[ ブランド戦略 ]
トーンオブボイスとは?作り方と活用方法について
トーンオブボイス(Tone of Voice)は、企業が顧客とコミュニケーションを取る際の言葉の選び方や、メッセージの伝え方のことです。単なる言葉遣いだけでなく、そのブランドがどのように感じられるか、顧客にどんな印象を与えるかに深く関わっています。トーンオブボイスは、ブランドの個性や価値観を反映し、ブランドと消費者との関係を築く重要な要素です。統一されたトーンオブボイスは、広告、WEBサイト、ソーシャルメディア、カスタマーサポートに至るまで、一貫したブランド体験を提供し、消費者の信頼と共感を高めます。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、トーンオブボイスとは何か?からその作り方や活用方法ついて詳しく解説していきます。
■トーンオブボイスとは?
[図] 企業ブランドの“らしさ”は「ことば遣い・選び」にも影響する
トーンオブボイスとは、企業やブランドが顧客とコミュニケーションを取る際に使用する一貫した話し方や表現スタイルのことです。トーンオブボイスは、ブランドの個性や価値観を顧客に伝え、ブランドと顧客との信頼関係を築くために重要です。一貫性のあるトーンは、ブランドの認知度や信頼性を高め、顧客がブランドに親近感を感じる役目があります。また、ターゲット層やシチュエーションに応じて、柔軟にトーンを調整することで、さまざまな場面でブランドのメッセージをより効果的に伝えることができます。たとえば、ソーシャルメディアでの軽快なトーンや、ビジネスレポートでの誠実なトーンなど、異なる状況に応じてブランドのトーンを工夫することで、顧客との一貫性が保たれ、信頼が強化されます。
【トーンオブボイスのポイント】
⚫︎一貫性の確保
トーンオブボイスを一貫させることで、ブランドの信頼感と認知度が向上します。顧客がさまざまなチャネルでブランドに接触する際に同じトーンが保たれていれば、ブランドの存在感が強まります。特に、ウェブサイト、ソーシャルメディア、広告など異なる媒体で一貫性を持たせることが重要です。統一されたトーンは、顧客に安心感を与え、ブランドと顧客の結びつきを強化する効果を持ちます。
⚫︎ブランド個性の表現
トーンオブボイスは、ブランドが他のブランドと異なる独自性を表現する手段です。例えば、親しみやすさ、誠実さ、革新性などの特質を言葉の選び方や表現方法を通じて伝えることで、顧客にブランドの特長を印象付けます。適切なトーンは、ブランドの性格を明確にし、顧客との感情的なつながりを強化します。
⚫︎ターゲットへの共鳴
トーンオブボイスを顧客のニーズや文化に合わせることで、親近感や信頼感を醸成します。顧客が共感しやすいトーンを設定することで、ブランドメッセージが自然に浸透し、リピート顧客の獲得や口コミによる新規顧客の増加が期待できます。ターゲットに合ったトーンは、顧客に「このブランドは自分の価値観を理解している」と感じさせ、ロイヤルティを高める要因となります。
⚫︎場面に応じた調整
ブランドのトーンは基本的に一貫性が必要ですが、メッセージの内容や受け手に応じて柔軟に調整することも重要です。例えば、プロモーション活動でのトーンは親しみやすさを強調し、企業の発表や報告では信頼性を重視するなど、状況に適したトーンで対応することで、顧客に適切な印象を与え、ブランドへの好意を育むことができます。
■トーンオブボイスの作り方
[図] 複数の分野への投影により、ブランドへの共有認識と執るべき戦略が定まる
トーンオブボイスを作るには、まずブランドの価値観や個性を明確にし、それが顧客にどのような印象を与えるかを定義することが重要です。次に、ターゲット層をしっかりと理解し、彼らに響く適切な言葉遣いやトーンを選びます。競合ブランドのトーンを分析し、独自性を確保できる表現方法も工夫しましょう。これらを踏まえ、トーンのガイドラインを作成します。具体的な表現例や避けるべき言葉も盛り込み、メンバーが簡単に参照できるようにします。さらに、社内トレーニングや定期的なフィードバックを通じて、ガイドラインを常に改善していくことで、顧客に一貫したブランドイメージを提供できます。
【 トーンオブボイスの作り方のポイント 】
⚫︎ブランドの価値観と個性の明確化
ブランドが持つ価値観や個性を明確にし、それに基づいたトーンを設定します。ブランドの特性が軽快でユーモアを重視する場合は、トーンもカジュアルで親しみやすいものにします。一方、信頼や品質を強調するブランドであれば、誠実さや専門性を強調するトーンが適しています。
⚫︎ターゲット層の理解
トーンオブボイスは、顧客層に合わせて設定します。ターゲット層が若年層であれば、フレンドリーでカジュアルなトーンが適していますが、企業の経営層や専門家向けなら、よりフォーマルで信頼性のあるトーンが求められます。ターゲットの嗜好や価値観を理解し、それに合った表現を選ぶことが重要です。
⚫︎競合分析と差別化
競合ブランドのトーンオブボイスを分析することで、自社のトーンがどのように差別化できるかを検討します。同業他社と似たトーンにならないよう、ユニークな視点や表現方法を見つけて強みを出し、顧客に印象づけることが可能です。
⚫︎トーンガイドラインの作成
トーンの一貫性を維持するために、具体的な表現や言葉遣いを定めたガイドラインを作成します。このガイドラインには、使うべき言葉や避けるべき言葉、文章のテンションなどの具体例を含め、すぐに理解しやすいようにします。
⚫︎社内トレーニングとフィードバック
作成したトーンオブボイスのガイドラインに基づき、社内でトレーニングを行い、各担当者がそのトーンを維持できるよう支援します。また、顧客からのフィードバックや効果測定を行い、必要に応じて微調整することで、トーンが顧客の期待に沿うものに改善できます。
