
[ ブランド戦略 ]
テクノロジーブランドで選ばれる会社になる方法
テクノロジー業界は、技術革新が次々と起こるスピード競争の世界です。しかし、技術力だけでは長く「選ばれる」企業にはなれません。多くの企業が似たような技術やソリューションを提供している今、選ばれる理由は「ブランド力」に移っています。選ばれる会社には共通して、社会的な信頼、顧客への共感、明確なメッセージ、そしてブランド体験を通じて差別化を実現する力があります。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、単なる技術屋ではなく、信頼され選ばれ続ける“ブランド”になるための考え方や戦略ついて詳しくしていきます。
■ テクノロジーブランドとは?

テクノロジーブランドとは、単に優れた技術や製品を提供するだけの企業ではなく、技術を通じて人々の生活や社会に新たな価値を生み出し、共感や信頼を得ることができるブランドを指します。今や技術力だけで差別化することは難しく、顧客がその企業を「選びたくなる理由」が求められています。そのため、テクノロジーブランドには、製品やサービスの品質だけでなく、ブランドが掲げるビジョン、社会課題への取り組み、顧客体験の設計など、総合的なブランド力が重要です。AppleやTesla、Salesforceのように、「技術を使って何を実現し、誰のどんな課題を解決するのか」を明確に示し、技術の先にある価値や体験を提供し続けることが、テクノロジーブランドとして選ばれ続ける条件といえるでしょう。
■ テクノロジーブランドに求められる3つの価値

1. 技術力だけではない武器
「良い技術があれば売れる」という時代は終わりました。特にBtoB領域でも、スペックや機能だけでなく、企業の信頼性やサポート体制、社会的なイメージまで総合的に判断される時代です。競合も技術力を磨いている以上、「どう違うのか」「なぜ自社なのか」を伝えられなければ選ばれません。技術をビジネス価値に変換し、顧客にしっかり届くメッセージを設計することが不可欠です。技術力を活かすためには、ブランド力という武器が必要なのです。
2. 顧客体験によるブランド力
テクノロジーは難解で伝わりにくいもの。そのため、顧客が技術やサービスを「理解しやすい」「使いやすい」「相談しやすい」と感じる体験設計が欠かせません。問い合わせ対応、ウェブサイト、営業対応など、あらゆる接点で「自社らしさ」が一貫して伝わることがブランド力の源泉になります。顧客の不安や疑問を解消し、期待を超える体験を提供することが、信頼を積み重ね“選ばれる理由”を作るのです。
3. 社会的価値・ビジョンの明確化
テクノロジーが社会課題解決や未来を切り拓く力として注目される今、企業の「存在意義」や「社会的ビジョン」も選ばれるポイントになります。単なる技術提供者ではなく、社会にどう貢献するかを明確に打ち出すことで、顧客やパートナー、求職者から共感を得られます。SDGs、脱炭素、ウェルビーイングなど、社会的テーマに対して企業としてどのようなスタンスを取るか。そのメッセージが、ブランド価値を大きく左右する時代になっています。
■ 競争を勝ち抜くためのブランド戦略

市場ポジションを明確にするメッセージ設計
「何の会社か?」「誰に何を提供し、どう価値を生み出すのか?」この問いに明確に答えられることがブランド戦略のスタートです。市場でのポジションが曖昧だと、価格競争や機能比較に埋もれてしまいます。自社ならではの強みや独自性を言語化し、メッセージとして整理しましょう。競合分析や顧客インタビューを通じて、狙うべきポジションを明確にし、「選ばれる理由」を一貫して伝えることが大切です。
[ 詳細記事 ] ブランドポジショニングから始めるブランディング
ビジュアルとストーリーで“らしさ”を伝える
ブランドはロゴやデザインだけでは成立しません。しかし、ビジュアルが与える第一印象は想像以上に大きな影響力を持ちます。WEBサイトやパンフレット、展示会ブースなど、すべてのタッチポイントで「らしさ」を視覚的に伝わることが重要です。また、技術や実績だけを並べるのではなく、ストーリーやビジョン、顧客との関係性など、情緒的なストーリーを発信することで、共感や信頼を高めることができます。
[ 詳細記事 ] VI(ビジュアル・アイデンティティ)とは何か?
顧客・社員を巻き込むブランディング活動
ブランディングは外向きだけでなく、内側から育てる活動でもあります。社員一人ひとりがブランドメッセージを理解し、体現することが、信頼されるブランドづくりには不可欠です。また、顧客やパートナーと一緒にブランドを育てる姿勢も重要です。共創型イベントやSNSでの双方向コミュニケーション、アンバサダープログラムなど、社外を巻き込んだ取り組みを進めることで、ブランドはより強固なものになります。
[ 詳細記事 ] インナーブランディングとは?その目的と進め方と成功事例
■ 成功事例から学ぶ“選ばれるテクノロジーブランド”

