
[ ブランド戦略 ]
顧客を虜にする“ブランドパーソナリティ”の極意
情報があふれる現代、機能や価格だけでは選ばれにくくなりました。消費者は「どんな人(ブランド)から買いたいか」を重視し、商品やサービスそのものではなく、共感できるブランドに惹かれる傾向があります。その背景で注目されているのが「ブランドパーソナリティ」です。ブランドパーソナリティとは、企業や商品がまるで“人”のように感じられる個性やキャラクターのこと。これがあることで、顧客との距離が一気に縮まり、長く愛される存在へと成長します。価格競争に巻き込まれず、ファンを生み続ける強いブランドには必ず「らしさ」があります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、そんな「選ばれる個性」をつくるための考え方と実践方法を詳しく解説します。
■ ブランドパーソナリティとは?

【 ブランドに「人格」を持たせる考え方 】
ブランドパーソナリティとは、企業や商品を「人」として捉え、あたかも人格や性格を持っているかのように感じさせる考え方です。単なるモノやサービスではなく、顧客が「そのブランドだからこそ選びたい」と思えるような親しみや感情的なつながりを生み出します。たとえば、スターバックスは「居心地の良い、親しみやすい空間を提供する友人」のように感じられ、アップルは「革新的でスマートな先駆者」として多くのファンを惹きつけています。このように、ブランドに“人間的な個性”を与えることで、顧客との距離を縮め、単なる商品ではなく「好き」「共感する」と思わせる存在に育てていく。それがブランドパーソナリティの本質です。
【 ブランドに個性を与える5つの軸とは 】

ブランドの個性設計で迷ったときに役立つのが、心理学者ジェニファー・アーカーが提唱した「ブランドパーソナリティ5つの軸」です。これは、誠実・刺激・有能・上品・たくましさという5つの人格的特徴に基づき、ブランドを人間のように捉えて整理するフレームです。どの軸に自社らしさや顧客との理想的な関係性があるかを見極めることで、単なる機能や価格ではない、ブランド独自の魅力や世界観を言語化しやすくなります。
⚫︎ Sincerity(誠実):親切、気が利く、素直、
⚫︎ Excitement(刺激):積極的、自由、元気で活発、ユーモアがある、現代的な、若々しい
⚫︎ Competence(能力):能力がある、責任感のある、しっかりしている、自信に満ちた
⚫︎ Sophistication(洗練):上品で、グラマラスな、お洒落、高級、知的
⚫︎ Ruggedness(頑丈):男らしく、タフ、アウトドア、無骨
例えば、レッドブルは「興奮」、シャネルは「洗練」、ジープは「無骨」に該当します。自社や商品の性格をこれらの軸に当てはめて考えることで、どんな“人格”を目指すべきかが明確になり、顧客に伝えるべきメッセージや表現が一貫していきます。
[ 引用 ] STANFORD BUSINESS公式サイト(Jennifer Aaker)
[ 引用 ] ブランド・パーソナリティ構造の円環モデルとその実務への応用
■ 魅力的なブランドパーソナリティを作るための3ステップ

1. ブランドのらしさを言語化する
ブランドパーソナリティを作る第一歩は、自社や商品の「らしさ」を明確に言葉にすることです。機能や特徴だけでなく、どんな価値観を大切にし、どんな社会や顧客に貢献したいのかを掘り下げましょう。他社にはない独自の強みや想いを、誰にでも伝わる言葉にすることで、ブランドの芯が生まれます。この「らしさ」が、全ての発信や行動の基準となり、ファンづくりの土台になります。
2. ターゲットとの理想の関係性を描く
次に重要なのは、「誰に」「どう思われたいか」を具体的に描くことです。万人に好かれる必要はなく、理想の顧客像(ペルソナ)を設定し、その人にとってどんな存在になりたいかを考えます。たとえば「親しみやすい友人」「挑戦を応援するコーチ」など、関係性を明確にすることで、言葉遣いや伝え方、表現すべき雰囲気が決まります。ターゲット視点に立った設計が共感を生みます。
3. 言葉・デザイン・体験を一貫させる
最後に、決めた「らしさ」や「理想の関係性」を、言葉・デザイン・体験すべてに一貫して反映させます。SNS投稿や広告の表現、店舗や接客の対応など、あらゆる顧客接点で統一感を持たせることが大切です。すべての場面で「このブランドらしい」と感じてもらうことで、信頼や好感が積み重なり、ブランドイメージが定着します。継続的な運用が成功のカギとなります。
■ ブランドパーソナリティを活かした顧客との関係づくり

