[ ブランド戦略 ]
ブランドエクスペリエンスの重要性と成功事例
ブランドエクスペリエンスとは、消費者がブランドと接する際に得られる体験のことで、その印象や感情がブランドへの信頼や好意につながります。単なる製品やサービスの提供を超えて、消費者がブランドとどのように関わり、どのような感情を抱くかが、ブランドの成功に大きく影響を与えます。ポジティブなブランドエクスペリエンスは、顧客のロイヤルティを高め、競合との差別化を図るために有効な手法です。店舗での体験やオンラインでのカスタマーサービス、さらには広告やSNSでのコミュニケーションまで、あらゆる接点が消費者の印象を形作ります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ブランドエクスペリエンスの重要性と、消費者にとって心に残る体験を提供するためのポイントについて詳しく解説します。
■ ブランドエクスペリエンスとは?
[ 図 ]一方が欠けると健全なブランドは育たない
ブランドエクスペリエンスとは、顧客がブランドに接するすべての体験のことで、製品やサービスの利用、販売プロセス、カスタマーサポート、広告、イベント参加など多岐にわたる接点を通じて築かれます。この体験はブランドへの感情的なつながりを生む基盤となり、顧客がブランドを認識し、共感や信頼を深める重要な要素となります。ブランドエクスペリエンスが優れたものであれば、顧客の期待を超える満足感が生まれ、ブランドロイヤルティの向上、さらには他の顧客への口コミにもつながります。
例えば、Appleのストア体験やスターバックスの店舗でのサービスは、単なる商品の提供だけでなく、顧客に特別な体験を提供することで、ファン化につながっています。また、デジタル時代にはオンラインやSNSなど多様なチャネルもブランドエクスペリエンスの一部となり、ブランドに一貫性と信頼をもたらします。結果としてブランドエクスペリエンスは、競争優位性の確立やブランド価値の向上に大きく貢献します。
■ ブランドエクスペリエンスの重要性とは?
[ 図 ]ブランドの考えや思いを伝えることが重要
ブランドエクスペリエンスの重要性は、顧客との関係性を深め、ブランドの価値や信頼性を高めることにあります。ブランドエクスペリエンスを通じて顧客は製品やサービスを超えた「体験」を得るため、感情的なつながりが生まれ、ブランドに対する愛着が育ちます。こうした体験がポジティブであれば、口コミやSNSなどでの拡散も促され、自然に新しい顧客の獲得につながります。
さらに、ブランドエクスペリエンスは顧客がブランドを選ぶ理由となり、競合との差別化を図る重要な理由となります。例えば、AppleやNikeなどは、デザインや価値観を通して顧客が特別な体験を得られるブランドエクスペリエンスを提供し、高いブランドロイヤルティを築いています。これにより顧客は製品を購入する際、そのブランドの一貫した体験に期待感を抱き、リピート購入につながるのです。
■ ブランドエクスペリエンスにはカスタマージャーニーが大切
ブランドエクスペリエンスにおいてカスタマージャーニーは、顧客がブランドと接触する一連の体験プロセスとして非常に重要です。カスタマージャーニーは、顧客がブランドとどのように関わり、どのタイミングで購買や評価に影響を受けるかを分析するツールとして機能します。顧客はブランドと出会う認知段階から、調査・比較、購買、アフターサービス、さらにはブランドを推薦する段階へと進む過程で様々なタッチポイントを通じて接触します。
この一連のプロセスがブランドエクスペリエンス全体にわたる質を左右し、顧客満足度やロイヤルティの向上に直結します。また、カスタマージャーニーの各ステージで顧客が感じる価値や期待を理解し、ブランドエクスペリエンスを一貫したものにすることが重要です。これにより顧客の期待を上回るサービス提供や迅速な対応が可能となり、競合との差別化にもつながります。
■ メディアの多様化とブランドエクスペリエンス
メディアの多様化が進む現代で、ブランドエクスペリエンスの価値が一層高まっています。従来、ブランドはテレビや新聞、雑誌といった限られたチャネルでの情報発信を通じて構築されていましたが、SNS、動画プラットフォーム、ブログ、ポッドキャストといった新しいメディアの登場により、ブランドは多様な方法で顧客との関係を深められるようになりました。この多様化によって、ブランドのメッセージをよりターゲットに沿った形で発信でき、個々のメディア特性に合わせた「体験」を提供することが求められています。