【 Appleブランドの成功事例 】
革新的なプロダクトだけでなく「人々の生活をより良くする」というシンプルなビジョンを貫き、技術をデザインや体験に落とし込むことで、熱狂的なファンを世界中に獲得。
【 戦略・特徴 】
⚫︎ 技術説明より「使いやすさ」「デザイン」「ライフスタイル」の訴求を重視
⚫︎ Apple Storeという体験型販売チャネルで「ブランド体験」を提供
⚫︎ 製品、OS、アプリ、サポートまで一貫したブランド体験設計
【 成果 】
⚫︎ 世界一のブランド価値ランキング常連(Interbrand等)
⚫︎ 熱狂的ファン(Apple信者)による口コミ・拡散効果
⚫︎ 価格競争を超えた「選ばれ続けるブランド」を確立
[ 出典 ] アップル公式サイトより

【 Teslaブランドの成功事例 】
「サステナブルな未来」を掲げ、EVやエネルギー事業を通じて新しいライフスタイルを提案。製品だけでなく、創業者イーロン・マスクのビジョンがブランドの核に。
【 戦略・特徴 】
⚫︎ EVを「エコ」ではなく「かっこいい」「最先端」「ステータス」として訴求
⚫︎ ソフトウェアアップデートや自動運転など、テクノロジー主導の体験提供
⚫︎ イーロン・マスク自身の発信力や挑戦的なビジョンがブランドの中心
【 成果 】
⚫︎ 世界EV市場シェアトップ
⚫︎ テスラオーナーのコミュニティ形成
⚫︎ 環境・社会貢献とプレミアム体験の両立に成功
[ 出典 ] テスラ公式サイトより

【 Zoomブランドの成功事例 】
パンデミック下で一気に知名度を獲得。「シンプルで誰でも使える」という体験設計を徹底し、ビジネスから教育、プライベートまで幅広く浸透。
【 戦略・特徴 】
⚫︎ 「誰でも簡単に使えるビデオ会議ツール」というポジショニング
⚫︎ 他のツールより軽量・シンプル・高画質・高音質を徹底
⚫︎ 無料プランでも基本機能が使える「試して納得させる」戦略
【 成果 】
⚫︎ 一般名詞化するほどの知名度向上「ズームする」
⚫︎ 世界中のビジネス・教育機関に導入
⚫︎ 競合(Teams, Google Meet)との差別化を確立
[ 出典 ] ZOOM公式サイトより
【 Spotifyブランドの成功事例 】

「音楽をもっと自由に」というビジョンのもと、ユーザー体験に特化したアプリ設計や、アーティスト支援への取り組みで圧倒的な支持を獲得。
【 戦略・特徴 】
⚫︎ 「定額聴き放題」モデルを世界中で展開し、音楽消費体験を刷新
⚫︎ プレイリスト・レコメンド機能などUX(ユーザー体験)を重視
⚫︎ 音楽だけでなく、ポッドキャストやオーディオ広告へ事業拡大
【 成果 】
⚫︎ 世界最大の音楽ストリーミングプラットフォーム
⚫︎ 若年層を中心に「音楽を聴くならSpotify」が定着
⚫︎ アーティスト・リスナー・広告主の三方良しモデルを実現
[ 出典 ] Spotify公式サイトより

【 Salesforceブランドの成功事例 】
「顧客成功」を企業理念に掲げ、単なるCRMツール提供ではなく、コミュニティ形成や社会課題解決までブランドの軸を広げ、B2Bでもファンを生む。
【 戦略・特徴 】
⚫︎ Trailblazerコミュニティによる「共創型マーケティング」
⚫︎ 環境・社会・活動にも注力し、社会課題解決ブランドとして認知拡大
⚫︎ 音楽だけでなく、ポッドキャストやオーディオ広告へ事業拡大
【 成果 】
⚫︎ 世界最大の音楽ストリーミングプラットフォーム
⚫︎ 若年層を中心に「音楽を聴くならSpotify」が定着
⚫︎ 「キャラクター」や「親しみやすさ」を前面に打ち出す
[ 出典 ] Salesforce公式サイトより
■ まとめ
どんなに優れた技術を持っていても、それが「誰に、どう役立つのか」を伝えきれなければ、選ばれることは難しくなります。選ばれるテクノロジーブランドになるためには、技術力を「体験」「メッセージ」「社会的価値」へと昇華させるブランディングが必要です。市場ポジションを明確にし、ビジュアルやストーリーで“らしさ”を伝え、顧客や社員とともにブランドを育てる。これが、これからのテクノロジー企業が生き残るための鍵となるのです。

株式会社チビコ
今田 佳司 (ブランディング・ディレクター)
ブランド戦略とコミュニケーションデザインを掛け合わせることで、企業や商品などのブランド価値の向上や競争力強化に貢献。数多くのブランディングを手がける。

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