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ブランドビジョンの開発目的と展開事例

[ ブランド戦略 ]

ブランドビジョンの開発目的と展開事例

ブランドビジョンは、企業がどんな未来を目指し、どんな価値を社会に届けたいのかを明確にするための指針です。しっかりとしたビジョンは、企業の方向性を定めるだけでなく、顧客や社員にその使命や存在意義をわかりやすく伝える役割を果たします。ビジョンがきちんと浸透している企業では、社内外で一貫した行動や発信が生まれ、その積み重ねがブランドの信頼や価値向上につながります。ビジョンをつくる際には、企業の核となる価値観や顧客ニーズ、社会的な役割を改めて見つめ直し、将来どのような姿を目指すのかを描くことが大切です。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ブランドビジョンの効果的なつくり方や、実際の企業事例を交えながら、その意義と実践の要点をわかりやすく解説します。


■ ブランドビジョンとは?

ブランドビジョンとは、企業やブランドが「どんな未来を実現したいのか」を示す、長期的な方向性や理想像のことです。単なる目標やスローガンではなく、ブランドの存在意義を踏まえたうえで、社会や顧客にどんな価値を届けていくのかを明確にする指針です。ブランドビジョンがはっきりすると、企業としての意思決定に一貫性が生まれ、社員の行動やコミュニケーションも揃いやすくなります。また、顧客や社会にとっても、そのブランドがどんな未来を目指しているのかが伝わりやすくなり、共感や信頼を育てるきっかけになります。たとえば「人々の暮らしをより豊かにする」「未来の地球に貢献する」といった形で、ビジョンはブランドが描く“これからの約束”を示すものです。ブランドビジョンは、戦略・デザイン・文化をつなぐ要素であり、短期的な成果にとどまらず、社会とともに成長していくための道しるべといえます。

■ ブランドビジョン開発の目的

ブランドビジョン開発の目的

1. ブランドの存在意義と未来像を明確にする

ブランドビジョンの第一歩は、「何のために存在しているのか」「どんな未来を実現したいのか」を言葉にすることです。存在意義と未来像がはっきりすると、ブランドが進む方向が定まります。事業としての目標だけでなく、社会でどんな役割を果たしたいのかを描くことで、求められるブランドに育っていきます。さらに、この過程でブランドの核となる価値観が整理され、意思決定の精度も自然と高まっていきます。

[ ポイント ]

なぜこのブランドが存在するのかを明確にする
社会や顧客にとっての未来的価値を描く
経営の軸として長期的な方向性を設定する

2. 経営理念や事業戦略と一貫性を持たせる

ブランドビジョンは、経営理念や事業戦略と切り離して考えることはできません。企業としての理念やミッションと同じ方向を向いていることで、社内外の納得感が高まります。ビジョンと戦略を結びつけることで、組織全体が一つの目標に向かって動ける体制が生まれます。一貫性は、信頼や継続性の土台になります。加えて、この整合性があることで日々の判断も迷いにくくなり、事業の進行がスムーズになります。

[ ポイント ]

経営理念・戦略・ブランドの整合性を保つ
メッセージに矛盾のない構造をつくる
組織全体が同じ目的で動ける体制を整える

詳細記事:企業理念の重要性と浸透させるポイント

3. 社員の意識と行動の方向性を統一する

ブランドビジョンは、社員が日々の業務で「何を大切にすべきか」を判断する軸になります。全員が同じ価値観を共有し、共通の目的に向かって動けることで、組織としての一体感が自然に高まります。行動がビジョンに沿うようになると、企業文化としても定着しやすくなります。さらに、各部署の目線も揃いやすくなり、協力体制が築きやすくなるため、組織全体の連携力も安定して向上していきます。

[ ポイント ]

社員全員が共通の価値観で行動できる基盤をつくる
判断基準を統一し、迷わない組織をつくる
ビジョンを通じてチームの一体感を醸成する

 詳細記事:【必読】行動指針の目的と効果とは

4. 顧客や社会に対してブランドの約束を示す

ブランドビジョンは、外に向けた「私たちは何を約束するのか」という宣言でもあります。顧客や社会にどんな価値を届け、どんな姿を目指すのかを示すことで、信頼や共感が生まれます。言葉にした約束を日々の行動で示し続けることが、ブランドの信頼を積み重ねるいちばん確かな方法です。その積み重ねがブランドの姿勢として認識され、長期的な関係づくりにもつながる大切な役割を果たしていきます。