ブランドエクスペリエンスは、メディアを活用して「顧客の心に残る」体験を提供することが目的です。例えば、SNSを通じたユーザーとの双方向のコミュニケーションや、動画コンテンツによる視覚的なブランディング、さらにポッドキャストを通じた専門性の発信など、各メディアが持つ独自の強みを活かし、ブランドの世界観やメッセージをより深く、広く伝えられるのです。この結果、ブランドエクスペリエンスは単なる認知向上の手段ではなく、消費者との深いエンゲージメントを促進するものとして機能します。
■ ブランドエクスペリエンスの成功事例
【 レクサス | Intersect by LEXUS 】
Intersect by LEXUSは、自動車メーカーのレクサスが展開するライフスタイル空間のブランドです。レクサスのクルマに関するブランディングや広告をすることが目的ではなく、レクサスが提供するブランドエクスペリエンスを、様々な分野で体験できる場所として展開されています。Intersect by LEXUSは、カフェ、レストラン、イベントスペース、アートギャラリーなど、多様なコンテンツが用意されています。これらは、レクサスのブランドコンセプトである「Experience Amazing(驚きの体験)」を具現化し、ライフスタイルに対する新しい価値を提供することを目的としています。Intersect by LEXUSは、東京、ドバイ、ニューヨークなど、世界各地に展開されています。また、Intersect by LEXUS Tokyoでは、レクサスが開発した新しいプロダクトやコンセプトカーを展示するスペースも用意されています。これにより、レクサスの製品に興味を持っている人々は、自然な形でレクサスの世界観を体験することができます。Intersect by LEXUSは、レクサスが提供するブランドエクスペリエンスを多角的に体験できる場所として、レクサスのブランド価値を高めるとともに、新しいカスタマーエクスペリエンスの創造に取り組んでいることから注目されています。
[ ブランドエクスペリエンスの成功ポイント ]
⚫︎体験重視の空間設計
Intersect by LEXUSは、単なるショールームではなく、カフェやギャラリー、イベントスペースなど多様な機能を組み合わせた空間設計を行うことで、来場者がブランドの世界観を体感できるようにしています。これにより、訪れる人々がLEXUSの高級感と革新性を五感で感じられる場所として成功しています。
⚫︎文化的価値との共鳴
この施設では、自動車以外にもアート、デザイン、食文化といった異分野との融合を試み、LEXUSブランドの持つ美意識と品質を他分野にも広げています。これにより、ブランドへの新しい認識や価値観を提供し、単に「車」ではなく「ライフスタイル」を象徴するブランドとしての認識を深めています。
⚫︎地域に根ざした展開
世界各地での展開では、各地域の文化や特徴を取り入れた空間作りやメニューの提供を行い、訪れる人々が地元の感覚でブランドに触れられるようにしています。地域性を重視したアプローチが、ブランドエクスペリエンスをより魅力的で多様性のあるものにし、地域ごとに異なるLEXUSの一面を示しています。
⚫︎一貫した高品質なサービス
Intersect by LEXUSでは、顧客がどのような接点を通じても一貫して高いサービスが提供されるよう徹底しています。これにより、ブランドに対する信頼感や安心感が増し、リピーターや新規顧客を惹きつけることに成功しています。
[ 引用 ] INTERSECT BY LEXUS公式サイトより
【 スノーピーク|Snow Peak Experience 】
