
[ ブランド戦略 ]
売れ続けるブランドはなぜブランディングをやめないのか?
ブランディングは一度やれば終わり。そう思っていませんか?実は、売れ続けるブランドほどブランディングを「続ける」ことをやめません。なぜなら、顧客も市場も日々変化し、過去の成功が未来の成功を保証しないことを知っているからです。ブランドは「作るもの」ではなく「育て続けるもの」。時代や顧客の変化に対応しながら、自社の価値を磨き続けることこそ、売れ続ける企業の共通点です。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、なぜ成功する企業ほどブランディングをやめないのか、その理由と実践方法を事例を交えながら解説します。
■ 売れ続けるブランドは「売れたら終わり」にしない

【 ヒット商品の次を見据えるブランドの共通点 】
一発ヒットで満足し、その先を見失うブランドは少なくありません。しかし、売れ続けるブランドは「次」を常に見据えています。たとえばヒット商品のファンから得た声を次の商品企画に反映し、ファンとの関係を深めながらブランドを成長させる姿勢です。現状維持に甘んじず「次はどう顧客に喜んでもらうか」を探り続ける。その積み重ねが、ブランドを「一過性のブーム」ではなく「長く愛される存在」に育て上げる鍵となるのです。
【 一発屋で終わるブランドと、成長し続けるブランドの違い 】
一度当たったブランドがそのまま失速する原因は、「過去の成功体験」にしがみつくことです。成長し続けるブランドは、成功を「過去」として捉え、常に環境や顧客ニーズの変化を観察しています。そして柔軟にブランドの在り方や届け方をアップデートし続けます。「変わらないブランド」とは、見た目や商品ではなく「変化に向き合う姿勢」こそが一貫しているブランドなのです。だからこそ売れ続けるブランドはブランディングを止めないのです。
【 変化し続ける市場と顧客に対応し続けるブランド力 】
市場は常に変化し、顧客の価値観も時代ごとに移り変わります。かつて有効だったメッセージやデザインも、数年経てば古く感じられることは珍しくありません。売れ続けるブランドは、その変化を恐れず「今、顧客は何を求めているのか」を問い続けます。顧客に合わせてブランド表現や体験を柔軟に更新し続ける力こそ、長期的な支持を得るための最大の武器なのです。変化に適応する力が、ブランドを時代に取り残さない鍵となります。
■ ブランディングを止めるブランドのリスク

【 成功体験に固執し、変化できなくなる危険 】
一度うまくいった施策やデザインを「不変の正解」と思い込むことは、ブランドにとって大きな落とし穴です。市場も顧客も変わり続けているのに、過去の成功モデルにしがみついてしまうことで、次第に時代遅れになり、顧客との距離が広がります。売れなくなってから慌てて見直すのでは手遅れです。変化に気づき、柔軟に動く力を失った瞬間から、ブランドはゆるやかに劣化し始めるのです。過去に縛られず進化し続ける姿勢が求められます。
【 市場や顧客ニーズとのズレに気づけなくなる恐れ 】
売れ続けるブランドは、常に顧客や市場の声に耳を傾けています。一方、ブランディングを止めたブランドは、自社視点だけで物事を判断し、顧客の変化に気づけなくなります。「昔はこれで売れた」「うちの商品はこういうものだ」という内向きの思考が、次第に市場とのズレを広げ、知らない間に顧客離れが進んでいきます。売れ続けるためには、常に外の変化を敏感にキャッチし、自社の価値を再確認し続けることが必要不可欠です。
【 競合との差別化が薄れ、価格競争に巻き込まれるリスク 】
ブランドを磨き続けなければ、競合との差が曖昧になり、最終的に「安さ」や「スペック」でしか勝負できなくなります。すると、価格競争に巻き込まれ、利益が圧迫され、事業の持続可能性が危うくなります。一方、ブランド価値を磨き続けているブランドは、「このブランドだから選ぶ」という指名買いを生み出し、価格に依存しない健全なビジネスを展開できます。差別化の武器を手放した企業は、いずれ市場から淘汰されてしまうでしょう。
■ 売れ続ける会社が実践している「進化するブランディング」

【 事業フェーズごとに見直すブランド戦略 】
創業期・成長期・成熟期と、企業には必ず事業フェーズごとの課題があります。そのタイミングごとに「今、自社はどんな存在として見られたいのか」「何を目指すべきか」を見直すのが、売れ続けるブランドの特徴です。最初は「認知拡大」、次は「ファンづくり」、その後「信頼の深化」と、フェーズに合わせてブランドの目的をアップデートし続けます。
【 顧客インサイトを捉え直し、届け方を進化させる】
顧客の悩みや欲求は時代と共に変化します。売れ続けるブランドは「顧客が本当に求めていること」を定期的に見直し、それに合わせてメッセージや体験設計を進化させています。例えば、健康志向の高まりに応えたメニュー開発や、DX化に合わせたサービス設計など。届ける相手も、届け方も、時代にフィットするよう更新し続ける。その柔軟さが、顧客との関係を長く続けるカギとなっています。
【 プロダクトだけでなく「体験価値」を磨き続ける 】
売れる商品を作るだけでなく、購入前後の「体験」全体をどう設計するかまで踏み込むのが、成長企業の視点です。購入しやすさ、開封のワクワク感、アフターサービス、コミュニティ参加など、顧客が接するすべての体験がブランドの価値を高めます。たとえば、Appleが商品だけでなく店舗体験やサポートまで徹底的に設計しているように、体験価値を磨き続けることが、ファン化と継続購買を生み出す鍵なのです。
■ 「止めないブランディング」を続けるための実践法