[ ポイント ]

顧客や社会への「未来への約束」を明確に示す
言葉と行動が一致した信頼関係を築く
一貫したメッセージでブランドの誠実さを伝える

5. 社内外のコミュニケーション軸をつくる

ブランドビジョンは、あらゆる発信活動の中心にある“軸”になります。広告、採用、PR、社内コミュニケーションなど、どんな場面でも同じ方向性で発信できるようにすることで、ブランドの印象に統一感が生まれます。内と外で言葉や表現がぶれないことは、信頼を積み重ねる大切な条件です。さらに、ビジョンを基点に据えることで、発信内容の判断基準も安定し、無駄な迷いを減らす効果も生まれていきます。

[ ポイント ]

内外のコミュニケーションを一貫した方向に整える
伝える言葉やビジュアルをビジョンに基づかせる
ブランドの世界観を統合的に発信する

6. ブランド価値を高め、差別化の基盤を築く

明確なブランドビジョンは、他社にはない独自の価値を示すための土台になります。機能だけでなく、ブランドとしての姿勢や理念で差別化することで、顧客の共感を得やすくなります。ビジョンを軸にしたブランドは模倣されにくく、長く愛される存在へ成長していきます。さらに、企業が一貫した姿勢を保つことでブランドの評価が積み重なり、持続的な競争優位も築きやすくなります。

[ ポイント ]

競争ではなく“共感”で選ばれるブランドを目指す
理念による差別化でブランドの独自性を築く
長期的に価値が積み重なるブランド基盤をつくる

 詳細記事:ブランド価値とは?高める方法と活用方法

7. 社員の共感とブランドへの誇りを醸成する

社員がブランドビジョンに共感し、自分の仕事と結びつけて考えられるようになると、ブランドは内側から強くなります。自社の存在意義に誇りを持つ社員ほど、顧客に誠実な姿勢で向き合えます。共感と誇りが組織に広がることで、ブランドは“企業名以上の存在”へと育っていきます。その状態が続くことで組織の結束力も高まり、日々の業務にもより前向きなエネルギーが生まれていきます。

[ ポイント ]

社員がビジョンを自分事として感じられる環境をつくる
ブランドへの誇りと愛着を育てる仕組みを整える
内側からブランド価値を高める文化を育む

8. 社会的使命と企業活動を結びつける

ブランドビジョンは、企業が社会でどんな意義を持つのかを示す役割も果たします。社会課題の解決や未来への貢献など、ビジョンが社会との接点を持つことで、企業活動がより意味を持つようになります。企業の成長と社会の幸せを両立させる姿勢が、今の時代に求められています。こうした視点を取り入れることで、ブランドが果たす価値の広がりが明確になり、長期的な信頼構築にもつながります。

[ ポイント ]

社会への貢献意義を明確にする
企業活動と社会的価値を結びつける仕組みをつくる
サステナビリティ視点でブランドの未来を描く

■ ブランドビジョン開発の手順

ブランドビジョン開発の手順

1. 目的とゴールの明確化

ブランドビジョン開発の最初のステップは、「なぜ今、ビジョンを策定するのか」をはっきりさせることです。目的が曖昧なまま進めると、抽象的で浸透しづらいビジョンになりがちです。経営・組織・ブランドそれぞれの課題を整理し、開発のゴールを具体的に描くことで、プロセス全体に一貫性が生まれ、実効性のあるビジョンに仕上がります。明確な意図を持って取り組むことが、全員の共通認識をつくっていきます。

[ ポイント ]

ビジョン開発の目的と期待する成果を具体的に設定する
経営・組織・ブランドの課題を可視化する
ビジョンの活用範囲(社内外・中長期)を明確にする

2. 現状分析(ブランド診断)

