[ ブランド戦略 ] Jul 8, 2024

ブランドビジョン開発の役割とポイントとは？

ブランドビジョンは、企業が目指す未来の姿や長期的な方向性を明確にするための大切な要素です。単に目標を掲げるだけでなく、顧客や従業員に「このブランドが何を提供し、どんな価値を実現しようとしているのか」を伝える役割も果たします。しっかりとしたブランドビジョンは、企業の一貫性を高め、ブランドが進むべき方向を社内外に示す基盤になります。効果的なブランドビジョンをつくるためには、ブランドの核となる価値観や顧客のニーズ、競争環境を深く理解し、それらを踏まえて未来像を描くことが重要です。本記事では、株式会社チビコでブランディングディレクターをしている筆者が、ブランドビジョンを効果的に開発するためのポイントと、実際の成功事例についてわかりやすく解説します。

CONTENTS | 目次

■ ブランドビジョンとは？
■ ブランドビジョンの２つの役割
■ ブランドビジョン開発の5つのポイント
■ ブランドビジョン開発に関するよくある質問
■ ブランドビジョン開発のためのチェックリスト
■ まとめ
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■ ブランドビジョンとは？

図：ブランド構造の概念図

ブランドビジョンは、広い視野と未来志向が必要

ブランドビジョンを簡潔にまとめると、「企業としての志や存在意義、見据える未来、理想とするあり方」といった要素になります。言い換えると、企業の独自性をもとに描いた“究極のゴール”とも言えるでしょう。すでに実現している取り組みを基に語る場合もあれば、将来的に実現したい姿を描く場合もありますが、どちらであっても重要なのは、その理念を支える確かな事実（ファクト）が存在していることです。たとえば、原料生産者とフェアトレードを行うコーヒー会社が「コーヒーで世界中を幸せにする」と掲げるのであれば、その取り組みの実績があることで言葉に説得力が生まれます。反対に、ファクトが伴わないまま良い言葉だけを並べても、心には響きにくく、表面的な印象だけが残ってしまいます。

■ ブランドビジョンの２つの役割

図：ビジョンの伝達イメージ

1. 顧客や生活者に向けて

顧客や生活者に対して、企業の考え方の根幹や哲学、理想とする姿勢をわかりやすく伝えることができます。企業としての想いや価値観に共感してもらえることで、長く信頼関係を築ける可能性が高まります。また、新しい商品やサービスを展開する際にも、ブランドへの期待や好意的な関心を持ってもらいやすくなります。さらに、ブランドの姿勢が社会から共感されることで、企業全体の評価や存在感が自然と高まっていきます。その結果、ブランドが持つ世界観もより広く浸透し、選ばれる理由が明確になっていきます。

● 企業の考え方や哲学を明確に伝え、共感を生む
● 長期的な信頼関係とブランドロイヤルティを育む
● 社会的共感を通じて企業の評価と存在感を高める

2. 従業員や社内に向けて

社内に向けては、企業がどんな未来を目指しているのかを共有し、組織として共通の方向性を持つことができます。ブランドビジョンは従業員のモチベーションやエンゲージメント、ロイヤルティの向上にもつながります。さらに、人材採用の場面でも価値観の一致を促し、ミスマッチを減らす効果が期待できます。ブランドビジョンの開発には、こうした影響を踏まえた戦略的な設計が求められます。加えて、ビジョンが明確であるほど日々の判断が揃いやすくなり、組織運営そのものが安定しやすくなる点も大きなメリットです。

● 企業の目指す未来を共有し、組織の方向性を統一する
● 従業員のモチベーションやエンゲージメントを高める
● 採用時の価値観の一致を促し、ミスマッチを防ぐ

■ ブランドビジョン開発の5つのポイント

【ポイント① 】強い意志はあるか

● ビジョンの共有とリーダーシップが必要

ブランドビジョンをつくる上で、「企業としての志」や「社会に対する意義」は欠かせません。企業の立ち上げには、創業者や初期メンバーの強い想いがあったはずです。そして今の経営陣にも、実現したい理想や企業としてのあり方、目指す未来像があるでしょう。そうした想い整理し、発展させていくことが、企業の独自性を形づくります。ブランドビジョンは、トップや経営層の意志とリーダーシップがあってこそ成立します。誰かの案を評価するのでなく、互いの考えを率直に語り合い、方向性を共有していくことが大切です。そうすることで、メンバー全員がビジョンを理解し、業務にも反映できるようになります。

【ポイント② 】社会との接点はあるか

● 企業の想いを社会とつなげることが重要

ブランドビジョンは、情熱だけでは完成しません。どれほど強い想いがあっても、企業や創業者の自己満足のように受け取られてしまうと、共感は得られません。社会や顧客の視点が欠けたビジョンでは、人の心を動かすことが難しいからです。かつては創業者やトップのカリスマ性が企業ブランドを支えていた時代もありましたが、今は状況が異なります。これから求められるのは、社会との関わりをどう築き、共に価値を生み出していくかを考えることです。社会とのつながりを持ち、共感を得られるビジョンこそが、ブランドを長く支える力になります。その積み重ねが企業の信頼を深め、持続的な成長にもつながっていきます。

【ポイント③ 】具体性はあるか

● 机上の空論にしないための意志とリアリティが大切

理想の将来像や目指したい世界を言葉にしようとすると、つい抽象的になってしまうことがあります。これは、企業としてすべてのステークホルダーに良い顔をしようとしたり、誰も否定しない“無難な表現”を選んでしまうことが原因です。「世界の人々を幸せにする」「暮らしをもっと便利に」「よりよい明日をつくる」といった言葉は耳触りは良いものの、どの企業にも当てはまる一般論にとどまってしまいます。大切なのは、自社ならではの「らしさ」や「強み」を明確に織り込むことです。現実に根ざした具体性を持つことで、言葉に説得力が生まれ、他社との差別化にもつながります。