【 SNS・広告・接客などあらゆる接点で“らしさ”を表現 】
顧客は広告だけでなく、SNS、Webサイト、店舗、スタッフ対応など、さまざまな接点を通じてブランドに触れます。そのすべてで「このブランドらしい」と感じてもらうためには、一貫した表現が欠かせません。たとえば、カジュアルで親しみやすいブランドを目指すなら、SNS投稿の言葉づかいもフレンドリーに、スタッフの対応も笑顔や会話を重視するなど、オンライン・オフラインを問わず統一感を大切にしましょう。特にSNSは、顧客がブランドと気軽につながれる場所です。公式アカウントを通じて日常の様子や考え方を発信し、共感や親近感を高めることで、ファンづくりが加速します。すべての接点で「らしさ」を表現し、顧客との距離を縮めましょう。
【 顧客の共感・愛着を育てるコミュニケーション術 】
ブランドパーソナリティを活かすには、顧客との「共感」と「対話」が欠かせません。一方的な情報発信ではなく、顧客の声に耳を傾け、反応に寄り添うコミュニケーションを心がけましょう。たとえば、SNSのコメントやDMへの丁寧な返信、レビューやアンケートへのお礼など、小さな対話を積み重ねることが信頼や愛着を育てます。また、「お客様のおかげ」「いつもありがとう」といった感謝の気持ちを伝える投稿や、顧客の声を取り入れた改善報告も有効です。ブランドを「自分ごと」と感じてもらうことで、応援したくなるファンを増やせます。共感を軸にした双方向のコミュニケーションを大切にしましょう。
【 長期的にファンを増やし続けるための運用ポイント 】
ブランドパーソナリティは一度作って終わりではなく、育て続けることが重要です。そのためには、社内全体でブランドの価値観やトーンを共有し、日々の活動に落とし込む運用体制を整える必要があります。たとえば、スタッフ向けのブランドマニュアルを作成し、定期的な勉強会やフィードバックの場を設けることが効果的です。また、顧客の反応や市場の変化を見ながら、柔軟に表現や施策を見直すことも大切です。決してブレない「芯」を守りながら、時代や顧客に合わせて進化し続けることで、長く愛されるブランドを育てられます。継続的な運用と改善を積み重ね、ファンとの絆を深めていきましょう。
■ 成功事例から学ぶ、顧客を虜にするブランドパーソナリティ
成功しているブランドには、必ず“選ばれる個性”があります。たとえば、スターバックスは「第三の場所」として、家でも職場でもない心地よい空間を提供し、多くのファンを獲得。アップルは「革新的でスマート」というイメージを徹底し、グローバルブランドとして確固たる地位を築いています。無印良品が「シンプルで本質的な暮らし」を提案し、世界中に共感を広げています。これらのブランドは、言葉・デザイン・体験を一貫させ、顧客との関係性を大切に育ててきました。自社の強みや価値観を磨き、独自のパーソナリティを明確にすることで、価格や機能だけではない“選ばれる理由”をつくり出すことができます。

【 コカ・コーラのブランドパーソナリティ 】
コカ・コーラのブランドパーソナリティは、世界中で一貫して「ポジティブ」「親しみやすさ」「若々しさ」を体現しています。その根底にあるのは「喜びの共有」と「日常を特別に変える魔法」です。
⚫︎ 陽気で前向き(Open Happinessキャンペーンに代表される)
⚫︎ グローバルでありながらローカルに寄り添う
⚫︎ 友達や家族と過ごす時間を豊かにする存在
⚫︎ ノスタルジーと現代性の絶妙なバランス
⚫︎ 誰でも知っている普遍的なアイコン性
日常の一瞬を「特別なひととき」に変える力こそ、コカ・コーラの本質です。
ブランドの根底には「一体感」と「感情を動かす力」が宿っています。