ブランドの「今」を正確に把握することが、ビジョン策定の土台になります。市場環境、競合状況、顧客の評価、社員の意識などを多角的に分析し、ブランドの強み・課題・可能性を見つけます。現実と理想の差を明確にすることで、理想論に流れず、実行しやすいビジョンを描くことができます。分析の精度が高いほどブランドの軸がぶれにくくなり、未来の方向性もより確かなものになります。

[ ポイント ]

ブランドの現状・課題・強みを整理する
顧客・競合・社内など多面的に診断する
理想とのギャップを定量・定性の両面で把握する

3. ブランドの本質・価値の抽出

次に行うのは、ブランドの「変わらない核」を見つけることです。創業の想い、歴史、企業文化、顧客からの信頼といった背景をていねいに掘り下げながら、ブランドの本質的な価値を明らかにします。時代の流れに左右されない“らしさ”を見つけることで、ブランドの原点が定まり、すべての表現や行動の基盤になります。その核を言語化し共有することで、組織全体が同じ方向に進みやすくなります。

[ ポイント ]

創業の想いや文化から本質的な価値を抽出する
顧客が感じる「そのブランドらしさ」を整理する
変化しても揺るがないブランドの軸を明確にする

4. 社会・顧客インサイトの整理

ブランドビジョンは、社会や顧客の変化を踏まえてこそ意味を持ちます。現代の課題や価値観の変化を理解し、ブランドが果たせる役割を見極めることが重要です。顧客のニーズや社会的トレンド、文化的背景を分析し、「ブランドがどう貢献できるか」を丁寧に言語化していきます。社会とのつながりを意識することで、ブランドの持続性や共感が高まり、ビジョンの実現性も高まります。

[ ポイント ]

顧客の価値観やライフスタイルの変化を把握する
社会的課題や文化的潮流を分析する
ブランドが社会に提供できる新たな意味を見出す

5. ブランドの存在意義(パーパス)の定義

パーパスとは、「このブランドはなぜ存在するのか」という問いへの答えです。利益や製品の枠を超えて、社会における使命を明確にすることで、より強い共感を得られます。パーパスがしっかりしているブランドは、意思決定や行動の一貫性が生まれ、社員や顧客を自然と惹きつけます。明確なパーパスは企業文化や日々の行動にも息づき、ブランドの未来を導く指針として働きます。

[ ポイント ]

社会におけるブランドの使命・役割を明確にする
利益追求ではなく“意義”を基軸に据える
社員や顧客が共感できる言葉で定義する

■ ブランドビジョンの展開事例

グーグルのブランドビジョン展開事例

【 GOOGLE|グーグルのブランドビジョン 】

Never settle for the best

[ 現在においてもナンバーワンに甘んじない企業姿勢を貫いている ]

言わずと知れた検索エンジンサービスを提供するグーグル社ですが、同社が掲げる“Our Philosophy”の中には、「Never settle for the best(ベストに甘んじない)」という一節があります。日本語に置き換えると「最善を尽くしても、そこで満足しない」といった意味になります。グーグルは1998年の設立以来、検索結果を導き出すプロセスを常に見直し、利用者にとって使いやすいサービスを追求し続けています。私たちがグーグルの検索結果に大きな不満を抱きにくいのは、すでに世界有数の検索エンジンサービスでありながら、その精度を今もなお磨き続けているからです。

このフィロソフィーは、社員にとっても大切な指針になっています。プロジェクトの企画や運営、品質向上の場面など、あらゆる業務において「どうすればもっと良くなるか」を考え続ける姿勢が、組織全体の前向きな成長につながります。なお、この“Our Philosophy”自体は広く知られているわけではなく、日本語での正式な公開もありません。その一方で、グーグルは「Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。」というミッションステートメントや、「グーグルが真実と認めた10のこと」などを通じて、ブランドとしての価値観や考え方を丁寧に伝えています。

[ 出典 ] Google Corporate Informationより

アマゾンのブランドビジョン展開事例

【 AMAZON|アマゾンブランドビジョン

Who we are

[ 米国アマゾン社では4つの原則を文章で表明。
アマゾンジャパンでは「地球上で最もお客様を大切にする企業を目指しています」とされている。]