【ポイント④ 】優先度はあるか

● 伝える内容の取捨選択がカギになる

ブランドビジョンをつくる際、他社の事例を参考にすることもあるでしょう。その中には、多くの要素を一度に盛り込んでいるケースもありますが、実際にはそれらが十分に機能していない場合も少なくありません。大切なのは、自社のどの部分を強みとして位置づけ、これからどの方向へ成長していくのかを明確にすることです。自社の特長を過去・現在・未来の流れで整理することで、より軸の通ったブランドビジョンを描けるようになります。ブランドビジョンは、企業ブランディング全体を支える重要な要素のひとつです。だからこそ、伝えるべき内容をしっかり精査し、余分な情報をそぎ落とすことで、言葉に力が宿り、企業の姿勢がよりクリアに伝わります。その結果、ブランド全体の方向性もいっそうぶれにくくなります。

【ポイント⑤ 】連動性はあるか

● 連動性がなければ説得力は生まれない

ブランドビジョンを開発する際には、「ブランドミッション（企業使命）」とのつながりを意識することが大切です。ブランドミッションは、ビジョンを実現するために企業が果たすべき役割や行動を示すものであり、先に挙げた“具体性”を補う存在でもあります。両者は車の両輪のような関係にあり、どちらを先に検討するかはケースによって異なりますが、互いに矛盾のない筋の通った関係性が欠かせません。一般的には、ブランドビジョンを上位概念として扱うことが多いものの、実際にはビジョンとミッションが互いを支え合うことで本来の意味が生まれます。理想と行動がしっかり結びついたとき、ブランド全体に説得力と一貫性が備わります。その状態が続くほど、企業としての判断や発信もより安定し、信頼性が高まっていきます。

引用：ブランド研究における近年の展開
引用：デジタル時代におけるブランド構築

■ ブランドビジョン開発に関するよくある質問

ブランドビジョンの開発は、企業の未来を方向づける重要なプロセスです。ここでは、現場でよく寄せられる疑問を整理し、ビジョンづくりを進めるうえで押さえておきたいポイントをわかりやすくまとめました。

【よくある質問① 】

Q ：ブランドビジョンとは何ですか？
A ：ブランドビジョンは、企業が目指す未来の姿や存在意義、長期的な方向性を示すもので、社内外にブランドの価値と役割を明確に伝える基盤となります。

【よくある質問② 】

Q ：ブランドビジョンを作る際に、何を重視すべきですか？
A ：成功するブランドビジョンは、「ブランドの核となる価値観」「顧客のニーズ」「競争環境」をしっかり理解し、それらに基づいて構築することが重要です。

【よくある質問③ 】

Q ：ブランドビジョンに“説得力”を持たせるにはどうすればいいですか？
A ：ただ理想を掲げるだけでなく、その裏付けとなる「事実(ファクト)」を示すことで、言葉に重みと信頼性が生まれます。

【よくある質問④ 】

Q ：社内と社外、それぞれに対してのブランドビジョンの役割は？
A ：社内では組織の一体感や一貫した意思決定を支える軸となり、社外では価値観への共感や信頼を築く土台となります。

【よくある質問⑤ 】

Q ：ブランドビジョン開発時に使えるフレームワークはありますか？
A ：「5つのS(Stance：姿勢／Style：表現スタイル／Status：社会的立ち位置／Spec：提供価値／Story：語り)」を活用することで、ブランドの個性や世界観を整理しやすくなります。

■ ブランドビジョン開発のためのチェックリスト

ブランドビジョンを実効性のあるものにするには、策定後の振り返りが欠かせません。ここでは、価値観の整理から社内外への働きかけまで、ビジョンの質を確認するための視点をわかりやすくまとめました。

【核となる価値観のチェック】

⬜︎ ブランドの中心に据える「核となる価値観」が明確になっているか？
⬜︎ 顧客のニーズや競合環境との関係性から価値観が整理されているか？
⬜︎ その価値観が企業の将来像(ブランドビジョン)の土台として機能しているか？

【説得力のチェック】

⬜︎ ビジョンが単なる理想ではなく「事実(ファクト)」を根拠としているか？
⬜︎ ファクトとの結びつきによって、言葉に重みや信頼性が伴っているか？
⬜︎ 表現が「響くだけ」で終わらず、実現可能な構成になっているか？

【社内外への役割・設計のチェック】

⬜︎ 社内向けには、方向性や意思決定の統一感を支える役割が担えているか？
⬜︎ 社外向けには、顧客や社会に価値と存在意義を伝え、信頼や共感を築く土台になっているか？

【フレームワーク活用のチェック】

⬜︎ ビジョン構築において、何らかの整理の枠組み(例：5つのSなど)が活用されているか？
⬜︎ フレームワークを通して、自社の世界観や個性が整理・整合されているか？

■ まとめ

ブランドビジョンを成功に導くためのポイントについて、少しイメージを持っていただけたでしょうか。経営者や主要メンバーがしっかり時間をかけ、現状を正しく見つめ、可能性を整理し、これからの社会を意識しながら理想の未来を語り合うことが欠かせません。そうした対話の積み重ねがあってこそ、実際に機能するブランドビジョンが生まれます。ブランドビジョンは、企業と生活者、顧客、従業員といったすべてのステークホルダーをつなぐ大切なコミュニケーションの軸です。主観と客観のバランスを保ちながら丁寧に磨き上げていくことが、ブランドミッションの開発をより確かなものにしていきます。