【 変化を前提に「ブランド定義」を見直し続ける 】
売れ続けるブランドは「一度決めたブランド」を守るだけでなく、変化を前提に柔軟に再定義しています。理念や価値観の軸は保ちながら、社会や顧客の変化に合わせて「今、伝えるべき言葉や届け方」を更新し続けることが重要です。古くなったブランド表現を放置せず、定期的に「私たちは誰に、何を、どう伝えるべきか」を見直す習慣を持つ。それが、ブランドを常に時代とともに進化させる原動力になります。
【 顧客との対話を続け、ニーズを常にアップデート】
ブランドを維持・進化させるには、顧客との対話を止めないことが欠かせません。アンケート、SNS、イベント、カスタマーサポートなど、あらゆる接点で顧客の声を拾い上げ、変化するニーズを把握し続ける企業は強いです。一方的に発信するだけではなく、顧客のリアルな声を「次のブランドの材料」として活かす。対話を通じて顧客と共にブランドを育てることが、継続的な成長への近道です。
【 発信・体験・プロダクトの一貫性を定期点検する 】
売れ続けるブランドは、見た目、言葉、商品、体験に「一貫性」があるからこそ信頼されます。定期的に自社の発信や顧客体験を点検し、「ズレ」が生まれていないかを確認することが重要です。例えば、SNSの発信と店舗体験、広告のメッセージと実際の商品価値が噛み合っているか。これを継続的にチェックし、修正し続けることで、顧客との信頼関係を崩すことなく、ブランドを維持・向上させることができます。
■ ブランディングの進化で成果を出している事例

【 UNIQLO|ファストファッションからLifeWearへ 】
ユニクロは、安さや大量生産型のイメージが強かったファストファッションから脱却し、「LifeWear」という新たなブランドコンセプトへ進化しました。ヒートテックやエアリズムといった機能性素材を開発し、単なる服ではなく、暮らしを快適にする道具として提案。さらに、サステナブル素材やリサイクル活動を強化し、環境配慮型ブランドとしても成長。世界中で「日常に寄り添う服」として高い支持を集めています。
[ 進化ポイント ]
⚫︎ 流行追従型から「生活を豊かにする服」へコンセプト転換
⚫︎ 機能性・品質・価格の三立を実現し、世界展開を加速
[ 具体的な取り組み・成果 ]
⚫︎ ヒートテック、エアリズムなど独自素材開発
⚫︎ グローバル店舗展開と「LifeWear」ブランド強化
⚫︎ サステナブル素材・リサイクル活動への注力

【 アサヒスーパードライアサヒビール|時代ごとの飲用体験を再設計 】
アサヒスーパードライは、1987年の「辛口・キレ味」で爆発的ヒットを記録。しかし、その成功に甘んじることなく、時代ごとの消費者ニーズに合わせて進化を続けています。缶を開けるだけで泡立つ「生ジョッキ缶」や、パッケージデザインのリニューアル、海外展開強化など、飲用体験や市場提案を常に刷新。既存ファンを飽きさせず、新たな層を取り込み続けることで、ビール市場のリーダーとして君臨しています。
[ 進化ポイント ]
⚫︎ 一度のヒットで終わらず、提供体験を次々アップデート
⚫︎ 競合との差別化を「体験設計」で強化
[ 具体的な取り組み・成果 ]
⚫︎ 生ジョッキ缶の開発で「缶ビール体験」の革新
⚫︎ 海外市場への展開とグローバルブランド化
⚫︎ サステナブルな製造・パッケージ素材開発

【 ロート製薬|製薬会社から健康ライフデザイン企業へ 】
ロート製薬は「目薬の会社」という固定イメージから脱却し、健康全般を支えるライフデザイン企業へ進化を遂げました。スキンケア、食品、サプリメント、再生医療など、多角的な事業展開を進める中で、ブランドステートメントを「すべての人を健康にする」と再定義。製薬だけでなく、日常生活に寄り添う商品・サービスを提供し続け、医療と生活をつなぐ存在として、さらなる成長を目指しています。
[ 進化ポイント ]
⚫︎ 目薬専業から美容・健康・食品・医療分野へ多角化
⚫︎ 企業ビジョンを「健康をデザインする」に再定義
[ 具体的な取り組み・成果 ]
⚫︎ スキンケア・食品事業など生活領域への進出
⚫︎ 企業ビジョン「NEVER SAY NEVER」で変化を推進
⚫︎ 再生医療やヘルスケアプラットフォーム開発