世界的なオンラインショッピングサイトといえば、まずアマゾン社の名前が挙がるでしょう。アマゾンは「ビジョン」という言葉こそ使っていませんが、米国本社のサイトでは「Who we are」という見出しのもと、活動の基盤となる4つの原則を示しています。それは、「競合他社よりも顧客に向き合うこと」「革新と発明への情熱」「卓越した運営への取り組み」「長期的な思考」です。書籍の通販からスタートしたアマゾンは、今では生活のあらゆる分野の商品を扱い、配送スピードも以前では考えられないほど進化しました。さらに、音楽や映像などのコンテンツ提供、アプリケーションのプラットフォーム運営といった無形のサービス領域や、社会課題の解決に向けた活動にも積極的です。

こうした幅広い事業展開は、単なる市場原理や需要と供給の関係だけで説明できるものではなく、4つの原則をもとにした一貫した行動の積み重ねであることがわかります。アマゾンが今後も顧客中心の姿勢を貫いていく限り、同社の成長は引き続き期待できると考えられます。

[ 出典 ] Amazon About Amazonより

ナイキのブランドビジョン展開事例

【 NIKE |ナイキブランドビジョン

BRING INSPIRATION AND INNOVATION
TO EVERY ATHLETE* IN THE WORLD

[ 言い回しと表現もスマートにまとめた企業理念の例 ]

スポーツ用品の製造・販売を行うナイキ社は、OUR MISSIONとして「BRING INSPIRATION AND INNOVATION TO EVERY ATHLETE* IN THE WORLD *IF YOU HAVE A BODY, YOU ARE AN ATHLETE.(世界中のすべてのアスリートに、インスピレーションとイノベーションを。※身体があるすべての人がアスリートである)」と掲げています。補足説明のような長い文章はありませんが、この短い一文の中にナイキらしさがしっかりと凝縮されています。ナイキの製品が常に高いデザイン性や機能性、そして革新性を持っているのは、このミッションを軸にしているからだと考えられます。広告や企業PR、社会貢献活動など、ナイキが展開するさまざまな取り組みも、この理念と深くつながっています。

また、文章中の「*印」の一言が、ナイキが特定のアスリートだけでなく、世界中のすべての人を対象にしている姿勢を自然に伝えています。読む人の気持ちを前向きにするこのミッションは、ブランドへの信頼や共感を生み、ビジネスの成長につながる好例と言えるでしょう。

[ 出典 ] NIKE Webサイト Topより

キリンホールディングスのブランドビジョン展開事例

【 KIRIN |キリンホールディングスブランドビジョン

「食と健康」の新たなよろこびを広げ、
こころ豊かな社会の実現に貢献します

[ アルコールから健康分野までをを傘下にもつグループならではの表現 ]

キリンビールやキリンビバレッジ、メルシャンなどを傘下に持つキリンホールディングス株式会社は、グループ全体で一貫した企業ブランド体系を掲げています。同社はグループ経営理念として「キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します」と定めており、それを補うメッセージもあわせて示しています。キリンホールディングスでは、このグループ経営理念を“ミッション”と位置づけ、「社会における永続的・長期的なキリンの存在意義」として明確に定義しています。

企業ブランディングの設計は非常に整理されており、コーポレートスローガンからミッション、ビジョン、バリューまでを体系的にまとめています。さらに、今後の成長に向けた事業展開の方向性についても、誰にでも理解しやすい形で示されています。企業ブランディングが事業戦略や市場開拓と密接に結びついていることを示す、参考になる好例と言えるでしょう。

[ 出典 ] キリンホールディングス 企業方針より

資生堂のブランドビジョン展開事例

【 SHISEIDO |資生堂ブランドビジョン

BEUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD

[ 資生堂では、全体のブランド体系についても図解されている ]

化粧品の製造・販売を主な事業とし、国内シェア1位・世界シェア5位を誇る資生堂は、体系的な企業ブランディング「THE SHISEIDO PHILOSOPHY」を掲げています。その中で示されている「OUR MISSION」が、ブランドビジョンにあたるものと考えられます。そこには「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」というフレーズと、それを補うメッセージが添えられています。

資生堂のブランドビジョンで特に注目したいのは、このメッセージを補足する形で動画コンテンツも公開している点です。およそ3分間の映像は、単なるスローガンの説明ではなく、資生堂が思い描く未来の社会や、人々の暮らし、“美”のあり方を丁寧に表現しています。言葉だけでなく映像も活用して理念を伝えることで、より深く、感覚的に理解できる内容になっています。

