
[ ブランド戦略 ]
ブランドミッションとは何か?定義と事例紹介
ブランドミッションとは、企業やブランドがどこを目指し、社会の中でどんな役割を果たしていくのかを示す大切な指針です。自分たちが何のために存在し、どんな価値を届けたいのかを社内外に伝えることで、企業としての軸が明確になります。ブランドミッションは、企業のビジョンや価値観を映し出すものであり、顧客や従業員に対して「このブランドは何を大切にしているのか」をわかりやすく示します。これによって、事業活動の方向性がぶれにくくなり、ブランドとしての一貫性も保ちやすくなります。また、共感を得られるミッションは、顧客のロイヤルティ向上や従業員の意欲にもつながり、ブランドの長期的な成長を支える土台になります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ブランドミッションの意味と役割を掘り下げ、実際の開発事例を踏まえながら、効果的なミッションのつくり方や実践する際のポイントを詳しく解説します。
CONTENTS | 目次
■ ブランドミッションとは何か?

【 ブランドミッションの定義 】
ブランドミッションとは、「そのブランドが何のために存在するのか」を明らかにする目的意識の表明です。単なる企業スローガンではなく、ブランドが社会や顧客に対して果たすべき“使命”を言葉にしたものです。ミッションはブランドの「存在理由」を示し、すべての活動の起点になります。つまり、商品を売るためのキャッチコピーではなく、ブランドの価値観や姿勢を内外に伝える“存在の軸”として機能します。また、組織が向かう方向を共有するための土台にもなり、日々の判断や行動に一貫性を生み出します。
[ ポイント ]
● ブランドが“なぜ存在するのか”を定義する言葉
● 経営・マーケティング・デザインを貫く中心軸
● 理念を実践へと導く“行動の指針”となる要素
【 ブランドミッションの目的 】
ブランドミッションの目的は、ブランドの方向性と意志をはっきりさせ、社内外での理解と共感を生むことにあります。ミッションがあることで、社員は自分たちの仕事の意味をつかみやすくなり、顧客はそのブランドに信頼や共感を持ちやすくなります。また、経営判断やマーケティングの指針にもなり、ブランドが一貫した姿勢を維持する助けにもなります。短期的な利益ではなく、長期的な価値づくりのための“精神的な羅針盤”がミッションの本質です。さらに、その理念が共有されることで結束力も高まります。
[ ポイント ]
● 社員と顧客の“共通の目的意識”を育てる
● 戦略・行動・デザインを一貫させるための基準
● 利益ではなく“社会的価値”を生む方向性を示す
【 ブランドミッションの重要性 】
ブランドミッションは、ブランドに“魂”を宿す存在です。製品やサービスが容易に模倣される時代において、唯一無二の差別化につながるのは「何のために存在するのか」という信念です。ミッションが明確であれば、社員の行動も顧客体験もぶれにくくなり、ブランドに“人格”のような一貫性が生まれます。さらに、社会的な共感を得られることで、顧客はブランドのファンとなり、長く信頼関係を築けるようになります。つまり、ミッションにはブランドを“利益のための存在”から“意義のある存在”へ引き上げる力があります。
[ ポイント ]
● 目的意識がブランドの“人格”と一貫性をつくる
● 共感を通して顧客との強い関係を築く
● 経営と社会をつなぐ“存在意義の橋渡し”となる
■ ブランドミッション開発について

1. ブランドのアイデンティティーを確立する
ブランドミッション開発の第一歩は、「このブランドはなぜ存在するのか?」という存在意義(Why)を丁寧に掘り下げることです。多くの企業は「何をするか」「どうやるか」から考え始めがちですが、ブランドの核となるのは“存在理由”です。経営者の想い、創業の背景、顧客への約束、社会的な役割などを整理し、表面的な目的ではなく、もっと根本的な“意味”を言語化することが欠かせません。存在意義が明確になるほど、ブランドは迷わず進むべき方向を選べるようになります。
➤ 詳細記事:CI(コーポレート・アイデンティティ)の意味や目的と開発とは
2. 経営理念・事業目的との整合性を取る
ブランドミッションは、経営理念や事業目的としっかり結びついていなければ機能しません。理念が「企業としての信念」、事業目的が「経済的な方向性」だとすれば、ミッションはそれらを現実の行動へ落とし込む“実践的な翻訳”の役割を担います。ミッションが経営方針や日々の判断と食い違っていると、きれいな言葉だけが残り、本質が伝わらなくなります。経営層と現場の視点を合わせながら、理念・戦略・行動を一貫したストーリーとして再構築することで、ブランドの存在価値が日々の活動に根づいていきます。
3. 社会的価値と顧客価値を結びつける
ブランドミッションは、企業としての社会的意義と、顧客に届ける価値を“一つの流れ”としてつなぐ役割を持ちます。顧客満足を追いかけるだけでは、社会との関係性が弱くなり、長期的にはブランドの力が続きません。逆に、社会貢献を掲げても、顧客が価値を実感できなければ共感は生まれません。社会課題への向き合い方と顧客の幸福をどちらも大切にする視点が必要です。ブランドが「社会の中で何を担い、誰のために存在するのか」を定義することで、理念がより現実味を帯びていきます。
4. 社内の共創によって作り上げる
ブランドミッションは、経営者だけが決めるものではありません。現場の社員が共感し、誇りを持って語れるものでなければ実体が伴いません。理想的なプロセスは、経営層・社員・パートナーが一緒に考える“共創型”です。ワークショップや対話を通じて理念を共有し、自分たちの言葉で再解釈することで、ミッションは“自分たちのもの”になります。こうした共創の時間こそが、理念を浸透させ、組織文化を育てる大切な基盤になります。その積み重ねが、ブランドの持続的な力にもつながっていきます。
5. シンプルで感情に響く言葉にする
どれだけ深い理念があっても、伝わらなければ意味が半減してしまいます。ブランドミッションは、誰が読んでも理解でき、心に残る“感情のある言葉”であることが重要です。理屈で説明するのではなく、直感的に「こうありたい」と思える表現が理想です。短く、誠実で、行動に裏づけられること。華やかな言い回しではなく、実際の取り組みで証明できる言葉こそ、人の心を動かします。シンプルで本質を突いたミッションは、時代が変わってもブランドの軸として輝き続けます。そこに込めた想いが、未来の姿を形づくります。
■ ブランドミッションの事例紹介