Snow Peak Experienceは、日本発祥のアウトドアブランドであるSnow Peakが、アウトドアライフスタイルを提供するコミュニティスペースのブランドです。Snow Peakが提唱するライフスタイル「Life with Fire(火とともに生きる)」を体験できる場所として、キャンプ、アウトドア、料理、アートなど、様々なコンテンツが用意されています。Snow Peak Experienceには、カフェ、レストラン、ショップ、宿泊施設、アートギャラリー、イベントスペースなど、多様なコンテンツがあります。これらのコンテンツは、Snow Peakのブランドコンセプトである「Redefine(再定義する)」を体現し、アウトドアライフスタイルに対する新しい価値を提供することを目的としています。Snow Peak Experienceは、新宿、表参道、大阪、札幌、福岡など、日本国内に複数の店舗を展開しています。また、Snow Peakの商品やテント、コトヒラなど、アウトドアに必要なアイテムをレンタルすることもできます。これにより、アウトドアライフスタイルに興味を持っている人々は、自然な形でSnow Peakの世界観を体験することができます。Snow Peak Experienceは、アウトドアライフスタイルを提供するコミュニティスペースとして、Snow Peakのブランド価値を高めるとともに、新しいカスタマーエクスペリエンスの創造に取り組んでいることから注目されています。
[ ブランドエクスペリエンスの成功ポイント ]
⚫︎自然と都市を融合した体験の提供
Snow Peakは、アウトドア製品の提供にとどまらず、キャンプ場や体験イベントを通じて、消費者に自然と深く関わる時間を提供しています。この「自然との共存」はブランドのコアメッセージであり、消費者がリラックスしたりリフレッシュする機会を創出します。
⚫︎製品品質への徹底したこだわり
Snow Peakの製品は高い品質と耐久性で知られており、消費者に長く使ってもらうためにデザインされています。これにより、製品を通して持続的にブランドとつながるエクスペリエンスを実現しており、消費者の信頼を高めています。
⚫︎コミュニティ形成を重視したマーケティング
Snow Peakは、顧客がブランドの価値観を共有し合う「コミュニティ」を大切にしています。特に定期的なイベントやSNSでの交流を通じ、消費者がブランドのファンとしてつながり、信頼関係を築いています。
⚫︎環境に配慮したブランド価値
Snow Peakは持続可能な製品やサービスを重視し、エシカルな選択を提供しています。消費者は、製品を選ぶことで環境保護にも貢献できるため、ブランドとエシカル価値観で結びつきやすくなっています。
[ 引用 ] スノーピーク公式サイトより
【 ナイキ|Nike By You 】
Nike By You(旧称NikeiD)は、2000年にNikeが立ち上げたプログラムで、顧客が自分の好みに合わせて靴をカスタマイズできるようにすることを目的としています。このプログラムは、オンライン上で利用することができ、顧客が自分で靴のデザインをカスタマイズすることができます。顧客は、自分の好みに合わせて、靴の素材、カラー、ロゴの配置、アウトソールのデザインなどを選択することができます。顧客は、自分だけのオリジナルの靴を作り上げることができ、自分のスタイルに合わせた一点物の靴を手に入れることができます。Nike By Youは、顧客とブランドの関係性をより強固なものにするために、Nikeが提供するサービスの一つです。このプログラムにより、顧客はNikeとのエンゲージメントを高めることができ、自分自身がデザイナーになったような感覚を味わうことができます。また、このプログラムは、新しい顧客を獲得し、既存の顧客を維持することにもつながります。
[ ブランドエクスペリエンスの成功ポイント ]
⚫︎顧客の個性を反映できるカスタマイズ機能
Nike By Youは、ユーザーに好みのデザインや色を選ぶ自由を与え、シューズに自分の個性を反映できます。この体験により、顧客はブランドとの個人的なつながりを強く感じ、他のどこにもない唯一無二の製品を持つことで満足感を得られます。
⚫︎体験のデジタル化と利便性
オンラインプラットフォームでのシューズデザイン体験は、簡単で直感的な操作が可能です。自宅からアクセスしてデザインできる利便性は、高いエンゲージメントを提供し、ブランドへの親近感を生みます。
⚫︎ユニークなブランドエンゲージメント