【 ディズニーのブランドパーソナリティ 】
ディズニーのブランドパーソナリティは、「夢」「魔法」「希望」を軸に、子どもから大人まで心を動かし続ける世界観が特徴です。エンターテインメントを超え、人生を豊かにする「感動体験の提供者」として愛されています。
⚫︎ 夢や希望を与える存在
⚫︎ 想像力と創造性にあふれる
⚫︎ 家族や仲間と楽しむ絆を大切にする
⚫︎ 魔法のような非日常を提供する
⚫︎ 品質と信頼の象徴として世界中に浸透
ディズニーは単なるキャラクターやストーリーではなく、「誰もが心に持つ夢を信じ続ける力」を思い出させてくれるブランドです。

【 NIKEのブランドパーソナリティ 】
ナイキのブランドパーソナリティは、「挑戦」「勝利」「自己超越」を軸に、すべての人の内なるアスリート魂を呼び覚ます存在です。スポーツの枠を超え、日常に「限界を超える力」と「自信」を与えるブランドとして確立しています。
⚫︎ 挑戦する勇気を後押しする存在
⚫︎ 限界を超える自己実現を象徴
⚫︎ 努力や失敗も肯定するリアルさ
⚫︎ 「Just Do It」に代表される行動主義
⚫︎ 世界中のアスリートと共鳴する力強さ
ナイキは、トップアスリートだけでなく、すべての人が「一歩踏み出す力」を持っていることを信じ、それを刺激し続けるブランドです。

【 UNIQLOのブランドパーソナリティ 】
ユニクロのブランドパーソナリティは、「シンプル」「実用的」「誰にでもフィットする」を軸に、世界中のあらゆる人の日常を豊かにする“LifeWear”を提案する存在です。流行に流されず、長く愛される服作りを通じて、生活に寄り添っています。
⚫︎ シンプルで無駄のないデザイン
⚫︎ 年齢・性別・国境を超えて誰にでも合う
⚫︎ 日常に最適化された機能性(ヒートテックなど)
⚫︎ 高品質・低価格のバランス
⚫︎ 生活をより快適にする知恵と工夫
ユニクロは、ファッションではなく「暮らしのための服」として、すべての人の毎日に寄り添い、世界中で共感されるブランドです。

【 Redbullのブランドパーソナリティ 】
レッドブルのブランドパーソナリティは、「挑戦」「刺激」「限界突破」を軸に、エナジーだけでなく生き方そのものに「翼を授ける」存在として確立されています。エクストリームスポーツや革新的なイベントを通じ、常識を超える体験を発信しています。
⚫︎ 限界に挑み続ける挑戦者精神
⚫︎ 予想を超えるサプライズと刺激
⚫︎ 若者文化やストリートカルチャーとの親和性
⚫︎ 世界中のアスリートや冒険家との共鳴
⚫︎ 単なる飲料ではなく「挑戦を後押しするアイコン」
レッドブルは、エナジードリンクを超え、挑戦するすべての人に「行動する勇気」を与えるブランドです。
■ まとめ
これからの時代、モノやサービスそのものではなく、「どんなブランドから買うか」が選ばれる基準になります。その鍵を握るのが「ブランドパーソナリティ」。企業や商品に“人”のような個性を与え、共感や信頼を育てることが、ファンづくりと売上向上の両立につながります。自社の価値観やビジョンを言語化し、ターゲットに響く理想の関係性を描き、すべての接点で一貫した「らしさ」を表現する。そして、顧客との対話を大切にしながら、長く愛されるブランドへと育てていきましょう。今日から取り組める一歩を踏み出し、顧客を虜にするブランドづくりをぜひ実践してみてください。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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– ブランド戦略からデザイン開発まで –
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