【 Apple | ブランドミッション 】
Appleのブランドミッションは、「人々の生活をより良くするためにテクノロジーを活用し、世界を前に進めていくこと」です。これは、Appleが手がける製品やサービスが日常を少しずつ変え、社会に新しい価値をもたらすことを目指している姿勢を示しています。Appleは、独自のデザインと革新的な技術を組み合わせ、常に新しい体験を提供し続けてきました。また、環境への配慮にも力を入れており、再生可能エネルギーの活用やリサイクルの推進など、持続可能な取り組みを積極的に進めています。こうしたAppleのブランドミッションは、企業が社会に向けてどのように責任を果たすべきかを示す一例であり、今後このような姿勢を重視する企業が一層求められていくことを感じさせます。
[ 画像出典 ] www.apple.comより

【 Nike | ブランドミッション 】
Nikeのブランドミッションは、「イノベーションを通じて、すべてのアスリートをより強くすること」です。この考え方は、Nikeがスポーツを楽しむ人からトップアスリートまで、あらゆる人々に向けて革新的な製品を提供し、健康的な生活や高いパフォーマンスを後押ししたいという意図を示しています。Nikeは、多様なスポーツシーンに応える商品を開発することで、幅広い顧客に寄り添っています。また、社会的責任を意識した取り組みとして、持続可能な素材やエネルギーの活用に力を入れ、環境負荷の低減にも取り組んでいます。Nikeのブランドミッションは、革新的なものづくりを通じて顧客の期待に応えつつ、環境や社会への貢献も大切にする姿勢を示していると言えます。
[ 画像出典 ] www.nike.com/jpより

【 CocaCola | ブランドミッション 】
Coca-Colaのブランドミッションは、「世界中の人々をつなぎ、喜びや満足感を届けること」です。Coca-Colaは、さまざまな文化や背景を持つ人々に向けて、炭酸飲料を通じて心地よい時間やつながりを生み出すことを目指しています。そのため、Coca-Colaは商品開発やマーケティングにおいて、消費者の嗜好やニーズを把握することに力を入れています。また、環境保護や社会貢献への取り組みにも積極的で、企業市民として責任ある姿勢を示しています。Coca-Colaのブランドミッションは、喜びやつながりを求める消費者に向けた製品づくりと、環境や社会への配慮を重んじる企業姿勢を表していると言えます。
[ 画像出典 ] www.cocacola.co.jpより

【 Google | ブランドミッション 】
Googleのブランドミッションは、「世界中の情報を整理し、誰もがアクセスしやすくすること」です。Googleは、インターネット上に広がる膨大な情報をわかりやすく整理し、ユーザーが必要な情報に簡単かつスムーズにたどり着けるようにすることを大切にしています。そのため、高度な検索エンジンの開発や、ユーザーに役立つサービスの提供に力を注いでいます。また、技術革新だけでなく、環境保護などの社会的な取り組みにも積極的です。Googleのブランドミッションは、情報社会の中で必要な情報を迅速に届けながら、社会的責任にも向き合う企業姿勢を示していると言えます。
[ 画像出典 ] https://about.googleより

【 Starbucks | ブランドミッション 】
Starbucksのブランドミッションは「Inspirational and nurturing human spirit – one person, one cup, and one neighborhood at a time.(人々の心を励まし、育てること。人一人、カップ一杯、地域一つから)」とされています。このミッションによって、Starbucksは一人ひとりの顧客の気持ちに寄り添い、コーヒーを提供するだけでなく、コミュニティーとのつながりを大切にする姿勢を示しています。また、社員にも同じ価値観を共有し、高品質なコーヒーを提供することに加えて、お客様への丁寧な対応や地域社会への貢献を重視しています。こうしたブランドミッションを明確にすることで、Starbucksはお客様と社員を結び、地域との関係を深めながら、世界中で愛されるブランドへと成長しています。
[ 画像出典 ] www.starbucks.co.jp/companyより