【 象印マホービン|魔法瓶メーカーから暮らし提案ブランドへ 】
象印マホービンは、魔法瓶メーカーとしての認知を超え、炊飯器やホットプレート、加湿器など、暮らし全体を支える家電ブランドへ進化しました。従来の機能重視から、デザイン性や生活提案力を強化し、「暮らしに寄り添う象印」という新たなブランドポジションを確立。若年層や都市部のライフスタイルにフィットする製品開発を進め、幅広い世代・市場から支持を集めるブランドへと成長を続けています。
[ 進化ポイント ]
⚫︎ 魔法瓶から炊飯器・調理家電・空間家電まで拡大
⚫︎ ブランドコンセプトを「暮らしのパートナー」に進化
[ 具体的な取り組み・成果 ]
⚫︎ おしゃれなデザイン家電ラインの展開
⚫︎ 体験型ブランド拠点「象印食堂」の開設
⚫︎ 使いやすさ・安心・健康志向の商品開発強化

【 Onitsuka Tiger|日本の伝統×グローバルストリート再生 】
オニツカタイガーは、スポーツシューズブランドとしての歴史を受け継ぎながら、ファッションブランドとして再定義されました。日本の伝統やクラフトマンシップを生かしたデザインを武器に、アジアやヨーロッパの若年層を中心に人気を拡大。サステナブル素材や現代的なストリートファッション要素を取り入れ、グローバル市場で再ブームを巻き起こしています。文化とトレンドを融合させた進化型ブランドです。
[ 進化ポイント ]
⚫︎ レトロスポーツからファッションブランドへ転換
⚫︎ 日本文化・クラフトマンシップを世界へ発信
[ 具体的な取り組み・成果 ]
⚫︎ 世界のファッションウィーク参加によるブランド力強化
⚫︎ サステナブル素材や伝統技法を取り入れた商品開発
⚫︎ グローバルな若年層マーケットで再ブームを獲得

【 ライフネット生命|ネット完結型保険のパイオニアから信頼ブランドへ 】
ライフネット生命は、ネット完結型の安価な保険で注目を集めましたが、価格競争だけに依存せず、「正直な保険」を掲げてブランドを進化させています。複雑で分かりにくい保険業界の常識を打ち破り、シンプルで誠実な商品説明や、代表自ら発信する顧客との対話を重視。さらに、社会課題への取り組みも強化し、安さ以上に「信頼されるブランド」として、多くの生活者に選ばれ続けています。
[ 進化ポイント ]
⚫︎ 「正直な保険」を掲げ、透明性・対話型ブランディングを実践
⚫︎ 価格ではなく「わかりやすさ」「誠実さ」で差別化
[ 具体的な取り組み・成果 ]
⚫︎ 代表自らが顔を出す誠実な情報発信
⚫︎ SNSやオンラインイベントで顧客との対話を継続
⚫︎ 保険商品のシンプル化と、顧客目線のサポート体制強化

【 コメダ珈琲店|地方喫茶から「くつろぎ文化」を全国に展開 】
コメダ珈琲店は、名古屋発祥の喫茶文化を武器に「くつろぎ」を提供するブランドとして全国に展開。ゆったりとしたソファ席や木目調の温かみある空間、大きなシロノワールやモーニングサービスなど、居心地の良さと満足感のある体験設計が特徴です。地方文化を「個性」として活かし、都市部や海外にも進出。「また来たくなる喫茶店」として、幅広い世代に愛されるくつろぎブランドへと成長しています。
[ 進化ポイント ]
⚫︎ 名古屋発の喫茶文化を「くつろぎ体験」として全国展開
⚫︎ 食事・ボリューム・空間設計を武器に独自ポジション確立
[ 具体的な取り組み・成果 ]
⚫︎ 大型店舗・木目調インテリア・ソファ席などの空間設計
⚫︎ シロノワールやボリューム満点モーニングなど体験価値の創出
⚫︎ FC展開・海外展開で「コメダブランド」を広域展開
■ まとめ
売れ続ける企業は、「売れたから終わり」ではなく、常に変化を受け入れ、自社の価値を磨き続けることをやめません。顧客や市場の声に耳を傾け、ブランドを柔軟に再定義し、届け方や体験設計を進化させ続ける。社内外を巻き込んで「共に育てるブランド運営」を実践し続けるからこそ、長く選ばれ続けるのです。あなたのブランドも、過去の成功に安住するのではなく、今この瞬間から「進化するブランディング」を再開してみてはいかがでしょうか。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

【 ご質問、お打合せ希望など、お気軽にお問合わせください。】
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