存在感がさらに高まりました。特に山梨県側は登山口や五合目までのアクセスが良く、国内外から多くの旅行者が訪れています。周辺には観光施設や宿泊施設もそろっており、観光産業が地域経済を支える大きな要素になっています。また、富士五湖や富士急ハイランドなど、富士山を軸にした観光スポットも幅広く、さまざまな世代が楽しめる環境が整っています。世界遺産登録の効果で山梨県全体の観光客が増え、地域の活性化にもつながっています。
● 富士山は2013年の世界遺産登録で観光地としての注目度が一段と高まった。
● 山梨県側は登山口や五合目へのアクセスが良く、多くの国内外の旅行者が訪れる。
● 周辺の観光施設や宿泊施設が充実し、観光産業が地域経済の中心的な役割を担っている。
● 富士五湖や富士急ハイランドなど、富士山を軸にした多様な観光スポットが幅広い世代に人気。
● 世界遺産効果で山梨県全体の観光客数が増え、地域の活性化が進んでいる。
[ 出典 ] 山梨県公式サイトより
[ 出典 ] じゃらん公式サイトより
[ 出典 ] 観光経済新聞公式サイトより
■ まとめ
地域ブランディングの成功には、その土地ならではの魅力を丁寧に汲み取り、それを一貫した戦略で発信していく姿勢が欠かせません。独自性をしっかり見極め、地元の資源を無理なく活かしながら、長期的に続けられる仕組みをつくることが、今回の10事例からもよく分かります。観光や産業、住民の愛着といった複数の要素が重なり合うことで、地域そのものの価値が高まっていく点は、どの地域にも共通しています。これから地域ブランドづくりに取り組む際は、短期的な成果だけに偏らず、地域の魅力の本質を見つめ、関わる人たちが協力し合える体制を整えることが大切です。そうした積み重ねが、地域の未来を支えるしなやかなブランドにつながっていきます。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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