【 Patagonia | ブランドミッション 】
Patagoniaのブランドミッションは、「Build the best product, cause no unnecessary harm, use business to inspire and implement solutions to the environmental crisis.」と表されています。このミッションは、同社が最高品質の製品づくりを追求しながら、環境に余計な負荷をかけないよう努め、さらに事業を通じて環境危機への解決策を広げていくことを目指す姿勢を示しています。Patagoniaは環境保護を目的としたさまざまな取り組みを行っており、利益の一部を環境保護活動に寄付するなど、ビジネスと環境保全を結びつけた独自の活動を続けています。こうした姿勢によって、環境意識の高い消費者から強い支持を受けると同時に、社会的責任を果たす企業として信頼を得ています。
[ 画像出典 ] www.patagonia.jp/home/より

■ ブランドミッションに関するよくある質問
ブランドミッションは、企業が「何のために存在するのか」を示す中心軸です。ここでは、その役割や意義、設定のポイントなど、よく寄せられる質問にわかりやすく答えていきます。
【 よくある質問① 】
Q :ブランドミッションとは何ですか?
A :企業やブランドが“何のために存在し、どのような価値を社会や顧客に提供するのか”を明確に示す方向性・存在意義を意味します。顧客や従業員に共感を与え、ブランドの一貫性と成長を支える核となる要素です。
【 よくある質問② 】
Q :ブランドミッションを設定する意義は?
A :ブランドに独自性を与え、社員のモチベーションと顧客の信頼を高め、長期的なブランド価値の向上につながるために重要です。
【 よくある質問③ 】
Q :ブランドミッションが曖昧だとどうなりますか?
A :向性がぼやけ、一貫性のない行動を誘発し、結果的にブランドイメージや顧客信頼を損ね、成長が停滞するリスクがあります。
【 よくある質問④ 】
Q :ブランドミッションを効果的に設定するポイントは?
A :シンプルかつ具体的な表現で、ブランドの価値観や意図がわかりやすいことが重要です。あらゆる行動や意思決定の基準として活用できるようなものにする必要があります。
【 よくある質問⑤ 】
Q :ブランドミッションはどのように活用すべきですか?
A :社内外で浸透させ、判断基準や行動指針として日常業務やコミュニケーションに組み込むことが、ブランドの浸透と成長を促進します。

■ ブランドミッションに関するチェックリスト
ブランドミッションを確実に機能させるには、内容だけでなく整合性や運用状況を客観的に確認することが欠かせません。以下のチェックリストで現状を見直す際のヒントにしてください。
【 ミッションの存在意義のチェック 】
⬜︎ ブランドミッションが企業の存在意義や方向性を明確に示しているか?
⬜︎ ミッションが顧客や従業員に共感を呼び、モチベーションやロイヤルティを高められているか?
⬜︎ ミッションを社内外の共通理解や行動指針として一貫性を保てているか?
【 ブランドのアイデンティティ整合性のチェック 】
⬜︎ ブランドミッションが企業の歴史・背景・価値観と整合しているか?
⬜︎ 提供製品・サービスの独自性や哲学がミッションと整合しているか?
⬜︎ ブランドミッションの言葉が曖昧ではなく、具体的で理解しやすいか?
【 理念体系とのチェック 】
⬜︎ ビジョン→ ミッション→ バリュー/行動指の流れが設計されているか?
⬜︎ ミッションを内向き(社内専用)に留める設計が意図的で、目的が明確か?
⬜︎ ブランドミッションがなければ、代替の理念や行動指針が明確に機能しているか?
【 開発プロセスと運用負担のチェック 】
⬜︎ ミッション策定にかける時間的・コスト的な負担が適切か?
⬜︎ ミッションと実際の言動にギャップがなく、言行一致が保たれているか?
⬜︎ ミッションが形式的にならず、社員やステークホルダーへ浸透・理解されているか?

■ まとめ
ブランドミッションは、企業が“なぜ存在するのか”という本質を言葉にしたもので、ビジョンや価値観を内外に伝える大切な指針として働きます。明確なミッションがあることで、事業の方向性がぶれにくくなり、ブランドの一貫性が保たれるだけでなく、顧客や従業員との信頼が高まり、共感も生まれやすくなります。その結果、顧客ロイヤルティや従業員の意欲が向上し、長期的なブランド成長にもつながります。ブランドミッションは、単なる表現ではなく「存在意義」と「価値提供」の約束であり、その明快さと共感性こそがブランドを支える大きな力になります。ブランドの未来づくりにも確かな力を発揮していきます

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

【 ご質問、お打合せ希望など、お気軽にお問合わせください。】
– ブランド戦略からデザイン開発まで –
■ おすすめ関連記事

[ おすすめ記事 ] ブランドミッション開発のメリットとは?
