ブランドビジョンや企業ブランディングといえば、これまでは言葉やデザインを中心に展開されることが一般的でしたが、資生堂のように新しい表現方法やメディアを組み合わせる企業は、これからさらに増えていくかもしれません。

[ 出典 ] 資生堂 THE SHISEIDO PHILOSOPHYより

オリエンタルランドのブランドビジョン展開事例

【 OLC|オリエンタルランドブランドビジョン

自由でみずみずしい発想を原動力に
すばらしい夢と感動ひととしての喜び
そしてやすらぎを提供します

[ 従業員のエンゲージメントは企業使命から通じていると推察できる ]

東京ディズニーリゾートを運営する中核企業であるオリエンタルランドは、企業理念を体系的に構築しています。その構成要素のひとつである企業使命では、「自由でみずみずしい発想を原動力に、すばらしい夢と感動、ひととしての喜び、そしてやすらぎを提供します。」と掲げています。さらに、その後には経営姿勢や行動指針なども明確に示されています。東京ディズニーリゾートで働く人々が高い職業意識や企業への愛着を持っている背景には、こうした理念がしっかり根づいていることがうかがえます。

パーク運営企業として読むとやや大きな表現に感じられる部分もありますが、オリエンタルランドはテーマパーク事業だけでなく、不動産やホテル経営など幅広い領域を展開しています。企業全体として捉えると、理念として自然で、十分に納得できる内容になっていると言えるでしょう。

[ 出典 ] オリエンタルランド 企業理念より

タイガー魔法瓶のブランドビジョン展開事例

【 TIGER |タイガー魔法瓶ブランドビジョン

世界中に幸せな団らんを広める

[ 企業の存在意義や技術の革新理由が「団らん」という語句で語られている ]

真空断熱技術を応用したステンレスボトルやポットの製造・販売を行うタイガー魔法瓶は、企業理念の中で「Vision(目指す未来)」として「世界中に幸せな団らんを広める。」という一文と、それを補う10行ほどのメッセージを掲げています。ここで示されるVisionは、企業として目指す方向や志をわかりやすく示した内容になっています。表現に目を向けると、熱コントロール技術を軸とした事業らしく、温かさを感じさせる文章になっており、ブランドの特性が自然に伝わります。

タイガー魔法瓶の企業理念の構成には少し特徴があります。多くの企業が、ブランドビジョン(理念)→ブランドミッション(使命)→ブランドバリュー(価値)の順に、概念から具体へ展開していくのに対し、同社ではその逆の順番で紹介しています。しかし、その流れに違和感はなく、むしろ理念全体がより強くつながっている印象を受けます。このように、ブランドビジョンと他の要素は一方向に依存するのではなく、相互に影響し合う関係にあることを示す、よい例と言えるでしょう。

[ 出典 ] タイガー魔法瓶 企業理念より

ツムラグループのブランドビジョン展開事例

【 TSUMURA|ツムラグループのブランドビジョン

自然と健康を科学する

[ 経営理念をブランドビジョン、企業使命をブランドミッションと読み解くこともできる ]

漢方薬品メーカーであるツムラグループは、「基本的な理念」として「経営理念」と「企業使命」を掲げています。このうち、ブランドビジョンにあたるのが「経営理念」です。ツムラグループの経営理念は「自然と健康を科学する」。テレビCMや新聞広告でもロゴとともに掲出されているため、見覚えのある方も多いでしょう。医薬品や市販薬を主力とする企業として、自然で納得感のある理念だといえます。

興味深いのは、このフレーズにあえて説明的な文章を付けていない点です。短い言葉でありながら、企業としての方向性や信念がしっかり伝わってきます。補足を加えないことで、受け取る人の立場や経験によって多様な解釈が生まれるのも魅力です。生活者、利用者、従業員、それぞれが自分の視点で意味を感じ取れる余白があり、そこにツムラらしい誠実さや懐の深さがにじみ出ています。このシンプルな理念が、ブランドの信頼感を支える大きな要素になっていると言えるでしょう。