■トーンオブボイスを機能させるには
[図] 兼ね備えていて当然はトーンオブボイスとしては機能しない
トーンオブボイスを機能させるには、ブランドの価値観と個性を反映しつつ、顧客に響く表現を追求することが重要です。ブランドの使命やビジョンを基盤に、トーンオブボイスがどうあるべきかを具体化し、親しみやすさや信頼感など、顧客が求める調子を考慮します。一貫性を保ちながら、すべてのコミュニケーションチャネルで統一されたメッセージを発信することで、ブランド全体に統一感が生まれ、信頼性が向上します。さらに、市場や顧客のニーズに応じてトーンを適宜見直し、進化させることで、ブランドの鮮度を保ちながらも顧客との信頼関係を強化できます。こうしたプロセスを通じて、顧客に一貫したメッセージを提供しつつ、柔軟で多面的なブランド体験を提供するトーンオブボイスを作り上げることが可能となります。
■トーンオブボイスの活用方法
[図 ] 制作物や製作者を選ばず、統一した企業ブランディング活動が可能になる
トーンオブボイスの活用方法は、ブランドの一貫性を保ちながら、さまざまなチャネルやタッチポイントで顧客に統一感のあるメッセージを届けることです。まず、会社案内、WEBやSNS、広告、展示会に至るまで、全てのコミュニケーションチャネルでガイドラインを適用し、ブランドの価値観やスタイルが確実に反映されるようにします。また、スタッフや関係者にトーンオブボイスの重要性を理解してもらうため、社内でガイドラインを共有し、定期的にトレーニングを行います。さらに、顧客からのフィードバックを元に、トーンの適切性や共感度を評価し、必要に応じて調整を加えることも大切です。こうした施策により、顧客との信頼関係が築かれ、ブランドロイヤルティの向上に繋がります。
【 トーンオブボイスを活用するポイント 】
⚫︎チャネルごとの一貫性を確保
ブランドのトーンオブボイスは、ウェブサイト、ソーシャルメディア、広告、メール、カスタマーサポートなど、あらゆるコミュニケーションチャネルで一貫して使用します。これにより、どのチャネルからでも顧客がブランドの一貫したメッセージを受け取り、信頼感が高まります。
⚫︎ガイドラインの策定と共有
トーンオブボイスのガイドラインを社内に広め、スタッフ全員が理解できるようにします。これには、トーンの適切な使用方法、具体的な言い回しやスタイルの例も含めます。トレーニングや定期的なリマインダーも効果的です。
⚫︎顧客とのエンゲージメント向上
トーンオブボイスを通して顧客との関係を深め、共感を引き出すことが大切です。顧客の声に応じたコミュニケーションを行い、フィードバックに基づいてトーンの適応や改善を検討します。これにより、顧客の満足度が向上し、ロイヤルティが強化されます。
⚫︎デジタルとリアルの両方での適用
トーンオブボイスはオンラインのみならず、リアルな顧客接点でも重要です。例えば、店舗スタッフの応対やイベントでのメッセージングにも反映することで、ブランドが一貫した人格を持つように見えます。
■トーンオブボイスの開発タイミング
[ 図 ] ブランドパーソナリティを具現化するトーンアンドマナーとの同時開発が理想的
トーンオブボイスの開発タイミングは、ブランドや企業のコミュニケーション戦略が変更または新たに立ち上がる際に非常に重要です。特に、新ブランドのローンチ時やリブランディング、または異なる市場に展開する際には、ターゲット市場や顧客層に合わせたトーンを再検討する必要があります。また、社内文化の改革やデジタルチャネルの増加に伴って、企業が一貫したメッセージを発信するためにトーンオブボイスを見直すことが効果的です。顧客のニーズや価値観が変化するタイミングにも、ブランドとしての言葉遣いやスタイルが適応できるよう、トーンを再定義することがブランドの信頼構築と維持に繋がります。
■ ブランドパーソナリティとの違い
[図] ブランドパーソナリティをそのままトーンオブボイスとするのは無理がある
「トーンオブボイス」と「ブランドパーソナリティ」はどちらもブランドの表現方法に関する要素ですが、それぞれ異なる役割を担っています。「トーンオブボイス」は、ブランドがどのような語調やスタイルでメッセージを伝えるか、具体的な言葉遣いと表現スタイルに関する指針です。これは、顧客に対してブランドのメッセージがどのように届くかに影響を与え、ブランドの伝え方の一貫性を保つことが目的です。一方、「ブランドパーソナリティ」は、ブランドが持つ性格や個性を表し、ブランドが「どのような人か」といったイメージを消費者に抱かせるための概念です。ブランドパーソナリティは、友好的、信頼性、革新性などの人間的な属性に基づいて形成され、ブランドが顧客と長期的な関係を築くための基盤となります。
■ まとめ
企業ブランディングを言語面からコントロールする規定、トーンオブボイスについて可能な限りシンプルにまとめてみました。前述のパラグラフでは様々な“例え”ていくスタイルを紹介しましたが、逆に、生活者や顧客に『もたれたくない印象』『なりたくない対象』というものについて、ブランドの世界観の共有することで見えてくるものがあるはずです。これもまたトーンオブボイスと言えるでしょう。このように、理論として理解するよりも、ワークショップのような形で実践していくことのほうが理解しやすいものでもあります。トーンオブボイスを開発し運用していくことは、企業としてのメッセージの表現的な足並みを揃えることであり、生活者や顧客からの支持や信頼の向上へとつながっていくはずです。ぜひこれを機会に、トーンオブボイスの開発をご検討されてみてはいかがでしょうか。
株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。
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