カスタマイズを通じて顧客がデザイナーのように感じられる仕組みは、Nikeの一員であるという特別な感覚を生み出します。これにより、ブランドへの忠誠心が高まり、消費者が積極的に自らの体験をSNSなどで共有する機会が増加します。
⚫︎消費者のクリエイティブな欲求に応える
自分のスタイルを表現したいという現代消費者のニーズに応えることで、Nikeは新しい世代のブランドロイヤルティを構築しています。顧客のクリエイティブな欲求に合わせたサービスを提供することで、リピーターを確保しています。
[ 引用 ] Nike Be You公式サイトより
【 スターバックス|Starbucks Reserve Roastery 】
Starbucks Reserve Roasteryは、スターバックスが展開する高級店舗で、コーヒーの焙煎、抽出、提供までを一貫して行うことを目的としたコンセプトショップです。Starbucks Reserve Roasteryは、世界各地に展開されており、一つのロースタリーには、数千平方メートルの広大な空間が設けられています。ここでは、新鮮なコーヒー豆を焙煎し、そのコーヒーを専用の器具で抽出し、顧客に提供することができます。また、顧客は、スターバックスの従来店舗では提供されないような、限定メニューのコーヒーを楽しむことができます。Starbucks Reserve Roasteryは、スターバックスのコーヒービジネスにおいて、高級感とエクスクルーシブ感を演出することを目的としています。ロースタリーの内装は、高級感あふれるものになっており、美しいインテリアやデザインによって、顧客に独自のブランドエクスペリエンスを提供しています。また、限定メニューや、レアなコーヒー豆を扱うことにより、顧客に独特なコーヒー体験を提供することができます。
[ ブランドエクスペリエンスの成功ポイント ]
⚫︎五感を刺激する洗練された空間
Starbucks Reserve Roasteryは、高級感と豊かな香りで五感を刺激し、訪れる人々に特別な体験を提供しています。内装には自然素材が多く使われ、店舗全体で「コーヒー体験」にふさわしい雰囲気が醸し出されており、訪れるだけで満足感が得られる空間です。
⚫︎コーヒー文化の伝道役としての位置づけ
一般のカフェとは異なり、Roasteryでは生豆の焙煎や抽出プロセスを間近で見学できます。これにより顧客は、スターバックスの専門知識とクラフトマンシップを目の当たりにすることができ、コーヒーの奥深さに対する理解とブランドへの信頼が深まります。
⚫︎限定商品と地域の特産物を反映
Roastery限定のメニューやアイテムが提供され、訪れる度に新鮮な体験ができるのも大きな魅力です。地域特有の素材を取り入れたメニューを展開することで、地元とのつながりを深め、ブランドへの愛着が一層強化されます。
⚫︎イノベーションとブランドの一貫性の融合
店舗のデザインやサービスには、スターバックスのブランドアイデンティティが反映されつつ、革新的なエレメントが加えられています。これにより、スターバックスならではの一貫した体験を提供しながら、新しさも感じられるよう工夫されています。
[ 引用 ] Starbucks Reserve Roastery公式サイトより
■ まとめ
ブランドエクスペリエンスについて、その本来的な意味について事例を交えながらご紹介しました。ブランドを体験するということは、商品を試したり、展示会などの説明の機会をもつものではないこと、生活者の行動の導線に自ブランドの考え方を“乗せる”仕組みをつくることであるこということがお分かりいただければ幸いです。厳しい市況が続く中、ブランドエクスペリエンスについて考えていくことは様々な事情からも難しいことは想像に難しくありません。しかし、そうした状況の中からブランドを救うのもまた、ブランドエクスペリエンスを提供していくことであることも確かです。このブログを機会に、御社のブランドエクスペリエンスについて再度ご検討してみてはいかがでしょうか。
株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。
【 ご質問、お打合せ希望など、お気軽にお問合わせください。】
– ブランド戦略からデザイン開発まで –
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