[ 出典 ] ツムラ 経営理念・企業使命・ビジョンより

FAQ-よくある質問

■ ブランドビジョンに関するよくある質問

ブランドビジョンは企業の未来を方向づける重要な指針ですが、実際の現場では理解や運用に迷うことも少なくありません。ここでは、よくある質問とそのポイントを分かりやすく整理しました。

【 よくある質問① 】

Q :ブランドビジョンと企業理念の違いは何ですか?
A :ブランドビジョンは、企業が将来的に目指す理想の姿や方向性を示すものであり、企業理念は企業の存在意義や価値観など、より包括的な指針を示します。ブランドビジョンは「未来像」、企業理念は「存在理由」と覚えると分かりやすいです。

【 よくある質問② 】

Q :ブランドビジョンはどのタイミングで再設定すべきですか?
A :経営ビジョンの見直し、新事業への参入、企業規模の変化、社会環境の変化など、「企業が目指す未来が大きく変わる時」が再設定の最適なタイミングです。定期的な再点検もおすすめです。

【 よくある質問③ 】

Q :社員にブランドビジョンを浸透させるにはどうすればいいですか?
A :単に掲示するだけではなく、日常業務や評価制度にブランドビジョンを組み込み、社員が自発的に体現できる仕組みを作ることが大切です。インナーブランディングを意識した施策が効果的です。

【 よくある質問④ 】

Q :顧客や社外関係者にブランドビジョンを伝える効果的な方法は?
A :言葉だけではなく、ビジョンを体現したストーリーやデザインで伝えることが有効です。製品やサービス、広告、コミュニケーション全体を通じて、一貫したメッセージを届けることが重要です。

【 よくある質問④ 】

Q :ブランドビジョンが形骸化してしまう原因は?どう防ぐ?
A :抽象的すぎる表現や、具体的な行動・デザインとの結びつきが弱いことが原因です。防ぐためには、ビジョンを企業戦略やターゲット、日常業務と一貫させ、意思決定やデザインにしっかり落とし込むことが不可欠です。

checklist-チェックリスト

ブランドビジョン開発前のチェックリスト

ブランドビジョンを策定する前に、基盤がしっかり整っているかを確認することが重要です。以下のチェックリストは、目的の明確化から浸透・更新までを総合的に見直すためにまとめたものです。

【 目的の明確化チェッ

⬜︎ ブランドビジョンが企業の成長と社会的貢献の方向性を明確にしているか?
⬜︎ ブランドビジョンが社員の誇りとモチベーション、組織の一体感を喚起できる内容か?
⬜︎ ブランドビジョンが顧客やパートナーに価値観や存在意義を伝え、信頼を築けているか?

【 コンテンツの土台チェック 】

⬜︎ ビジョンの基盤として、企業の核となる価値観、顧客ニーズ、社会的役割が整理されているか?
⬜︎ ブランドビジョンが事実にもとづいて表現されており、説得力と実現性を備えているか?

【 展開・浸透設計チェック 】

⬜︎ ブランドビジョンを社内外に効果的に伝えるストーリーや表現手法が用意されているか?
⬜︎ 実際のブランド展開にブランドビジョンが反映されているか?

【 評価と更新体制チェック 】

⬜︎ ブランドビジョンの浸透や効果を評価するKPIや定点観測の仕組みが整備されているか?
⬜︎ 市場や企業戦略の変化に応じて、ブランドビジョンを定期的に見直す予定・方針があるか?

記事のまとめ

■ まとめ

ブランドビジョンを成功させるためのポイントについて、少しイメージを持っていただけたでしょうか。経営者や主要メンバーがしっかりと時間を確保し、現状を正しく見つめ、可能性を整理し、これからの社会を踏まえて理想の未来を話し合うことが欠かせません。こうしたプロセスを丁寧に重ねてこそ、実際に機能するブランドビジョンが形づくられます。ブランドビジョンは、企業と生活者、顧客、従業員といった幅広いステークホルダーを結ぶ大切なコミュニケーションの軸です。主観と客観のバランスを意識しながら育てていくことが、ブランドミッション開発の成功につながります。

株式会社チビコ今田佳司ブランディングディレクター

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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